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8.沢渡花純

「……おい、あの人が沢渡花純なんだよな?」


 サムズアップを見て確信したものの、一応直太に小声で確認すると、大きく頷かれた。やっぱりそうか。あの女子生徒には、オーラというか、存在感がある。


 そして俺はまじまじと、近づいてくる彼女の顔を見つめた。


 息をのむ美しさ、とはまさに彼女のことを指すのだろう。


 大きく切れ長の澄んだ瞳。長い睫毛、スッとした高く形の良い鼻、透き通るように白い肌。類い稀なる容姿の持ち主だった。


 思わず口を開けて見惚れてしまっていたことに気づき、慌てて視線を彼女から逸らす。


 やばい。


 こんなに美人だとは思ってなかった。天は二物を与えずっていうけど嘘っぱちだ。男だったら誰だって、一度は付き合いたいって思うレベルじゃねーの? てか、見過ぎだったかも。キモいって思われたかな。


 そんなことを考えていると、


「沢渡さんっ! 呼び出してすみません!」


 と叫ぶような大きな声で、俺と直太が座っていた花壇の左隣にある、同じサイズの花壇に座っていた男子生徒が立ち上がった。


 どうやら、沢渡花純はこの男子生徒に用があったらしい。彼女はその男子生徒の前で、歩きをとめた。


「気にしないで下さい。それで……用件は何でしょうか?」


 彼女の質問に、男子生徒は顔を真っ赤にし、周りをキョロキョロと見渡してから深呼吸をした。


 その様子から、これから彼が何を伝えるのかがなんとなくわかってしまった。


「あのっ、俺、1年E組の伊川真斗(いがわまさと)っていいます。あの、沢渡さんっ、俺と良ければ……その、付き合ってください!」


 そう言い切ると、伊川という少年は勢いよく頭を下げた。やっぱり告白だったか。それも白昼堂々公開告白。大した度胸だと思う。


 そして流れる沈黙。中庭にいる全員が、沢渡花純の返答を息を呑んで待っていた。


 ざぁっと風が吹き、土埃が舞い思わず目を瞑る。再び目を開けた時には、沢渡が軽く頭を下げていた。


「……ごめんなさい。私、誰とも付き合う気がないの」


 そう告げると、彼女はくるりと男子生徒に背を向け、スタスタと校舎の方へと戻って行った。


 残された男子生徒、伊川はへなへなと花壇に再び座ると、がっくりと肩を落として項垂れた。そして、何か思いついたように立ち上がると、すごいスピードで去って行った。


 勇者だな、と思う。こんな人目につく場所で、人目につく時間に、あんな美人に、どうして告白ができるのだろう。


 まあ、横目で見ても伊川という少年は割とイケメンの部類だったように思う。それでも、沢渡の圧倒的美貌には釣り合わないと思う。結果、残念ながら彼は振られてしまった訳だが。


 そんなことを考えていた俺の肩を、直太がポンと叩いた。


「……樹、俺に何か言うことないか?」


「ああ、なんでお前ここで告白があるって知ってたんだ?」


「まずは感謝だろ! せっかく沢渡さんが間近で見られるように連れてきてやったのに!」


「あ、ああ、ありがとな……」


「ふっ、俺の情報網なめんな」


「でも、なんか、野次馬だったんじゃね? 俺達……」


 少し、伊川って男子が可哀想になった。直太が俺のために、この告白現場に連れてきてくれたことは有り難いと思うけど。


「うーん、いいんじゃね? あの告白してたやつ、俺沢渡花純に告る! って色んなやつに言って回ってたみたいだし。逆にギャラリーがいた方が、断りにくくなるって戦法だったみたいだぜ」


 けろっとした直太の答えに、なんだか脱力してしまった。そうだ。直太はお調子者で、ちょっと空気読めないとこもあるけど、すごく良いやつだ。誰かを貶めたり、嫌な思いをさせたりするやつじゃない。そんなこと、わかっていたじゃないか。


「そ、それは……なんつーか、あれだな」


 恥ずかしい思いをしたのも自業自得ってやつか。


 それにしても、沢渡花純、想像以上だった。こっちに向かってくる姿を思い出すと今でも少しドキドキする。


 あれ、もしかして、俺、もう恋していたりするのか?

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