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推しへ、いつの間にか和カフェがオープンしそうです

「そういえばね、水泥さんの奥さんが話してたんだけど、庵主堂のお隣に和カフェを始めるそうよ」

「えっ……!?」


 高校二年生になって日も浅いある日のこと。その日はバイトはないので家族団欒で夕飯を共にしていたんだけど、母の口から驚くべき内容を耳にした。

 庵主堂が和カフェを経営する……? 前世ではそんなことはなかった。これは大きな変化である。


「え、えっと、いつから?」

「うーん。まだ正式には決まってないけど半年以内にはオープン出来るかもって」


 つまり秋頃になるのか……。そういえば庵主堂のお隣さんは純喫茶で、経営するおばあちゃんが歳だから店を畳んだのが先々月だったかな。

 お隣さんだからお店同士仲も良かったみたいだし、予め閉店することや和カフェにすることをお互いに相談したのかも。

 確かに庵主堂は前世に比べて客足は遠のくことなく、若い子もよく来店している様子。

 商品も少しずつ和スイーツが増えてきた。その中のひとつであるクリーム大福もストロベリー、チョコレート、ピスタチオなどを出していて、ピスタチオクリーム大福はなかなかに人気があるようで提案した身としては安心していた。

 あとはドライフルーツ羊羹もあったり、買い食い出来る商品として売り出したアイスどら焼きも好評で、冬場はアイスを取りやめて、出来たて熱々生地のどら焼きを提供していたので季節限定で楽しめるのがまたいいと人気を呼んでいる。

 店主の安堂さんも増えてきた若いお客さんから、流行りの洋菓子や食べたい和菓子などを積極的に聞いたりしているから、もう私の提案は必要なさそうなので前世のように店を畳まざるを得なくなる事態は少しでも紛れたと思う。

 ……まぁ、完全に脅威がなくなったわけではないし、営業している人はいつだってお店が潰れてしまう不安があるだろう。私は少しでも庵主堂に貢献出来るようにしたいな。


「でも、和カフェって思い切ったね」

「若い子の話を聞くとやっぱりカフェでゆっくりしたいって子が多くて。広くなくてもいいから和カフェのお店を始めようってことで主に奥さんが切り盛りすることが決まったのよ。それでずっと準備してるみたい」

「じゃあ、お母さんは前から知ってたの?」

「一応ね。私も時間があるときはお手伝いしようと思って」

「「えぇっ!?」」


 今まで黙って聞いていたお父さんと一緒にハモってしまった。いや、そりゃビックリするよ。


「お、俺は初耳だぞっ?」

「そりゃあ、初めて言ったんだもの」

「俺の稼ぎだけでは不満なのか……?」

「私だって働きたくなるわよ。絆奈もこんなに立派に育ったんだから人生がちょっと物足りないっていうか、どうせなら水泥さんのお手伝いをしてみたいと思ったのよ」


 なるほど。母と水泥くんのお母さんは良き友達関係が続いているみたいで良かった良かった。確かにお母さんも水泥くんのお母さんも専業主婦だから何かしてみたいって欲があるのかも。


「そうか。離婚資金を貯めるわけじゃないんだな?」

「そんなこと気にしてないわよ、今のところ」

「今のところ!?」


 お父さん、お母さんにからかわれてるよ。でも、二人はお互いに助け合ってるし、仲良いのは知っているから離婚は絶対ないんだよね。微笑ましい。


「それで、ちょっと相談なんだけど、まだ先のこととはいえアルバイトを募るつもりなの。だから絆奈の友達の新奈ちゃんとかどうかしらって思って。どうせなら知り合いの子がいてくれると安心するのよ」

「そっか。ニーナは今バイトとかしてないしね。一度聞いてみるよ。でも、あんまり期待しないでね? ニーナ、高校はバイトする予定ないって言ってたから」


 そう。前世ではそうだった。まだまだ自分の時間という名の絵を描く時間が欲しいから高校の間はそれに集中すると。


「もちろん、わかってるわよ。今が一番楽しい時期だし、来年は受験生だから色々あるものね」

「うん。とりあえず明日話するね」


 しかし、和カフェと聞いたら今からオープンが楽しみになってきた。

 メニューとか決まってるのかな? 和カフェならパフェとかパンケーキとか食べられるんだろうなぁ。うーん、気になる。


 和カフェに思いを馳せながら翌日クラス前の廊下でニーナにこの話をしてみた。

 そうそう、二年生になってからのクラス替えでは残念ながらニーナとは別クラスになってしまったけど、毎日話はしてるし、部活も一緒なので問題はない。

 まぁ、相変わらず友達を作る気がないので大体一人ではあるけど、クラスメイトとは程よくの付き合いを保っている。


「へぇ、庵主堂がカフェ経営するんかぁ。それでバイトとして私に声かけてくれたっちゅーことか」

「うん。でも、ニーナは自分の時間もあるし、無理にお願いしてるわけじゃないからあまり深く考えなくていいよ」

「せやなぁ、私もまだまだ遊びたい盛りやし。でも、それにはお金もかかるからなぁ……あと、絆奈もバイトしとるからちょっと寂しい気もするし。引き受けてもえぇかなって思うんよ」

