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推しへ、現実を受け入れました

 状況を整理しよう。結論から言えば私はどうやら過去に戻ったらしい。それも自分の生まれた日に。もちろん、理由は分からない。私の記憶では確かトラックに跳ねられたのが最後だったはず。

 意識が遠退いて、次に目覚めたら赤ちゃんに戻ってるなんてことがあるのだろうか? いや、ないに決まっている。


 何故かはわからないまま、あれから一週間が経った。そもそも生まれたばかりで体力もない赤子の私は一日の大半を寝たり、食事をしたり、泣いてみたりとしてるので案外一日が早い。

 最初は混乱していたうえに、上手く言葉にならないこともあって、苛立ちや不安から泣き叫んでみたが、母である橋本 瑞希(みずき)にあやされると不思議と落ち着いた。やはり私のお母さんだからなのかもしれない。

 家も長年住んでいる私の家だし、母も父も生きていたときと同じように優しく愛情を持って接してくれる。


 どうして赤ちゃんに戻ったのかはわからないけど、知っている人が近くにいるだけで安心感が違う。

 日が経つにつれて、私はタイムリープした現実を受け入れつつあった。

 そして、心の余裕が出来た私は若くして死んだ後悔よりも時間が戻ったのなら推しのデビュー時を拝見することが出来るのでは? と前向きな思考に変わりつつあった。

 正直、生きていたあの時代をもっと楽しみたかったが、今は0歳児の赤子という事実。しかも、記憶はあるという私にとっては強くてニューゲームなのである。

 こうなったら二度目の橋本 絆奈は推しに全人生を捧げて、こんなファンを持って幸せだと思われるような、そして今度こそ推しを幸せに出来る良きファンになろう。


 こうして二度目の橋本 絆奈の人生を謳歌することに決めた。


 まず、寧山は役者として活動する前はテーマパークでアルバイトをしていた。それが十九歳から二十四歳まで。二十二歳頃に役者としての夢を抱き、二十五歳に初舞台に上がる。

 最初の目標は寧山のデビューを観ることだ。そして、出来ればテーマパークであるエターナルランドでバイトしている姿の推しを拝みたい。

 そのため、今はただ成長するのを待つしかないのだが、出来ることはやっておかねば。


 あ、夜泣きはしないようにしよう。母の負担も減るだろうし、昼の活動時間で泣くのがいい。

 そしてエターナルランドのCMや雑誌の特集として数ページ載っているのを見つけたら強く反応しよう。そうすれば両親は私がエターナルランドに興味があると思ってくれる。


 それから五年後━━。

 五歳になった私は親の手を煩わせないように良い子に育ちながらも「エターナルランドにいってみたい!」とアピールをするようになった。

 その甲斐あってか、両親と一泊二日のエターナルランドに連れて行ってもらえることが決まる。

 前世……と、言っていいのかわからないが、死んだ世界での私の時間を含めても、両親と共にエターナルランドへ行くのは初めてのことだった。


 そして旅行当日。二月だったこともあり、しっかりとモコモコのコートを着せられ、厚着した私は両親に挟まれながら和歌山から飛び出し、首都にある最も人気のテーマパークへと向かう。


「良かったわ。絆奈、飛行機は初めてだから泣いたりしないかなって心配だったけど、大人しく外の景色を見てるわね」

「生まれたときから思っていたが、絆奈は聞き分けの出来るしっかりした子だからな」


 新幹線でも行けるのに、わざわざ初めての飛行機を体験させたいという理由で、往復飛行機での空の旅を選んでくれた。

 子どもらしく窓に張り付きながら外を眺めていると、両親がエターナルランド公式ブックという情報が詰まった本を読み始めた。

 文字が読めるのは有難いがあからさまに読めるような態度を示してはならない。ちゃんと普通の子どもにならなければ。


「パパーママー。なによんでるのー?」

「エターナルランドの本よ」

「エターナルランドのー!? きずなも見たい!」

「おっ。食いついてきたな。絆奈は何が乗りたいんだー?」


 父の橋本 尚人(なおひと)が母と共に見ていた本を私に見せる。

 文字を読めない振りをしながら写真だけで選ぶことにしよう。


「んー……んー……これっ!」


 手のひらでぺちぺちと叩いた場所はパレードの写真。アトラクションはもっと先になっても乗れるし、そもそも今の身長では乗れないのもあるし、それならば未来には絶対見ることの叶わないパレードを見る方が絶対良い。

 このパレードは二年後には新しい内容に変わるので見るなら今しかない。

 しかし、選んだものがアトラクションではないため、両親は不思議そうに首を傾げていた。


「絆奈、これは乗り物じゃないわよ? ショーを見るもので時間まで大人しく待たなきゃいけないのよ」

「コーヒーカップとか、お馬さんでぐるぐる回るやつもあるぞ?」

「うん! きずな、これみる! およーふくキラキラしてきれい!」


 子どもらしい理由を述べてショーを見たいことを告げると、両親は珍しい子だなぁと笑った。

 小さい子でもショーは見るだろうに。そんなに珍しいとも思えないのだが。


 そうこうしている内に東京へと着陸し、親に手を引かれながら歩く空港はとても大きく見えた。……私が小さいからなのだけど。

 荷物を受け取り、ホテルに届けてもらうように手配をしてもらうと、バスに乗って揺られること一時間。二度目の人生初のエターナルランドへと到着した。



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