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5.君に決めた

 直太のあまりの驚きように、少しイラっとする。そんな常識だろ? みたいな顔されても知らないものは知らない。


 でも、さわたりかすみ、頭の中で名前を反芻しているうちに、どこかで聞いたような気がしてきた。


「樹……お前が女子に興味なさ過ぎて、俺は心配だよ。沢渡花純っていったら、入学式で新入生代表の挨拶して、めっちゃ話題になったじゃん! 一躍時の人っていうの? 黒髪ロングのクールビューティー、しかも学年トップの秀才!」


「……あ、あー!」


 思い出した。


 入学式の日、斎賀高校の制服に身を包んだ神崎の姿を見て、驚いたのと同時に、新入生代表挨拶を彼女がやるのかな、という嫉妬と諦めが混ざった苦い気持ちが込み上げてきたのを、覚えている。


 しかし、代表挨拶は神崎ではなく、別の女子生徒だった。彼女の挨拶は堂々としていて、ハキハキとした聞き取りやすいよく通る綺麗な声で、内容も非の打ちどころがなく、完璧だった。


 遠かったので顔はよく見えなかったが、直太の熱弁からして、相当の美人なのだろう。


「おっ、思い出したか? なぁなぁ、樹はどっち派?」


「まぁな……って、どっちって何が?」


 俺が訝しんで聞き返すと、直太はニヤニヤしながら肩をポンポン叩いてきた。


「とぼけんなって〜。可愛い系の神崎ちゃんとクール系沢渡さんだったら、どっちが好みかって聞いてんの! 俺は〜、迷うけど神崎ちゃんかな!」


「……ノーコメントで。興味ない」


「はぁ〜!? 樹……俺は知っているんだからな。お前が! 神崎ちゃんと家がお隣りさんで幼なじみだって! 恵まれているからそんなこと言ってられるんだ。くっそ〜超羨ましい……!」


 直太は心底悔しそうに机を叩いた。その衝撃で書き途中の英訳の字が歪む。俺は消しゴムでノートの歪んだ字を消しながら、呟くように答える。


「……別に、ただ隣同士ってだけで、親しくないし」


「もったいね〜。あーあ、俺はお前と違って彼女欲しいよ」


 直太の言葉に、ハッとする。もう忘れていた。俺は恋愛をするんじゃなかったのか。小説のために。


 だったら、小説に出てきそうな、高嶺の花と称される女子なんてピッタリなんじゃないか?


 それに学年トップの秀才の彼女なら、俺のトラウマ克服にもいいかもしれない。


「……どちらかというと俺は、沢渡さん、かな」


 口に出してみると、なんだかこそばゆい気持ちになる。


「……お、おお!! ついに樹も目覚めたか!?」


「なににだよ」


 沢渡花純、君に決めた。そうだ。彼女なら、好きになれるかもしれない。小説のネタにもなりそうだし。

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