表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/146

推しへ、リア充してます

 世間では夏休みと呼ばれる子どもには嬉しい長期休暇がやってきた。……まぁ、大人にはあまり関係ないんだけどね。

 つまり何が言いたいかと言うとエターナルランドは大変混雑しております! 夏休みだもんね、みんな旅行とか行くもんね。そりゃあテーマパークに行きたいもんね! エターナルランドが大盛況ならいいことだよ!

 暑くて人が多いから凄く疲弊するけど夏は毎年そうである。こちとら前世から通ってるのでどんな環境だろうと耐えられる自信はあるんだ。

 さて、いつもなら一人で仕事中の推しの様子を見て悶えるのだけど、今日の目的は純粋に遊ぶことである。


「絆奈さんっ、お待たせしました!」


 駅前で待ち合わせをしていると、待ち人が手を振りながら駆け足でやって来た。

 白の繊細なプリーツを施したカットソーに夏に合うイエローのセミフレアスカート。履き心地の良さげのガーリーなサンダルにつば広めのリボンがついた帽子を被り、貝殻のアンクレットを着用している天使は私の目から見るとスローモーションのようにゆっくり動いているように見える。アニメでよく表現されがちなキラキラエフェクトが入るあれだ。

 なるほど、彼女の愛らしさはそこまでだったのか。あれは地上に舞い降りた天使だ。また可愛く成長したんだね……。

 そう。本日は深月ちゃんとエターナルランドへ遊びに来たわけである。


「深月ちゃん……凄く可愛いね……」

「えっ、そ、そんなことないよっ。絆奈さんの方が素敵です……!」


 白黒のストライプなワンピースとサンダルなだけで深月ちゃんに比べたらカジュアルな方だ。アンクレットのような足元にまでお洒落に気を遣うなんて考えたことがない。


 さて、本来ならば夏の大イベントにて会う予定だったのだけど、深月ちゃんは現在高校三年生。つまり受験生である。

 勉強に集中したいから今年のコスプレ参加は見送るとのことだ。でも、私と会えないのは寂しいから夏休みにどこか遊びに行きたいとお願いをされたので快く了承した。

 場所はどこがいいか尋ねると「絆奈さんとエターナルランドに行ってみたいっ」と返事をくれたのでその願いを叶えることにしました。


 深月ちゃんといえばあの拗れたシスコン兄とのいざこざが去年あったのだけど、あれからどうなったのかと思ったら後日メールが来て『兄とはしっかり話し合って干渉しないように約束させたのでもう大丈夫だよ』と教えてくれた。

 あの兄には頭を踏まれたし、今でも許してないんだけど……って、そもそも謝罪されてない気がする。うん、ざまぁみろだ。


「深月ちゃんは今までエターナルランドって行ったことある?」

「凄く小さな頃と小学生の頃の二回くらいかな」

「じゃあ、今回は久々になるわけだ? 行きたい所とかあったらなんでも言ってね」


 久しぶりのパークなら新鮮な気持ちで楽しめるんじゃないかな。深月ちゃんが楽しめるように年パス民なのだからしっかり案内しないと。


「私、ノームさんの活躍が見たい!」


 お! さすがノーム好き仲間! ならば今日はノームコースでパークを回ろう。

 深月ちゃんは予め購入していたワンデイパスポートで、私は年間パスポートで入国し、そのまま妖精の湖海エリアへと向かった。

 三ヶ所の広い湖のうちのひとつである映画館の湖と呼ばれる場所はレイクシアターという湖に映像が映し出されるショーがある。

 屋外シアター用の大きな円形の湖には屋根付きの観客席がぐるっと囲んでおり、どこの席から見ても楽しめる仕様だ。

 悪天候や強風で湖が荒れない限りシアターショーは開催されるので本日はカラッとした快晴であり、風も落ち着いているため、上演は確実である。

 午前中に始まる一回目のシアターショーを見るために映画館の湖に辿り着くと、観客席の入口へ入って自由席なので好きな席を選ぶ。

 基本的にどの席でも見られるのだけど、このシアターショーは精霊四人が己の力が一番だと競い合って観客を巻き込むシアターショー。

 ノームの活躍を見たい深月ちゃんのため、ノームがよく映し出される場所に近い席をお薦めした。


「レイクシアターは初めて?」

「うん、アトラクションばかりだったからショー系は全然なの。だから凄く楽しみっ」


 にこっとシアターショーへの期待を隠すことなく微笑む深月ちゃんは本当に可愛い。こんな子が私を恋愛感情の意味で好きだと言うのは何かの間違いなのではないだろうか。実に不思議である。

