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第一章04 お手伝いさん始めました

「よっこいしょっと…!」


 燈が診療所に居候してから、既に一週間が経過していた。

 ルークの打診もありミリンダ先生の手伝い係という名目で彼は診療所に寝泊まりする事になった。更に衣服はルークにもらい、食についてはミリンダから給料の代わりという事で毎日配給がなされる。

 なんと燈は奇跡的な出会いで一日にして衣食住を手に入れたのだった。

 そんな彼は今紙の束を抱え騎士学校の学内を歩いている。

 ミリンダから頼まれた仕事の一つだ、紙には一枚一枚生徒の身体分析が書かれておりそれがクラス毎に分けられている。クラスの担当教官にこの資料を渡そうとしているのだ。


「よっしここだな」


 騎士学校の教官はそれぞれ自分の個室を持っている。日本の学校のように職員室のようなものはない。

 しかも教員によって部屋の位置がかなりバラバラであり燈は学内を歩き回る事を余儀なくされていた。


「失礼しまーす。シルバークラスの生徒さんの分析資料持ってきました」

「おぉご苦労だな。えーっと…」

「神田燈と言います。一週間ほど前からミリンダ先生のお手伝いをさせていただいております」

「あぁそういえばミリンダ先生が助手を取ったと言っていたね。彼女にしては珍しいが、君だったのか」


 二年シルバークラス担当教官はそう言いながらわざわざ燈の元まで行くと資料を受け取る。


「全クラス分君が配っているんだろう、疲れたんじゃないか?」

「いえいえ、これが自分の仕事なんで」


 燈はそう言ってにっこりと笑った。


「ふふ、中々の好青年だな君は。どうだい?お茶でも」

「ははは、是非お付き合いしたい所なんですがまだ後数クラス分資料を渡しに行かなくちゃならないんで」

「そうか、それは残念だな。それではまた今度ここに足を運ぶといい、用が無くても構わないよ」

「お心遣い感謝します!それでは」


 頭を下げ燈は部屋を後にした。


-----------------


 そんな風に全部のクラス担当教官とコミュニケーションを取りつつ燈は着々と資料を配り続けた。時折癖の強い教官も居たが、燈が営業で培ったコミュニケーション力により彼はどの教官とも不思議と打ち解けていた。


「ふぅーーー……」


 全ての資料を配り終えた燈は一息つき、廊下の壁にもたれ掛かった。

 衣食住の問題は全部解決・・・この一週間でこの国や、世界の事も大分理解が進んだ。

 そして、燈は自分が最も知りたい情報をようやく入手する事が出来た。

 どうやら今から数百年前、神話大戦なるものが起こったという、各国が同盟を結び一人の魔王と呼ばれた男に戦いを挑んだらしい。

 何故彼が魔王と呼ばれたのか、それは彼が無数の神異かむいを持っていたからだという。

 だが幾ら魔王と言えど全世界各国を敵に回したのはやり過ぎたようで大量の被害を出しながらも何とか魔王を倒す事が出来たらしい。

 これが大雑把な神話大戦の顛末だ。

 燈はこの一週間、合間を縫っては学内の図書館に通って歴史を読み漁りこの話を知る事が出来た。これについてはあまりに情報が少なったが、何はともあれ目的に少しだが近づいたのだ。


 神異ってのがあんまり具体的に書いてなかったけど、多分これがチートの事だ。

 でもこの話じゃ魔王は死んだって事になる。つまり魔王が持ってた神異、チート能力も無くなったって事なんじゃないのか?


