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推しへ、この眺め最高です

 推しの後輩三人組が「見せたいものって……」「まさか指輪……」「恋人の過程をすっ飛ばして……」と、ひそひそするものだから、さすがにそれはないから落ち着いてと声を上げた。

 朝食ブッフェの撮影は終わったし、エキストラとしての役割をいつの間にか終えたのであとは時間までたっぷり朝食ブッフェを楽しむだけのつもりが、なぜ推しとの関係をひそひそされるようなことになったのか。

 というか、推しには好きな人がいるんだけどな……さすがに本人の許可なくそれを言うのはまずいだろうと思い黙っておいた。


 ブッフェ時間終了まで後輩三人組と歓談し、レストランを退店した直後彼らとは別れた。

 さて、推しから連絡が来るまでホテルのロビーでボーッとするべきか。なんだかんだブッフェで沢山食べたし、胃を休めなければ。デザートまで美味しくいただいちゃったからなぁ。久々に食べ過ぎたね。

 ふわふわのリコッタチーズのパンケーキがまた美味しかったんだもん。朝からあれはリッチが過ぎる。おかわりしちゃうよね。

 あれだけ凄いならランチもディナーも絶対美味しいんだろうなぁ。本当に美味いと言われるだけあった……アトランティス最高……。


「ふぅ……」


 ロビーの空いてるソファーへ腰を下ろし、少し休憩。時間は九時前。エターナルランドがオープンしてそろそろ一時間経つくらいだ。

 フロントはチェックアウトする人達が多くて、宿泊予約が取れた勝ち組だったのかと思うとさぞかし大変だったんだろうなと感慨深くなってしまう。


「あら、絆奈ちゃん。ここにいたのね」

「雪城さんっ」


 ぼけーっと人間観察をしていたら、突然現れた雪城さんに顔を覗き込まれてしまいちょっと驚いてしまう。


「ちょうど連絡しようと思ってたのよ」

「あ、撮影終わったんですか? お疲れ様です」

「私の撮影はね。寧山さんはもう少しで終わると思うわ」


 隣いいかしら? と確認する雪城さんにどうぞどうぞと端までしっかり寄れば、少し密着するけど二人が座るには問題ない。

 私の隣に座る雪城さんからは素敵な大人の女性と思わせられるようないい香りがする。近くで見れば見るほどスペックの高い美人さんだし、なぜこの人と私はこんなに近しい関係なのかわからなくなるほど。


「私ね、ずっと思ってたんだけど」

「?」

「きずな、って名前ずっと素敵だと思ってたのよ」

「えっ?」

「ほら、縁を繋いでくれそうで素敵でしょ? なんだか懐かしい感じもするんだけど言葉の響きも好きなのよね。だから私も子どもが出来たら、きずなって名付けたいなって」

「そう言われるとなんだか照れちゃいますけど、いいと思います」


 前の人生だと雪城さんはすでに子どもを産んでいたけど、推しとの子ではない疑惑があったもんなぁ。推しとの子なのか、違う相手との子なのかは私にはわからない。

 けど、今の雪城さんにはちゃんと好きな相手との子どもが出来るといいな。……推しとの結婚が一番だと思うんだけどなぁ。


「ふふっ。絆奈ちゃんから許可も貰ったし、いつか名前をつけさせてもらうわね」


 男の子でも同じ名前にするのかな……? まぁ、漢字を変えたらまだいそうだよね。きずなくんって響きも悪くない。


「そういえば撮影はどうでしたか? 客室とかも撮りました?」

「えぇ、お部屋もさっき撮ってきたわ。すっごいいい部屋だったわよ。バルコニーから眺めるエターナルランドが凄かったもの」

「わー! いいですねっ! 絶対テンション上がると思います!」


 そうだろうなそうだろうなー! バルコニーからパークを一望出来るのは最高なんだろうなー!

 まずホテルがパークの中ってだけで、心が擽られるのにそのパークの中で寝泊まり出来て、さらに最高の眺めまで見ることが出来るんだからパークオタの憧れが詰まってる!


