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赤い髪のリリス 短編集 12、黒いコートの旅の魔導師(全2話)  作者: LLX
3、放蕩息子の気まぐれ(ガルシアとレイトの出会い)
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4、放蕩息子の気まぐれ

「あたしが連れて行かれそうになったのを、抱いて走ってくれたの。

追いつかれそうになって、山の中で高いところから飛び降りたんだよ。

怖かったよ、お兄ちゃんがいなければ、あたしきっとあいつらにひどい目にあってる。

あたしお兄ちゃんのためならなんでもできるよ!」


「あたしって、お前女の子か!妹なのか?」


「まあ失礼しちゃう!こんなに可愛い女の子なのに。

あたしは家無しの奴隷だったんだよ、物持ちについて行ったの。

お兄ちゃんは、優しいからお兄ちゃんだよ。」


少女がぷうっとむくれて、汚れて真っ黒の顔を上げた。



「ガルシア様—!」



この国の馬である巨大なネコ、ミュー馬に乗った側近が、ようやく探してやってきた。

真っ黒に汚れたガルシアの姿と、浮浪者のような少年と子供にがっくり肩を下げる。


「なんてお姿で……また汚い拾い者を。どこにお連れするつもりです?!」


「館だ。」


「はあ?ふざけたことを、怒りますよ!」


「いいから。で、お前朝食と昼食は食べたか?」


「え?ええ、もちろん戴きましたが。」


「よし、お前は歩け。ろくに食ってない、この者達を馬に乗せろ。」


「ばっ!馬鹿なことを!ミュー馬は貴族の乗り物で……ああっ!悪夢だ!」


「悪夢とはなんだ、お前よりこの子達は軽いぞ。

さ、乗るがいい、疲れただろう。家まで結構あるからな。」


「でも……」


「わあ!すごーい!かわいい!」


「風呂に入って、美味い物食って元気になれ、仕事はたくさんある。

そして落ち着いたら、ちゃんと店に謝りに行くんだぞ。」


「はい!分かりました、ご主人様!」


「ご主人様か〜、へそがかゆくなるな。」



ガルシアはさっさと馬を寄せ、子供を乗せるとレイトにも乗るよう勧める。

そして後ろから側近がわめくのを無視し、馬を引いて歩き出した。


「ガルシア様!」


「うるさいなー、黙って歩け。」


「こんな浮浪の輩をミュー馬に乗せて、町を歩くおつもりか!

お家の恥ですぞ!ガルシア様!」


「クリス」


地団駄踏む側近に、ぴしっと指さした。


「馬は元来、人を助けるための物。

元気の有り余っているお前に、馬の助けは必要か?」


「え?い、いえ、でもしかしですね。」


ガルシアが、ニッコリ頷いた。


「よろしい、では後ろを預けた、付いて参れ。」


「ガルシア様!また屁理屈を〜」


「なあ、クリス。お前最近馬ばかり乗ってるから太ってないか?」


「えっ!」

慌ててクリスが身体を探る。


「それに、お前がまた女結びなんかするから、俺はたいそう恥をかいた。

よってこれから身の回りの世話はこのレイトにして貰う。

お前は変わらず俺の側近で他のことを手伝ってくれ。」


「そんなどこの輩かもしれぬ者に、御館様はお許しになりません!」


「よい、俺の部下は俺が決める。配置もな。」


この主は言ったことは貫くだろう。

がっくり、クリスが肩を落とした。


「……そうですか……」


シュンと声が小さくなった側近に、ガルシアが驚いて振り向いた。


「お前嬉しくないのか?

不得意な着付けから解放されるんだぞ。」


「でも、私は無能でございますから。」


「ほう、お前は無能であったか。知らなかった。」


「そう、今おおせでございました。」


「俺は不得意は他の得意な者に譲り、得意なことで俺を助けよと言ったのだ。

そうだな、言うなればお前は料理人なのに馬の世話をしていたのだ。

馬が機嫌を悪くして暴れぬうちに、本職に戻ったが良かろうと言うことよ。」


「はあ、そう言うものでしょうか。でも私は寂しゅうございます。」


「俺は嬉しいぞ、おまえの思い悩む顔を見ないで済む。

明日から得意なことでバリバリ働け!期待しているぞ!」


側近の顔がパアッと輝いた。


「はいっ!ガルシア様!」


馬上から、レイトが二人の様子を見て息をのむ。


この方は、器が計り知れないほどに大きい。

私は、本当にこの方が満足できるお仕えができるのだろうか。


思い悩むレイトをよそに、馬は時折ミュウミュウと鳴き声を上げて引かれていく。

やがて目の前に現れた屋敷は、彼の予想を大幅に超えるものだった。


ガルシアは怒り狂う父親を言いくるめ、結局レイトをそば付き小姓にしてしまった。

レイトも傷を癒しつつ彼の期待に応え、物覚えも良く器用にすべてをこなして行く。

ガルシアはおおらかな性格で時に驚くような洞察力を見せ、レイトもそれに引かれるように自分を磨いて行った。


懸命に日々を送るレイトがしかし、ガルシアが王族でレナント公の息子であることを知ったのは、ずっと後のことであった。

レナント領主のガルシアと、彼の身の回りの世話をするレイトの出会いの話です。

レイトは彼と出会って運命が変わりました。

ここでは、リリスの周りの人間の、人間模様を時々載せようと思います。

ありがとうございました。

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