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赤い髪のリリス 短編集 12、黒いコートの旅の魔導師(全2話)  作者: LLX
4、無二の宝石(ヴァシュラムとガラリアの出会い)
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2、無二の宝石

その村は、消えていた。と言っていいだろう。

村は、何かに襲われたのか畑も家も焼き討ちされ、破壊し尽くされていた。


血のあとが至るところ地面に残り、近くには墓らしい土の盛り上がりがいくつもあって自分が支配する土の下には沢山の骸が眠っているのがわかる。

墓の下に眠る屍は、男も子供も女も、ことごとくが首を断たれている。

少年の両親も、その中に葬られていた。

だが、そこにあの少年と妹の骸がない。

助かったのか、どこかに逃げたのか…………生きている。なぜかそれだけは確信できた。


一体何が起きたのか。

ここで戦でも起きたのか、周辺には争うような村もない。

隣国が攻めてきたという話しも聞かない。

いつもの彼なら気にもとめなかったろう。

だが、あの宝石のような少年が気がかりで、彼は配下の精霊に調べさせた。


その村は、彼が来なくなった数日後に、この国でも悪名を馳せていた盗賊に襲われていた。


つまり、すでに半年も前だ。

だが、その盗賊は彼が知る限り山をいくつか越えた国境に巣くい、人を殺して盗賊行為をしている人間達だ。

王から討伐に力を貸して欲しいと話しがあったが、気が向かないのでうやむやな返事で放って置いた。


しかしこの村に、彼らが狙うような物はない。

ただ、あるとしたらあの宝石のような少年。

どの人間の女よりも美しい。

その美しさは遙か離れた本城の王でさえ、隣国の王でさえも耳にしており、貴族たちの間でも噂になっていたほどだ。


もっと配下の精霊を使って詳しく調べれば、捕らえられているなら精霊の王である彼にはその場所も容易にわかるだろう。

だが、彼はすぐにそうした行動に出なかった。


彼は、しばしその朽ちた村で、少年の幼少の頃からこれまでの姿を思い返しながら過ごした。

何事もなく立っている木にやどり、目を閉じて風に身を任せれば、あの少年の小鳥のような歌が聞こえてくる気がしてくる。


すぐに、そうしたことには飽きると思っていた。


だが彼の胸には懐かしさがつのり、狂おしいほど愛情を持って見守っていた事に次第に気がついて行く。

人間に対して、そんな感情を覚えたのは巫子以外の人間では初めてで、どうしていいのか考えも浮かばず混乱していたと言うのが本当だろう。


巫子と違って、自分には必ず存在しなくてもいい人間だった。

それよりも、どこかで生まれ変わる巫子を迎えに行かなくてはと、心のどこかでせき立てる声が聞こえる。

あの子は巫子ではない。

忘れよう。

くだらないことだ、人間の生き死になど自分には関係無い。

また他に楽しみを探せばいいだけだ。


思いを馳せて気がつけば、雨が降り続いたのか、周辺はすっかり湖のようになってしまって村は水没している。

やれ、これもシールーンの仕業かと村に見切りを付け、木を離れて飛び立って行く。


あれからどれだけの月日が過ぎたのだろう……旅だった彼は気分を変えようと、友人に合うため風の神殿を訪れた。

人間に関わることを嫌う彼女らしい小さな神殿には、人の良い年老いた巫子が身寄りのない子供を育てている。

別棟から聞こえる子供の声が、今日はなぜか不快に聞こえた。


出された香り茶の香りをかいで、ぼんやりと遠くに見えるアトラーナの城を眺める。

盗賊は討伐されたのか、相談して来たときの王の顔がぼんやり浮かんだ。

人間のことに、なぜ精霊である自分を頼ろうとするのか。

盗賊も不快だが、王も不快だ。

何もかも不快でかかわりたくない。

そう思った。


室内を風が通り、いつのまにか横にセフィーリアが立っている。

何用かと問われても、特に用はない。

彼女のいつもの無表情な顔が、怪訝に歪む。

なんて顔だと苦笑して、彼女にどうしたと尋ねた。

が、返ってきた答えは問いだった。


「なぜ泣いているのだ、ヴァシュ。そんなに泣きはらして、まるで泣き妖精だ。

それほど巫子が死んで悲しかったか。」


まさかと苦笑して頬を指で拭いた。

そして、ハッとして周囲を見回す。


目からはまるで泉のように水が流れ、気がつけば周りに水たまりが出来ている。


まさか、あの村で雨だと思っていたのは自分の涙だったのか。

村が水浸しになったのは、自分の流した涙が原因だったことに初めて気がついた。

そして、ようやくそこで自分の気持ちがはっきりとわかった。


「巫子ではない人間を失ったことが悲しいのだ。

巫子ではないのに、なぜだろう。

巫子が死んだ事よりも、その子が消えてしまった事が悲しいのだ。」


「お前が悲しいなら、それはお前の巫子であろう。」


「そうであろうか。」


「巫子とはそう言うものだ。巫子は我らが決める。

たとえ王であろうと口出しさせぬ。」


セフィーリアの言葉はもっともだと思う。

ずっと見守って、これほどまでに愛でてきたのだ。

これほど愛しているのだ。

あの少年は、自分の伴侶に欲しい。永遠を共にしたい。


なのに、守ってやれなかった。


あの平和だった村の惨状に、ふつふつと怒りがこみ上げてきた。

今、あの少年がどれほどの苦難に遭っているかを考えると、その怒りは地鳴りを起こしビリビリと地面をゆらす。

セフィーリアの館の窓がガタガタ音を立て、廊下で誰かが小さく悲鳴を上げた。


「さすれば……」


心を決めた。

ヴァシュラムが、涙をふいて顔を上げる。


「盗賊め、我が巫子を奪った罪は重い」


呪いを吐くように、重く、暗く吐き出す。

ドロドロと地響きは激しく鳴り響き、やがて彼は国境にある一つの山を見ると、そちらへ一気に飛び立って行く。


それを見送りながら、初めて聞いた彼のその暗い声に、セフィーリアの心がゾッと冷えきっているのを感じる。

あたりには、季節外れの寒風が吹きすさんだ。


彼、ヴァシュラムは、すでに見つけていたのだ。

永遠の時を共に生きる伴侶を。

だが、少年は彼の存在さえ知らない。

そして少年は普通に生きる事しか望まない、ごく普通の人間でしかなかった。


その夜、アトラーナでは、轟音と地響きを立てて国境の山が大規模な地滑りを起こし、小さな村が2つ消え、一つの山が半分の高さになった。

それはのちにヴァシュラムへの怒りとなって声が上がったが、それは次第に有無を言わさぬ彼への恐怖と畏敬と変わっていく。

時に彼の気まぐれで頻繁に起きていた地滑りや地震、山崩れも、それはガラリアが巫子の座に着くと、次第に減ってアトラーナは豊かな土地へと変わって行った。

気まぐれで残酷なヴァシュラムは、不動でいれば豊かさを生み出します。

ガラリアは、そんな不安定な彼の支えとなったのかもしれません。

でもそれは始まりは一方的な物で、ガラリアがどう受け取ったかは不明です。

無二の宝石、終了です、ありがとうございました。

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