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推しへ、結局いつも折れるのはこっちなんですね

 早いもので中学三年生になりました。ドキドキのクラス替えの結果、なんと今年は水泥くんとニーナと一年ぶりに同じクラスになることが出来た! やったー!

 受験生になるけども、私は前世と同じで近くの高校に通うつもりだからあまり気を張りつめてはいないんだよね。

 さて、進級したということはゴールデンウィークもあっという間に始まるわけで……。

 そう、今年もやってきた! 推しの舞台!!


 劇団影法師の都の今年の公演は『ダンスオブトーキョー』というダンスが目玉の舞台。

 色んな人にダンスを見てもらいたいという願いが同じの五人がとあるダンスコンテストに出場するも一回戦敗退。

 たまたま五人が居合わせたということもあり、居酒屋で飲んで意気投合し、その場の勢いでダンスチームを組むことになる。

 そしてチーム制のダンス大会が近いうちに開催されるため、五人は大会優勝を目指して練習に励むのだが、性格もダンスも息すらもバラバラな五人は衝突していく。

 そんな個性豊かな五人の大会優勝は酷く険しい道のりになるのだった。


 推しの今回の役はロックダンスが得意なフリーター。クールであまり表情が顔に出ないため、何を考えているかよくわからないと言われる青年だが、ダンスで世界を取りたいという熱い思いを秘めている。

 ダンスも頑張っていたみたいで途中途中に入る推しのロックダンスはとてもかっこ良かった。推しのダンスを見る機会なんてそうそうないし、歳を重ねた未来の推しの話ではダンスはそんなに得意ではないとのこと。

 だから凄く頑張ったのだと思う。そりゃあ、私はダンスには詳しくないし、所々素人っぽいなって思ったけども、彼は観せるために頑張ったのだと凄くわかる。


 ……が、しかし。今回の公演はぶっちゃけるとめちゃくちゃ面白くなかった! こんなにも面白くないストーリーは初めてだというくらい!

 私、今まで面白くないと思った公演はなかったのに、今回のはどうも観ていて虚無を感じた。

 メインである個性的な五人のキャラ設定もそんなに個性的でもなかったし、ちょっと話が無理やりなところもあったし、これっているのかという不必要なシーンもあったし、今までが面白かっただけに残念な内容だった。

 役者はみんな頑張って演じていたと思う。思うのだけど、ダンス未経験者の人がほとんどらしく、練習時間は大体ダンスに使われたんだなと思うような演者もいた。

 だから人によっては演技もダンスも中途半端だったのだ。


(アンケート……全然書けない)


 いつもならばスラスラと書けるアンケートが全く手につかない。良かったことといえば推しの貴重なダンスシーンが見れたことくらいだろうか。

 あぁ……溜め息が出る。さすがにストーリーはベタ褒め出来ないし、本音を書くしかないだろうなこれは。

 多分、こんなに否定的なのは私だけではないはず。幕が降りたときの拍手も渋々やってるって感じだったし、とても疎らだった。

 あまり批判的なのは書きたくはないのだけど、今回ばかりは仕方ない。

 そして悩みに悩んだ結果、ようやくペンを走らせた。


 暫くしていつもより長い時間をかけたアンケート記入に疲労感が残る。

 あ、そうだ。面会はまだ大丈夫かな。

 面会時間のことを考えていなかったせいで、どのくらいの時間を要したかわからなかった。

 推しの面会はまだ少し列が出来ているし、スタッフによる面会の残り時間の案内や締切は行ってはいなかったのでいそいそと推しの面会列へ並ぶ。

 そういえば推しと関わるのが何だか久しぶりに感じる。

 いつも舞台後の感想の手紙を出すと、その返事が来てたのだが去年はそれがなく、毎年届いていた年賀状も今年はなかった。

 うん。いい兆候である! ファンと役者の距離はちゃんと取ってくれて私は嬉しいよ! 長年説得してきたかいがあったってものだ。

 ようやくまともな面会が出来るのではないだろうか。成長したなぁ、推しよ……。

 あとは面会での対応さえちゃんと出来ていればパーフェクトだ。

 そうこうしているうちに私の番が回ってきた。


「!」

「お疲れ様でしたー」

「あ、あぁ。ありがとう……」


 あれ? 私の顔を見た途端、安心したような嬉しそうな表情したと思ったら急に声のトーンが下がった。


「? 今回のダンス凄かったですね、かっこ良かったですよ」

「! ほんとっ? ……あ! いや、うん……そう見えて良かったよ」


 推しの様子がおかしい。喜んだ表情を見せた途端、慌てて口を押えて目を逸らしながら返答する。

 えっ、私もしかして推しにオキラ(嫌われ)認定されちゃった!? やっぱり生意気なこと言いすぎたから!?


