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推しへ、推し役デビューおめでとうございます!

 気づけば上京して二年が過ぎてまた春がきた。近状報告としてはようやくSNSに手を出したということだろうか。

 いやぁ、我ながら我慢した。いつ始めようかなと思ったけど、推しカプがまだ時代に追いついていないから早々に始めても悲しいだけなので、様子見をしていたがやっと半年前に解禁した。


 表垢……つまり誰でも見られるアカウントのことだが、こちらはテーマパークメインに話をする用。主にノームの話とイラストを投下している健全なアカウントである。

 そして表垢を開設して数ヶ月後に裏垢も作った。裏垢とは表立って言えないことを承認した人しか見られないように鍵をかけるアカウント。

 こちらはサラマンダー×ノームについてのことや中の人の話……つまり寧山推しの垢でもある。

 サラノムは生身の人間が演じる作品なので所謂2.5次元作品に該当する。つまりナマモノだ。まぁ、この場合は半ナマというのが正しい。

 実在する人の二次創作はナマモノ。実写作品などの二次創作は半ナマ。


 ややこしいのが、この先2.5次元作品が人気になるわけだが、大体の原作が漫画アニメなのでそちらから二次創作に入った人は知らず知らずのうちに半ナマに足を突っ込んでる人もいるんだけど、ナマモノルールを知らなければ大変なことになる。

 例えば『〇〇役の××さんと■■役の□□さんイチャイチャしすぎ~~めっちゃホモーー!!』と、誰でも見れるSNSに投稿したとしよう。

 役者の中にはエゴサ……つまりエゴサーチをする者もいるのでそんな中、そのつもりもないのにそんなふうに捉えられる人がいると、その役者は噂となった相手の役者との距離を置いたり、下手をしたら共演NG、または俳優を辞めてしまうという推しの役者にも大変迷惑をかけてしまう恐れがあるし、または人権侵害として訴えられてもおかしくはない危ない世界なのだ。

 じゃあ、漫画やアニメの二次創作ならセーフなのかと問われたらそうでもない。今でこそ表立ってるけど、本来ならばあちらも隠れなければならないのだ。ただのファンアートならばいいんだけど、やはり同性愛や過激な物になればなるほど人の目に触れないように配慮しなければならない。

 原作者に訴えられたら終わりだし、黙認してるところもあるし、もちろん許可してる作品だってある。節度を守って楽しく二次創作ライフを送らなければならない。


 ……まぁ、それでもナマモノはデリケートだし、本人や純粋なファンの目に触れてはいけないから色々気を遣う努力をしないとダメだ。

 裏垢だって同志とわかるような人でないと承認しないし、怪しい人は弾いてるし、もちろん繋がるときは相手も鍵をかけた垢でないと承認出来ない。それなりに厳重にはしてるつもりである。


 そんな裏垢にようやく前世でも繋がっていた子と再び縁を繋げることが出来た。

 その子の名前がシロザクラ。前世ではしらねやの作品を出す度に感想を綴ってくれた読み専の子。いつも仕事が忙しそうで結局死ぬまで舞台で顔を合わせたことも、イベントで直接本を購入されたこともないから顔はわからないけど凄くいい子である。

 通販で同人誌を買ったら一ヶ月以内には手紙で沢山感想を書いてくれるからいつも有難かった。あと解釈が凄く合うし、寧山推しという同担。

 今世ではまだしらねやが表立って出会ってないため、今はサラノム好きさんとして接してもらってる。

 サラノム派ではあるが、寧山は受け派という私と同じ思考なのでサラノム好きだけど「サラマンダーの寧山は解釈違いだからノームにキャラチェンしてほしい」といつも嘆いていた。君は私なのかな? 生き別れた双子のような同じ考えだ。でも、安心してシロザクラさん。あなたと私の推し、ノームデビューするから!


