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雑談とか

VRMMORPGでログアウトできなかったり、トラックに轢かれそうになったり、転校生が来なかったり、男勇者が足手まといだと叫んだり、魔術試験が楽勝だったり、妹が血が繋がっていないとか言い出した件。

作者: ACT

世界中のゲーマーたちが熱狂する世界最大規模のVRMMORPG『スティグマ』。

俺は歴代最高のプレイヤーポイントを保持するランカーとして君臨していた。

一部のメディアやプレイヤーはそんな俺を『魔王』と呼んでいる。


ランカーには特権として『ダンジョン』が与えられる。

そして、そのクリア報酬はランカーのランクに比例する。


高額なクリア報酬が用意された俺の『ダンジョン』に多くのプレイヤーたちが訪れた。

だが今では、その圧倒的な難易度に恐れ、ほとんどのプレイヤーは踏み込まなくなってきていた。


「今日も王座の間まで来たプレイヤーは0か……」


俺は血の色をしたワインを片手に呟いた。実に退屈だ。

強者とは常に孤独なものなのか。


クックックと笑うと、ワインを口に運ぶ。

VRなので味は再現できない。でもこういうのは雰囲気が大事だ。


しかし、ほんとに誰もこないな……さすがに飽きてきたぞ。他のゲームやるか?

先月から始めた他のMMORPGもかなり楽しいし、ちょっと様子を見に行くか。

俺は視界の右下の中空に浮かぶ『ログアウト』を押した。


「……?」


何も起こらない。『ログアウトのメッセージ』が表示されるのだが……。

不思議に思った俺は再び『ログアウト』を押した。


──だが反応はない。心に不安が押し寄せる。


『ログアウト』『ログアウト』『ログアウト』──。


何度押しても何も起きない。


「──システムコール!」


俺は緊急時用の運営への連絡回線にコールした。

悪戯、即BANの専用回線だ。だが何も起こらない。


「……まさか」


俺の背筋に悪寒が走った。





「まさかパソコンがフリーズしているとはな……」


翌朝。俺は眠気を抱えた頭で通学路を歩いていた。昨晩は最悪だった。


まさかフリーズしたゲームをずっと眺めていたとは。

しかもひとりで「俺ってば強すぎる」と思っていたのだから始末に負えない。


今思い出しても顔が赤くなる。

さらに今朝、そのことで悶える俺の姿を妹に見られてしまった。


「ああ! もうこの世界から消えてしまいたい……ん?」


ふと、正面から猛スピードで走るトラックに気がついた。

人通りの少ない狭い道路だ。

もしかしたら向こうはこちらに気がついていないかもしれない。

身の危険を感じた俺は警戒した。

しかし、道幅の狭いこの道路に逃げ場などどこにもない。


「おいおい……、ウソだろ──?」


俺とトラックが接触した。





「……おはよう」


俺はトラックが掠めた右肩を撫でながら、隣の席に座るクラスメイトに挨拶した。

なんか昨晩からついてないな。まあ大した怪我もなかったからラッキーなのか?