「……あ、あの、差し出がましいのですが、こちらを」


 よそよそしい推しに差し入れを渡し、さっさと切り上げよう。オキラになってしまったらもう取り戻せない。

 下手なことする前にドロンしよう。推しに嫌な思いをさせてはいけない。嫌われたのなら自業自得である。


「あ、ありが」

「では、これで……」

「えっ! もうっ?」


 ぺこりとお辞儀をして去ろうとしたら推しが慌てて私に向けて手を伸ばす。……何故?


「えっ……?」

「あ……その~……」


 しどろもどろする推し。あ、ちょっと可愛い。それ白樺の前でもやって。

 いや、じゃなくて。何なんだ。今日の推しはちょっとおかしい。まるで何か言いたいけど言い出せないような……。

 まさか、パークに関する話をめちゃくちゃしたくて我慢してる? 私がダメって言うから抑えてるの?

 いい心掛けだよ。いい心掛けなんだけど……そんなわかりやすい雰囲気出さないでおくれ……やりづらい。


「えーと……」


 ダメだ。推しが全然まともに話が出来ない状況だ。話がしたくてしょうがないと目で訴えている。ダメだって、そんな犬みたいな目で見るのは!


「……寧山さん、お昼ご飯はこれから食べるんですか?」

「あ、うん。そうだね……」

「私もこれから食べるんですよ。近くのナポリタンの美味しい喫茶店があるのでそちらに行こうかなと」

「! そ、うなんだ。いいんじゃないかな。きっと美味しいと思うよ」

「それでは、失礼します」

「うん、またねっ」


 そそくさとその場を去り、劇場に出た私は肩を落とした。

 言ってしまった。言っちゃったよ私。遠回しに推しをランチに誘ってしまったよ。これじゃあ、接触厨オタじゃん! 痛オタだ!

 うう、こんなつもりじゃないのに。でも、推し凄く話したくてうずうずしてたもん……サラッと流せなかった私はなんてダメなファンなのだろう。

 心の中で言い訳していても結果的に推しにランチを誘った事実は消えない。

 いや、まだ推しが来るだなんて確証はない。来なかったらいいんだ。そうしたら……推しにランチを誘ってフラれた痛リアコと思われるかもしれないが。

 自分の発言に後悔しながら、前に一度ナポリタンを食べた推しのお気に入りである喫茶店へと向かう。


 推しが毎年劇団の舞台公演をすると必ず一度は寄っているこの喫茶店。

 願わくばランチに誘ったと気づかないでほしい。そう念じながらハンバーグ定食を注文した。

 それから十分ほど経った頃。注文した品が到着したと同時に彼はやって来た。


「絆奈ちゃん!」


 本当に来た!! マジで来たよこの推し! しかもめちゃくちゃ嬉しそうに!

 そして断りもなく目の前の席に座り、ナポリタンを注文した。


「……来たんですね」

「えっ? ダメだった?」

「いえ……ただ寧山さんの様子がちょっといつもと違っていたので少し気になったんです」

「あ、はは。うん、なんて言うのかな……僕なりに考えたんだ」

「?」

「絆奈ちゃんがずっと僕の言動を注意してくれたでしょ? でも、僕が自由にしすぎて去年はすぐに帰っちゃったから少しは反省して、言われた通りにしてみたんだ」


 あ、やっぱり推しはちゃんとファンと役者の距離を考えてくれたんだ。ようやくではあるけど。

 まぁ、今回のご飯を最後にその距離感を保ってもらえたらもう何もうるさく言わないよ。


「手紙も年賀状も絆奈ちゃんから届いたのが嬉しかったし、返事もしたかったんだけど、我慢したよ。面会も話す内容も注意したし」


 うんうん、そうだね。まぁ、どちらかと言うと面会での推しは話をまともに出来なかったと言うのが正しいのだけど。


「ご飯も誘わないようにしたんだけど、やっぱりこうやって絆奈ちゃんと話がしたいなぁって思ったんだよね」


 ……ん? 話の流れがおかしくないかい?


「面会だけはちゃんとするからこれからもご飯を一緒に食べて、パークの話をしてもいいかな?」


 推しーーーーっ!! なんで、なんでそうなの!?

