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推しへ、パレード待ちのクレープは美味しいです

 誇り高き城下町エリア。

 ここはエターナルランドのメインシンボルであるエターナル城が聳え立つ場所。エターナルランドと言えば真っ先に思い浮かぶものと言えるだろう。

 お城の周りがパレードルートになっていて、通年パレードや季節のパレードがあれば全てここで行われている。

 家族連れが一番多いエリアなので、お城の周りは草木が豊かであり、メリーゴーランドやコーヒーカップといった小さい子向けのアトラクションが多い。

 レストランも他エリアに比べると数があるので食事時には混みやすくもある。


「パレードをするのはこの辺りか……ちらほら待ってる人がいるな」

「パパー! はやくすわろっ」


 確かにパレード待ちで人が埋まりつつあるが、まだ最前の場所取りも可能ではあるので、こんなことでうだうだしていられない。

 父の服の袖を引っ張り、何とか家族三人が座れる場所を確保した。レジャーシートを上手く三人分座れるように、広過ぎず狭すぎずに敷いていく。初見で最前なんて贅沢だけども。


「凄いな……あと十分遅かったら少し後ろでの鑑賞になってただろうな」

「でも、ショーは何時からかしら?」


 あ、ショースケジュールとかパンフレットを貰ってない! まぁ、数時間くらい待てるけど、はたして両親はそこまで待てるのだろうか。


「じゃあ、俺ちょっと係の人に聞いて来るよ」

「うん、お願いね」

「パパ、ここのばしょおぼえてねー」


 キャストに聞いて来ると言ってお父さんが座っていた場所を抜けて行く。

 その間は目の前に鎮座するエターナル城を見上げ、感慨に浸った。

 実はこのお城はホテル。宿泊者以外入れないのだが、一部だけ宿泊者じゃなくても入れる所がある。

 宿泊数は百もいかなかったはず。そして宿泊者専用のレストランもあるし、お城からの景色はとても良いので一番安い部屋でもなかなかにイイお値段がする。

 それでも、いつも予約でいっぱいなので毎日予約戦争なのだ。

 そのため、誰もが憧れるホテルである。

 ……まぁ、推しにお金を使っているので宿泊する機会は永遠にないのだけど。


「パパおそいねー」

「そうね、トイレかしら?」


 パレードの時間を尋ねるだけなのにもう十分以上帰って来ていない。

 トイレならまだいいんだけど、本当にこの場所が分からなくなっていたらどうしよう。

 母が私を置いて探しに行くわけにはいかないし、だからと言ってこの場所を無人にしてしまうと、場所を取られるか、または撤去されてしまう。それだけは絶対に阻止したいのでお父さん早く帰って来て!


「ただいま~」


 そこへ呑気な声が。

 幼き子が内心ハラハラして父の身を案じていたというのに、にこやかな顔で帰って来た。両手にはクレープを手にして。


「パパおそーい!」

「はは、ごめんごめん。パレードの時間を聞いたら従業員のお兄さんが色々教えてくれてさ。ショー待ちする子どもがいるなら近くのクレープとかも美味しいのでオススメですよって言われてつい買って来ちゃったんだ」

「ご飯前におやつを先に買って来るの?」

「せっかく来たんだしいいじゃないか」


 はい、と渡されたクレープは生クリームとベリーソース、そしてイチゴがたっぷりのストロベリークレープ。

 誇り高き城下町エリアに売られている小人(コロポックル)の自慢のクレープ店というお店で販売されている看板商品である。

 クレープ店なので他にもチョコレートやアイスが入ったものなどあるけど、私は断然にストロベリークレープが大好き。

 クレープ生地はもちもちした弾力でちょっと厚みのあるもの。そこへ生クリームとベリーソースに苺がトッピングされているので美味しくないわけがない。

 小人の自慢のクレープ店という名前だけあって、オーナーが小人で実際に作ってる人や販売キャストはそのオーナーの弟子という設定である。

 そんなバックストーリーがちょくちょく盛り込まれるから、そこがまたパークオタクにウケているのだが、それよりも今はこのクレープを食べるのが先だ。


「いただきまーす」


 まず一口。久しぶりに食べたストロベリークレープは感動するほど美味しくて……いや、久しぶりとは言うけど第二の人生としては初めてなんだけど。

 それでも、私の記憶ではその味は覚えているので、そのときの私の目は輝いていたに違いない。


「おいひい~!」

「そうかそうかぁ、こっちも食べるか?」

「ちょっと、あなた。甘やかさないの」


 ストロベリークレープに感動している私の前に父が差し出したのはチョコバナナクレープ。

 こちらは生クリームとバナナ、その上にチョコレートソースがかけられていて、ストロベリークレープに次いでの人気を誇る。

 差し出されてしまったら食べる他ない。そのままぱくり一口頬張る。これもまたスイートなチョコレートソースとバナナがよく合う。


「こっちもおいしい!」

「絆奈が美味しいならパパも嬉しいぞぉ~! 他にも食べたい物があればどんどん言うんだぞ」

「あなた!」


 ハッ。ダメだダメだ。お父さんは私にとことん甘いんだった。

 前世でもその甘やかし行為に色んなお菓子やケーキといった甘い物を与えられ続けた私の未来はぽっちゃりという可愛い単語では済まされないくらい酷いことに……!

 幼少期から既に蓄えられた脂肪は今の推しと出会ってから、血の滲むような努力をしてようやくまともな体型を手に入れたんだ。

 このままでは同じことを繰り返してしまう!


「ママもパパもいっしょにたべよっ」

「あら。絆奈、全部食べないの?」

「気にしなくていいんだぞ? それは絆奈のなんだからな?」

「でも、おなかいっぱいになっちゃう……おひるごはんたべられなくなっちゃう」

「絆奈はお昼の心配もしてるなんていい子ねぇ~。パパよりお利口さんだわ」

「ぐっ……」


 お母さんに撫でられながらクレープを二人にも分ける。私を喜ばせようとするお父さんには申し訳ないが、これも未来の私のためなので辛い思いをさせないで欲しい。


「そういえば、パレードは何時からだったの?」

「あ、そうだ。十二時からだって聞いたから……あと三十分くらいだな」

「もうちょっとあるわね。絆奈、待てる?」

「まてるー!」


 三十分だなんて! むしろ楽勝! 何なら推しが真冬のクリスマスショーに出ていたときは極寒の中、三時間や四時間も地蔵(長時間待つこと)だってしていたのだからもはや余裕だ!


 私がそわそわしている中、両親はガイドブックを見てお昼ご飯を相談していると、パレードの時間になったのか音楽が流れ、パレードルートの始まりである門が開いた。


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