第二章33 VSアポカリプス その1
第二章最終決戦前編!
「ぅ…ぁ、サーラ……」
い、一応…回復魔法はかけたけど…気休め程度だ…。
戦闘から少し離れた場所で、カグに回復魔法を施すバアル。
負傷に対し、苦しそうな声を漏らすカグだったが、どうやら身体よりも精神の方が不安定な状態である。
「カ、カグさんここにいて下さい! 僕はアカシさん達と合流しますから!」
バアルはそう言い残し、戦場へと再び足を運んだ。
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『ギュォォォォォォォォォォォォォォ!!!!』
アポカリプスは叫びながら両腕で周辺の建物を薙ぎ払い、六本の足を地面に叩きつけながら大地にヒビを入れ、揺らす。
「ぐああああぁぁぁぁぁぁ!!!」
激しい風圧、そして時には本体の腕や足が直接当たり、連合軍を襲う。
「どうすればいい…!! 何か、何か…!!」
アポカリプスの視界外を走りながら、燈は必死に活路を探す。
このまま戦ってたら……!! 皆が死ぬ……!!
刻一刻と時は経ち、人が死ぬ。
だから燈は目を凝らす、頭を回す。これ以上、誰も死なせないために…。
「……っ」
そして彼は至った。正確には、思い出した。
「生物を核にして…」
テノラの言葉を。
次の瞬間、燈は見た。アポカリプスの横顔からでも見える、額から隆起している宝石を。
「皆ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
燈は大声で叫ぶ。
その声は、アポカリプスとの戦闘を継続している戦士たちの耳に届く。
「奴の弱点はぁ!!!!! 頭の宝石の中です!!! それを壊せば、奴を倒せるはずだぁ!!!」
その言葉に、全員がアポカリプスの額を注視する。
そして、彼らの方針は一瞬にして決定した。
「疾風輪舞…!!!」
初めに行動を起こしたのはアリューだ。
得意の魔法で加速した彼は速力によって蓄積したエネルギーを利用して、二本のナイフにも関わらず、アポカリプスの前足二本を斬り落とした。
『ギュゥッッ!!!』
「今だ!!! やって!!!」
バランスを崩したアポカリプスを見た連合軍の面々は、アリューの言葉通り、額へと向かって魔法を放つ。
『ギュァァァァァァァァ!!??』
大量の攻撃魔法を一度に受けたアポカリプスはそんな声を上げる。
額部分はその攻撃により煙を放ち、やがて風によって煙が消え、再び額が露出した。
「やった!! 宝石部分が削れていってる!! このまま攻撃を重ねていけば…!!」
勝利の兆しを見た燈、その声には、微かに希望が籠っている。
だが、その希望は、瞬時に絶望に切り替わった。
『ギュァァァァァァァァァ!!!!!』
響く喚声と共に、アポカリプスの損傷個所が、見る見る内に修復されていく。
アリューによって斬られた二本の足が、そして大量の攻撃によって損傷したはずの額部が。
「そ、そんな……」
その光景に、燈を含めた誰もが茫然とした。
「アハハハハハ!!」
アポカリプスの頭部よりも上で飛行するリュドルガに搭乗しているテノラは、大声で笑う。
「自己修復出来るなんてズル過ぎんだろ……!!」
苛立ちを声に乗せ、エリスはアポカリプスを睨み付ける。
「エリスお姉ちゃん! それは少し違うんだよねー!」
「あぁ!?」
「アポカリプスは、取り込んだ生物の力を取り込んで強制的に発動させるの! だから今のこの修復能力は、チーターであるサーラの力だよ!」
「そんな……!!」
燈は再びアポカリプスを見る。
『ギュォォォォォァァァァァァ!!!!!』
「うん! 大分取り込んだ力に慣れて来たみたい! これなら大丈夫だね!!」
テノラはそんな事を言いながらリュドルガで更に距離を取る。
「待てテノラ!!」
「いやー! 全部私遠くから見てるよー! この子がぜーんぶ破壊したらチーター回収しに戻るねー!」
