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推しへ、落し物を拾っていただきありがとうございます

 お腹もそろそろ空いてきたため、レストランが一番多いこの城下町エリアでご飯を食べることに。

 少し遅めのお昼ご飯として選んだお店は『ホビットの米々亭』

 和食の美味しさに感動したホビットが自分でも作れるようにと料理を頑張った結果、自らお店を出すまでにレベルが上がった。そんなお店である。

 お昼のピークは過ぎているものの、まだ店内は混雑していた。とりあえず席は確保出来たのであとは注文に向かうことに。

 私が頼んだのはホビットスペシャルメニュー。ドリンクとメイン、デザートが自分でカスタム出来るメニューである。

 ちなみにざるそば、ミニ抹茶パフェを選んだのだけど、他にカツ丼、うどん、寿司、わらび餅、おはぎ、ミニパフェなども選べるのでとても悩ましい。


「うん、美味しい!」

「何だかんだで腹ぺこだったなー」

「水浴びに体力使っちゃったって感じよね」

「そうだな、早いけど一旦ホテルに行くか? 食べ終わったくらいにはチェックイン出来る時間になるし」

「そうねぇ……絆奈どうする? まだ遊び足りないんじゃない?」

「んー……」


 そばを啜りながら考える。確かに少し遊び足りないのはあるけど、暑さと水浴びでの体力消耗は激しい。

 一人だったら自由にまったり過ごしたりはしているんだけど、さすがに両親には楽しく過ごしてもらいたいのでわざわざごねるほどでもないかな。それに将来的には年パス所持者になってもっと遊びに来るしね。


「ホテルに行ってもいいよ。私もちょっと疲れちゃった」

「よし、じゃあ、休憩するか。少し休んでからまた来てもいいしな」

「あ、夜のパレードだけは見たいかな」

「わかったわ。じゃあ、それまでには戻るわよ」


 こうして、昼ご飯を食べ終えた私達は一旦パークを出国することになった。

 エターナルランドを出た目の前にあるオフィシャルホテルへチェックインする。前回も泊まったことパーマネンスホテル。

 オフィシャルホテルで更にパーク目の前という立地の良さなのでそこそこいいお値段ではあるが、そこは普段旅行に行く機会がないお父さんが奮発してくれた。

 パーク内のエターナル城ホテルに比べたら全然リーズナブルではあるし。

 ホテルスタッフさんに案内された部屋には既に預けていた荷物が運ばれており、しかも窓からはエターナルランドが一望出来る場所であった。

 確か前回泊まったときは反対側のホテルの庭園が見える部屋だったのに、これは更に値が張ったのでは……?


「お父さん……この部屋って少し高いところじゃ……」

「久しぶりの旅行なんだ。少しは贅沢したいだろ?」

「子どもが親のお金のことを考える必要ないわよ。お金はぜーんぶお父さんが何とかしてくれるんだし」

「お前は少し手加減してくれよ……お土産購入とか特に」

「お父さん、ありがとう!」


 窓の前に立って、人で賑わうエターナルランドを見下ろす。ずっとここにいられそうだ。

 でも、荷物の整理をしなきゃとずっと共にしていた鞄を下ろす。そこで私は違和感に気づいた。外側のポケットにあるべきものがないということに。

 確か、エターナルランド城へ入国する前に手帳を見たあと、すぐに入場準備が始まったので慌てて乱雑にポケットに入れていたのだが、ポケットが小さかったので手帳がはみ出していたため、あとでしっかり鞄の中に入れようとして……そのまま忘れて……。


(うそっ!?)


 鞄のポケットをしっかり探ってみるが、ない。もしかしたら無意識に鞄の中にしまったのかを確認するも、ない。


「な、ない……」


 私の手帳がない。手帳自体にはちょっとしたスケジュールしか書いてなかったのだけど、問題はパークバイト時代の推しと五歳の私が並んで撮った写真が手帳に挟まっていたこと。

