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推しへ、虐められっ子が友達になりました

 水泥くんの読書生活はすぐ飽きるだろうなんて思っていたそんな私の読みは外れていた。

 何故なら四年生に進級してからも彼はこの生活を続けているのだ。

 つまり、半年くらいは水泥くんとこの奇妙な関係が続いているわけで。意外に忍耐強いよね、私もあの子も。

 一緒にいる空間は多いけど、黙々と読み耽るだけだから会話は基本ない。

 それでもたまには喋るようになったし、最近では水泥くんも私に慣れたのか吃って喋ることも減ってきた。

 あとは声も少し張れるようになってきている。うん、それは良いことだ。


「……橋本さん」

「うん?」

「橋本さんって、標準語で話すよね……?」

「そうだね。一応、生まれはこっちなんだけど、両親が関東民なの。お仕事の関係で私が生まれる前に越して来たから両親の標準語で育ったって感じかな」


 関東方面の推し追い友達には忘れられがちなのだが、これでも和歌山出身の関西民。ただ、両親の影響で標準語がデフォなだけ。

 大雑把に説明すると父は転勤で母と共に越して来たけど、色々あって退職。そしてこっちのお土産屋さんに転職(ジョブチェンジ)したというわけ。

 まぁ、そのおかげで推しの差し入れに旬の和歌山土産や新商品を渡せるので土産屋の娘も悪くはない。


「水泥くんも関東方面から来たんだよね。標準語仲間がいてくれて嬉しいよ」

「仲間……友達ってこと?」

「ん~仲間と友達ってまた微妙に違う気がするけど……」

「そう、なんだ……」


 おや。どことなく暗い雰囲気で俯いてる。


「水泥くん。私と君とは仲間であり、友達だよ」

「!」


 もしかしてと思って口にしてみれば、彼は勢いよく顔を上げては驚くほど喜んでいた。

 その拍子にふと見せた普段隠れてる目元が輝いているような気がして、純粋過ぎて眩しくなる。


「本当っ?」

「あ、うん。まぁ……私が友達で良ければ、なんだけど……」

「橋本さんがいい! 橋本さんと友達になれるの嬉しい!」


 ここに来て初めて大きな感情の変化を見た気がする。

 確かに他に友達がいるとは思えないし、飢えてそうではあるがここまでとは。

 小学校時代は友達を作るつもりなかったんだけどなぁ。私が欲しいのは腐友達だし。

 でも、小学校ではそんな早熟な子なんていないから中学校に入ってからじゃないとダメだろうなぁ。


「まぁ、私結構ドライかもしれないけど、それでもいいならよろしくね」

「うんっ」


 ……まぁ、友達になっただけでこんなに嬉しそうにしてくれるなら友達枠の一つくらい別にいいか。

 確か、中学にはこの子はいなかったから別の学校に行ってるだろうし、それまでは面倒見てあげよう。


 そのときの私は気づいていなかった。翌日面倒なことをしでかす奴が見ていたことに。


 翌朝、登校すると何やら教室がざわついていた。

 最近は大人しかったのに一体何事かと思いながら教室に入ると、黒板の前にクラスメイトが群がっている様子。

 その中に水泥くんもいて、私に気づくや否や、顔を赤くしたり青くしたり忙しなかった。


「? おはよう、水泥くん」

「あっ、あああっ、橋本さん見ちゃダメ!」


 何が。そう口にしようとした瞬間、ゴミくんの声が響く。


「嫁が来たでー! ドロ水の嫁の本女!!」


 その一言でクラス中が茶化すように騒ぎ立てる。


「はぁ?」


 何言ってんだかと思いながら黒板を見れば『スクープ! ドロ水と本女はいつも図書室でデート!』という汚くてバランスの悪い字が書かれていた。


(あぁ、なるほど。そういうことか)


 なんとも子どもらしい。いや、子どもを通り越して、もはや幼稚である。

 よく見れば懐かしの相合傘で私の名前と水泥くんの名前が書き込まれていた。……名字呼びすらしないくせに、そこは本名を使うのか、ゴミくんよ。


「ドロ水の好みって橋本なん?」

「なぁなぁ、ちゅーしたん?」

「ち、ちがっ……」


 あーぁ、ゴミくんのせいでまた水泥くんがからかわれている。懲りない奴だ、まったく。水泥くんが泣きそうじゃないか。


「お前らキスせぇやー!」


 ゴミくんが余計なことを言うものだから教室の中はキスコールが始まる。愚か者め、キスコールは推しカプが絡んでるときに心の中でひっそりとするものだというのに嘆かわしい!


「はぁ……幼稚ね」

「は?」

「幼稚だって言ってんの。図書室でお友達と読書してるだけでデートだなんて恋愛経験ゼロにもほどがあるでしょ?」

「お前らいっつも二人でいなくなるやん! 付き合っとるくせに!」

「へー? ゴミくんは二人でいると付き合ってると思っちゃう子なんだ? それならいつも同じ子で固まってる君達も付き合ってるんでしょ? 違う子と二人で話したりしてるんだから浮気までしちゃっていけないのー!」

「はあぁぁ!? なんでそうなんねん! 男やし!!」

「男も女も関係ないんだよねぇ。別に私はそういう偏見ないから気にしないで。むしろ応援してあげる。いくらでも他の男子とイチャつきなさいよ」

「ちゃうわ!! イチャついとんのはそっちやろ!」

「えっ、もしかしてゴミくん。私と水泥くんの仲に嫉妬してる? 私のこと好きだったの? ごめんね、私お子ちゃまには興味がなくて……。年上の人が好みなの」

「そんなん言うてへんからな!?」

「もう、なに? じゃあ、水泥くんに気があるのね。だからいっつもちょっかいかけてるんでしょ」

「「!?」」


 黒板に群がる同級生を退いてと散らしながら相合傘の前に立ち、自分の名前を消してゴミくんの名前を代わりに書く。


「はいっ、本当はこう書きたかったんだよね? ごめんね、気づかなくて」

「ちげーって言ってるやろ!!」

「だったらなんでいちいちちょっかいかけてくるの? あまりしつこいと私も本気で先生とゴミくんの両親にチクるよ?」

「ぐっ……せこい女!」


 そう言うとゴミくんはまたもやしっぽを巻いて逃げて行った。私に恥ずかしい思いをさせたかったのだろうけど、所詮は四年生如きが考えるレベル。痛くも痒くもネタにすらならないわ!


「……ふぅ。さて、キスコールをしたその他のモブ達。お友達二人きりになってたら私も容赦なくキスしろコールするからねっ」


 とりあえずそれだけ宣言して、片っ端から二人でいる囃し立てたクラスメイトを見つけたら同性同士であろうと「あれっ? もしかして付き合ってるの? キース! キース!」とからかってやった。


「橋本さん……もうそれくらいに……」


 そんな私に許してあげてと言いたげな水泥くんが止めに入る。


「水泥くん、君は甘いよ。何でも優しくすればいいってものじゃないからね? いくらいい子でいたってある日突然トラックに撥ねられるかもしれないんだから」

「それでも……」

「……。わかったわかった。明日からはやめるよ」

「!」

「その代わり今日が終わるまでは許さないけどね」

「えっ」

「あ! ゴミくん発見! もしかしてキスするのー!? キース! キース!」

「わー! バカ来んなー!」


 水泥くんには悪いが、やられたらやり返さなければ。じゃなければ私の気がすまない。聖女でも何でもないのだから。


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