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ドラゴン襲撃によるエリン村消失事件に関する取材レポート。プライベート保持により当時教師をしていた人物は匿名とする。
当時、私はエリンという小さな村の中にある学校で教師をしていた。
その田舎の学校はとても小さく、村が頑張って集めた金で建設されたものだ。その学校の教師になったのはエリン村の村長による計らいであり、私は学校に居る子供たちに魔法や歴史を教えていた。
元々私はギルド協会という大きな組織で働いていたが、諸事情によりその協会から離れる事になってしまった。
離職した後に私は友人からの紹介でエリン村に来た後、教師を任される事になった。ギルド協会で必須とされている知識もまだ役に立つことはいいことだが、これから先私が生きていけるか不安はあった。
その不安はむしろ当たらない方が正しいし、そんな事を考えたところでどんどん自分の気持ちがおかしくなるのは事実だろう。
精神的な不安は結局自分しか解決させる事ができないため、誰かに打ち明けるかもっと自分を現実逃避させられるような何かを探す必要はあった。
もうかなり自分の年が上がって居るので、このまま独身で生きていくとなるとかなり根気が必要だろう。
別に結婚したくないわけではないが、しかし自分の特性上そもそも他人と一緒に居るという事が精神的に耐えられなかった。
単独で居る空間を何とか作ることで自分は自分で居られたのだから、そもそも誰かに結婚しないのかと聞かれるのは少し嫌な気分にはなる。
ただ、そんな個人的な好き嫌いの葛藤をする自由すら現実は許してはくれなかったようだ。
現実、というよりは自然だろうか。元々エリン村は山の中にあるため、時折危険な魔物に出くわすことはよくあるのだが。今回ばかりは少し厄介な事になってしまったようで、私はその事件が起きた時に誰かに叩き起こされている。
叩き起こしてきたのは、隣人のおじいさんだったので私はかなり驚いていた。非常に無口なタイプの男性だったので、彼が突然起こしてきたのはある意味恐怖心しかなかった。
そのおじいさんから教えてもらったのは、やはり強い魔物が襲来してきたため村では厳戒態勢が取られているということらしい。
しかし、厳戒態勢が取られるほどの魔物はこのエリン村一帯には存在しなかったはずである。そのおじいさんの言う通り、今は地下室に避難している事を言われたが一体何が起きたのだろうか。
彼に恐怖心を抱きながらも聞こうとしたが、襲ってきた魔物の正体を聞くよりも先に体全身を震わせるような大きな鳴き声を聞いてしまった。
そして、更に大きな音が鳴り響いた時、おじいさんから早く外に出て逃げるように言われた。
あの鳴き声は確かに、ドラゴンの鳴き声だと思っても間違いなかった。ただ、そのドラゴンがこんな場所にやってくる事自体ありえないはずだが、一体何が起きたのだろうか。
私は外に出て、何とか逃げようとする。慌ただしく滑稽な様子で私は他の村人たちと共に逃げようとしたが、暗闇のせいで何処に逃げていいのかすぐに分からなくなってしまった。
ただ、明かりだけは見えるのは確かだ。ドラゴンが吐く炎により村の建物は一気に延焼していくため、自分驚いている内には殆どの建物が焼かれてしまっているのは想像するには難しくなかった。
その一匹の大きなドラゴンがゆっくりと逃げている私たちの方へ歩いてくる。大きく飛翔した後、人間の走る速さが無駄に感じるほどにドラゴンは早い速度で滑降してきた。
地面に降り立ち、そのドラゴンは明らかに人間に対し殺意を持っているような行動をした。大きく口を開き、その口の中から火の玉が見え始めてくる。真っ暗な空間がその火の玉により広く照らされ、周囲にあった木々がまだ発射されていないにも関わらず燃え上って居た。
一体あの火の玉は何度あるのだろうか。記録によれば、ドラゴンブレスで焼かれた人間が装備していたプレートメイルは溶けて消失することが多い。鍛冶屋にある溶鉱炉並みの熱量かそれ以上だとすると、私たちはもう逃げ場が無いと思われていた。
その火の玉が力を密集させて私たちに対し解き放とうとしている。この状況の中で私たちが助かる術はなく、もう既に私は死を覚悟してなるべくそのドラゴンを見ないようにしていた。
