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推しへ、前世の親友と出会いました

 月日は流れ、春。長かった小学生生活を終え、中学生へと進級した私は新たなステージに立ったので、少しずつ待ちに待った変化が見られた。

 まずは携帯電話を手にすることが出来たこと。実は昨年の舞台観劇辺りにはもう用意しようかと言っていたんだけど、私はさすがに断り、中学生になってからでいいよと言ったため、中学生になったと同時に所持することになった。

 しかし、懐かしい。この厚みのあるボディとアンテナ、そして折りたたみ式。いわゆる、ガラケーである。

 欲しいのはスマホなんだけど、時代が時代なので仕方ない。確かこの頃は写メとか着メロとか流行っていたんだっけ。

 早くスマホで何でも出来る時代に追いついてもらいたい。とりあえずネット関連はまだこれで使ってはいけないな……パケ死しちゃう。もう少し、携帯が進化して定額制が当たり前になってからかな。

 当分はメールや電話のやり取りだけでしか使わないだろう。


 次に家にパソコンがやって来た。お父さんの仕事用ではあるが、父がいないときは使ってもいいと許可が得たので、これからはネット情報は家のパソコンを使うことにした。

 二十代過ぎには自分の部屋にパソコンとペンタブのある生活をしていたからまだまだ不便ではあるけど、早くそんな生活をしたいものである。


 そして中学生になったということで二度目の制服を腕に通した。久しぶりに見るけど新品の匂いがするブレザー制服。うん、悪くない。前世ではまだまだぽちゃっとしていたから今のスタイルだと新鮮である。

 いや、しかし、本当に甘い物をよく我慢していたと思う。基本的に推しへの貯金のために自分のお金でスイーツを買うことはなかったけど、父の手土産が大変であった。

 あるときはケーキ、あるときはドーナツ、あるときは庵主堂の和菓子……。前世では毎日のように買って帰って来るので、現世では週に一回にしてと何度伝えても週に二、三回は買って帰る困った父だ。

 注意する度に「娘が美味しそうに食べている顔が見たい」と言うのだから悪気はないのだけど、悪意がないなら余計にタチが悪い。

 それでも今はギリギリ週に二回は抑えてはくれているんだけど、本当に常に欲との戦いである。


 あとは推しに関することと言えば……昨年の十月にまた手紙が届いたんだよね。今度は何っ!? と焦って中身を確認したら……パークでアクターをすることが決まったという報告だった。

 だから! ファンに仕事内容を話しちゃ駄目なんだって! こういうのは守秘義務があるでしょ!

 しかもご丁寧に『もし、パークに来る日があれば教えてね』とか書いてるし……ほんと頼むからファンとの距離考えてよ、推し……。


 そんなこんなで無事に中学校生活がスタートした私はすぐに部活は美術部、委員会はいつも通りの図書委員会に所属した。もちろん水泥くんも同じである。因みに今回もクラスは一緒。

 あと一緒に登校することが多くなった。どうやらお互い家に出る時間が変わらない限り途中で合流することが多くなったため。


「おはよう、水泥くん」

「おはよう、橋本さん」


 そんな水泥くんと言えば成長期が一気に来たのか、とうとう私との身長差が大きく開いてしまった。大きくなったなぁ……。


「は、橋本さん? そんなにジロジロ見てどうしたの?」

「あ、いや、大きくなったなぁって……」

「そう、だね。……その、そんなに見られると恥ずかしいよ」

「えっ? 見てるだけなのに?」

「そうなんだけど……その、角度というか見上げてるのが……」

「?」


 水泥くんはまだまだシャイな所が抜けきれない様子。そろそろ同性の友達も出来るようにならないと大変だよ。

 中学生と言えどもまだまだ子どもだし、男女が二人並ぶとまた小学校の頃と同じくからかわれるかもしれない。

 そう。友達と言えば本日は私の人生に関わる一大イベントが控えている。


「今日から部活だね。楽しみだなー」

「あ、そうだね。でも、僕、いまいち何をするかよくわかってないんだよね。部活見学せずに決めたから」

「まぁ、絵を描いたり、イベント行事があったらポスター制作したり、あとは紙粘土とかでキーホルダーとか作品作ったり、自由なんだって」

「詳しいんだね」

「あはは、先生に聞いたの」


 さすがに前世で体験しましたよ、なんて言えないからね。

 そんな一大イベントである部活始めは本日の放課後から行われる。

 そして私の親友であるニーナこと佐々木 新奈(ささき にいな)との初めての出会いがあるのだ。彼女は美術部で出会う同じクラスの同級生。一人で美術部にいた私に声をかけてくれて少しずつ仲良くなったのだ。