(えにし)さんの寧山さんの絵いつも楽しみにしてます!』

『寧山さんにぴったりのお相手が出来ましたら是非寧山受け本を描いてください!』


 と、こんな嬉しいことを言ってくれる。ちなみに縁というのは私のハンドルネーム。早くしらねやを描いてシロザクラさんと色々語りたい。

 そして彼女だけじゃなく、同担のしらねや推しであるネココさんと天月さんともまた出会いたいなぁ……この二人は白樺がデビューをしてからでないと白樺×寧山に目覚めないので当たり前なんだけど縁を結ぶのはまだまだ先である。


 そしていよいよ明日はエターナルランドの新しいショーパレが始まる。そこでようやく推しが推しのキャラをデビューするのだ。

 寧山 裕次郎のノーム役デビューが生で見られる! そのために私は明日のデビューパレードに向けて場所取りに命をかけるために早寝早起きをしようと早々に寝る準備をしていたときだった。


「ん?」


 スマホから電話がかかってきたので手に取れば、発信者が水泥くんと表示されたため、久々の電話だと思いすぐに出ることにした。


「もしもし、水泥くん?」

『あ、橋本さん、こんばんは。今大丈夫かな?』

「うん、平気だよ。最近どうー?」

『順調かな。あとは……なるようになるって感じ』

「少しずつ上手くいってるなら良かったよ。その調子で頑張ってね」


 応援はするものの、いまだに水泥くんの目指すものがわからないため大した言葉を言えないのが申し訳ない。


『ありがとう。橋本さんは今も変わらず舞台やエターナルランドに通ってるの?』

「もちろん! 明日なんて新しいパレードが始まるから頑張って場所取りするんだよね」

『そうなんだ。いい場所で見れるといいね』

「うんっ」

『それじゃあ、明日のための準備もあるだろうし今日はこの辺で切るね』

「そんな気を遣わなくていいのに。せっかく話出来るんだからしようよ」

『また近いうちに話出来るからそのときでいいよ』

「そうなの? じゃあ、また連絡してね」


 おやすみ。お互いにそう言い合って僅かな時間の通話が終わってしまった。もう少し話をしたかったところではあるけど、声は元気そうだからちょっと安心する。

 順調って言ってたし、もしかしたら近いうちに話が出来るっていうのは水泥くんの現状も知ることが出来るんじゃないかな? そうだったら楽しみだなぁー。凄い和菓子職人なのか、それとも別の道に歩んでるのか……。

 布団に潜り込み、水泥くんが何をしているのか色々考えながらそのまま寝落ちした。


 そして翌朝。しっかり設定した時間に目覚めた私は始発でエターナルランドへと向かい、すでに多く並ぶ開園待ちの列へと並んだ。

 今日から始まるパレードは『フェアリー・シーズンダンスパレード』は妖精や精霊達がゲストを巻き込んでダンスを踊るというパレード。シーズンごとにダンスや音楽を変えていくので一年中楽しめるパレードである。略してシーダン。

 このシーダンはエターナルランドの中でもかなり人気のパレードへと成長する。妖精に扮したダンサーさんのダンスも凄いのだが、そのダンサーさんや精霊であるアクターがダンス停止ポジションまで来ると、ゲストを選んで一緒に踊れるダンスタイムが設けられるのだけど、これがまた人気なのだ。

 そりゃあ、見目麗しいダンサーやアクターからダンスに誘われたら沼るだろうし、舞い上がってしまう。

 つまり接触出来るので凄まじい人気パレードになるのだけど、ダンスに誘われたいがために沢山のゲストがパレ待ちしたり、最前列の取り合いをしたりと後々問題になることがあったりもする。

 そんな恐ろしい未来に今から気が重くなるのだけど、遠くからでも見れなくはないが今日は推しのデビューなので絶対良ポジで見たいのだ。

 死ぬ前にこのパレードは動画で何度も見ていたから停止ポジもしっかり頭に入っている。問題ない。


 八時。エターナルランド開園の時間である。ゲートが開き、人が次々と入国していくのだが、ゲストは走る走る。

 逸る気持ちはわかるが、走るのだけは本当に勘弁してほしい。色々事故もあったって話も聞くし、キャストさん達も必死に走らないように案内しているのに耳を貸さないのはいかがなものか。

 もちろん、大半はマナーを守って歩いて入国する。私も同じ。大体の人はアトラクションに向かうのでパレ待ちはそこまで多くなかったりするが、新しいパレード初日となるとまた話は違う。

