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赤い髪のリリス 短編集 12、黒いコートの旅の魔導師(全2話)  作者: LLX
3、放蕩息子の気まぐれ(ガルシアとレイトの出会い)
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2、放蕩息子の気まぐれ

作業場のあとにある井戸をのぞく。

滑車の壊れたつるべは使えないらしく、戸板の裏に古い縄でくくった桶が隠すように置いてあった。

ぼろぼろの縄は、これではあと何回くめるか分からないだろう。

辛うじて建っている家の中をそっとうかがうと、人がいる気配はない。

壊れた方へ足を踏み出そうとして、ふと足下に気がついた。


不自然に石が、家の板張りにまでまいてある。

うっかり踏むと、ガリガリ大きな足音を出してしまうだろう。


これは……

中の奴らも馬鹿じゃ無さそうだな


クスッと笑って少々考え、ガルシアは庭に積んである石の影にすわりじっと待つことにした。



やがて数十分ののち、パンを盗んだ子供が周りを伺うように出てきた。

盗んだパンを食べてホッとしたのか、いくらか顔が落ち着いている。

ずいぶん警戒している様子でキョロキョロしながら、手にはへこんで形の変わった水差しを持ち、井戸にたどり着くと水をくみ始めた。

桶を真っ直ぐに落とし、そして縄を切らないように慎重にそっと上げる。

水差しに水をうつし、大事に抱えて崩れた方の中に戻って行った。


わざわざ崩れた方にいるとは……

今にも崩れ落ちそうなのに。


ガルシアが、そっと後をつける。

中からかすかに、人の話し声が聞こえた。


「……もう、盗むのは駄目だ。」


「じゃあ、何を食えばいいっていうんだよ、飢えて死ぬのはいやだ。

この姿じゃ誰も雇ってくれないし、もう何度も盗みに行ったからきっと捕まったら殺されちゃうよ。」


「明日になったら森に行こう。山で食べ物を探して暮らせばいいじゃないか。」


「でも……小屋なんて作れないよ。家はどうするの?」


「それは……」


「それに兄ちゃんはまだ歩けないよ。足の腫れがひどいじゃない。

せめて足が治るまで、ここでがんばろう。

ね、向こうに畑を見つけたんだ。明日は畑から少しだけ取ってくるよ。

飢えないくらいなら、神様もきっと許してくれるよ。」


「盗みを許す神なんていないよ……」


中を見ると、自分と同じ年頃の少年の横に先ほどの子供が、落ちた天井の隙間に小さく身を潜めている。

少年はケガをしているのか、暗い中で子供が布を水に浸して彼の足に巻いていた。

切羽詰まった二人の間に、重い空気が流れる。

ガルシアは、二人がどうするのか興味があって、その場に膝をつきじっと耳を立てた。


少年は足をくじいていて動けない。

子供は小さくて腹を空かせている。

しかもこれまで盗みを働いて、町に救いを求めることもできない。


さて、どうする?

いっそ袋だたきにあっても、町に出て助けをこうか?


少年は痛む足を押さえ、うつむいて目を閉じる。

子供は疲れたのか横になり、彼に寄り添った。


もう、何も浮かばないか……


ガルシアが身を起こしかけたとき、ふと、少年が顔を上げた。



「お前は養護院に保護して貰うんだ。私は役人に捕まるから。」


「えっ?なんでお兄ちゃんが捕まるの?盗んだのは……」


「私がお前に盗ませたんだ。

ほら、井戸の桶につないだ縄があるだろう?

お前は明日、私をあの縄でくくって町に出て、そして私に脅されて盗みを働いたと町の人に言うんだ。

町の人は、まだ小さいお前を同情を持って迎えてくれる。

大丈夫、お前は演技が上手い。

良く嘘泣きして女中頭に謝っていただろう?あれでいいんだよ。」


「でも、それじゃあお兄ちゃんが……」


「私は大丈夫、おまえよりは上手くやり過ごせるよ。

まだギリギリ子供だし、裁判までは時間がある。

その間、役人はきっと足をきちんと手当てしてくれるよ。

痛みが軽くなったら隙を見て逃げて、そして山を越えて隣の国に行くから。

私の器用さは知ってるだろ?」


少年は、町の人々から暴力を受ける覚悟がある。

しかし、この子供だけでも救うにはこの方法しかないだろう。

せめて町の人々に、落ち着いた理性があることを願うだけだ。


子供は指をかんで迷いつつ、顔を上げた。

「お兄ちゃんについて行きたい。駄目?」


少年は首を振り、子供の頭をやさしく撫でた。


「養護院にいれば飢えることもないらしいよ。

上手く行けば、いい人の養子になれるさ。

たとえ使用人代わりにされても、またこれまで通りに言うことを聞いていれば、お前は家の名を引き継げるんだ。

孤児ではなくなるんだよ。」


「お父さんとお母さんが……できるのかなあ。」


「できるよ、お前はとてもいい子だから。

私は隣の国で働いて普通に暮らすよ。」


「うん、お兄ちゃんはなんでもできるから、苦労しないね。」


「大丈夫だよ。ありがとう。」




「へえ、お前はそんなに器用なのか。」




ガルシアが、とうとう姿を現した。


「あ!こいつ!」


子供が驚いてとっさに飛びかかるが、ガルシアは軽くやり過ごして腕を掴み、少年へと放る。


「わっ!この……お兄ちゃん!」

「こっちへ!」


少年は奥に逃げ道を作っているのか、子供を奥へと押し込み自分も這って逃げようとした。


「待て待て、面白い奴らだ。お前達は頭がいいな。」


ガルシアが、追いかけて崩れた天井の下に入っていった。

足の悪い少年は逃げられないと観念したか、出口をふさぐように座ってこちらを向く。

子供はいったん先に逃げて、すぐに戻ってきてしまった。


「何故逃げないんだ!」

「だって、兄ちゃんが!」


少年ががっくりと子供の頭を撫でた。

一人で逃げて、この小さな子供一人何ができる。


計画が台無しになって、少年がガルシアをねめつけた。

ガルシアはホコリに咳をして、やれやれと肩を上げる。

ひどいところにいるな、と周りを見回した。


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