 そんな彼女とは漫画の話で盛り上がり、一緒に漫画を買いに行ったある日のこと、私達は初めてアンソロジーというものを手にして、腐女子という沼に落ちてしまう。

 なかなか好きカプが被らないし、あるときは逆カプにハマって言い合いなんてしたりしたけど、歳が重なるとなかなか遊ぶ機会や会う機会が減るものの、近状を話し合うことはよくしていた。大人になってもずっと変わらず友人関係を続けてくれた子だ。


「今日はね、新しく友達が出来そうな気がするんだよね」

「えっ……」

「え?」

「橋本さん、ずっと僕以外の同年代の友達は作るつもりはないって言ってたよね?」


 ……言ってましたね、確かに。だって、友達を作ると娯楽費がかかっちゃうし、話す内容とか遊ぶセンスとか合わないんだよ。


「あ~……ほら、もう小学校のときに比べたら少しは大人っぽい思考に変わりつつあるから話が合う人いるんじゃないかなぁって。別に沢山作るとかじゃないよ。さすがに煩わしいって言うか」

「橋本さんらしいね」

「あはは……」 


 そんなことを話しながら学校へ向かい、時間は流れて部活の時間。水泥くんと共に美術室へと向かうと、好きな席に座るように言われて、適当な席を選ぶ。

 最初の部活ということもあり、部活内容の説明などを受けて、実際に活動を開始するのは翌日から。そのため本日はすぐに解散となるんだけど、確か帰宅しようとしたところでニーナに話しかけられる。


(さぁ、いつでも来い!)


 少し離れた席でニーナを眺めていると、彼女は席を立ち、こちらへと向かって来る……と、思いきやそのまま教室から出て行った。


「あ、あれ?」

「どうしたの、橋本さん? 帰らないの?」

「あ、うん。帰ろっか」


 ん? 今日話しかけられると思ってたんだけど、勘違いだった? 明日だった?

 覚え間違いだったのかと残念に思いながらその日はすぐに帰宅した。


 翌日。今日は絶対に話しかけられるだろうとスケッチブックを持って、ワクワクしながら美術室に向かう。

 顧問の先生が用意してくれた校内写真を水泥くんと共に模写をしながら今か今かと待っているのだが、ニーナは一人で黙々とイラストを描いているようだった。

 結局、その日も彼女は私に話しかけることはなかった。

 もちろん、次の日も。その次の日も。


「う~~ん……」

「橋本さん、何かあった?」


 下校中に腕を組みながら唸り声を上げていると、水泥くんに心配されてしまった。


「いや、何もなかったって言うか……」

「?」

「あのね、気になる子がいるの」

「……えっ!? 気になる、子!?」

「そうなの。同じクラスの美術部になんだけど」

「同じクラスで美術部……そんな、まさか、好きな人……」


 ぶつぶつ呟く水泥くんの口から好きな人って言葉が聞こえた気がする。まずい、勘違いされてしまう。


「いやいや! そんな恋愛感情的な人じゃないよ! 女子だよ、女子!」

「あ……なんだ。そっか」


 安心されてしまった。私に好きな人が出来るのは困るのだろうか。リア充爆発しろ的な子だとは思わないけど、腹の中でそう思われちゃうのかな……。


「水泥くん、人を妬んではいけないよ?」

「えっ、ちがっ……いや、そうなのかな……」


 無意識だったのか。でも、根っから人を憎むような子ではないから一度言えばわかってくれるだろう。


(私に好きな人が出来るだけで水泥くんに憎まれたくはないしなぁ)

(橋本さんの気になる人なんて役者さん以外に増えたらライバルも増えて大変だよ……)


「えっと、その気になる女子って言うのは?」

「名前が佐々木 新奈って言うんだけど、いつも一人でいるみたいで……」

「あぁ、佐々木さん……確かに誰かといる姿は見かけないね。そんなに気になるなら一度話しかけてみたらいいんじゃないかな」

「だ、大丈夫かな? 変な人と思われない?」

「……僕と一緒にいる時点で橋本さんは十分に変わり者だよ」

「何言ってるの~。水泥くんはすっごくいい子だよ? 自分を卑下しちゃいけないよ」

「ほら、それ。橋本さんはそうやって優しいからきっと佐々木さんも受け入れてくれるよ」


 どっちが優しいんだか。でも、ちょっと勇気を貰ったので明日は私から行動してみよう。なんで現世ではニーナは話しかけてくれなかったのかは気になるけど……。


『橋本さん、だよね? 私同じクラスの佐々木って言うんやけど……一人やんね? 私も一人やから隣に座ってもえぇかな?』


 唐突に声をかけてくれた当時のことを思い出す。確か、そんな感じのことを言っていた。そして理解したのだ。

 今の私は一人じゃないからニーナは話しかけられなかったのだと。いや、話しかける人がいなかったんだ。


(まさか、水泥くんがいるから私に声をかけなかったなんて……)


 はたして、私はニーナと腐女子友達になれるのだろうか。私は何とか彼女と繋がりを持ちたかった。


 翌日の部活動時間。意を決した私は美術室に向かうと既に一人で絵を描くニーナがいた。……本当に学生時代のニーナがいる。いや、今更だけど。

 前世で死んだからきっとニーナの耳にもそのうち届いてたのだろう。少しは悲しんでくれていたに違いないけど、もっと沢山話をすれば良かったなんて思ってしまった。

 いやいや、前世よりも今だ。とにかく私はニーナとお友達にならないと!


