平和な日常の裏腹に
「気づいて、、、 頼むから、、、」
ハッとして気が付いた時は、目の前に味気ないただの天井が広がっていた。悪夢でも観たのだろうか、冷や汗をかいている。何故、ここにいるのか。それを思い出そうとする度に何かが拒んでいるかのように頭が痛い。
「個室か、、、」
部屋を出ようと扉に手をかけた刹那、微かな痛みは激痛へと変わった。その時、初めてその疑問を抱いた。自分は何処へ行こうとしている、、、?
「そもそも自分とは、、ダ・レ・ダ、、?」
怖い。怖い。怖い。自分が、いや、何もない自分に、その空虚感に恐怖を抱いた。
恐怖と絶望の中、静かな叫びは誰も来ない独りの部屋にこだました。
水曜日、それは1週間の中日。ということもあってか、学校からは気怠さが感じられた。心なしか、空も灰色が混ざり合いぐずついた天気になっているように思われた。
「お久〜」
そういって朝から妙に鬱陶しく絡んでくるのは友人の燐だ。
「恋の熱病にうなされていてね」
いや、そうじゃない。お前は、季節外れにもインフルエンザで病床に就いていただけだ。とツッコミたくなったが、それすら気怠く感じられスルーすることにした。
「少しは反応してやれ、玲」
と、今度は後方から声が聞こえた。緩いパーマがかかった少し茶色っ気のある髪を1つにまとめながらこちらに向かって来たのは、シノンこと篠原だ。
「そういや、今日って英語の課題の提出日だっけ?」と返す。
「いや、聞けよ」
「シノン、仕方ないよ。今日のレイは不機嫌で疲れているっぽいし」
本当は「そうだよ、お前のせいでな」と愚痴をこぼしたいところだが、次の一言でそれさえどうでもよくなった。
「レイ、後で宿題手伝ってね♪」と、突然思い出したかのようにリンが呟く。
「はぁ!? なんで私が!?、、、」
「レイ、頭いいから大丈夫っしょ。それに暇人だし」と、シノンがポツリと呟いた。
「シノン、今の発言撤回しろ。私は断じて暇人じゃない。転校して2日で宿題を押し付けられそうになっている被害者だ。
てか、リンは自分で出来ただろ!?」
「いや、私休みだったし」
嘘つけ、家でゴロゴロしてたじゃないか、と言いかけて玲は口を噤んだ。そうだ、コイツはインフルエンザという設定だったのだ、、、。危うく、ドジを踏むところだった。
「、、、仕方ないな。もう無理はすんなよ」
「って、レイはなんだか優しいよね」
「シノン、お前は黙ってろ」
「そして、血の気が多い」
「、、、やっぱ、今の撤回だ、リン。たったと課題5分で終わらしてこい」
「ふふ、レイさん気づいてますか?後、HR開始まで3分ですよー。」
これには呆れて物も言えなかった。
「ダァァァ、早く行くぞ、バカども」
やはり、水曜日は嫌いだ。朝から空回りの連続だ。もうすぐ夏休み。そう浮かれていた私達は気づくことはなかった。これから自分達の運命の歯車が回りだすことを。