 恋仲を望むわけではなく、姉になってほしいという深月ちゃんの願いに頷いたわけだけど、はたしてこれでいいのだろうか。

 誰かと付き合うなんて考えもしなかったし、いまいちピンとこないし、どちらにせよ今の私ではお付き合いは考えられない。

 すぐに告白の返事を聞かせてと言われたらごめんなさい、になっちゃうんだけど、きっと深月ちゃんはその返事が聞きたくないんだろう。

 それならば姉妹のような友人関係の方が楽しいのかもしれないし、私もぎくしゃくしなくてすむ。

 あー……私があれこれ気にしても仕方ないのかな。深月ちゃんは今までと変わらずに接してくれてるし、今見てる限りではとても楽しそうなので、いちいち話を蒸し返すのも気が引ける。

 ……いや、深月ちゃんは若いし、もしかして若気の至りだったりしないだろうか。多感なお年頃だから勘違いとか…………うん。その場合は時間がなんとかしてくれるよね。

 そのうち私よりもいい人が見つかるだろうから早く運命の出会いがあるといいんだけど。


「あ、そろそろ始まるよ」

「はいっ」


 時間になったので深月ちゃんに知らせると、彼女はわくわくした様子で湖へと視線を向ける。

 ショーが始まると湖のほとりから大きなガラスが水面近くに出現する。このガラスがスクリーンとなり、映像を映すのだ。

 しっかり見ていても水面上には現れないからスクリーンガラスが出ているなんてあまり気づきにくいだろう。

 そして音楽が流れ、スクリーンガラスを通じて湖に映像が映し出される。四人の精霊が自分の力を示そうとウンディーネが湖の水を沢山噴射させ、シルフが強風を吹かせ、サラマンダーが大きな火を起こし、ノームが湖から岩を出現させる。

 観客は噴射される水のミストや吹きつけられる風を受け、勢いのある火や間近で見せつけられる岩に感動をし、そんな様子を見た精霊達が互いを認め合うストーリーだ。

 ちなみにこちらの映像。実写ではなくアニメ映像なので精霊をアニメーションで見れるのはなかなかのレアだと思う。しかもみんな声優がついてるので声オタがいたら大喜びのシアターショーである。


 レイクシアターの公演が終了して拍手を送ると終了アナウンスが流れ、人は次々と席を立ち始める。


「深月ちゃん、どうだった?」

「……凄く、綺麗で楽しかったです」


 感動して見惚れてしまったのか、目はずっと湖へと奪われていた。若干目も潤んでいるように思える。そこまで心を奪えたのなら一番にここに来たかいがあったものだ。


「ノームさんの映像も近くで見れるだけじゃなく、属する力を目の当たりにするなんて思っていなくて……やっばりノームさんは格好良いね!」

「でしょっ! 岩を出したときのちょっとだけ自慢げに口角を上げるとことか可愛くていいんだよ!」

「すっごくわかる! あまり表情に出ないノームさんもあぁいう子どもっぽい所があるんだ~って思うとさらに可愛いね!」


 お互いに興奮してしまい、ノーム話に花を咲かせながら次の目的地として、今度はフェアリー・シーズンダンスパレードのショーへと連れて行くことに決めた。

 ショー系統はあまり見ていなかったということなので、レイクシアターの反応によっては次はアトラクションにしようかと思ったけど、思いのほか楽しんでくれたみたいなのでこちらのパレードも深月ちゃんに見せてあげたかった。


 開演四十分前。やはり夏休みなので人が多い多い。まぁ、もちろんのこと最前列の座り見は全滅ではあるけど、上手いこと座り見の後ろである立ち見最前列は確保出来た。


「ごめんね、四十分時間があるけど大丈夫?」

「大丈夫っ。せっかくだしちゃんと見える場所でパレード見たいから」


 さすがに四十分待たせるのは申し訳ないかなと思ったのでパレード待ちする前に一応確認してみると、深月ちゃんは問題ないという笑みを浮かべたので一先ず安心する。

 とはいえ、こんな暑い中待たせるのだからせめて少しの間くらいは深月ちゃんに涼んでもらったりしてほしいところ。


「時間があるから息抜きがてらに良かったらトイレとか行っていいよ。場所は私が取っておくし、暑いから涼んでてもいいし」

「私、大丈夫だよ。絆奈さんと一緒にいる方が楽しいから」

「それはめちゃくちゃ嬉しいんだけど、休憩出来るときにはしとかなきゃ」

「それだと絆奈さんもだよ?」

「私はどんな季節であろうと長年ショーパレ待ちを続けた猛者だからへっちゃらだよ!」

「……でも」

「じゃあ、何か飲み物を買って来てもらってもいいかな?」


 お財布から小銭を出して深月ちゃんに託す。人が密集してるからその熱気にやられちゃうかもしれないし、深月ちゃんには少しでも楽にして欲しい。

 そんな私から戸惑いながら小銭を受け取った深月ちゃんは「わかった、何か買ってくるね」と言ってその場から離れて行った。

 深月ちゃんの場所には一人分に折り畳んだレジャーシートと自分の荷物を置いて彼女の場所を守る。


 それから十五分くらい経った頃だろうか、思っていたよりも時間がかかってるのか深月ちゃんはまだ戻ってこない。

 何度か後ろを振り返って深月ちゃんがいないか確認するが、少しずつ後ろにも人がパレード待ちの人達が並び始めていてよく見えない。

 この場所が周りの景色やすぐ傍に街灯があるから比較的わかりやすい場所なのだけど、無事に帰って来れるだろうか。何かあったら連絡はしてくれると思うけど、スマホには彼女からの連絡は何もない。