燈の制止を無視し、テノラは燈達の視界外へと姿を消した。
「くそ…!!」
「待てアカシ!!」
テノラが乗っていたリュドルガの方向へと走り出そうとした燈、だがエリスの声で我に返る。
『ギュゥゥゥゥゥゥ……ギュアァァァァァァァァ!!!』
アポカリプスの背中の至る箇所が隆起し、そこから強靭な糸が吐き出された。
「があああぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ぐふぉ…がぁ…!!」
「やめっ…あああぁぁぁぁぁぁ!!!」
連合軍の戦士たちは、無数の糸に絡まれ、締め付けられる。糸に囚われた者の半数は、その時点で絶命した。
そして糸はアポカリプスの正面に収束、辛うじて息のあった半数は、アポカリプスの手によって汚らしい音を立てて握り潰され、手の平を合わせるようにして摺り潰された。
「あぁ……ぁぁ……!!」
アポカリプスの手から、地面へと滴り落ちる血を目で追いながら、燈は呼吸を乱す。
『……ッ、ギュォォォォォ!!!』
首を曲げ、アポカリプスは燈達の存在に気付く。
「アカシィ!!」
糸は、紛れも無く燈を狙っていた。それに気付いたエリスは堪らず燈の前に立つ。
「超火炎ぶった斬り!!!」
炎を纏った大剣で、エリスは糸を燃やし斬る。
『ギュアアアアァァァァァ!!!』
しかし幾ら斬り、燃やしても、糸は伸び続けた。
「エリス!!」
「ちょっと離れてろアカシ!!」
「でも…!!」
「いいから行け!!」
「…っ!! 死ぬなよ!!」
「あぁ!!」
言いながら、エリスはアポカリプスの糸に絡み取られる。だが、エリスは体に力を籠め糸の締め付けに必死で耐える。
『ギュゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!』
ならばと、先程のように糸を収束させるアポカリプス。
その手を以て、エリスを殺す気だ。
アポカリプスの伸ばした腕に、糸で拘束されたエリスが接近する。
それが、エリスの狙いだった。
「ううぅぅぅぅぅぅぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
エリスは叫ぶ。
大剣の刀身には更に炎が灯り、小柄ながら鍛えられたしなやかな筋肉に血管が浮かび上がる。
恐ろしいフィジカル、彼女は締め付けられたことで無数の傷を与えられながらも、その拘束を打ち破った。
「火回転!!!」
そしてアポカリプスの手から肩へと、火の竜巻が駆け上がる。
『ギュァァァァァァァァ……!!?』
腕に飛来する熱さとその直後に到来する斬撃による痛みが、アポカリプスの悲鳴を引き出す。
弱点が額の宝石ならよぉ!! 首ごと削ぎ落せばいい話だろうが!!!
エリスが目指すのは肩を超えたその先、対象の首である。
回転による威力、速度を利用してこのまま一気にアポカリプスの頸動脈目掛け、剣を振りかざした。
『アアアアアァァァァァァァァァ!!!???」
「うるせぇぇぇぇぇ!!! さっさとその首よこせぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
叫びながら、エリスは柄を握る手に更に力を籠め、一層腕を前に押し出す。
「くっ……!!」
な、何でだ…!! 何で斬り切れねぇ!? 間違いなく斬ってはいる…!! つまり斬り落とせるはずなんだ…!! なのに何でコイツの首はいつまでも落ちねぇんだ!!
苦悶の表情を浮かべるエリス、やがて彼女はその疑問の答えに、自ら辿り着いた。
「はぁ…!? コイツ…!!」
斬られたそばから再生してやがる…!!
アポカリプスは多量の血をまき散らしながら、斬られた肉を即座に新たに補完しているのだ。
これでは幾らエリスが刃を食い込ませ、斬ろうとも首が落とせないはずである。
さっきよりも再生の速度と精度が上がってやがる…!! テノラが言ってた力に慣れて来たってのはこういう事か…!!
「くっそがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
『アアアァァァァァァァァァァァ!!!!!』
エリスの怒号が、アポカリプスの抵抗が、聖地中を覆い尽くす。
「死ねやぁぁぁぁぁ…って!!??」
『ウゥ……ァ』
だが断ち斬る意思は、生の抗いに敵わなかった。
『ヤメ……テ』
「お前、喋れんのか…よ……!!」
何だコイツ…!! 知性まで持ち始めやがった……!! マズイぞ…こんなバカげた性能してんのにコイツが思考を始めたら……!!
『ギュゥ…サ、サワラナイ…デ』
首にいるエリスを、アポカリプスは掴み握りしめる。
「ぐあぁ……!!」
肉が圧迫され、それが骨まで届くのをエリスは痛みで感じた。
呼吸も上手く出来ず、辛うじて確保した気道で小さく息を出すのが精いっぱいだ。
『ギュゥゥゥゥ……ァア!!!』
そしてアポカリプスは大きく腕を振りかぶると、エリスを投擲。
「うおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!???」
投げられた当人は、叫び声を上げながら激しい音を立てて壁に激突する。
「エリスゥゥゥゥゥ!!!」
その光景を見ていた燈は、堪らず叫んだ。
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「あぁー……くそが…」
頭を自身の掌底で叩きながら悔しそうにするエリス。
「ってぇ…、これ骨イったな……」
体に訪れている痛みから、自分の負傷具合を分析する彼女は遠くにいながらも圧倒的な存在感と大きさを誇るアポカリプスに目を向けた。
身体強化と、大剣で激突の衝撃を防いで無かったら、マジでここで死んでたな…。
「援軍が来るまで…後どんくらいだ…?」
防人と…じゃねぇや今は連合軍か…。まぁどうでもいい、ソイツらとアタシ達があの魔獣と戦闘を初めて多分十数分が経った…。
早く来てくれねぇと…、ここにいる奴ら全員死んじまうぞ…!!
激しい危機感と絶望に苛まれながら、エリスはよろよろと立ち上がる。
「ぐっ…!? あぁ……!?」
痛みを堪えながら奮起した代償は、口からの吐血だった。
エリスの分析通り、彼女の体は激しいダメージにより限界に達している。
「こんなトコで、じっとしてられるかよ…!! このままじゃあ、アカシが……!!」
しかし、彼女は自分の体の心配よりも…『仲間』の心配を優先していた。
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『ギュァァァァァァァァァァァ!!!』
絶えず途切れる魔獣の叫び、最早それには艶めかしさすら帯びている。
「もう、駄目だ……おしまいだ……」
「イヤだぁ…!! 死にたくない、死にたくない……!!」
アポカリプスの残虐性と、恐怖を増長させる異端の容姿に立っている連合軍の面々は口々に絶望を口にして、腰を引かしていた。
「このままじゃ……!!」
どうする…!! 口から吐かれる光線、背中から出される強靭な糸、おまけに下半身と上半身から繰り出される攻撃は今までの魔獣とはケタ違いの威力だ……!!
それに何より、サーラ様吸収した事で手に入れているチート…!! アレのせいでこっちが幾ら攻撃しても意味が無い…!!
『ギュァァァァァァァァァァァ!!!!!』
考えろ…!! 考えろ考えろ考えろ!!! 今の俺の魔力量じゃ、身体強化したって出来る事はたかが知れてる……!! 俺がしなきゃならないのは、あの魔獣を倒す方法を見つける事だ……!!
『……』
どうする…? あの再生を凌駕する攻撃をして核を叩く…? 駄目だ、さっきの修復力じゃ絶対に……!!
『……?』
倒す事を放棄して皆を聖地から逃がす…? 無理だそんな事出来る訳ないし仮にできたとしても問題を先送りにしてるだけ…!!
