表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤い髪のリリス 短編集 12、黒いコートの旅の魔導師(全2話)  作者: LLX
12、黒いコートの旅の魔導師(400話記念の短編)全2話
PR
27/28

1、黒いコートの旅の魔導師


なんだか、お腹が痛いな。


そう思いながら夜の山中を歩いていた。

何を食べたかとか、思い出すのは旅に出たら容易だ。

地の神殿で出された物に問題は無い。すべて新鮮で美味しかった。

持ってきた物か、途中の村で買ったもの、道行きで取った草木や木の実くらいしかない。

でも、今のところお腹下してるわけじゃないし、


……まあ、旅の時に下痢することほど悲惨な物は無い。

水が近くにあれば助かるけど、動けなくなるし命に関わるし、なにより汚れるしかぶれるし臭いし、最悪になる。


「アトラーナじゃ、向こうの世界みたいにトイレットペーパーなんて無いからね。

暖かいトイレの椅子やお尻を洗うトイレの噴水なんて、あんな物に慣れたら堕落(だらく)して、こちらへ帰れなくなってしまうよ。

おお、恐ろしい、恐ろしい、うらやましい、文明という物」


笑って独り言をつぶやいて、水を探してちょっと休むことにした。

もう何度も通る道なので、水の在処はわかっている。

もう少し行ったところの、大きい曲がり角の横に立つ立派な木の当たりから右に森に入ると小川への近道だ。

川の畔にちょっとひらけた場所があるので、そこに休もうと思う。


だが、普通はこんな夜更け、あまり道からはずれて歩くのはよくない。

魔導で灯りを灯しても足場が見えないし、どんな危険が隠れているのかわからない。

まあ、元々危険だと言うことは、百も承知の夜の旅だ。

これだけ急ぐ事には訳がある。

いや、急がなくてもいいのかもしれない。

だって、もうどう考えても明日までに帰るなんて無理だ。

諦めて明後日に着けばいいじゃないか。今はザレル様が家にいるんだし。

帰りが遅れると、便りに鳥を紡いで飛ばせばいいし。


……あれ?そうだ!きっと急がなくてもいい。


あっ、なんてことだ、じゃあ僕は何でこんな夜中に歩いてるんだ。

……だって、勉強したこと早く試してみたい、清書ノートに書き留めたい、母上様に自慢したい。



立ち止まって、脱力した。

膝頭に手を置き、大きくため息をつく。

まだ痛いお腹をグルグルさすった。


そうだ、またやっちゃった。きっと無理して歩いたのバレて母上に怒られる。

もうとっくに風の精霊が母上へ報告に飛んだに違いない。

ああ、この気忙しい性格をどうにかしたい。

決めると一直線に走り出す。


“お主はまるで、ビックリシビルじゃ”


そう言った母上のたとえは、(まと)を射ている。

シビルは向こうの世界で言う羊だ。

フワフワして可愛いのに、突然驚いて走り出すと猪突猛進恐ろしいほど一直線に突っ走る。

ベスレムで静養していた頃、何度かそれを見たけど、あれはなかなか脅威だと思う。

突然ドドドドドッと空気を揺らすほどの地響きが響き渡り、シビルがいきなり大群で走り出す。

でも、ベスレムの人は慣れた物だ。

ああ、シビルだね。と、窓からいちべつもしやしない。

あんなどっしりした、落ち着きのある気風がうらやましい、僕も見習いたい。


ああ、お腹痛い。



ガサガサ、シンとした中を草をかき分け、踏みしめる音が響く。

精霊が手招きする方に行くと、丈の長い草の間に草が踏み固められ気がつかないような小道が出来ている。

やっぱり小川に近道する人は多いのだろう。

サラサラと水の流れる音がだんだん近くなっていく。

まだお腹痛い、確かここの水際には痛み止めの薬草が茂っていたはずだ。

とにかく早く休みたい。

小道を選んで歩き、水の流れる音が聞こえてホッとした時、心臓がドキッとして足が止まった。


なにかいる。


視線を感じる。



魔導の灯りを消すか?……いや、とうに見つかっているなら消す必要も無い。

フードをかぶって髪を隠し、手を組み、印を結んで呪をささやく。

周囲に精霊が集まり、臨戦態勢を敷いた。

人間がいるとは思えないが、動物なら驚かせて、逃げてくれればそれでいい。

冷や汗が流れ、じっとあたりを警戒する。

川の方から火の色が、木漏れ日のようにチラチラと見えて、たき火があるのだと人の存在が確信に変わった。

じりじりと歩みを進め、川の畔へと出たとき


ばさり


黒いフードが目の前に大きく広がり、中の黒いもやが首をもたげる。

黒い手が伸びたと思ったら、中から黒いヘビが無数にこちらへ向かって飛び出してきた。


フュッ!


呪をこめた息を吹き付け、後ろへ一歩下がる。

ヘビたちはボロボロと形を崩し、黒い手はひるまずくるりと弧をかいた。

空中に怪しく光る黒い穴が現れ、恐ろしげな声が響く。


オオオオォォォ…………オオオオォォォ



「なんと、いずこより何を呼び出されるおつもりか?


そは出口にあらず、またなんびとも入ることも(たが)わず。

イル、ザルク!閉じよ!!」


風を切って、左手を穴を切り裂くように振り下ろす。

それは、大きな衝撃派となって、穴を四散させた。

気がつくと、黒いフードも後ろに吹き飛び水に浮いている。


「ああああ!!やってしまいました!

御本体が見えなかったので、手加減無しでやってしまいました。

はたしてどちら様でございましょうか?」


近くの枝でたぐり寄せ、水からすくい上げてぎゅっと絞る。


「ナ……ゼ、オドロカヌ……オマエハ、ナニモノカ」


絞る手元から声が漏れ聞こえる。


「はあ、だって、まあ、こう言うの初めてじゃありませんし。

だいたい幽鬼系は精霊のイタズラって事が多いのです。

人様であれば、もっと直接的です。

私は左右で目の色が違う珍種ですので、見世物小屋に売られそうになったこともございますので」


そう言って目を指さす。

まるで晴れた日の洗濯のように、勢いよくパンパンッと黒いフードコートを大きく広げて近くの木に干した。

リリスの背後で木陰に隠れていた影がギュッと杖を握る。

するとリリスがくるりと振り向き、満面の笑顔で一礼した。


「このような姿なので怪しい奴とお思いでしょうが、実は怪しくないのでどうぞ御容赦を。

ひとときを、静かにご一緒できれば幸いでございます。

風様の元で修行中のリリスと申します。」


明るい少年の言葉に、拍子抜けしたのかチッと小さく舌打つ音がした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