1、放蕩息子の気まぐれ
レナントの城下では、こんな歌が子供達に歌われた。
「城主の息子、ガルシア様は、王族なのに変わり者。
果物かじって町を歩き、お供はお馬でついて行く。」
いつもの出店で、その13歳の少年はリンゴを3つ買って一つ美味そうにかじりだした。
軽装の姿は、しかし町人には見えず、地味な中に装飾が凝っている。
それは身分の高い者しか身につけない物が多く、確かに彼はこの国の王の血族の一人だった。
しかし今日は、供も連れず一人。
いつも連れている側近が席を外している間にこっそり出てきてしまった。
気がついたら、慌てて探しに出てくるだろう。
「おや?」
店主の妻が、おおらかに笑って指を指す。
「ルシー、帯の結び目が変だよ。」
言われてもわかってると言った顔で、町の人々にルシーと愛称で呼ばれるその少年ガルシアが、ため息混じりにひょいと肩を上げた。
「知ってるよ、女結びだろ?」
「ああ、色っぽい逆の女結びだねえ。」
「仕方ないんだ、そば付きが不器用でね。父の人選は時に八百屋を魚屋にしてしまう。」
周りがプッと吹き出して、次に大声で笑い出す。
彼のそば付き、側近は騎士の末子だ。
騎士とは言え穏やかな性格から、側近に良かろうと父が部下の薦めを丸呑みしてガルシアに仕えさせた。
確かに頭も良く明るい少年だ。
ところが、思った以上の不器用者で、正装の着付けや帯の結び方がとんでもなく下手で困っていた。
侍女に手伝わせても構わないが、それは返せば側近への当てつけになる。
仕える者の家にも恥をかかせてしまうだろう。
だが、正装が乱れていても、彼に恥をかかせてしまう。
だからそのたびにガルシアは、彼の見えないところで別の者に直して貰っていた。
一人の側近が身の回りのすべてをまかなうこの国の慣習も、男性には少々厳しいものだ。
「本心を言えば……あれの手はいらぬ、頭だけで十分なんだ……」
つぶやいてガルシアは手を挙げ店を離れると、2個目のリンゴをかじりながら町をぷらぷらいつものように歩き出した。
なんか面白いの無いかな
空を見上げると青い空が広がっている。
「ああ、なんていい天気だろう。こんな日に、城にじっとしていられるか。」
歩いていると、突然横のパン屋からボロを着た汚い子供が走り出てきた。
「泥棒!どろぼー!」
パン屋の親父が大きなお腹を揺らして追いかける、が、相手は命がけ。
あっという間に子供の姿は見えなくなった。
子供はよほど腹を空かせていたのか、目つきが鋭く切れそうな気配をしている。
「親父さん、諦めなよ。あれは追いかけると危ない。」
ガルシアが声をかけると、パン屋の親父が気がついて手を挙げた。
「やあ、ルシーじゃないか、またお忍びかい?
いやいや、あの子にはもう何度もやられたんで。
孤児の泥棒猫がその先の石屋のあとに住み着いちまってねえ。参ったよ。」
「へえ、でも孤児は確か養護院が世話してるはずだけど。」
「どうも山向こうの村の奴隷が逃げてきたらしいんで。
役人が保護しようとしたけど、隠れて捕まらないんでさ。
よほどひどい目にあったんでしょうよ、全然人を信用しやしねえ。」
「へえ……」
なんとなく、子供の消えた方に目が行く。
「ルシー、行っちゃいけないよ。さっき危ないって言ったじゃないか。」
「そうだな、親父さんはね。」
パン屋の親父に手を挙げて、ガルシアの足はその廃屋へと向いた。
家というより小屋と行った方が早いその家は、町の外れのやぶの中にあってすでに家の半分は崩れ落ちている。
元は石屋と聞いたが、切り出した石や砂利がそのまま放置してあり、余計に寂しさを募らせていた。
実は、リリスの中でダントツでガルシアが一番好きなのです。
だから凄く書きやすいです。
きっと頭の中で、人間がすっかり出来上がっているのかもしれません。
彼はいつも頭の中で、あぐらをかいて時々フラッといなくなります。
嫁さんを早く作ってあげないと、側近のオヤジどもが眉をハの字です