2.芽生えた夢
小学五年生の夏休みの宿題で、必須課題の読書感想文が、今年から創作文でも可となり、どちらか選べるようになった。
俺は創作文でなら、神崎に勝てると思った。
神崎は、将来の夢とか一年間の目標といった作文で書くのが苦手みたいだったから。
いつも何食わぬ顔でスイスイと色んなことをやってのけるくせに、作文だと人一倍時間をかけた割に、文字数が足りていない、なんてことがよくあった。
テストの文章問題は得意なくせに。
神崎は夏休み前に、俺にこう尋ねた。
「いっちゃんは、感想文と創作文、どっちにするか決めた?」
「創作文。面白そうだし」
俺はさらりと、迷いなく答えた。
「そ、そーなんだ。じゃあ……わたしも、それにする」
そういって神崎はにっこりと微笑んだ。
やっぱりな。こいつはいつもそうだ。
まるで刷り込みだ。雛鳥のごとく、俺の後をついてきて、なんでも俺と一緒にしようとする。
ただ、引越し先で隣の家に住んでいただけの俺に、何で付き纏うんだろう。
いつもはうんざりだと辟易するところだが、今回は違う。かかった、と思った。思惑通り。目に物見せてやる、と。
そして、予想は当たった。勝ったのだ。
俺の創作文が、神崎を差し置いて学年の代表として県の作文コンテストに出されることになった。
そう、教師に夏休み明けに発表された時、神崎に勝てたことが、ただただ嬉しくて。やっと、自分のことを好きになれたような、昔の自分に戻れたような、言いようのない高揚感と充足感に包まれた。
コンテストでは、残念ながら大きな賞は貰えなかったけれど、俺は誇らしかった。
“将来は小説家になる”と、この時心に決めたんだ。