「絆奈さんっ」


 後ろを振り向いて深月ちゃんを探していたけど、探し人の声がパレードルートの方から聞こえて前方へと向き直してみると、ペットボトルの水を二つとカップのアイスを一つ手にした深月ちゃんがいた。なるほど、後ろが混んできたから前から来たわけだ。確かにそのほうが戻りやすい。

 そして座り見の最前列に人にすみませと一声をかけて通らせてもらった彼女は元いた場所へと戻ってきた。


「お待たせしてすみません。お水をどうぞ」


 抱えたペットボトルとアイスのせいで手が空かない状態で差し出すことが難しい深月ちゃんの腕の中から水を一本取らせてもらう。


「ありがとう。大丈夫だった?」

「うん、ちょっと並んだけど大丈夫だったよ。それと一緒にアイスも食べたかったからつい買って来ちゃった」


 自身の水を鞄に入れると、少し溶けかかったカップアイスをスプーンですくい、私の前に差し出してくれた。

 どうやらこのアイスは『ジャックフロストのアイスクリーム屋』のアイスだ。

 霜の妖精であるジャックフロストが経営するお店らしく、色んなアイスの種類を揃えている。

 今回深月ちゃんが選んだのはダブルのカップでオレンジシャーベットとバニラミルクだ。差し出されたアイスはオレンジシャーベットの方。

 ぱくっと一口頂くとオレンジの酸味とさっぱりとしたシャーベットの食感で涼がとれた気がした。


「美味しいね、ありがとうー!」

「夏はやっぱりアイスだもんね」


 深月ちゃんに食べさせてもらうなんてもしあのシスコン拗らせ兄が見ていたら大変なことになっていたのかもしれない。

 そんなことをふと考えながらも深月ちゃんと楽しくお話をしながらパレード開始まで待った。


 そしてシーダンのサマーバージョンが始まった。深月ちゃんは後ろの人に配慮して被っていた帽子を取る。なんてマナーのいい子なんだ。

 少しずつ近づく先頭のフロートには春のときと同じくノームが乗車していた。

 未だに自身のシフトを垂れ流す推しのせいで知ってはいたけど推しのノームである。……ほんとシフト漏洩やめようよ、推し。さすがに友人だからと言っても毎月シフトを教える友人なんていないよ、絶対。


『暑い日差しの下、集まってくれてありがとう。是非ともみんなでこのパレードを楽しんでくれ』


 シーズンごとに台詞やダンス、演出も変わるこのパレードは日に日に人気となっているので盛り上がりも半端ない。

 しかし、小さく笑みを浮かべる推しノームは今日も顔が良くて眼福である。

 今回、私と深月ちゃんが取ったポジションは一回目のノームダンスタイムが見れる場所なので、ちょうど目の前に近い場所でフロートは停止し、推しのノームが下車する。


『……』


 ダンスパートナーを探している様子をスマホで録画する。私の存在にも気づいているだろうけど、さすがにもうパートナーに選ばれることはないだろう。

 なぜなら、アクター達は座り見の最前列しか相手を選ばないからだ。つまり立ち見最前列はダンスパートナー候補にすらならないのだ。


『私と一緒に、踊ってくれないか?』


 推しのノームは私の前に座るゲストをパートナーに選んだ。何も私の目の前の人でなくてもいいのでは? と思いつつも、とても近い所でムービーは撮れるのでこれはこれでとても有難いのかもしれない。

 そうして連れて行ったゲストとのダンスの様子をカメラに収めた。

 サマーバージョンのダンスはキレのいい活発なもので、何も夏にやらなくてもいいんじゃないかというほど大きく身体を動かせる。太陽がギラギラと輝く様子から花火が打ち上げられるような大胆で激しいダンス。

 推しはダンスが苦手で身体も硬いので、派手な動きは出来ないのだけどその分可愛いので良し。

 しっかり踊りきった推しはゲストをエスコートして元の場所へ帰してあげる。その際にこちらを見て小さく微笑むのだから胸を撃たれた。

 推しの演じる推しが最高すぎてたまらない……!!

 そして再び推しは自分のいた場所へ戻り、停止していたフロートがゆっくり動き出してパレードは再開する。


「ノームさん格好良いね……!」

「でしょっ!」


 次のウンディーネのフロートが来るまで深月ちゃんとキャッキャッしながらノームを褒め倒した。

 ……そういえば、いつもぼっち鑑賞していたけど、私今凄くリア充してるのでは!?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