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推しへ、弟のような友達がいい子に成長中です

「……」


 推しの初舞台を終えて、ゴールデンウィークも終わり、再び日常が戻った。

 しかし、あまりにも推しの供給が足りなくて、学校に行っても上の空である。

 それもそのはず。前世では全通していたのだからたった一回の公演では満足出来るわけがない。

 そりゃあ、私だってせめて二回、いや三回くらいは観たかった。でも、圧倒的に金銭と年齢が足りない!


 まず、今年の公演で二回も三回も通ったとしよう。そうするとお小遣い貯金が足りなくなり、来年の公演が行けなくなる可能性だってあるのだから。

 あと、回数を重ねるとしたら日帰りは出来ないので泊まりになる。しかし、小学生の身分でホテルで宿泊なんて出来るわけない。

 前々からこの問題をどうにかしたかったのだが、結局金銭面のことも考えてこれらは諦めるしかなかった。全ては次の推しの活躍をこの目で見るため。


「はぁ……」


 あぁ、溜め息が止まらない。次の公演は来年……一年が長い。長すぎる。


「橋本さん……?」


 そうだ。舞台の感想のお手紙も書かなきゃ。記憶が残ってるうちに。早速帰ってから準備しよう。

 あぁ~それにしてもせっかく推しと面会したのに写真撮ってない。

 いつもスマホで撮ってるからその感覚でいたため、携帯すら持っていないのにインスタントカメラのことを忘れてしまうなんて……。

 忘れ物がないか確認したのにこれだ。おかげで写真を収めることも出来なかったのが痛い。


「あの、橋本さんっ」

「……ん?」

「次、委員会だよ。そろそろ図書室に行かなきゃ……」


 水泥くんに声をかけられてハッとする。いつの間にか委員会が始まる時間まで迫っていたから、私は急いで水泥くんと共に図書室へと向かった。


 実は五年生に進級してからクラス替えがあり、再び水泥くんと同じクラスになったのだけど、前世では違っていた。

 五年のとき、彼とは別のクラスだったのを覚えている。恐らく、教師達が友達の少ない私達にいつも二人一緒なのを見て、あえて同じクラスにしたのかもしれない。

 まぁ、嫌ではないし、もはや水泥くんは弟みたいなものなので虐められなければそれでいい。

 ゴミくんこと、芥田くんとは別のクラスになったから卒業まで穏やかな学校生活を過ごせるだろう。

 クラブ活動も水泥くん共にパソコンクラブ継続で、あとは五年生から始まる委員会活動はやはりというか、図書委員に入った。もちろん、水泥くんもである。


 委員会に参加しながらも頭の中は推しのことでいっぱいになりながら、その日の会合は終わった。

 そして下校する時間となり、さっさと帰ろうとした私の前に水泥くんが立ち塞がる。


「水泥くん?」

「あの、橋本さん……一緒に帰っていい?」


 まさか一緒に下校しようと誘われるとは思ってもみなかった。

 いや、むしろ今までなかった方が不思議なのかもしれない。まぁ、いつも私がすぐに帰ってしまうからというのもあるけど。一応、私達の関係は友達なんだし。……ただし、一度も遊んだことはないが。


「いいよ。途中まで一緒だしね」


 断る理由もないので承知すると水泥くんは私の隣に立って二人並んで帰ることに。


「……」

「……」


 しかし、二人の間に会話はない。基本用もなければ私から話しかけることもないし、水泥くんは元々お喋りでもないのでよくあることではあったけど、それでも最近は話してる方なので何だか妙だ。


 そろそろ分かれ道に入る。私の家と水泥くんの家は違う道なので、このまま何も話さずに別れるのだろうかと思ったら急に水泥くんの足が止まった。


「水泥くん?」

「ぁ……」


 どうも様子がおかしい。もしかして何かあったのだろうか。


「水泥くんどうしたの? 何か悩みでもある? またゴミくんに何かされた?」


 もしゴミくんのせいだったらとっちめてやらねば。そう思って尋ねたのだけど、水泥くんは首を横に振る。


「違うよ……橋本さんが……」

「えっ、私!?」


 私何もしてませんよ!? 何か気に障ることした!?

 まさかの名指しに思わず慌てふためく。


「最近、元気なさそうで……溜め息ばかりだから……。だから何か悩みがあるなら、僕で良かったら聞くから……」


 なんと。なんと、なんと! もしかして私が何か悩みがあると思って心配してくれてるの?

 あんなに自分で守ることに一杯一杯だった水泥くんが! 私に気遣って!? 凄い成長を垣間見た!!

 あまりにも嬉しかったので水泥くんの頭を撫でてやる。


「は、橋本さんっ?」

「私は大丈夫だよ。悩みごとっていうか、ただの推しロスって言うか……」

「ロス……?」

「あ、えーと、この前応援してる人の舞台を観に行ったんだけど、終わっちゃって寂しいなぁって思ってただけだから気にしないで。元気がないとかじゃないからね?」

「そうなの?」

「そうそう。心配してくれてありがとうね。水泥くん優しいな~」


 心配をかけさせてしまったのは申し訳ない。精神年齢が大人なのに子どもに気を遣わせてしまった。反省反省。


「……友達、だから……」


 ぽつりと呟くその言葉に本当にこの子はいい子なんだと再認識する。


「そっか! うん、友達だもんね! 水泥くんも何かあったり悩みがあれば私を頼ってね。絶対だよ!」

「うん」


 こくんと頷く少年を見て、この調子でいい成長を見届けたらいいなと思うも、確か水泥くんとは中学は別々になるはずなので、まだ一年以上あるというのに少しだけ寂しさが芽生えてしまった。


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