五
村長の屋敷は村の中心に位置し、他の家屋同様の丸みを帯びた四角い建物だ。ただし村長屋敷だけあって他の三回りは大きい。中央から突き出た天守閣らしき塔のお陰で、遠目にはタマネギに見える。
「アハハ、デッカイ玉ネギだ~!面白~い」
「やっぱり玉ネギに見えます?村人たちは結構親しんでるみたいですけどね、ちょっと間抜けに思えちゃうんですよね」
「あー!ふくだんちょーが村長のタマネギ屋敷をバカにしてるー」
「聞いちゃった聞いちゃったー!」
道すがら地元民の輪は3人を取り囲んだままぞろぞろ歩いていたが、止せばいいのに声を掛けられる度にカブが愛想を振り撒き出して、何時の間にか周りには子供たちで賑わっていた。
「ほう?お若いのに副団長なんですかい」
「僕より若そうな君も、大した肝の座りようだよ」
「これから一旗揚げようって昂ぶりが翌日には行き場を失っただけやい」
「ふぅん、君、歳は幾つだい?」
「もう直ぐ十五」
「「「「ええええ!!?」」」」
歳を教えると近くで聞いていた人だかりが一斉にどよめいた。それから口々に、「10か12位だと思ってた」「同い年に見えな~い」「お兄ちゃんなのに一緒だ!」「あの身長で一旗って無謀じゃない?」「でも小さい形して身体はしっかりしてるな」「同年齢筋肉ショタ(*´Д`)ハァハァ」「お姉ちゃん!?気をしっかり持ちな!」等々、不穏な発言も含めて好き勝手に言ってくれた。
「獣人のオネーちゃんはいくつなんだ?」
「2つから先は数えてない!」
そしてまたドッと笑いが起きる。先程くしゃみをした時に気が抜けて耳と尻尾が元に戻ってしまったのだが、幸いなことにこの国ではこの様な人間も居るとかで大きな騒ぎにはならなかった。寧ろ見たことのない種類だとかで珍しがられたくらいだ。
「15で働きに出るのは解るけど、戦争で一旗揚げようってのは武門の子息かそうせざるを得ない生い立ちでもないと理解できないな。そういう生まれなのかい?」
「いんや、先祖代々農民の一族さ。お爺の代から戦働きは積極的になったかのお。あ、お父は違うか」
そう口走れば気の毒な物を見る目とワシも昔は~と語り出す男連中とで二分された。
「若い内から血気盛んなのは結構だけど、ここらじゃ戦争なんて随分前から起こってはいないよ。武功を挙げて出世するんなら、冒険者になるか辺境にでも行ってみると良い。さてと、村長の屋敷に着きましたよ。皆さん、仕事に戻りなさい」
アレンが両手を叩いて民衆を散らすと「ちょっと待ってて」と先に屋敷の中へ入ってしまう。
手持ち無沙汰になるかと思えば、まだまだ遊び足りない子供たちが群がってカブと義吉に取り付いて強請った。
「子供は良いですね~。鍬や棒を持って不意打ちしてきません」
「そりゃ盗人働きをする獣にゃ容赦はいらんだろ」
「あれれ?とか言って義ん吉さんも黙って見守ってくれてたじゃありませんか~」
「気付いとったんかい」
「そりゃあの辺一帯の事情通なら義ん吉さんの武勇を知らぬ者は居ませんからね。警戒しない方がおかしいです」
「ね~?遊ぼうよ~」
「ハイハイ、丁半博奕でもしますか?」
「辞めとけやい」
それからアレンが戻るまでの少しの間、二人で子供達の相手をしてやった。
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「お待たせしました、中へどうぞ…って何してるんです?」
遊ぶと言っても遊び道具も無しに出来る事は限られる。今は近くの木立に縄を掛け、垂れた綱を皆が持ち、その端を義吉が持ち上げて綱にぶら下がる遊びだ。皆義吉よりも小さい者ばかりで、ぶら下がっている中には何故かカブの姿もあった。
「カブさんと子供8人を片腕で保持しますか…呆れた腕力ですね」
「お、もういいのかい?ホレホレみんなもう仕舞いじゃ、降りれ降りれ!」
軽く元気な盛りの子供でもぶら下がりは疲れた様子で、素直に飛び降りては口々に礼を述べて行った。
「私はもう少しぶら下がっうきゅぃ!?」
「大丈夫ですか?義吉くん、先に手を離すと彼女の位置なら木にぶつかってから地面に落ちることはわかるだろう」
「聞き分けの無い大きい子供にゃ丁度良い薬になったろうよ」
「…中で長老たちがお待ちです。入って中央のテーブルへ行って下さい。僕はもう行きますね」
「丁古?おう、ありがとさん」
アレンの去り際の顔が少し顰むっていたか。獣が頭に付く人とは言え女子、どうしてか辛く当たってしまうのはオイラの余裕が無くなっている証拠なのか。イカンな、こんな気分は賊へカチコミを仕掛けると決めた朝以来だ。一旦落ち着こう。
「何時まで地べた座っとる、手ぇ貸せい」
「あ、どうも」
カブに付いた土を払い身形を整えさせると、漸っと鏡開きの玄関から屋敷へ入った。
「お邪魔するよ~」
「う~い、こっちじゃ」
屋敷は中に幾本もの太い柱を設けて大黒柱とし、余計な間仕切りを取っ払って広々としていた。外から見るより天井が低い、この高さなら恐らく上へ二階層、天守も入れれば全部で四~五階層はあるか。地面には柱を起点に壁などに向かう幾筋もの溝が掘られている事から、必要に応じて間仕切壁を設けるのだろう。
その中央で机を前に3人のおっさんが待っていた。
「待っていたぞ異国の若人達よ、ワシはこの“サッサパリラ村”の村長、ハリラだ」
「ワシは御目付けのガリラ」
「そしてワシはこの村の長老、サパリラじゃ」
そこらの村人よりかはずっと上等な身形の3人だが、如何せん長老だけは酒臭かった。