第36話 一人目の相談者
「実はですね」
先生は鹿爪らしい顔で言う。
「我が校の学力の低下が著しいのですよ」
「学力の低下……?」
俺は一宮たちと顔を合わせる。
「確かに佐久間さんや会長のトッププレイヤーで成績の上位層は底上げされてますよ。でもですね、その影響か、その他の層の生徒たちにやる気がみなぎってないんですよ」
「ほお」
俺は前傾して先生の話を聞く。
「私たちの高校の悪評もネットでばらまかれてましてね、このままじゃ来年の入学者が危ういんですよ」
「まあ学校も所詮営利企業ですもんね」
「佐久間さん!」
上野先生が立ち上がる。
「どうどうどう」
「何がどうどうどうですか! 先生ですよ! せ・ん・せ・い!」
「だって可愛いんだもん」
「こほん、では続きを」
「先生!?」
惣斉が立ち上がる。
「そこでですね、生徒たちの不満を取り除くために、投書箱が作られたんです」
「なるほど、それで……」
俺は投書箱の中に入っていた紙を見た。
「まあ先生も見てくださいよ、これ」
「これは……」
俺は生徒からの意見を先生に渡した。
生徒会や学校の体制に文句を言う、多くの意見。確かに、深刻にこの高校はまずいのかもしれない。
「まいりましたね……。なんでこうなったんでしょうか」
「……さあ」
「……」
「……」
先生は頭を悩ませる。
「そういうわけでですね、生徒たちからの悩みを会長率いる皆さんに解消してもらいたいんですよ」
「…………」
俺は後ろを振り返る。
「いやあ、先生、それはちょっと難しいんじゃないですかね」
「難しいですか? どうして?」
先生はきょとんとした顔をする。
「あはは……」
「いやぁ……」
「えぇっと……」
中々二の足を踏んでいる。
「まあ平たく言うとですね、先生がまいた種を生徒に押し付けるのはどうなんだ、ということですよ」
「な……」
先生は目を見開く。
「なるほど……そうですか」
「俺たちもここの生徒だから、この高校に思うことはあるわけですよ。この高校の、学校の体制の不備を、悪意を生徒会にぶつけてどうにか生徒たちの留飲を下げてもらおう、という施策はね、根本的に俺らも受け入れがたいところがあるわけなんですよ。どうして俺たちも被害者なのに、生徒の悪意を受けないといけないんだ、と多分思ってるんですよね」
「な、る、ほど……。こういう時は佐久間君の偽らない発言がありがたいですね」
「へへへ、よせやい」
俺は頭をかく。
「そういえば佐久間君、あなたは官僚になりたいんでしたよね?」
「え? ああ、まあ」
上野先生は俺に狙いを定めてきた。
「推薦で大学を受けたいんですよね?」
「まあ、出来ればそうやって入学するのが一番かなあ、と」
「もしこの投書箱システムを円滑に運営することが出来るのなら、私は一番に佐久間君を推しましょう」
「ケーダブリューエスケー」
「詳しくですね。私は校長から、この高校の問題を解消してくれれば、全権力をもってしてバックアップする、と言付かってるのですよ」
「いいね」
俺は親指を上げる。
「さらにですね、高校のパンフレットには佐久間君を起用することも確約します」
「マジかよ」
「高校のパンフレットで表紙に載るなんて、一体どれだけ面接で役に立つでしょうね。高校のパンフレットの表紙になり、生徒会をまとめ上げ、高校内部の問題を解決してきました、と言えば、一体どの程度評価がうなぎのぼりになるでしょうね」
「ほお!」
なるほど、それは確かにその通り。
「乗った、この話! 俺はやるぞ!」
「ふふふふ、佐久間君。私はあなたへの好感度があがりましたよ」
「今度デートしましょう先生」
「嫌です」
俺は満足したが、一宮たちは満足していない。
「先生、でも私たちは……」
惣斉たちは難色を示している。
「当然、あなたたちにも恩恵は、あります」
「え?」
「惣斉さん、あなたにも大学の推薦を推しましょう」
「本当ですか!」
惣斉が一歩前に出る。こいつも推薦目的で生徒会に入っていたのか。
「そして夏目さん、あなたには卒業後もお菓子を遅らせてもらいます」
「お菓子……お菓子!」
夏目さんはよだれを垂らす。安い女め。
「そして一宮さん」
「はい」
「…………あなたは特に何もありませんね」
「そ、そんな……」
一宮はしおれる。
「ですが、私たちの方でバックアップできることがあれば出来る限りにサポートはする予定です。やってくれますか?」
「は、はい……」
渋々、といったところか。
一宮の夢が何か分からない限り、何とも言えないところだな。
これから一宮のことをじっくり知って行けばいいだろう。
「そういえば有明さんが見当たらないですね」
「男とパーティー行ってましたよ」
「また佐久間君はそんな冗談を……」
「…………」
「…………」
「え、本当なんですか?」
本当である。
「有明さん、どうも生徒会のイメージと合わないような気がするのですが、どうなんでしょうか」
「さあ」
俺も有明のことはよく知らない。
有明のことも、今後じっくり知っていけばいいだろう。
「まあいいでしょう。それでは記念すべき、生徒会の相談室一人目を連れてきています」
「話が早いな」
「それでどうぞ!」
上野先生が扉に向けて手を振る。
キィ、と音を鳴らして出てきたのは、小麦色の健康的な色をした、金髪のギャルだった。
「マジ言いたいことあるんだけど」
「ふふふふ…………」
いきなり強敵が現れたみたいだな。