そのドラゴンブレスが放たれようとした時、私のすぐ近くを誰かが通り過ぎた。
その少年はエリン村に転学してきていた私の生徒だ。その少年に、大丈夫と言われていたが正直理性だけは麻痺していた。
ドラゴンブレスが放たれる。その炎は周囲を全て焼き、溶かすように直進していく。その炎の熱は明らかに異常であり、その場に居た時はその熱で体が焼けそうになって居た。
しかし、私たちは溶かされる事はなかった。少年は右手を前に出し、全面に投影されている魔法陣がその炎を防いでいた。
ありえない、とその時私は口をこぼしてしまった。あの熱量のドラゴンブレスを防げるほどの魔力を持った魔法使いなど、こんな村には居ないはずだった。
例え居たとしても、こんな少年であるはずがない。
だが、少年によってそのドラゴンブレスは防がれており、その攻撃が終わった後に少年は更に別の魔法陣を形成させていた。
単純な魔力の塊、それが一つの玉として形成された後にすぐに一直線にドラゴンへ飛翔した。
あまりにもあっけなく、ドラゴンはその光の玉に頭部を貫通されてしまい血を噴出した。
まさか、ドラゴンの分厚い鱗を貫通するような魔力だとは思わなかったが、そのドラゴンは倒れたおかげで何とか私たちは死なずにすんだ。
ただ、そのドラゴンのおかげでエリン村には私たちは居られなくなり、全員で町の方まで深夜歩く事になった。
ドラゴンによって村を焼かれた事は当時かなり騒がられた事だが、私を助けてくれた少年とはその後会うことはできなかった。
アレフレッド。村ではアラドと呼ばれているその少年は、すぐに彼の家の人に連れていかれてしまったのだ。
後で聞いた限りだと、そのアラドという子供は他の子どもとはあまり折り合いがつかなかったため田舎の学校に通わせられていたらしい。
子供のような心が無かったから、というのが主な理由らしいが。しかし、私としてはそんな事よりもドラゴンを一撃で倒せるほどの術者であることをどうして教えてくれなかったのか、今では不思議しか感じなかった。
●
僕は産まれた当時、左手に不思議な文様が刻まれていたため悪魔の子だと思われていたらしい。
物心がついた時に左手を意識すると、たちまちその紋様は光を発揮して大きな力を作り出す。
どの魔導書にも記されていない魔法の力を宿しているため、僕は英雄どころか危険物扱いされていた時期があった。
子供だからこそ、むしろちょっとしたことで魔法を扱い誰かを殺したりしてしまうのではないかと。かなり失礼な話だし、誰かを殺すのではなく物や建物を破壊してしまわないかというニュアンスにしてほしい。
僕は一応連続殺人鬼のような習性を持った生き物ではなかったので、すぐに誰かを消してしまう事はなかった。
0から6才の時まではアラドは特に慎重に扱われていた。アルフレッドが本名だが、そんな厳つい名前と違い見た目は綺麗な銀の髪をしていた。
その女の子みたいな見た目とは裏腹に、強力過ぎる魔力と難解な魔法の術式を一瞬で形成できる要領を持つ子供。
それが僕たどしても別に困る事は無いのだが、問題なのはその強すぎる力故に他の子どもとは疎遠になる事
多かった。
更に、僕は全く違う知識を別の世界から持ってきていると精神科医に言われたので不愉快さは増している。
10歳の時、僕は突然別の世界の夢を見るようになった。
そこはこの世界とは全く違う世界の話であり、その世界の僕は銀髪ですらなかった。
その世界での僕の生活・・人生は18歳までで終わって居る。10歳の時に延々とつまらないその人生を見せつけられた後、そしてあっけなく道端で死んでしまったのだ。
一応誰かと仲良くできなくて変な人生を歩んでいたわけでもなく、彼には可愛い幼馴染が居たのだが。その可愛い幼馴染の女の子の目の前でトラックという名前の機械に轢かれて問答無用で死んだのだった。
あの質量なら確かに間違いなく死ねるだろうけど、僕としてはもう少しカッコいい死に方をしてほしかった気はした。
女の子の方も一生に残るトラウマを背負わせてしまったし、何より芸が無さすぎるんじゃないだろうか。
その夢の中の世界で呼んだ本ですら、トラックに轢かれる描写があまりにも多かったし。