 しかし、ようやく自分の目的のモノについて知る事が出来たのはいいがここで再

び燈は詰まってしまったのだ。


 チートを回収しようにも、持ってる奴が居ないんじゃどうしようもないだろ。


 だが、持っている者は必ず居るはずなのだ。あの常軌を逸した存在であるヒトリが言っていたのだから間違いは無いはず、燈はそう考えた。  


 てことは何だ、情報を隠してるって事か?じゃあ他の国では?そう言えば他の国に関する本はほとんど無かったな…。


 思考を続ける燈、だがやがて今は結論に至れない事に気付き廊下の天井を見上げた。


 俺がここに来て七日経った。て事は今あっちの世界では七秒経ったって事か。

 七秒、あの瞬間からまだ七秒しか経っていないという事に実感の湧かない燈だがそれでも確かに時間は経過している。

 立ち止まってる暇は無い、本で分からないなら人に聞こう。

 燈は誰かに話を聞く事を決意した。


「アカシさーん!」

「ん?」


 自分の名前を呼ばれた燈はその方向に首を向けた。すると一人の少女が歩いて来た。


「お、ムーミ!」

「どうもー!」


 ムーミ・フラスト、ルークの一つ下の後輩で彼に恋している美少女だ。

 一週間前、診療所でルークを先輩と呼んでいた子である。


「えーっと、どうしたの?今日は生徒さんは休日なんじゃ」

「そうなんですけどねー。この子がどうしても会いたいって言うので」

「この子?」


 燈が首を傾げるとムーミの後ろからひょっこりと少女が顔を出した。


「あ、君は」


 すぐに燈はその子が誰なのか気付いた。


「あ、あの……バ、バアルって言います。あ、あの時は……助けてくれて……ありがとう、ございました」


 たどたどしい口調で燈が一週間前体を張って助けた少女は言った。

 膝辺りまで伸びていた髪の毛は散髪によって肩辺りまで切り揃えられており、それによって常に見えるようになった顔はとても可愛らしい。


「はは、いいよお礼なんて。当然の事をしただけだから」


 燈は膝を曲げ、バアルと同じ目線でそう言った。


 バアルはあの日結局目覚めず、燈と会話をする機会が無かった。

 彼女はミームの家に引き取られて一週間が経過、周囲の環境も身体的にも落ち着いたため彼女はムーミに頼んで燈の居る学校へと連れて来てもらったのだ。

 理由は見た通り、燈に礼を言いたかったからである。


「アカシさん。ここにはもう慣れましたか?」

「あぁ、おかげさまでね」

「それは良かったです!」


 そうだ…。ムーミは何か知らないだろうか。


「な、なぁムーミ」

「ん、何ですか?」

「俺、記憶喪失だからさ。それで色々この世界について調べてるんだけどその中で神話大戦とか神異?ってのが気になって。何かこれについて知らないか?図書館の本にもあんまり詳しく乗って無くてさ」


 意を決したおれはムーミに聞く。


「っ!?」


 な、何だ今の…。


「そうですか、分かりました。でしたら今日私の屋敷に泊まりに来ますか?父の書斎に何かそれに関するものがあるかもしれません」

「えっ、い、いいのか?それは助かる!!」

「バアルちゃんももっとアカシさんと一緒にお話ししたいでしょ?」


 ムーミの問いにバアルはコクリと頷いた。


「え、えーとまだ午後の雑務が残ってるから。場所を教えてくれないか?夕方頃そっちに行くよ」

「分かりました。それじゃあ私の家までの経路を書いた地図を書きますね。書く物は持っていませんか?」

「あ、あぁ。持ってるよ」


 燈は胸ポケットからメモ帳のような紙の束から一枚紙を破り取り、ズボンのポケットからペンを出した。これらは診療所にあったものを拝借したものであり社会人だった燈にとってこういったものは必需携帯品だったのだ。


「じゃあ。お借りしますね。後、の人には通すように言っておきます」


 紙とペンを受け取ったムーミはその場で地図を書き始めた。


---------------------- 


「本当に助かるよ。ありがとう」


 学校から自宅までの簡単な地図を受け取った燈は改めてムーミに礼を言った。


「いえいえ、それじゃあお待ちしてます」

「あぁ、それじゃあ!バアルちゃんもまたね!」

「え、あ…あの、は、はい」


 燈は笑顔で手を振りその場を後にした。


「それじゃあバアルちゃん帰ろっか?」


「うぇ?あ、あの…はい。すみません…ありがとう…今日学校行く予定じゃなかったんですよね?」

「全然大丈夫だよ。気にしないで。休日の人が少ない時じゃないとバアルちゃんが危ないからね」


 バアルは見た目的には普通の人間とは変わらないのだがそれでもやはり危険は出来るだけ避けておきたい。そのため休日に燈に会うようにしたのだった。 


「それに…一つ気になる事も出来ましたし」

「気に、なる事?」

「ううん、こっちの話」


 ムーミはバアルに笑顔を向けた。


--------------------- 


「よし、これで何か新しい情報が分かれば…!」


 ムーミやバアルが見えなくなった頃、燈は小さくガッツポーズした。


「それにしても」


 燈は立ち止まり、先程の事を考えた。

 あの時…俺が神異について聞いた時、何か一瞬空気が変わった気がしたんだけど一体何だったんだ…?

 燈が質問をした際、彼は何か違和感を感じたのだが


「まぁ、気のせいか」


 自分の勘違いだと考え、診療所へと戻った。


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