「絆奈ちゃんもそのうち見ることが出来るわよ」

「……そうですかねぇ。まずは予約戦争に勝たなきゃですし」

「大丈夫大丈夫」


 あまりにも簡単に言うのだから雪城さんはエターナル城ホテルの予約戦争がどれだけ凄まじいか知らないんだ……。

 すると推しからスマホにメッセージが届く。『今終わったよ。絆奈ちゃんはどこにいるの?』と。雪城さんもそのメッセージを見ると、スッと立ち上がった。


「寧山さんも終わったことだし、私もこのあと別の現場があるから絆奈ちゃんとはここでお別れね」

「えっ? そうなんですか? てっきり雪城さんもご一緒なのかと……」


 ……つまり推しと二人になるというわけか。天月さんの件もあったし、正直なところ二人になるのは避けたかったのに。


「ごめんね、またお茶とかしましょうね。それじゃあ、ごゆっくり~」

「あ、はい。お疲れ様です」


 手を振る雪城さんに私も同じように振り返すと彼女は帰ってしまった。残された私は少し躊躇いながらも、推しにロビーにいることを伝える。

 そういえば見せたいものってなんだろう。そんなことを考えていたら、十分もしないうちに推しはロビーへとやって来た。


「絆奈ちゃん、ごめんね。待たせちゃって」

「いいえ、寧山さんもお疲れ様でした」

「ありがとう。それじゃあ、約束してた見せたいものの場所に案内するよ」

「よろしくお願いします」


 そう言うと推しは私を連れてエレベーターに乗り込んだ。見せたいものとはこのホテルのどこかなのだろう。

 エレベーターの内装も広くて洒落ているので上から下まで見回してしまう。そんな様子を推しに見られてしまい、くすりと笑われた。恥ずかしい、死にたい、いや死にたくない。

 チンッ、とエレベーターは目的の階へ到着したので降りると、その階はどう見ても客室フロアだった。


「? 寧山さん、どちらへ向かうんですか?」

「さっき撮影で使用した部屋だよ」

「……えっ!?」


 それってさっき雪城さんが言っていた客室撮影してたっていう……!?

 推しはカードタイプのルームキーを使い、とある一室の扉を開けた。


「はい、どうぞ。入っていいよ」

「えっ、あ、お邪魔します……」


 まさか、まさか、エターナル城ホテルの客室に足を踏み入れることが出来るなんて!

 恐る恐る中に入ると、高級感溢れる内装にシックな家具もあり、スイートルームなのかと錯覚してしまうが、広さ的には恐らくこのホテルでは普通のツインのお部屋なのだろう。恍惚とした溜め息が漏れてしまう。


「……凄い」

「でしょ? それで絆奈ちゃんに一番見せたかったのはこれだよ」


 ホテルのスタッフの如く案内をする推しはバルコニーへのドアを開ける。

 もしかしてそこから見えるのは……! と、逸る気持ちを抑えながらバルコニーへ出ると、目の前にはエターナルランドの全体が見渡せる景色が広がる。


「わぁっ……凄い、凄い景色ですねっ」

「うん、そうだよね。この景色はなかなか見られないよ」


 雪城さんが絶賛していた景色……ハッ! そういえばそのうち見ることが出来ると言っていた彼女の言葉はもしかしてこういうことだったのか。二人して私を驚かせようとしたんだ! な、なんて贅沢な……!


「あの、撮影に使った部屋とはいえ、私を入れても良かったんですか?」

「お昼くらいまでならゆっくりしてもいいよって許可が出たし、僕が絆奈ちゃんを誘いたかったから大丈夫だよ。でも、一応ここに来たことは内緒ってことで」


 それ、本当に大丈夫なの? そう思うも人差し指を立てて口止めする推しが絵になるほど尊いので、まぁいっか。といいように受け止めることにした。

 前世で体験したことのないこの景色。いつか見れたらなぁとは思っていたけども、まさかこんな早くに達成出来るとは思わなかった。

 エターナルランドを一望出来る風景にしばらく目を奪われ、途中で写真に残したいと思い、スマホのカメラを起動して写真を撮る。

 目に焼きつけたいのは山々だが、やはり写真があればいつでも見返せるし、しらねやエターナル城ホテル話の資料にもなるのでしっかり残しておかないと。


「気に入ってくれた?」

「はい! わざわざ見せていただきありがとうございます」

「良かった、喜んでくれて。でも、景色がいいとはいえ外は寒いからね。部屋に戻ろうか」

「そうですね、風邪を引いたら大変ですから……」


 と、そこで言葉に詰まった。なぜなら推しが私の前に手を差し出しているのだ。……どういうこと?