ただ、問題はその夢を見た後だった。妹のスフィアに僕が異世界の夢を見る事を告白したら、スフィアは面白がってすぐに両親に告げ口してしまった。
両親から過大な心配をされて僕は精神科医に助けを求められたが、しかしその精神科医は同時に魔法使いなので別の意味で油断ができなかった。
君は別の世界の記憶を持っていると言われた時は少し心外だったが、そこからかなり難しい話を10歳の僕に対して行っている。
魔法の術式を組むのは得意だが、あまり科学は得意じゃないのが僕の悩みでもあった。
「君は別の世界の記憶を有しているといったが、それは単純に誰かから植え付けられたものではない。その記憶は明らかに異常なものだが、今こうして正常に機能しているのを見ると君は転生者の可能性が高い。」
「転生者・・ですか?」
「うむ。他の世界から別の世界へ、魂が別の体に移送された事を意味するが・・。生まれ変わりは基本的にはそこまで起こらない。というのは、体から離散された魂は量子的な状態となりまた一度体を得る事が難しくなるからじゃ。」
「はぁ・・。とにかく、生まれ変わりは無いということですか?」
しかし、僕は転生者ということになっている。目の前の胡散臭い男性・・精神科医らしいが、あまり信用したくないのが正直な気持ちだった。
「魂に記憶が宿って居る、それだけでも十分おかしい事なんじゃよ。アレフ君。」
「アラドです。」
「そう、アラド君。」
ますます不信感が出て来たし、人の名前を言い間違える失礼な精神科医をここでぶちのめしてもいいんだろうか。
「噛んだのじゃよ。そう睨むな。」
やっぱり殴っていいだろうか。こっちは真剣に悩んでいるのだから、もう少し慎重に扱ってほしいのだが。
「魂というものは非物質的な物である。そして、観測するだけでも難しいその存在は一度体から離れてしまえば消え失せてしまうのが自然だと考えられている。魔法学園の霊媒科では、人の魂は魔力によって守られる事が無い限りは一度消えると元には戻らないというのが今の常識じゃ。つまり、君の魂は魔力によって既に守られており、その強い魔力によって量子化されず別の体を会得する事ができた。それが私の今の考えじゃが・・。」
「胡散臭いですけど。それって僕の力にも関係する事なんでしょうか。」
「うむ。ただ、君の夢の中の世界では・・魔法は無い事となっている。君の前世というべきか、その世界での君は魔法などは使わずこの世界とは別の知識を学習していた。それだけでも十分分からんが、問題はそんな世界に生きておきながら何故転生者となったのかじゃ。」
「僕が転生者である根本的な理由なんてないでしょう?」
「まだ君は10歳じゃ。もしかしたら、18歳になった時にもっと重要な事実を夢が教えてくれるかもしれんじゃろう?大体、今もまだ夢を見ている。散文的に、時系列はバラバラの夢をただ見せつけられている。」
実際に僕が見ている夢は一から準に見せられているわけではない。ある時は10歳だったり、ある時は5歳だったり、ある時は14歳か17歳である。
ただ、夢を見る時の年齢で一番多いのは13から17歳の期間でありそれから下はあまり多くはない。
だからといって、それが特別かというとかなり微妙な感じはする。
特別な力を持っているわけでもなく、そして特別な社会的地位を持っているわけでもない。何か特殊な才能を持っているわけでもなく、他人に魅力的に思われてアイドル的な存在になっているわけでもない。
その、普通過ぎてつまらない男性の夢を見せつけられて来たのが僕の最大の謎であり、その謎は今でも続いているのだ。
「以前はつまらない人生を歩んでいたと思うと、僕としてはうんざりしますね。」
「つまらないとはいったが。平凡であるといっても、野蛮であったり暴力的な生活をしていたわけではないだろう?」
「だけど、彼はあまりにも平凡過ぎますね。村人Aみたいな感じでした。」
「平凡なのが嫌いなのか。まぁ、それほどの力を持って居ればそうなるかもしれないが。しかし、君としては以前の自分は好きにはなれないのか?」
「別に、本当に僕が見ていた夢の中の自分が本当に自分であるかなんて確証はないですよね。」
