表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/146

推しへ、お小遣いで貯金を始めました

 旅行から一週間後。父がインスタントカメラで撮った写真を現像してくれて、ようやく推しと自分が写った現物を手にすることが出来た。

 ばっちり綺麗に撮ってくれてるし、推しもいい顔してるし、やはり宝物になる一枚である。

 とはいえ、ロスが酷い。早く熟成した推しに会いたいが、推しの出るもの全てこの目に納めておきたい。

 もう当分エターナルランド旅行に行く機会はないだろうし、せめて私が成人して都内住みだったら、年間入国パスを買っていつでも推しを観に行けるのに。

 まだまだ子どもの自分が憎い。せめてバイト出来る高校生くらいまでになりたい。


「絆奈、その写真お気に入りなのね」


 寝転びながら推しの写真を見つめていたら、洗濯物を取り込んだ母に微笑ましく声をかけられる。


「うん。きずな、このおにーさんすき」

「あらあら。絆奈はこのお兄さんが好みなのね」


 好みと言えば好みなのだが、母の言う意味ではないと確信出来る。しかし、そう言えるわけもないので子どもらしく無邪気に頷いておいた。

 早く推しには推しカプのお相手さんと出会って欲しい。そう、つまり白樺と早く出会ってラブラブしてもらいたいのだ。

 確か、二人が出会うのはもっとあと。

 寧山がパークのアクターとして働き始めて十年経った頃に後輩アクターの白樺と出会う。

 そこから共演などをして、徐々に二人の距離は縮むのだが、そこへ至るまでには推しがパークデビューするまであと六年プラス十年の計十六年。あまりにも先過ぎる。

 仕方ない、仕方ないんだけど、早く公式供給を与えられ続ける生活がしたい。

 あぁ、でもその前に推しの舞台デビューも押さえとかなければ。

 デビューまであと五年。それまでに私がしなければいけないことは……ずばり、貯金である。

 まだ働くことも出来ない、許されないこの身ではお金を稼げないので、小学生に上がってから毎月貰う予定のお小遣いで、交通費とチケット代を貯めておかなければならない。

 他にも問題はあるのだけど、それは最悪諦めたら済む話。とりあえず今はお金を貯めることを専念しなければ。


 そう決意して、小学校入学。月々のお小遣いは五百円。前世の私ならばすぐにお菓子や漫画に費やしていただろう。

 しかし、今はそれらを全て断つ。

 まぁ、漫画は前世に読破してるから内容は二十数年分は把握しているし、推しを追うようになってからは買い漁ることも減ったから丁度いい。

 全部推しへの貯金だ。


 前世の記憶があるので低学年レベルの授業はテストでも花丸満点は確実なのだが、秀才として持て囃されたくないし、レベルの高い中学校とか推薦されたくないので中の上くらいのレベルで抑えておいた。

 正直言うと、学校生活が一番面倒臭いのである。腐女子友達が出来るわけではないし、絶対に合わない人間もいるわけだし、それなのに集団行動はしなきゃいけない。

 中身は大人だから子どもに合わせて付き合うのも骨が折れる。

 まぁ、ここで交友を広げてもそのうち会うこともなくなるし、結局は大人になってからの友人の方が性癖や好みが合うのでとても楽しいんだよね。

 だから小学校生活は基本的に一人で静かに過ごすことにした。放課後は真っ直ぐ帰るし、休みの日は誰かと遊ぶことはしない。

 そもそも子どもが苦手なので遊びたくないのが本音だ。

 恐らく家庭訪問とか三者面談とかで『友達がいないようなので心配です』とか言われそう。

 それでもせっかくの第二の人生なので私は自由に生きた。


 学校では昼休みに図書室で本を借りて、休み時間は一人で黙々と本を読む。

 他にすることがないから自然とそうなるのだけど、創作活動する身としては色んな本に触れるのも悪くはない。

 もちろん、誰かに話しかけられたりしたら対応はするけど、やりたくないとか乗り気じゃないと思ったことは断る。


 例えば……。


「きずなちゃん。いっしょにボールあそびしない?」

「(最近運動してなかったな……)うん、いいよ!」


「きずなちゃーん! おにごっこしよー」

「ごめんね、いま見てる本がおもしろいからまたこんどあそぼう」


 と、いう感じで、どちらかと言うと断る方が多いかな。

 前世は今よりふくよかだったから一人になるのを恐れて人の顔色を窺っていたが、今は中身は大人なのでむしろ一人の方が気楽だった。

 家にいるときは家の手伝い、または母から料理を教わることに専念する。

 全ては都内での一人暮らしをするため。

 結局、前世では自立することなく死んじゃったので、今度こそは早めに都内に引っ越して、推し通いをしなければ。

 そのためにも料理をしっかり覚えて、一人でも生きていけるようにしないと大変なことになっちゃう。


 そうやって過ごした一年生での貯金額はお小遣いとお年玉含めて合計九千円。

 お年玉は両親と祖父母から頂いたものだけど、やはり一年生での年間のお小遣いなんてたかが知れてる。

 それでも私は貯めなければならないので二年生になっても変わらない五百円のお小遣いを必死に貯めていった。


 二年生のお正月になると一年生のときより少し多めに貰ったおかげでその年の貯金は一万一千円となり、合計二万円を得る。


 三年生になると月々のお小遣いが千円と倍になり、貯金へのやる気が湧いてきた。

 お小遣いだけで年間一万円を超えるのだとウキウキしながらしっかりとお小遣い帳にも記入していく。


(早く推しを見たいなぁ……)


 お小遣い帳と睨めっこしながら子どもらしかぬ溜め息を吐いて、部屋の勉強机にある引き出しに閉まった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