「お手をどうぞ」


 にっこりと微笑みながらそう口にする推しの紳士的行動に胸を撃たれてしまい、うっかり変な声が出そうになるが推しの前でそんな不愉快な声を出すわけにはいかないのでなんとか飲み込む。

 いや、しかし……これは私が推しに手を伸ばさないといけないやつなのかっ?


「あ、や、あの、寧山さん? そ、そんなことしなくても……」

「やっぱり、僕じゃ似合わないかな……」


 少ししゅんとした様子を見せる推しに「そんなことない!」と大声で否定したい欲を抑えながらも小さな声で「よろしくお願いします……」と呟き、推しの手に手を置かせてもらう。

 その瞬間、パァッと破顔させるのだから目を覆いたくなるほど推しは眩しかった。

 緊張でドキドキしながら手を引かれ部屋に戻れば、推しは私をソファーへと座らせる。なんだか恥ずかしいくらいなファンサービスを受けてしまった。

 というか、私が推しにされるよりも白樺が推しにやってほしいシチュエーションだ。


「……絆奈ちゃんはこういうのって少し寒いとか思う?」


 慣れていないことをしたせいなのか、少し恥ずかしそうに尋ねる推し。

 どうしてそんなことを聞くのだろうかと思ったが、例の好きになったファンの子に同じことをしてもいいかどうかの判断なのかもとすぐに感づいた。


「そうですねぇ……人によるんじゃないでしょうか。知らない人がやるとちょっと困りますけど、寧山さんなら大丈夫かと」

「ってことは絆奈ちゃん的には大丈夫なんだよね?」

「え? あ、そういうことになります、かね……? いや、でも私の主観なので結局は人の好みかと……」

「うん。でもそれが聞けたなら良かったよ」


 安心そうに笑うのだけど、推しの好きな子に通じるかはわからないからね? もし、失敗しても私のせいじゃないからねっ!?


「……ていうか、なんで今回寧山さんの好きな人を誘わなかったんですか?」

「えっ?」

「客室も私じゃなくてその人を連れて来た方が良かったと思うんですけど……」


 そう。当然の疑問なのだけど、エキストラの件だって私じゃなくその子を誘えば良かったのではないのか。そこまでの仲じゃなかったとか? もしかして断られた? それだとしたら傷口を抉ってしまうかも。うぅ、聞かなければ良かったかな……。


「……うん、ちゃんと連れて来たんだよ」

「あ、そうだったんですね!」


 なーんだ、私を連れて来る前にすでに見せたあとだったわけか。それじゃあ、雪城さんが言ってた寧山さんがまだ撮影してるって言ってたあれは好きな相手との逢い引き中だったわけね。

 それだとレストランの撮影のときも別のテーブルでエキストラとして混じっていたのかもしれない。周りまで見てなかったけど、どんな子だったのだろうか。


「バルコニーからはいい景色が見られますし、相手も喜んでくれたんじゃないですかね?」

「そうだね。喜んでくれてたよ」

「良かったですね! でも、本当にあの景色は良かったですよ。夜もきっと素敵なんでしょうねっ」

「うん。じゃあ、今度は一緒に夜景も見ようね」

「そうですねー」


 ……ん? 夜景も見ようって、宿泊しないと見られないのでは? 深く考えずに頷いてしまったが、どういう意味で言ったんだろう。ただの社交辞令? わざわざリップサービスなんてしなくていいのに。


「それじゃあ、約束だね」


 そう言って推しは小指を差し出す。……え? いや、それってまさか。と思って見つめてたら「指切りしよっか」と屈託のない笑みで言ってくる。

 思わず心の中で「子どもかっ!」と叫んだけどもそんな童心に返る推しも可愛いので良しとした。しかし顔がいい。

 とはいえ、指切りを避けることは出来なかったのでおずおずと小指を絡ませて指切りをした。……推しと小指を絡ませることなんて緊張で死にそうでしたけども。

 それから小一時間、PR動画撮影の話を聞かせてもらったりした。動画内容はなんとなく覚えているとはいえ、オフィシャルホテルのホームページにアップする日が待ち遠しい。


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