もしかしたら他人の夢を主観的に見せられている可能性だってあるかもしれない。
「うーむ。」
「何か、おかしいこと言いましたか?」
「いや。転生者というのは魔法による人為的な行為によって現れる物じゃからのう。こうして、自然に人は転生する事は無いはずじゃ。魂というものは、0に近い存在であるが故に一度肉体が滅びればたちまち闇に葬られる。」
「はぁ・・。じゃぁ、聞きますけど。僕、あるいは他の皆が産まれた時はどういうことなんです?魂が、どうして子供に宿ったのですか?」
正直自分でもかなり生意気過ぎる言い方だとは思っていたが、冷静に考えれば転生するよりも難しい事を説明しているような気がする。
「魂が何処から来るのか。それは誰にも分からない。分からない場所から、0から作られている以上は仕方が無い事じゃ。」
「でもこうして意識がある以上、僕は魂を持っていると思えますけど。でも、それだってもしかしたら幻覚かもしれませんし、もしかしたら貴方は既に死んでいるかもしれません。」
「君は、クオリアというものを知って居るか?」
「クオリア、ですか?」
「霊媒科で生まれた理論でな。人間が感じている物は、他者が感じている物と本当に同一であるかどうかは分からないということじゃ。つまり、相手は本当は機械かもしれない。人物Aが見ている人物Bは本当は魂の無いロボットなのかもしれないか、全く別の物を見ているかもしれない。しかし、脳機能が正常に機能しているだけならだれも問題を起こさない。矛盾は発生しないが、しかし本当に私たちは他人と同一の物を見ているのかは原理的に観測する事は不可能だということじゃが・・。しかし、問題はそのAが見ている存在そのものが本当に真実であるのなら、他の存在にも魂がなければならない。」
「えっと・・つまり、そのAさん以外の存在に魂は無くても問題ないということですか?」
「結果的にそう聞こえるかもしれないが、問題はA以外の人間もまたその意識の矛盾や違和感を理解できる人物が居ることじゃ。Bもまた、Aの事を魂の無いロボットだと思っているのかもしれない。だが、Aにも確かに意識があって感じる事ができる。その感じている対象、私たちはそれをクオリアと呼んでいる。」
「えっと・・・?」
正直、僕は失礼になってしまうのであまりつっこまなかったが・・。
その理論、何か意味あるんですか?と思ってしまった。
感覚をただクオリアと言い換えているだけで、根本的な問題解決には至っていない気はする。
「クオリアは魂とほぼ同等の存在であり、魂が肉体を通して世界を認知できるようにする物だとする。そうすれば、我々がロボットではないと確信できるからな。我々が見ている世界は脳みそが壊れていない限り真実であり、余程馬鹿でない限り正常に生きていける。しかし、その脳みそだってただの臓器でしかない。いくらその脳を細かく解析したとしても、その魂にはたどり着けないというのが霊媒科の考えでな。」
「じゃぁ、どこに居るんですか。その魂は。」
「今、そこに居る。としか言えん。魂は全く別の所にあって、そしてその魂が肉体を通して世界を見ている。いや、クオリアを見ているというのが正しいのだろうか。我々が見ているものに矛盾が無いのは、そのクオリアのおかげであるといえる。」
「一応、見ている物は同じですよね。感じている事も、別に貴方は目は悪くないでしょう?」
「物の例えじゃ。この赤いコップが、君には赤く見えるじゃろう?」
彼の手元にある、既に冷め切ったコーヒーが入って居るコップは確かに赤い。
しかし、その赤いコップは彼にとっても赤く見えるのは確かだ。しかし、彼の言っている理論が正しければその赤いコップは彼にとっては別の物になるだろう。
しかし、脳の認識上は赤だと考えている。
「厳密に言うと、この赤いコップは太陽光やランプから反射される光を、目に通して脳で認知している。なので、私たちは光を見て物を区別していると言った方が正しい。光が暗ければ暗いほど物が見えなくなり、黒へ変化する。逆に光が眩し過ぎれば全てが白へ近づく。もっとも、そんな眩しい状態になれば目が先に死んでしまうが。その光自体を脳が認識しているが、しかしその意識は他の人間と果たして同一かどうかという疑問が出てくる。確かに見ている物は同じだが、もしかしたら全く別の色が見えているかもしれないと。だが、この考え方はあまり意味は無い。」
