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推しへ、推し聖地巡礼をしました

 電話で公演の予約をし、郵送されたチケットを大事にしながらも、私はようやく五年生へと進級した。

 そして五月五日の土曜日。運命の日が訪れた。


 二度目の橋本 絆奈としては初めての遠征である。


 既に新幹線の切符も用意したし、チケットもしっかり鞄の中に入れたし、手紙も書いて差し入れと共に入れてるし、お金もしっかり入っている。準備万端だ。

 予め新幹線の切符を一人で買ってたんだけど、さすがに両親には驚かれてしまった。

 お父さんに至っては新幹線代からチケット代まで出そうとしていたみたいだから丁重に断ったんだけど、本当に甘やかしすぎる。

 推しへの課金はちゃんと自分のお金で使いたいのに。

 そんなことがありつつ、いよいよ東京へと向かうため朝早く起き、母に見送られながら家を出た。

 和歌山から一度大阪へ、新大阪駅から東京駅へ、これが大体のプラン。いつも思うのだが、移動時間だけで片道五時間は超えるため、なかなかの長旅なのである。


(前世から考えると十年ぶりの遠征かぁ)


 初めての推しの公演はどんなものになるのかなと楽しみにしながら電車に乗り、新幹線に乗り、東京へと向かう。

 ゴールデンウィーク真っ只中。車内でも人が多かったが、東京駅に降りると更に人が多く、よく見ている光景だというのに、まだ身長が子どもの私にとっては圧倒されてしまう。


「……よしっ! 会場に向かうぞ」


 電車を乗り換えようと駅構内を歩きながら、途中でエターナルランドに行くであろう親子連れを何度も見かけた。

 マスコットキャラクターのカチューシャやぬいぐるみを抱えているから間違いないだろう。

 私もまた行きたいなぁ。次に行けるのは推しがパークデビューしてからかな。

 何だかんだ推しのおかげでパークオタクにもなりつつあるから普通に遊びたいし。


 エターナルランドに向かう人を目にする度に何だかこっちまでワクワクしてしまう。

 でも、今日は推しの初舞台だ。推しの活躍をこの目に収めなければ。


 都内某所。会場最寄りの駅に到着したのは十一時頃。

 公演は十三時からで三十分前から開場するため若干時間がある。

 それにお昼時なのでご飯も食べたい。ならば、私がするべきことは一つ。

 前世で推しが訪れたことのあるお店でご飯を食べる推し聖地巡礼!

 まぁ、つまりは前世で推しが訪れていたお店に行くということ。

 前世ではよくSNSでランチやスイーツを食べた写真を上げていたから、遠征の度に行ける所は行ってたんだよね。

 今はまだブログやSNSをやっていない推しだけど、推しのお気に入りのお店や行きつけのお店は何となく覚えている。

 今回向かうお店は劇団の公演が行う度に一度は必ず行くという昔ながらの喫茶店。

 推し曰く、劇団に入って初めての公演期間に訪れた喫茶店の中で一番美味しかったとのこと。

 駅と会場の丁度間にあるレトロなお店であり、前世では一度だけ訪れたことがある。


 店のドアを開けるとカランカランと扉にかけられていたベルが鳴る。

 子ども一人なのがやはり珍しいのか、お店の人は少し困惑の色を見せるものの、私が「一人ですけど、空いてますか?」と尋ねれば、接客モードになったのか「空いてますよ」と笑顔で対応してくれた。

 店内は程よくお客さんがいるみたいだけど、満席ではない。良かった良かった。

 夫婦で営んでいるらしく、奥さんに案内されて席に座ると、メニューを手に取って目当てのものがあるのかを確認する。えーと、どこかな……あ。あった!


「すみません。ナポリタンとウーロン茶ください」


 メニューを確認した私はすぐさま店員の奥さんに注文する。

 そう。ここのお店のナポリタンこそが推しの食べていたものだ。まぁ、他にも食べているんだけどね。

 前世で来たときは卵サンドイッチのセットを食べたなぁ。懐かしい。あれも美味しかったんだけど、朝ご飯向けなんだよね。


 注文して暫く待てば、出来たてのナポリタンとウーロン茶を一緒に持って来てくれた。

 玉ねぎ、ピーマン、ウインナーの具材と、スパゲッティにトマトケチャップが絡んだ品は鼻に届くくらいに美味しそうな匂いを纏わせている。

 朝が早くてお腹もペコペコだったため、小さく手を合わせていただきますと呟き、フォークを使って子どもらしく大きな一口を頬張った。


(美味しいっ!)


 そのまま勢いで食べ進めていくと、途中で粉チーズがあることを思い出し、粉チーズも振りかけて食べてみた。もちろん、不味いわけがない。


(さすが推しがよく行くお店だ……)


 もぐもぐ食べながら美味しさに感動を覚えていると、後ろの席のお客さんが動いたのか、席を立つ気配を感じる。

 その人が私の席を通り過ぎようとした瞬間をちらりと横目で見てみれば、まさかの推しがそこにいた。


「!?」


 思わず吹き出しそうになったが、慌てて飲み込み、ウーロン茶で流し込む。


「ご馳走様でした。また来ます」

「はい、ありがとうございましたー」


 よく似た別人かとも思ったが、声を聞いて確信する。あれは推しだ。

 何が起こったのかわからないまま、推しの姿をガン見するが、そのまま彼は会計をして店を出て行く。たった数十秒の出来事のことだ。


「……」


 び、びっくりした~~!! 何故推しがここに? いや、行きつけになるであろうお店だからいても不思議ではないんだけど。まさか、今日! この時間にいるなんて! てっきりもう会場にいるのかと思ったのに! 初舞台日に推しとエンカ(エンカウント)するなんて!


(そういえば、推しは香水付けてたけど今はまだ付けてないっぽいなぁ)


 推しが香水を付けているのは前世の面会のときに知った。爽やかな香りだったのが印象深くて、同じのが欲しいと思ったけど、さすがに聞けずにそのまま終わった思い出だ。

 でも、さっき横を通り過ぎたときには何も感じなかったので、まだフレグランスとかには手を出していない頃なのだろう。


(エンカって都市伝説だと思ってた……)


 たまに推しの追いから聞く、推しのエンカウント。そんなのあるわけないじゃんなんて思っていたけど、実際にあったんだな……。

 未だに混乱しつつも舞台の時間が迫っていたため、急いで残りのナポリタンを口に入れた。


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