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半端なアミーと傲慢な秘術  作者: 川端 由里
4/6

支度


春が来て、夏が過ぎ、秋が訪れようとしていた。

ラルフが結婚のしるしに贈ってくれた銀に月色石の指輪を嵌めたアミーは、自ら仕上げた婚礼衣装の点検をしていた。

薄く薄く織り上げた純白の絹を何枚も重ね、細やかな刺繍を施した会心の作は、村の伝統に則って花嫁の精進の証として結婚式で披露される一番の嫁入り支度。

大抵の娘は裁縫や刺繍の技量を表すところ、アミーの場合は糸を取り生地を織るところから一年足らずで仕上げた。

彼女は自分がラルフの妻となっても有益な人材である事を示さねばならない。そう意識して作り上げた見事な衣装に、目にした者は溜息をつくだろう。


「いよいよだねえ」

先程までドレスを褒めていたメリサが、しみじみとした調子で呟く。結婚の儀は明日に迫っていた。

メリサ自身は村長の息子でもあった夫ゼファーに先立たれ、女一人で息子を三人育てる頼もしい女性だ。それ故に、女性らしい柔らかさを自ら排しているようなところがある。

彼女が知るアミーは控え目で勤勉な女らしい優しさを持つ少女だった。そのアミーを嫁として家族に迎えることは、メリサ自身にもずっと己に込めてきた強張りを緩めるような喜びがあった。


翌日には義理の親子になる二人は、穏やかに微笑みながら共だって結婚式会場となる集会所を出た。

同じ頃合いでメリサの末息子であるカイルが通りがかった。メリサは息子に声をかけようとしたが、彼は気付くこともなく足早に通り過ぎていく。こころなしか顔が強張っているようだった。


「…カイル。どうしたんだかね」

メリサも少し気になったようだ。確か息子は従兄弟である村長の孫コクマと出掛けていた筈だった。

しかしメリサがカイルの後を追うことはなかった。続くように花を抱えたマリアがやってきたからだ。


「あら、鉢合わせてしまったわ。ちょっと残念ね」

マリアはアミーの親しい友人で、明日アミーを飾る花をすべて用意してくれる事になっていた。量が多いため、持ちの良い花は前日に切って運び込んでおくのだ。


「これは見事に咲いたじゃないか!」

「とても綺麗だわ。ありがとうマリア」

礼を言うアミーとメリサに、マリアはフフと微笑む。


「見られたものは仕方ないけど、こんなものじゃないのよ?

これから始める設営はアミー達には明日まで見せられないからね?皆張り切ってるから、本番までのお楽しみね?」

「嬉しいわマリア、本当に…」

「感動するのが早過ぎるわよ。今からそんなんじゃ明日が大変だわ。

当日の花嫁はきれいに笑ってなきゃ!」


マリアに叱咤され、アミーは懸命に緩んだ涙腺を引き締める。そんな二人をメリサは温かく見守っている。それはまさに佳き日を迎えんとしている者達の姿だった。


家路についていると狩りを終えたラルフと鉢合わせた。婚儀を前にした新郎は新婦の為に捧げ物を披露しなくてはいけない。狩人であるラルフならば立派な獲物が望ましかった。

彼はそれを果たし、大きな猪を仕留めたようだった。通常ならすぐに解体に取り掛かるのだが、皆に披露されるべきそれは血抜きだけをして生きていた姿を留め、荷車に結わえつけられている。

ラルフはアミーを見ると、少し誇らしげに笑った。万が一の為に事前に獲物を確保してはいるが、婚儀直前の狩りで仕留めた獲物のほうが望ましいのは明白で、今日の狩りの成功には彼も安心したのだろう。


「ラルフ、良かった。とても大きな猪ね。怪我はしなかった?」

「大丈夫だよアミー。婚儀の為なら、多少の無茶はするけれどね。しくじりはしなかったさ。僕は良い亭主になれそうだろう?」


結婚前日の二人である。近付くと途端に甘い空気が流れた。これではいつ帰宅できるかわからない。メリサは苦笑して二人を急き立てた。

何しろアミーは今夜が生家で過ごす最後の夜だし、ラルフはこれから狩りの汚れを落として人生最高に身綺麗ななりで控えていなければならないのだ。


「アミー、じゃあ明日に」

「うん、また明日に」

二人は手を振って別れた。次に会う時、二人は夫婦になるのだ。



アミーが自宅に帰ると、いつもと同じ静かな日々がそこにはあった。アミーと祖父は普段通りに黙々と作業をし、夕食を摂った。夏の名残の野菜はほのかに苦く油脂はこく深い。アミーはそれをしみじみと味わった。


「じい様、明日になりました。今まで教え育てて頂いたこと、とても…」

アミーは匙を置き語り始めたが、すぐに言葉は詰まってしまった。竃でくすぶる炭の出す息づくような小さな音だけが、しばらく続いた。


「儂も嬉しい。お前も色々と思うだろうが、これで良かったと思うておる。

それにの、これからもお前は儂の孫だ。それだけは変わらん。それで充分だの」

ダノンは腕を伸ばして、アミーの二の腕にそっと触れた。祖父が示した仕草はただそれだけだった。

それが如何にも祖父らしく、アミーは胸が温かくなり益々言葉が出てこなくなった。


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