そう思っていると、教室の前の扉が開く。担任が姿を現した。


そういえば、先週のホームルームで、今日は転入生がくるとか言っていたな。

さらにこれは噂なのだが、帰国子女の超美少女だとか。

クラスの男子の視線は登壇する担任に集中した。


「先生、転入生は?」

「転入生は隣のクラスになった。男子の人数が不足してたからな」


男子生徒から落胆の声が聞こえる。

しかも担任の言い方からして転入生は男子だ。


やはり噂なんて信じちゃダメだな。

俺は1限目の準備を始めた。





帰宅した俺は昨晩とは違うVRMMORPG『リファレンス』を起動した。

四人パーティで冒険するオーソドックスなファンタジーRPGだ。

ここで俺は男魔法使いをしている。


他のメンバーは、男勇者、女戦士、女僧侶だ。

パーティの仲は良好。このまま魔王まで突き進むのだろうと、そう思っていた。


男勇者が話があるから二人きりになりたい、と話しかけてきた。

俺たちは女戦士と女僧侶の目を盗んで、宿屋の裏手に回った。


「……なあ、先日のバトル。お前、一人やられたよな?」


……あの件か。先日、俺たちのパーティに不相応なモンスターに遭遇した。

このままでは全滅すると思った俺は、仲間の回復時間を稼ぐためにヘイトを集めて盾になった。

そして俺は死んでしまったが、勝つことはできた。……辛勝だったがな。


男勇者の目が鈍く光る。そして俺に向けて叫んだ。


「ふざけんなよ──! 足手まといじゃねえか!」


俺は言葉の意味がわからなかった。


「…………足手まとい?」

「そうだよ」


男勇者は荒げた息を整えると、荷物から一本の杖を取り出した。


「──ごめん。いつも足引っ張って。デスペナでアイテムロスしただろ? これ、代わりになるか?」


男勇者は頭を下げると、その杖を俺に差し出した。

突然の展開に慌てた俺は男勇者の手を止めた。


「ちょ、ちょっと待てよ! 俺たち仲間だろ。悪いのは全部このゲームのクソ仕様だろうが」


このゲームは死ぬと一定の確率でアイテムをロストするクソ仕様が実装されている。

マジで客を舐めてると思う。


「しかもこれ……レアだよな?」

「昨日買ったんだ」

「……いくらした?」

「値段なんてどうでもいいだろ。ほら、いいから黙って受け取れよ」


男勇者はそういうと、嫌がる俺のアイテムボックスに無理やり詰め込んできた。

クソ……っ、かなり無理して買っただろ、これ。





俺は男勇者にもらった杖を眺めていた。

先端に埋め込まれた青い宝石が綺麗だった。


「それでは試験を開始します」


試験官の開始の合図が試験会場に響いた。

ここは王都魔術協会。

魔法使いが使用する最上級魔法を習得させてくれる場所だ。


VRMMORPG『スティグマ』の隙間時間に遊びで始めたVRMMORPG『リファレンス』。

男勇者からもらった杖を握りしめる。


「まあ……こんないい物もらったら……やるしかないよな」


この世界でも見せてやろうじゃないか。

『魔王』と謳われた俺の実力を!


「次の方、どうぞ」

「はーい」


俺の目の前にいる女魔法使いが呼ばれた。

女魔法使いは白い円の中心に立つと、遠く離れた的に向けて杖をかざした。


「ファイアーボール!」


女魔法使いの杖から火球が迸る。的に衝突するとダメージが表示された。


「合格」

「やったあ!」


女魔法使いは嬉しそうに飛び跳ねた。

その横で俺は混乱していた。


おかしい。


ここは最上級魔法を習得する王都魔術協会だぞ。

そこで下級魔法のファイアーボール?


どういうことだ……。

俺の脳裏に不安がよぎる。

改めて試験概要欄に目を通した。


そこには、『試験はファイアーボール限定。他は失格』と書かれていた。


──あやうく失格するところだった。


俺は冷や汗を拭うと、試験官に呼ばれた。

どうやら俺の番らしい。


離れた位置にある的を睨む。

あれにファイアーボールを当てるのはそう難しい話ではない。


……というかターゲット指定なので外す方が難しい。

試験官に向けて打つとかいうギャグをしない限り無理だ。


男勇者からもらった杖に魔力を注ぎ込む。

先端に埋め込まれた青い宝石が淡い光を帯びる。


「ファイアーボール!」


轟音。

杖の先端から放たれた火球が的を撃ち抜いた。


「……………………え?」


無事、的にファイアーボールを当てたわけだが……これだけで本当にいいのだろうか?

隣では試験官が固まっている。


「あの……、俺、何かやっちゃいました?」


試験官に尋ねると、固まった試験官が急に動き出した。


「あ! すみません。攻略Wiki見てました。その杖、レアですよね。綺麗ですね」

「ああ……友達がくれたんです」


どうやら試験官はVRゴーグルを外して攻略Wikiを見ていたらしい。俺もたまにやる。


「素敵なお友達ですね。あ、試験は合格です。おめでとうございます」


そういうと合格証を貰えた。

これで最上級魔法を購入することができる。


試験会場から外に出ると、そこには男勇者と女戦士と女僧侶が待ってくれていた。


ここに来ることは伝えてなかったのに……、まったく。

嬉しそうに手を振る女戦士と女僧侶。ニヒルに笑う男勇者。


俺はパーティーメンバーたちのもとに駆け寄った。





「お兄ちゃーん、ご飯できたよー!」


VRゴーグルを机の上に戻すと、リビングから妹の声がした。

「すぐ行く」と返事をしてからリビングに向かった。


食卓の上にはカレーライスとサラダが二人分置かれていた。


「お父さんとお母さんは遅くなるって」


エプロン姿の妹はそう言うと、水の入ったコップを二つ食卓に置いた。


「それじゃあ先に二人で食べようか」

「うん!」


俺たちは四人掛けのテーブルに対面で座った。

「いただきます」と言ってから、カレーを口に運ぶ。

ほどほどの辛さ、いつも食べる味だ。


「このカレー、お前が作ったのか?」

「そうだよ。美味しい?」

「すごく美味しいよ」

「ほんと? よかったぁ」


素直な感想を述べた。

妹は嬉しそうに微笑んだ。そして、


「あのさ、急に変な話かもしれないんだけど」

「ん……? なに?」


俺はカレーを食べながら返事をした。


「もしも……私が本当は血の繋がっていない妹だとしたら……どう思う?」


スプーンに掬ったカレーを口に運ぼうとする手を、一瞬止めた。

だがすぐに口に放り込むと、こう答えた。


「──なんだそりゃ」


俺は呆れた顔で水の入ったコップを口につけた。

すると妹は顔を赤らめながら慌てて両手を振ると、


「あはは、だよね。ごめんごめん、さ! 私もご飯食べよ!」


そう言うと、妹も急いでカレーを食べ始めた。

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