「えっ? ほんとに? 喜んでくれるとは思うけどニーナはいいの?」

「まぁ、知っとる人らのお店やったらちょっとは気兼ねなく働けるかなって思うし、新しくオープンするとこやったらスタート地点はみんな一緒やから楽しそうやしな」


 思ってもない答えに驚いた。彼女の言うことは確かにって思うのと同時にニーナらしいっていうのも感じた。

 ニーナは何だかんだ言って困ってる人に優しかったりするし、自分が求められているとなるとそれに応えたりするからね。まぁ、気まぐれな所もあるけど、それを含めてニーナなのだ。


「じゃあ、お母さんに伝えとくよ。まぁ、多分秋くらいにはなるけどまた考えが変わったら教えてね」

「大丈夫大丈夫。一度決めたことはちゃんと守るから、またなんか決まったら教えてや」

「うん」


 良かった良かった。これは有難いことだ。ニーナが働いてくれるならお母さんも水泥くんのお母さんも安心だし、明るい子でもあるから接客業も上手くやるので任せられるだろう。

 これで一件落着、だなんて思っていたのだけど、嵐は唐突にやって来た。


「話は聞かせてもらったで」

「げっ」

「……芥田くん」


 そう。芥田 稔である。彼もニーナ同様クラスが別れたけどあまり気にしてはいなかった。

 そんな芥田くんが壁に凭れかかった状態で腕を組む姿でいたので、少しイラッとしてしまうのだけど、話を聞かれたということは彼が口にする内容はすぐに理解してしまった。


「俺もバイトしたるわ!」


 あぁ、やっぱり。ある意味期待を裏切らないよ君は。

 ニーナもあからさまに嫌な顔をする。わかる。面倒臭いよね、芥田くんは。


「自分、庵主堂で店主の弟子になる言うてたやろ」

「高校卒業まではお預けやからな。それまでは師匠の手伝いになることをするつもりや」

「どっちかと言うと安堂さんの娘さんである水泥くんのお母さんのお手伝いになるけど……」

「結局は庵主堂の助けになるから一緒や! っちゅーわけやから俺の雇用もよろしく言うといてな!」


 言うだけ言って芥田くんはこちらの返事を聞くことなく去っていった。本当に嵐の男だよ、芥田くん。


「……なぁ、どうするんやあれ?」

「一応……聞いてはみるけど、もしOKが出たらニーナやめてもいいよ……」

「いや、やるわ。むしろ見張りがいるやろ、あれには。逆に心配やわ」

「う、うん……」


 その後、母からもう一人バイトをしてみたいという子がいることを伝えるとすぐに許可が降りた。一応、芥田くんのことについても話はしたが「庵主堂のファンの子なら安心ね」と言うのだけど、本当に安心かはわからない。

 彼は庵主堂のファンというより店主の安堂さんのファンみたいなものだから。

 ニーナに報告したら「……頑張るわ」と早速苦労を抱えそうな親友に私も労いの言葉をかけた。


 そんな庵主堂による和カフェオープンを水泥くんが知っているのだろうかと気になり、夜にメールを送ってみた。


『水泥くんのお母さんが庵主堂の隣に和カフェをオープンさせるみたいなんだって。すっごく楽しみ! ニーナと何故か芥田くんがバイトすることが決まったんだけど、オープンしたら通ってみるし、写真も送るね~!』


 すると一時間もしないうちに水泥くんから返信がきた。


『そうなんだ。まさかカフェ経営までするとは思ってなかったな……。だけど佐々木さんと芥田くんが手伝ってくれるのは嬉しいよ。実際に見れないのは残念だけど、橋本さんの写真を楽しみにしてるね』


 水泥くんはどうやらまだ知らなかったみたいだ。うーん、オープンしてる所を直接見れないのはやっぱり残念だよねぇ。

 そのあとも何度かメールをやり取りして互いの近況を話した。水泥くんとは月に二回か三回くらいはメールでやりとりしている。

 一番心配していた彼の交友についてもちゃんと友達も出来て楽しくやっているそうだ。一人暮らしも最初は慣れなくて大変だったみたいだけど、今は何とかやっていけてるそうで。

 アルバイトも接客業をやっているらしい。詳しいお店を聞いたんだけど、あまり話せる業種じゃないらしいので接客業としかわからなかった。

 それでも人前に出るのが苦手だった子が人と接する職をするのだから彼の成長はまだまだ伸びるようだ。


『水泥くんも慣れてきたようで安心したよ。私も早く一人暮らししたいな~。そのときはまた色々教えてね』

『うん。橋本さんもこっちに越す日が決まったら知らせてね』


 そんなやりとりをして「そろそろ眠くなってきたから寝るね」とメールを送ってから寝る準備に入る。

 クリスマスに推しから貰った香水を枕に吹きかけていい匂いに包まれながら就寝した。


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