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推しへ、和カフェオープンしました

 季節は秋。イチョウの葉や紅葉の色が鮮やかで人々の視線が木々や秋色の葉で出来た絨毯へと向けられることが多くなる。

 そして世間ではハロウィンの雰囲気へと変わっていく。

 少し前まではあまり定着していなかったハロウィンだったが、今では定番の行事のひとつだ。

 菓子業界も商品がハロウィン仕様に変わるし、見ていて楽しい。

 そんなハロウィンシーズンの中、庵主堂の隣には翌日オープンを控える和カフェ『Cafe・和心の里』に私は呼ばれていた。理由はスイーツの味見。

 店前のドアにはCLOSEという看板がかかっているが、気にせず入ってきてと言われたので入店する。


「あ、きたきた。いらっしゃい、絆奈」

「やっと来たわ。待ちくたびれたでー」


 和カフェでお手伝いすることになったお母さんとバイトとして雇われたニーナが私を出迎える。母と親友にお店で出迎えられるなんてなんだか不思議な光景だ。

 店内はオープン前なのでもちろん私しかお客はいない。

 ニーナに案内され、カウンターの席に着くと改めて内装を見回す。和モダンなデザインで落ち着くことが出来そうな空間だ。

 前世では出来なかったお店なので少しワクワクしているとニーナがメニューを持ってきてくれた。


「味見して欲しいもんは決まっとるから注文は出来んのやけど、メニューの出来を見てほしいねん」


 メニューの出来とはどういうことなのかと思いながらも、彼女がそう言うのでメニューを開く。

 料理の写真と共に手書きの文字や隅にはうさぎやネコなどの可愛らしい動物のイラストが描かれていたので、親友の言いたいことを理解した。


「これ、全部ニーナの手書きなんだね! お洒落~!」

「せやろー?」

「新奈ちゃんも美術部だからお願いしてみたのよね。そしたら凄くいいメニューになって水泥さんも喜んでたわ」

「いや~そう言われたら恥ずかしくなりますわぁ……」

「得意なことは自信持っていいのよ。私も凄いと思ってるんだし」

「はは、ありがとうございますー」


 少し恥ずかしげではあるが、嬉しそうにお礼を言うニーナを見た私も得意げな気持ちになったが、そういえばと先程から気になっていたことを口にする。


「ねぇ、水泥くんのお母さんと芥田くんは?」


 そう。二人の姿見えない。まぁ、水泥くんのお母さんは奥で味見してもらうための商品の準備をしてるのだろう。

 じゃあ、芥田くんは? なぜ彼がオープン前日だというのにいないのか。早速サボりとか? いやいや、それはダメでしょ。


「稔くんなら水泥さんの調理の手伝いをしてるわよ。ほら、あの子和菓子職人になりたいでしょ? それまでは色々勉強したいんだって。真面目ねぇ」

「……そう、なんだ」

「まぁ、今のとこ迷惑はかけてへんで。今んとこは」


 まぁ、お店の迷惑になるようなことはさすがにしないと信じてるけど、あのゴミくんだからなぁ。調子に乗ってやらかさなきゃいいけど。

 少し不安を抱えていたら店の奥から水泥くんのお母さんと芥田くんが両手にスイーツを持って出てきた。

 いや、待って。あの量を私が食べるの? さすがに無理。食べられなくはないけどカロリー的に無理!!


「絆奈ちゃん、いらっしゃい。待っていたわ」

「お? 来たな、橋本! 俺が店長と一緒に作ったスイーツを食って、その美味さにひっくり返させたるわ!」

「自分、一緒に作ったんやなくてただの手伝いやろ。生クリーム混ぜるくらいの」

「何言うてんねん! 生クリームかて混ぜるのに色々工夫せなあかんねんで……っと、うわっ!?」

「!?」


 芥田くんが私の前に提供しようとするスイーツを運ぶ最中だというのに、よそ見をしてニーナに言い返していたら、自分の足に引っかかったのか躓きそうになった。

 それを察知して前に倒れかけた芥田くんをニーナが慌てて肩を掴んで阻止し、スイーツを落とすような大惨事にならなくてすんだ。思わず私も胸を撫で下ろす。


「アホ! ちゃんと前見て歩きぃや! これがオープンしてたら大変なことになるんやからな!」

「わ、悪ぃ……」

「はいはい。とりあえず無事みたいだから一先ず試食会にするわよ。芥田くんも明日からはしっかり前を見て運んでちょうだいね。もちろん、張り切ってくれてるのは嬉しいわよ」