「ニー……じゃなくて、佐々木さん! 一緒の席に座ってもいいかなっ?」

「え? あ、うん……」

「ありがとうっ」

「いきなりでごめんね、佐々木さん」

「う、うん」


 うぅ、めちゃくちゃ戸惑ってる。大丈夫か? 大丈夫なのかこれ!?


「えっと、私は橋本で、この子が水泥くん」

「あ、同じクラスやんね? 知っとるよ」

(よしっ!)

(小さくガッツポーズしてる……)

「いやー、同じクラスだし部活も一緒だから話してみたくて」

「そうなん……?」

「うん! いつも何描いてるのかなーって気になってて」

「あー……私は漫画のキャラクターを描いてるだけなんやけどね」

「そうなんだ? 見てもいい?」

「はい」


 スケッチブックを捲って差し出したイラストを見ていく。そうそう、ニーナは好きなキャラを沢山描いてたんだよね。

 それで同じ高校のときにニーナから同人誌の作り方を教えてもらったんだよなぁ……懐かしい。ニーナあっての私なんだよ。


「佐々木さん上手だねー!」

「本当だ。凄いね」

「ねぇねぇ、全部漫画のキャラ?」

「うん。私、漫画好きなんよ。橋本さん達は漫画見る人?」

「僕は少しだけ、かな」

「あー……私は図書室の本を読むくらいで漫画は全然見てないんだけど、気にはなるんだよね。何かオススメとかある?」

「あ、それなら『天上生活の日々』かな。死んだ人が天上で暮らす話」


 知ってますとも。ニーナの好きな漫画だよね。まだ数巻くらいしか出てないけど、後々凄い人気作になるやつ。私はあとから出てくるおじさんキャラが好きなんだけどね。


「へー。今度見てみようかな」

「それやったらね、私が貸すよ。オススメやし早く見てほしいんよ」

「本当っ? いきなり借りて大丈夫? いや、もちろん大事に扱うけど!」

「もちろん、そう信じてるからそうするんよ」

「わぁ、嬉しいー! じゃあ、お願いしようかな」

「うん、是非是非。そんで良かったら水泥くんにそのまま貸したって」

「あ。僕、実はそれ持ってるんだ」

「え? そうなん?」

「うん。絵が綺麗だし、ストーリーも面白くて」

「ほんまー? 全然見てる人いないから知ってる人初めてなんよ」


 お? おぉ? 意外な繋がりが出来た感じ? そうだよね、水泥くんだって漫画くらいは読むよなぁ。前に部屋に上がらせてもらったときに本棚にいくつかあるのを見たことあるし。


「んー。貸してくれるなら佐々木さんに何かお礼したいなぁ……」

「えっ? えぇよ。そんなの。見てくれて感想とか教えてくれたらえぇんやし」

「うーん。でもそれじゃあ、私の気がすまないし。佐々木さんの好きなキャラの資料とかあれば絵を描いてみるけど……私の絵で良ければ、だけど」

「ほ、ほんまっ!?」

「もちろん!」


 ニーナなら食いついてくれると思ってたよ。いつもお互いの推しキャラを描きあった仲だもん。それにまだ知名度が低い天上生活の日々、略して天日々のイラストを拝めることも少ないはず。


「えっと、そんじゃあ……この子、この子いける?」


 スケッチブックを捲って見せた数枚ほどある天日々での彼女の推しキャラ絵。見なくても描けるほど沢山描いたので問題はない。


「任せて!」


 そして、ニーナのスケッチブックを見るフリをしながらも彼女の推しキャラである拓真のイラストを描き上げた。


「うっそ! 公式見てへんにも関わらずこの完成度! やっばい! めっちゃ神!!」

「凄い、橋本さんの漫画キャラのイラスト初めて見たよ」

「いやぁ、それほどでも。こんな感じでよろしければお納めください」

「……ほんまにえぇのん? めっちゃ嬉しいわ……」

「お礼だから」

「大事にします!」


 うん、この反応だよ。ニーナらしい。早く気兼ねなく何でも話せる親友になりたいなぁ。


 とりあえず、ニーナとの繋がりを何とか結ぶことが出来たんだけど、問題はいつ彼女と腐女子としての会話が出来るか。……近くに水泥くんがいるからなぁ。さすがに男子の前で腐話は出来ない……ううむ。


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