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佐久間くんレベルアップ  作者: 利苗 誓
第1章 善人
8/39

第7話 ババ抜きには勝率を上げる方法がある 1



 俺が生徒会に入って、数日が経った。

 慣れてみれば、なんてことはなかった。むしろ会長が俺に勉強を教えてくれる分、いつもより勉強効率が上がっている気すらした。

 そして今は、資格の勉強をしていた。 


「おい後輩」

「……」

「おい後輩」

「……」

「お~い」

「んぐ」


 夏目さんが俺の口に飴を突っ込む。


「汚い」

「お前が何も言わねぇからだろ」


 夏目さんはからからと笑う。


「なんスか」

「ゲームしようゲーム」

「どうぞ」


 俺は再び資格の本を読み始めた。


「おい後輩」


 夏目さんが本の下から出てくる。


「近い」

「ゲームしようゲーム」

「生産性がないんで却下。一人でやっててください」

「はぁ……」


 夏目さんはやれやれ、と首を振った。

 

「おい夜、お前が嫌いなのは生産性のないものだったな。官僚になりたいんだって?」

「はい」


 数日生徒会に出席しているうちに、俺のアイデンティティは理解されるようになった。


「世の中にはな、ゲームでのし上がるものもあるんだよ。ギャンブルしかり、家庭用ゲーム機しかり、ボードゲームしかり」


 夏目さんは得意げに言う。


「そしてな、後輩。トランプでのし上がる前例も、少なくはないんだぞ。そして社会に出てからもこういうちょっとしたゲームの腕とかが役に立つ時が必ず来る」

「ほお」


 面白くなってきた。


「お前は遊ぶことが嫌いなんじゃない。遊ぶことによって何の価値も生み出せなかったことが嫌いなんだ。例えばカラオケでも点数を伸ばすカラオケは有意義だと思っても、点数の出ないカラオケに価値がないと思っているタイプだろ」

「よく分かりましたね」


 鋭い。


「だからトランプだ。やるぞ」

「いいでしょう。乗った」


 俺は夏目さんに向き直った。


「でも今は会長がいないんで会長が戻って来てからにしましょう」

「いいナ! 二人ともいいか?」

「あ、はい、僕はなんでも大丈夫です」

「私も暇だからおっけ~」


 一宮と有明は答えた。


「じゃあもうすぐ会長も戻って来るし待っとくか~」


 俺たちは暫く会長の到着を待った。


 バタン、と生徒会のドアが開く音がする。


「佐久間さん、先輩、一宮さん、有明さん、どうしてこんなに勢ぞろいして……」


 会長は俺の口にくわえられた飴を見た。


「せ……先輩!」


 会長は俺の口にくわえられていた飴を取り上げた。


「先輩、また佐久間さんに飴咥えさせたんですか! 何てことするんですか、最低です!」

「いや~、そんなに怒らなくても~」

「この変態! アバズレ! 無能のごく潰し! 」

「ちょっとそれは言い過ぎだよ~」


 夏目さんはあはは、と笑った。

 会長は俺の口から取り上げた飴を自分で咥えた。会長、それはいいのか。


「だって後輩を見てみなよ、飴ちゃん欲しがってるし」

「まんま~まんま~」


 俺はつい夏目さんに乗せられ、言ってしまう。体が勝手に……。


「これは佐久間さんの特性です! 佐久間さんで遊ばないで下さい! 私の佐久間さんなんです!」


 会長は俺を抱き、夏目さんを睨んだ。

 佐久間さんは誰の佐久間さんでも、ないんだよ。


「会長、まあ落ち着いてくれ」

「あっ、佐久間さん、すみません……」


 会長は日が出たかのように顔を真っ赤にし、黙り込んだ。

 ここ数日で分かったことがある。会長は俺が攻めると、逆に困惑する。


「会長、トランプをしよう」

「トランプですか!? 素敵です! やります! 二人で出来るゲームって何がありましたか?」

「会長、私もいるんだよ」

「あ、そんなとこにいらっしゃったんですか先輩? 小さくて見えませんでした」

「ほう……」


 バチバチと、会長と夏目さんとの間で火花が散る。俺はこの状況を何とかしようと、口を出す。


「止めて! 二人とも私の為に争わないで!」

「黙ってろ後輩、これは女の戦いだ」


 こわ。


「ま、まあ佐久間さんがそう言うなら……」


 会長は静かに座った。女の戦いどこ行った。


「で、佐久間さん何のトランプゲームをするんですか?」

「ババ抜き」


 夏目さんが、言った。


「いいでしょう。俺がディーラー兼プレイヤーをやりましょう」


 俺は自らディーラーを志願し、ババ抜き対決が始まった。



 × × ×



「また負けたーーーーーー!」


 夏目さんが、叫ぶ。


「いやあ、俺また勝っちゃったな~。いや~、全然本気出してないんだけどな~、こんなに勝っちゃうと困るな~、あっはっはっはっは」


 俺は連戦連勝を極めていた。


「うぜぇ……」

「佐久間さん、素敵です!」

「あははは」

「なんで~?」


 銘々がそれぞれに思ったことを言う。


「会長、佐久間だけずるしたりしてるんじゃないのかな~」

「なっ、してません! それにそんなこと佐久間さんが一番望んでません!」


 その通り。


「いやあ、やっぱり困っちゃうな~、官僚になる才能ってやつ? あるんだよな~。トランプでも勝っちゃうって、本当人生負けたことないな~、一回くらいはすがすがしい負けを味わってみたいもんだな~」

「もう一戦! もう一戦だ!」


 夏目さんは声を上げた。俺は再びカードを配った。


「で、では佐久間さん、私のカードをどうぞ!」


 会長は俺にカードを差し出した。ほんのりと頬が赤い。

 俺は会長のカードを一枚取り、ペアになったので捨てる。


 どこかに秘密が、どこかに秘密があるはずだ……と、夏目さんは目を凝らしていた。だが、結局また俺の勝利でゲームは終わる。


「あああああああぁぁぁ! なんでええぇぇぇ!」


 夏目さんは頭を抱えていた。


「夜、ずるしてるな?」


 いわれのない疑いをかけられる。


「まさかまさか。そんな卑怯な事……」

「じゃあ次からは私がトランプ配る」

「え」


 それは少しばかり困る。


「えぇ~、後輩君、何がえ、だってぇ? ほらほらぁ、お姉さんに言ってみなさいよ、何がえ、だって~? えぇ? 佐久間ちゃんはトランプが配れなきゃ雑魚雑魚でちゅか?」


 夏目さんは口をすぼめて、言う。そしてカードを配り終えた。

 が、結局この回も俺の勝利。


「佐久間さん凄いです!」


 会長がぱちぱちと手を叩く。


「あれ、先輩、何か言ってませんでしたっけ? あれ、お姉さんに言ってみなさいよ、みたいなこと言ってみませんでしたっけ? あれれ~? おかしいな~」

「うるさい!」


 先輩は俺の口に飴を突っ込もうとしたが、間の会長に手を摑まえる。


「先輩、私の目の黒いうちは佐久間さんへの横暴は許しません」

「くそぉ……」

「あれ夏目パイセン悔しいですか? もう一回やります? まぁまた俺が勝ちますけど」

「リベンジ!」


 夏目さんはまたカードを配り始めた。


「でも佐久間さん、どうしてこんなにババ抜き強いんですか? ほとんど運の戦いにしか思えないんですが、私は」

「ああ、まあ楽しんだしそろそろ教えてもいいかな」


 俺は口火を切り出した。


「ババ抜きには、勝率を上げる方法がある」

「え?」

 

 会長はぽかんとした顔で俺を見た。






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