 凄く焦った。大事な推しのバイト中の写真なんだ。レア物なんだ。

 いくら鞄の中をひっくり返しても手帳は出て来ない。これはまずい。


「何がないんだ?」

「私の……手帳……」

「あら、あとでインフォメーションに聞いてみた方がいいわね」

「そう、だね……」


 落し物として届いていればインフォメーションにあるはず。しかし、どこで落としたかによってはもう取り戻すのは絶望的である。

 ウォーターライドのとき落としてしまったらもう湖の中で探すのも困難だ。

 ハラハラしながら休憩をしたあと、もう一度エターナルランドへとインパする。その足で始まりと終わりのマーケットにあるインフォメーションセンターへ向かった。


「すみません、手帳の落し物ありませんでしたか? どこで落としたかわからないんですけど、手帳の色が赤い色で……」

「赤い手帳ですね? 確認して参りますので少々お待ちください」


 そう言って受付のお姉さんが奥の部屋へと入る。

 手帳は届いてるのだろうか。そんな不安を胸に抱えながら待つこと数分。見覚えのある手帳を持ってお姉さんが戻って来た。


「こちらでお間違いはないですか?」

「! はいっ、これです! 私の手帳ですっ」

「良かったです。こちら、精霊サラマンダーのグリーティングにて見つかったそうです」

「そうだったんですね」

「サラマンダーさんが拾われたそうで、傍にいた妖精にすぐにこちらに届けて欲しいと仰ったみたいです」

「あ、そう、なんですね…」


 推しに拾われてたなんてそれはそれで恥ずかしい。一応中身も確認してみるとしっかりと写真も挟まっていたので間違いなく私のものだった。

 あとは必要事項を書類に書いて、インフォメーションをあとにする。お父さんとお母さんには良かったなと言われて、今度はなくさないようにちゃんと鞄の中へとしまった。


 夜のパレードまで時間がまだあるため、城下町エリアにて『フラワースウィング』というぐるぐる宙を回る空中ブランコに乗ることにした。

 花が装飾された一人乗りのブランコ。座る席によって春夏秋冬のどれかをイメージした花があしらわれていて、これらは花の妖精が手がけたとのこと。

 そして風の妖精の力により宙を周るというアトラクションで、日の沈みかけた城下町を眺めるのでなかなかに絶景である。


(やっぱりパークは楽しいなぁ……)


 ゲストはほとんどが笑った顔をして歩いている。キャスト達もゲストを楽しませる努力をして、見えない所で頑張る人達もいるし、そんな中で推しもみんなを笑顔にさせてくれるから素晴らしい仕事だと思う。

 中にはパークで働く役者は最底辺なんて言う人もいるけど、推しが選んだ道だし、私も楽しいし、それで生計が立っているなら何ら問題ないと思う。

 彼らアクターがいなくなればきっとパークの魅力も半減するだろう。


(明日は推しがいるのだろうか……)


 一日会えたら十分なんだけど、欲深い私はまた明日もいたらいいなと考える。

 何故ならば明日は私の誕生日。誕生日に推しと会えたらそれだけで幸せなことだと思う。

 そんなことを考えながら空中ブランコはゆっくり下降していった。


 そして辺りは暗くなった頃、夜のパレードの場所取りに向かう。それでも最前列の座り見はもうほぼ埋まっているので二列目以降での立ち見となるだろう。

 立ち見は最前列を取れたのであとはパレードが始まるのを待つだけ。

 ライトアップしたエターナル城を眺めると、ホテルも兼ねてるお城なので一部の部屋からパレードを見るために覗き込んでいる人達も見えた。うーん、リッチだ。


 暫くすると周りの明かりが落ちて、軽快な音楽と煌びやかな光り輝くフロートがパレードルートのスタート地点である門から出て来た。

 『ギフトオブライトパレード』というのが夜限定のパレードで、光の妖精達がフロートに魔法をかけて、色とりどりで鮮やかな光の演出をする。

 パークのマスコットキャラクターであるケット・シーのケートとクー・シーのクーリュがフロートに乗って、ゲスト達に手を振ったりとおもてなしをしていく。


「綺麗……」


 このパレードはオープンから三十年はずっと続く伝統的なナイトパレード。もちろん、途中でフロートのデザインを変えたりとリニューアルはしていく。

 まだこの頃は比較的初期のデザイン。そのうちLEDライトを使い始めるのでそれもまた楽しみである。

 周りの小さい子は光るグッズを使ってパレードを盛り上げていた。ハンドスティックやランプ、ペンダント、キーホルダー。光るアイテムは色々ある。

 お父さんも私に何か買おうとしていたが、さすがに光る玩具で遊ぶ歳ではないので断った。

 綺麗なパレードに一日を締めくくる音楽。目でも耳でも楽しめる素敵なパレードは終わったあとも暫くは心に残る。


 こうして一日目が終わり、日を跨ぐ前にホテルのベッドで寝入った。


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