「はいっ!」


 お母さんが上手く二人を宥める。さすが大人の対応。これなら何があっても任せられる気がする。まぁ、その前に何も起こらないのが一番ではあるけど。

 そういうわけで私の前に並んだのはパンケーキにパフェ、ロールケーキ、シフォンケーキだ。


「……あの、私こんなに食べるのは……」

「試食会だからみんなで食べるのよ。さすがに全部は食べさせないから安心して」


 母の言葉を聞いて安心した私はメニューの詳しい説明を聞こうと店長である水泥くんのお母さんに尋ねてみることにする。


「水泥さん、メニューの説明を窺ってもいいですか?」

「わかりました。芥田くん、お願い出来ますか?」

「えっ?」

「任せてください!」


 水泥くんのお母さんに聞いたのに何故か芥田くんにメニューの説明を託され、しかも本人は自信満々の表情である。

 はたして、彼にそんなことが出来るのだろうか。


「えー、こちらはほうじ茶クリームのパンケーキです。ふわふわした食感のパンケーキにほうじ茶を混ぜたクリームとさらに上からほうじ茶パウダーをかけています。そしてお隣がわらび餅パフェです。下から抹茶ソース、抹茶ゼリー、ソフトクリーム、抹茶アイスにわらび餅、そしてあんこと生クリームが添えられています」


 彼はこほん、とひとつ咳払いをしてメニューひとつひとつ手を添え、得意げな顔で説明をした。

 スラスラと喋るのでしっかり覚えてるんだなと感心してしまうほど。


「さらにお隣が秋限定のかぼちゃの抹茶ロールケーキです。かぼちゃのクリームを抹茶生地で包んでおります。そして最後に抹茶シフォンケーキです。あんこと生クリームを添えてますので是非とも一緒に食べてください」


 最後まで言い終えたときの芥田くんがドヤ顔なので少しばかり癪に障るのだけど、今はしっかりと説明をした彼に拍手する。

 こう言うのはあれなのだけど、彼の成績はそんなに良くない。しかし、体育ははちゃめちゃに得意なのだが、運動部に入っても長く続かない様子だった。最初だけ楽しんでいて途中で辞めてしまう子だ。

 よほど、庵主堂に関わることが好きなのだろうか。最初はただの興味本位なのかなと考えてたけど、その熱が長く続いているからいつしか本気なんだと思うようになった。


「凄いよ、芥田くん。ばっちりだね! 絶対間違えると思ってたのに!」

「せやろせやろ!」

「いや、皮肉やからな?」

「芥田くん、物覚えが良くて全メニューの説明も言えるし、何ならアレルギー食材も答えられちゃうのよ」

「なん、と……」


 さすがにそこまでとは思っていなかった。え、芥田くんってもしかして凄いの? いや、練り切りの出来も良かったけど、まさかそこまで才能を開花させたの? あの、おバカな芥田くんがっ!?