思考する、それが唯一燈に許された行動。
大して賢くも無い自分の脳をフル稼働させ、彼はこの事態を終結させる方法を考えた。
チートの回収とか、そんな事のためではなく…ただこの地に住む人々の笑顔を守るために。
ん……?
思考の海に没頭している時、燈はふと…正面を見た。
は……?
目が、あった。
燈達が倒さなければいけない魔獣、アポカリプスが確かに燈を一点で見詰めている。
「お、俺……?」
ま、待てって。奴からここまでは多少距離は離れてる…。俺じゃない、俺じゃないはずだ…。だって俺を見てどうするんだ? 意味が無い。俺を見て奴には何のメリットも無い…。
必死で言い聞かせる燈、しかし思い当たる節がある。
先程も、魔獣の糸はエリスでは無く、燈を狙ったのだ。その事実が、燈の心臓を跳ね上がらせる。
『……ギュゥゥゥゥゥァァァァァァァァ!!!!!』
「おい…おいおいおいおいおい!!!」
轟く嬌声を上げながら、六本の足を駆使し一目散にこちらへ向かって来るアポカリプスに、燈は背を向けて走り出した。
「何だよ…!! 無差別じゃない!! 何で俺が……!!」
息を切らしている暇などない。必死で足と腕を酷使する燈。
『ギュゥゥゥゥァァァァァ!! キケン……!! オマエ、キケン……!!』
「き、危険って…俺の事言ってんのか…!?」
な、何で……何で俺が……!!
走りながら、心当たりを探す燈だがその理由は即座に思い当たった。
「アンチートの事言ってるのか……!?」
『キケンキケンキケン!!!』
「マジかよ……!!!」
速度を上げるアポカリプス、燈は確信した。
奴は自分の中にあるアンチートを本能からか、理由は不明だが危険視している事を。
だから集中的に狙い、殺そうとしているのだと……。
「冗談じゃない……!! 殺されてたまるか…!! あんな風になるなんて…!! それならまだ食べられた方がマシだ……!! ……っ!!」
生死を分ける走りの最中、発した言葉が燈の脳に…電流を走らせた。
待て……これなら、いける……!! …かもしれない!!
成功率は五分五分、しかし燈は見つけた。後方の魔獣を倒す策を、算段を。
だけど、やるためにはどうしたって人手が足りない……!! 番隊長や他の護衛団の人達はまだか……!!
『ギュァァァァァァァァァ!!!!!』
アポカリプスは糸を出す。今度こそ燈を捕らえ、殺すという圧倒的な意思が、糸にはあった。
このままじゃあ捕まる…!! そしたら終わりだ…!! 死ぬ…!!
「……冗談じゃねぇ!!!!!」
燈は加速した。身体強化を強めた訳では無い、純粋に自分の肉体を更に稼働させたのだ。
俺は死ねない…!! 俺は、元の世界に帰る…!! マキの元に、帰るんだぁぁぁぁ!!
最愛の人の顔を浮かべながら、建物が並び立つ通りで、地面を駆ける。
『ギュゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!』
「うおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
アポカリプスが、その糸が燈を襲う。
燈がどれだけ汗を流し、どれだけ足と腕を早く動かそうとも、その距離は着々と縮まっていた。
「くっ……!!」
全速力を維持するのも限界を迎えている。
後ろから迫る恐怖が背に圧し掛かる、それが更に燈の心を蝕んだ。
その時だった。
「ヒヒーン!!」
差し掛かった曲がり角、そこから一頭の馬が勢いよく飛び出してきた。
「っ!!」
燈は意識していなかった。ただ生きるために、生存するために手を伸ばし、その体にしがみついた。
そして燈が自分の体に捕まった瞬間、馬は真っすぐに走り出した。
「お、前…!!」
燈はこの感触を知っていた。
覚えのある匂い、聞き覚えのある声、何度も触れた艶やかな毛並み。
「ウマコ……!!」
背に上り、しっかりと騎乗の態勢になった燈は自分の愛馬の名前を呼んだ。
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