 まさかの言葉に顔を覆いながら心の中で叫ぶ。叫ばずにはいられなかった。


「……何故、そこまでして私となんですか?」

「絆奈ちゃんだからだよ。デビュー当時から応援してくれるし、心配もしてくれる。家族のようなお友達の君だから仕事の話も聞いてほしいんだよね」


 のほほんと話す推しは顔もいいし、ちょっと可愛いんだけど、話の内容がとてもではないが私にとっては困惑極まりない。

 やっぱり雪城さんの言う通り私から離れるべきなのだろうか。せっかくの第二の私の人生なのにそれはやだ……推しの活躍は全部見たいの。

 でも、推しが距離を詰めてくる……うう、何このジレンマは。


「ね、絆奈ちゃん。ダメかな?」


 ううううっ! 眉を下げながらそんな悲しい顔しないで! 顔がいいのに! その顔は白樺の前にだけして! そして襲われろ!!


「……わ、かり、ました……ご飯のときなら」

「ほんと? ありがとうー」


 折れてしまった。ファンと役者がプライベートで交流だなんて炎上案件だよ……。どうしよう、いつか某掲示板で叩かれる。写真撮られて顔面晒されたらどうしよう、死んじゃう。社会的に死ぬ!

 いや、前向きに……前向きに考えよう。そう、推しが私のことを友達(血反吐吐くほど認めたくないけど)と言うのならばBLによくいる同性カップルに理解のある相談にも乗れる異性の友人ポジションになれると思えば悪くないのかもしれない。

 いや、本当にいいんじゃないかな? だって、友達ならもっとプライベートな話も聞けるわけだし、しらねや創作のネタになるんじゃないの!?

 そりゃあ、私は前世から常日頃推しの部屋の壁や天井になってイチャイチャするしらねやを見たいとは思っていたけど……そうか。それが叶うわけなんだ!

 うん。悪くない。同性カップルに理解のある異性の友達。


「あ、それでね、報告したいことがあって」

「報告?」


 え。待って待って。役者の言う報告って結婚とかそういうのなのでは?

 いや、でも確か推しと雪城さんが結婚するのはまだ先だからお付き合い宣言とか? えっ、いきなりそんな話をしちゃうの?


「新しいパレードのオーディションに受かったから七月にパレードデビューが決まったんだ」

「えっ!? ほんとですか! おめでとうございます!」

「サラマンダーで、なんだけど。ノームは三十歳以上だったから、まだダメだったんだよね」


 あ~~そっかぁ。推しはまだ二十九歳だからノーム役は出来なかったのか……推しのノームが好きなんだけど仕方ない。

 残念ではあるけど、前世より早いパレードデビューなので是非とも拝んでおかなければ。


「寧山さんが出てるパレード見れたらいいなぁ……」

「パークに来る日を教えてくれたらスケジュール合わせるよ」


 いやいやいや。ほんとそこまでしないで、推し。私、そこまで高待遇を受けられない。ほんと、他のファンの子に悪いから!


「いや、それはさすがに……」

「だって絆奈ちゃんがわざわざ遠くから来てくれるのに僕じゃなかったら申し訳ないよ」

「それは運がなかったってことでどうか……」

「絆奈ちゃん。僕達は友達だから遠慮しないで」


 うぅ、推しの笑顔が眩しい! 遠慮って言うか、他の推し追いの子に目をつけられたくないだけなのに!


「や、でも……すみません。いつ行けるかわからないです……お小遣いをやりくりしなきゃいけないので」

「あ、そっか。まだ中学生だもんね。ごめんね、無理に言っちゃって。別に絶対に来てって言ってるわけじゃないからね? 無理はしてほしくないから、もしパークに来るなら教えてほしいだけなんだ」

「ありがとうございます。機会があれば……」


 よし。とりあえず上手くはぐらかせた。推しの言うことは有難いが、私に合わせる必要なんて全くないのだ。

 ……実は、ここだけの話。秋にある修学旅行の行先はエターナルランドなのである。そのときが推しになるように祈りながらパレ待ちしよう。


「絆奈ちゃんって携帯電話は持ってないの?」

「えっ?」

「そしたら連絡先交換出来るでしょ」


 いや! ダメ! そこは踏み込んじゃダメ!! 連絡先を交換するなんて相手が違う! 白樺にして! 私じゃない! なんで早く推しカプは出会ってくれないの!?


「……まだ、持ってなくて……」

「そうなんだ。持てるようになったら教えてね」

「はは……」


 携帯を鞄の中に入れてて良かった……。

 その後はなんてことのない会話をしただけで心臓が締めつけられるようなことはなく終わった。

 ……いや、推しとプライベートランチしてるだけで心臓がギュッてなるんだけどね!?

 ほんと、耐えられないから早く寧山は白樺と出会ってほしい。そうしたら二人でイチャイチャしてくれるので私の心が潤うから……。


 推しカプが出会うまであと……七年。長い。


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