言ってしまった。ぼくが言わなくとも、彼自身が意味は無いと断定してしまっている。
「細かくかみ砕いて行けば魂、つまり我々が疑問に抱いている真実にたどり着けると思い込んでいたが。実際はそうではなかった。細かくしていけば意味が違ってくるからじゃ。このコップだって、壊せば割れたコップになるが。もっと砕いて粉上にすれば・・それはコップの意味を剥奪される。それと同じように、ただいくら他人が感じている物が自分と同一であるのか分からないからといって、感覚を細かくかみ砕いていけば真実にたどり着けるかというとそうではない。」
じゃぁ、さっきまでの話は一体何だったのだろうか。
「魂が認知しているクオリアというのは、まだ理論上の言葉でしかない。ただ、性質として私たちの魂が一体何なのかはまだ分かって居ないのじゃ。魔法、魔力と大いに関係することは分かっているが、問題はその感覚という物が本当に同一であるかどうかは分かって居ない。だから、魔法にも実際に違いが出てくる。つまり、その魔法の違いとクオリアが関係しているのではないかということじゃが。」
魔法使いが扱う魔法にも、魔法陣には色の違いが出てきている場合がある。その色の違いは不明瞭だが、彼の言っている通りクオリアに関係しているものだとしたらおかしいことはないが・・。
問題はその魔法ではない。
「転生が事実だとすると、ここから厄介な事になってな。霊媒科では議論で決着が出ているが、その魂に関する議論自体は無駄であり、魔法の力こそがその魂の総量であるのなら観測者Aが他の観測者Bをロボットだとして疑問視する理由は何処にもないと。つまり、肉体と魔法こそがその人間の存在を決定づける真実であり疑いの余地は無い。彼らが言うには、『存在しないものは存在しないんだから黙れ』ということらしい。」
「何が存在しないんですか?」
「私がさっき言ったクオリアと魂のことじゃ。」
「え?魂も・・ですか?」
それでは、僕がそもそも転生者であることを否定されてしまっている気はする。
「だからの。つまり、魂はそれイコール魔法をコントロールできる基盤であり、その基盤がそっくりそのまま記憶とともに君へと流れていった。それが転生の仕組みだとすれば間違いではない。」
「それはそうかもしれませんけど。その霊媒科の人たちは、結局自分たちでは分からないから存在しないと言い切ったんですよね。」
「理解できないんじゃない。そもそも無いから意味が無いんじゃ。100の物をゼロになるまで切り刻んでしまったのだから、意味が剥奪されている。魂なんていうのも、結果的には議論する意味の無い物として切り捨てた。霊媒科はその魂の基盤そのものを魔力でコントロールする術を研究する上では、クオリアに関する議論も活発だったが。結局霊媒科は科学を研究しているのか魔法を研究しているのか分からない構造に成り果ててな。最終的な命題として、存在しないを選んだ。そして、魔法の研究を進ませる事になっている。そもそも科学に関しては錬金術師の方が一歩上を行っているからな。」
そう言った彼はただ、何処か遠い目をしていた。
多分当事者だったんだろうけど、彼としてはその議論の中では一体どういう立場だったんだろうか。
僕には関係の無いことだろうし、これからももうこんな話はしないだろう。
精神科医による診断の会話内容はここまでで、その後は何も問題無しとしてすぐに家に帰れた。
僕はその後、スフィアに二度と変な事を言って迷惑をかけないように誓わせたが。この妹は適当に返事した後、僕と一緒に学校の宿題をやらせようとした。
すぐに終わらせるべく終わらせたかったようだが、問題は僕の脳みそが夢の中で見た記憶を本当に事実だと思い込んでいる事だ。
本来夢のはずだ、しかしそのあまりにリアルな夢の世界をどう自分の中で処理したらいいのか分からない。あの精神科医が言った通り、他の事をして全部忘れてしまえばいいらしいが。
余程大切な事でもない限り、自分を不安にさせる記憶は全てゴミとして焼却しなければならない。彼はそう言っていたが、僕はその焼却する行為すら手間取って居た。
次、更新未定・・?