 ……うん、ちょっと認識を改めるべきだね、これは。見た目はただの金髪ピアスのイケイケヤンキーなのに。


「芥田くんの株が一気に上がった」

「私もここまでマジやと思わんかったわ。……まぁ、調子乗りやけど」

「俺の凄さがわかったならそれでえぇわ!」


 その強気発言をもう少し抑えてくれたらもっと良かったんだけどね。


 話をそこそこにしてみんなで試食会が始まった。材料は庵主堂と使ってる物がほとんど一緒なので、あんこなどよく知った味だから美味しいのは当然のこと。

 しかし、水泥くんのお母さんが作ったとはいえ、和菓子屋の娘なのに和スイーツもこんなに美味しく作り上げるなんて凄い。

 特にこのほうじ茶クリームのパンケーキ。パンケーキがほんとにふわふわで前世で食べた東京にある行列の出来るパンケーキ屋並みである。これは絶対目玉になる商品だ。


「すっごく美味しい! これは絶対売れますよ! 自信持ってオススメ出来ます!」

「ふふっ。ありがとうね、絆奈ちゃん。これで安心してオープン出来るわ」

「明日、お客さん来てくれるやろか」

「沢山チラシ配りしてんから大丈夫やし、師匠かて知り合いが行く言うてたからむしろ忙しなるで!」

「せやな……ほんま失敗しなきゃえぇけど」

「気をつけたらえぇやん」

「私やなく自分や自分っ!」


 ニーナの言うように心配はあるだろうけど、何だかんだ大丈夫そうな気がしてきた。最初は大変かもしれないけど、頑張ってほしい。

 そのあと母から聞いたんだけど、お店が提供するスイーツは主にパンケーキとパフェとシフォンケーキ、そして季節限定物のこの四つとのこと。

 あとはドリンク提供や隣の庵主堂のスイーツを買ってここで食べることも出来るらしいので、いい憩いの場になるのではないだろうか。

 明日のオープンが楽しみである。


 そして翌日の日曜日。Cafe・和心の里がオープンした。

 前日から繁盛するように願いながら眠りにつき、当日はバイトが入っていたので仕事前に和心の里の開店時間に間に合うようお店に向かう。


「あっ……!」


 なんと、チラシの効果なのか開店前のお店にはすでに行列が出来ていた。これなら初日は大丈夫そうだなと思い、安心してバイトに出勤する。

 ニーナと芥田くん以外にもアルバイトは雇っているみたいだけど、慣れるまでは大変なんだろうなぁ。


 レジ担当としてレジに立ち、業務をこなしているとふとお客さん同士の会話が聞こえてきた。


「さっきの新しく出来たカフェすげー人やったなぁ」

「最初は混むやろうなぁ、落ち着いたら行ってみようや」

「せやな」


 そんな話が耳に入り、微笑ましく思った。町の人に気に入ってもらえるお店になってくれるかもしれない。

 そうだ、ちゃんとあとで水泥くんにも報告しないと。絶対気になってるもんね。昨日は食べたスイーツの写真を送ったら凄く美味しそうだって言ってたし、水泥くんもいつか食べられるといいなぁ。


 午後五時頃。バイトを終えた私は再び和心の里に足を運んでみると、朝ほどではないがまだ外には人が並んでいた。

 ニーナと芥田くんもこの時間には仕事が終わるそうなので少し待ってみることに。

 暫くして二人がお店から出てきたので二人の元へ駆け寄った。


「ニーナ! 芥田くん! お疲れ様っ」

「お。橋本や」

「なんや、わざわざ来てくれたん?」

「そりゃあ気になったからね。どうだった?」

「もちろんこの俺がいるんやし、問題なく大繁盛や!」

「まぁ、確かに途切れなく人が来てて凄かったけど、その分めっちゃ疲れたなぁ」

「初めてのバイトなら余計に疲れるよね」

「でも、お客さんは美味しい言うてくれたし、なんかやる気が出てくるんよな」

「庵主堂の良さが広まっていきそうで俺もやる気出るわぁ」


 話を聞く限り問題なさそうなので良かった。暫くは人が集まるだろうから私もなかなか行けないかもしれないけど、ちょくちょく遊びに行きたいな。季節限定スイーツはその都度食べたいし。




「って、ことで何とか初日は上手く乗りきったみたいだよ」


 その日の夜、水泥くんと直接電話をして和心の里の様子をしっかり伝えた。


『それは安心したよ、僕も気になってたから。うちの母、全然そんな連絡してくれなくてこっちから連絡したくらいだからね』

「そうだったんだ。水泥くんに心配させたくなかったのかも」

『そうみたい。それくらいは言ってくれてもいいのに』

「でも、いつか水泥くんも食べられるといいなぁ。長期休みとかで帰省とかはしないの?」


 てっきり夏休みとか冬休みとか帰ってくるのかなと思ったんだけど、高校二年生になっても水泥くんは帰ってくる様子はなくて、それはそれでちょっと寂しい。


『うーん。帰ってみたいのは山々なんだけど、やっぱり僕はまだまだ頑張らなきゃいけないことがあるからそっちに集中したくて』

「そっかぁ。水泥くん頑張ってるもんね」


 彼はなかなかにストイックだ。未だに水泥くんのアルバイトについては教えてもらえないんだけど、彼が話してくれるのを待つしかない。

 確か、ニーナは「怪しいバイトやったりしてへんよな……?」と心配していたが、さすがに水泥くんはそんなことはしないはず。ただ内向的だからその辺りの心配はあるけど……。

 ううん。水泥くんを信じよう。話してる感じだとそんなヤバい薬を売ってたりしてる雰囲気ではないし。


「あ、話長くなっちゃったね。夜も遅いし、そろそろ切るね」

『うん、そうだね。話してくれてありがとう』

「こちらこそ。久しぶりに水泥くんの声が聞けて嬉しかったよ。なんだか安心しちゃった」

『えっ、あっ、うん……僕も、橋本さんの声聞けて凄く嬉しいよ』

「ほんと? ありがとー。じゃあまた話そうね、それじゃあ、おやすみ。水泥くん」

『うん。おやすみなさい、橋本さん』


 電話を切り、水泥くんの元気そうな声を聞いた私は安心してぐっすり寝入ることが出来た。


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