第38話 千田梨菜の憂鬱 1
「地毛の髪の色染めろって言って来る教師おかしくない?」
千田梨菜はなお言い募る。
「確かに、それが地毛なら逆に染めさせてることになるもんな」
「だから学校のこういう排他的なところが嫌いなんだよ。画一的で他と違う生徒を矯正して強制して、そうやって角を取って丸くして社会に出荷できる状態にしていく。本当学校のこういう所大っ嫌い」
千田梨菜は顔を赤くして怒る。
「あれ、でも染めてる奴もいたんじゃ……」
有明は髪色を染めていなかっただろうか。
それに、三東も校則に準じているか怪しいところだ。
「そこなのよ。この高校、そもそも髪染めるの校則違反じゃないから」
「なんだそれ」
じゃあなんでこいつは髪染めを強要させられているのか。
「私の教師がいちいちぐちぐちうるさいわけ。皆やってるんだ、とか。本当マジカス」
「マジカス~」
「マジカルみたいな言い方止めて」
千田梨菜の不興を買ってしまう。
「山本のカス!」
「こらこら、ここに先生がいるんだから」
俺は未玖ちゃん先生を見る。
「確かに、髪染めを強要させられるのは困りますね」
「本当それ。分かってんじゃん、先生!」
いぇ~い、と千田梨菜はハイタッチをしに行く。
「しかもだよ、あの山本、自分白髪染めしてるくせにうちに行って来るわけ」
「白髪染めくらい許してやれよ」
「はぁ⁉ 許すわけないじゃん、カス! あのカス! 自分は白髪染めしてるくせにカス! このカス! バカアホカス! 結局自分も髪染めてるわけ。何なのあいつ、本当カス!」
「そんなカスカス言ってたら自分がカスカスになるぞ!」
「ならねぇよカス!」
千田梨菜はだんだん、と机を叩く。
「あ~~~~! もう、ストレスかかりすぎてハゲそう」
「自然に解決しそうな問題だな。じゃあお次の方~」
「勝手に次に行くなカス!」
千田梨菜は俺の胸ぐらを掴む。
「ひ、ひぃっ! 暴力反対!」
俺は千田梨菜から離れる。
「キャラクターチェンジ! 行け、惣斉!」
「え、えぇ~~~……」
俺は惣斉に行かせた。
「え~っと、なんだろう、その~……」
惣斉はお盆を持ったまま千田梨菜の前へ出た。
「千田さんもそういう態度だから駄目なんじゃないかな? 髪染めろっていうのがおかしいのは分かるけど、千田さんもそういう言い方してたら相手から良いように思われないのも当然だと思うし、むしろ相手も千田さんのそういう態度が気に入らないから嫌なこと言ってるんじゃないの?」
「はぁ? 私が悪いって言いたいわけ? 私髪染めること矯正させられてるのに何をもってして私が悪いって言いたいわけ? は? 意味わかんないんだけど。じゃあお前は人から何か矯正された時に何の文句も言わずにはいはい頷いて従ってるわけ? マジ意味分かんね。頭おかしいんじゃない?」
千田梨菜は惣斉の前でメンチを切った。
「ひゅ、ひゅう……」
惣斉は虫の息だ。
行け! もっとやれ千田梨菜! 惣斉をこらしめろ!
「私が悪かったです……」
惣斉はそそくさと退場した。
「はぁ……仕方ないな」
俺は惣斉と変わり、改めてソファーに腰かけた。
「確かに教師の態度にも問題はあるが、お前の態度にも問題があるな。なんとかしてやろう」
「あの山本のカス何とかしてほしいわ」
「未玖ちゃん先生!」
「は、はい……」
見れば、千田梨菜の迫力に負けて未玖ちゃん先生は物陰に隠れて縮こまっていた。
「生徒のお悩み相談って未玖ちゃん先生提案だったよね? じゃあ未玖ちゃん先生、千田梨菜の件、未玖ちゃん先生一人でよろしく」
俺はそう言って席を立った。
「ま、待ってええええぇぇぇぇぇ! 一人にしないでえええぇぇぇ! 私には無理だからあああああぁぁ!」
未玖ちゃん先生は俺に追いすがって来る。
「離せこのクソアマ! 酒もねぇのにこんな所いられるか!」
「ひどすぎる……」
「佐久間最低~」
「お前も未玖ちゃん先生と一緒に千田梨菜のバックアップしろよ」
「ひゅ~」
惣斉の必殺技、知らんぷり。
「分かった分かった。実は俺に手がある」
俺は五本指を立てた。
「好きなのを選んでね!」
千田梨菜に言う。
「これ」
千田梨菜は中指を選んだ。
「エッチね……」
「キモ! どこがだよ! 最低死ね!」
俺は千田梨菜の問題解決に動き始めた。