 ショーパレのオタなら同じように良ポジを狙うのでパレードルートはいつもより人が多い。しかし、私は一番の見どころであるダンスタイムの停止ポジを知っている。

 停止箇所は三ヶ所。つまり三回のダンスタイムがあるのだが、精霊が乗るフロートによって停止する場所も違う。

 今回私が狙うのはノーム一回目の停止ポジ。なんとこの場所ならサラマンダーの二回目の停止ポジにギリ当たるお得な場所なのだ。

 まだ空いているその場所の座り見最前をポジれば勝ったも同然。推しのノームの見せ場だけでなく、サラマンダーの見せ場も見られるからあとは待つだけだ。


 十一時。パレードが始まった。四人の精霊が乗ったフロートが四台、間を空けてパレードルートを進んでいく。

 一番手がノーム、それからウンディーネ、シルフ、サラマンダーの順番でフロートが姿を現した。すぐにスマホを用意して、一番手のノームフロートが近づくまで静かに待つ。

 しばらくして推しのノームがフロートの上で佇む様子が見えてきた。え、やばい。推しのノームだ……この日を待ってた……二十年弱待った……待って、泣きそう。

 口元を片手で押さえながらも動画撮影用のスマホだけはしっかり推しへと向ける。

 表情が豊かではない役ではあるが、時折優しく微笑みながら手を振るだけでノーム推しにとってはご褒美だ。


『……』


 推しのノームの視線がこちらへと向けられる。……最前列だからさすがにバレてしまったかな。いや、いいんだ。今回は推しのノームデビューとダンスを録画させて欲しいだけだから。

 そしていよいよ、一回目の停止位置までやってきた。フロートが停まると推しノームがフロートから降り、妖精達が次々とゲストを引き連れて行く中、推しは迷うことなくこちらへと向かってくる。

 ……いや、待って。まさか、違うよね? 普通はどうしようか悩む振りくらいするよ? お願いだから私の勘違いであって!


『……』


 ぴたりと推しのノームが私の前に立ち止まった。やばい。息が止まる。動画いっぱいに推しの姿を録画出来てしまった。座り見だから推しを見上げる形になるんだけど、やはり顔がいい。直視されながら動画を撮るのは躊躇われるが、何があっても私はこの動画の手を止めないからね!


『私と一緒に、踊ってくれないか?』


 その場にしゃがみこんで私の目線に合わせた推しのノームがマイクを通して囁いた。周りの女性達がキャー! と盛り上がる中、推し役の推しに目の前でそんなことを言われてしまった私は頭がパーンと破裂してしまう。


「えっ、いやっ……」


 断らなければ。結構ですと伝えようとスマホを向けた手とは反対の手を横に振って意思表示をするが、推しはその手を取り『感謝する』と、スマホに入らないほど顔を近づけて微笑む。顔が! 顔がいいっ!!

 いつもの爽やかに笑う推しとは違い、表情が乏しいながらも小さく微笑むノームはいじらしくていい!

 ずっと見ていたいのだが推しに引っ張られ、私は最前ポジから連れ出された。スマホ撮影どころではなくなってしまったので観念してポケットへとしまう。

 パレードルートへと連れ出されたゲストは選ばれなかったゲストと共にウンディーネの声に耳を傾けながらダンスの振り付けを覚える。これがなかなかに難しかったりするんだけど、楽しむ心さえあればいいので基本自由だ。

 とはいえ、私はちゃんと記憶に残っていたのでダンスは完璧であった。

 春のシーダンのダンスは生命を育む様子をイメージしている。蕾から綺麗に咲き誇る様子を手で表現したり、冬の眠りから目覚めて羽ばたくような動きだったり、途中で花びらがパレード中に散らされるので観客として見ているとさぞかし綺麗な様子だっただろう。

 ……なのに、なぜ私は推しとダンスタイムを共にしているの!? 推しのあまり得意ではないダンスの様子を客観的に撮りたかったのに!

 そんな数分ほどではあるが、顔のいい推しとのダンスタイムは数分よりも長く感じながらも終わりを迎える。

 最後はダンスを誘った相手がお礼を言うのだが、このときはマイクオフになってるのでアドリブで締めるのが普通。ここで推しが素に戻らないか心配ポイントだ。


「いい動きだ。あなたのおかげでさらにパレードが盛り上がった。ありがとう」


 役のままだーー!! ありがとう推し! 顔がいいよ推し! ノームの微笑み最高だよ推し!

 感動して泣いてしまいそうだったけど、やっぱり推しのノームが世界一好き……尊い……結婚して……白樺サラマンダーと。

 しっかりと元いた場所まで送り届けてくれた推しのノームは再びフロートへと乗り、再度出発した。

 もうすでに魂が抜けてしまうほどの体験をしてしまったけど、パレードは続くので音楽に合わせて手拍子しながら次に来るフロートを待った。


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