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半端なアミーと傲慢な秘術  作者: 川端 由里
1/6

嚆矢

ファンタジーでよくある話を書きたくなってしまいました。


細長いシュの葉を傷付けないように開いて、柔らかい芯を取り出す作業を続けているうちに日が陰ってきたようだ。

通りで目が随分と疲れている。アミーは自分の目頭を摘んで、強張った眼筋を弛緩させた。

目だけではない。指先も随分と乾燥している。手首も冷えていた。


アミーは袖を伸ばして手首を覆いながら、今夜は手製の軟膏と香油で手入れしなければと考えた。

シュの芯は取れたし、そろそろ片付けて夕飯の支度をしなければ間に合わない。

日が落ちる前にランプと竃を点けてしまわないと面倒だ。


ランプを灯して厨に向かう。隅に積んであるよく乾いた薪を数本取り、竃の中に組む。火着けは風通しが大事なので欲張ってはいけない。

小さな火が着き始めたのを確認すると空の鉄鍋を竃の上に置いて温め始める。その間に火が育っているので薪を足してゆく。

覗き込む顔に熱気が当たって乾くのを感じ、アミーはパチパチと瞬きをした。


大陸の中央部に位置するこの地は、寒暖差が激しく乾燥している。山々の雪解け水や湧水で緑は豊かだが、日没後はグンと冷えるので先回りして温かいものを用意しないと辛い。

光源がランプだけになる前に食材も処理しておきたい。


アミーは竃の前から腰を上げ、袖を捲くって流し横にある水瓶の柄杓で水を使い手を洗う。陶皿に置いた自家用石鹸で丁寧に泡立ててゆき濯いだ後は、水を使ってますます冷えた手を腰に下げた手拭いで拭き拭う。

今夜は菜物と干し肉でスープを作ろう。堅パンは節約したいので粉を練って鉄鍋に貼って焼き上げようか。

思案していると戸口がトントンと叩かれた。すぐに扉が開いて背の高い影が現れる。

見知った顔を認めて、アミーは笑顔になった。


「いらっしゃいラルフ、こんな時間にどうしたの?」

「この間欲しいと言ってたろう? 丁度頃合いになっていたから、思い出して持ってきた」


そう言ってずいと目の前に挙げられたのは鹿の後脚だった。もちろん既に始末されよく乾いており日没前のあかりでも艶があるのが判った。

こんなにも見事な生ハムを作るなんてアミーには出来はしない。互助が基本の村とは言え、なんとも嬉しいお裾分けだ。


「嬉しいわラルフ、これを少し削っただけでも今夜のスープは御馳走よ。

良ければ一緒にどうかしら?」

「いや、母さんに何も言ってなかったから心配させてしまうよ。…じい様は?」


アミーの申し出を残念そうに断りながら、ラルフは祖父の所在を訊いてきた。

菜園に行っているからじきに戻るだろうと応えると、彼は一瞬外を気にして素早くアミーの口の横に接吻した。

そのまま照れたように去ってしまおうとするところをアミーは慌てて引き留める。

昨日仕上げたばかりの襟巻きを取り出してきて差し出す。彼の為だけに作り上げたそれは通常のものよりずっと軽く柔らかく温かいはずだ。

背伸びしてそれをラルフの首にかけると普段より近い距離で視線が合った。しばし二人の動きが止まる。


「そこに立っとられると入れんがの」


突然すぐ側から声を掛けられ二人は飛び退いた。


「ぉ…じい様」

「じい様、おかえりなさい」

「鹿の脚か、いつもすまんの」

「いや、少しですから」


祖父は目敏く鹿肉の礼を述べる。が、新しい襟巻きについては何も言わなかった。


「それじゃあ、俺はこれで」

「ああ、御苦労だの」

「ラルフ、ありがとうね!」


そそくさと帰るラルフに礼を言って見送ると、アミーと祖父の二人だけになる。いつもの静かな我が家だ。


「じい様、お疲れさまでした」

「鉄鍋がよく温まってるようだの」

「ああ!この若葉でスープにしましょう!」


すっかり忘れていた鉄鍋が十分に熱を持っていたので、油脂ですぐにでも炒められそうだった。


ラルフのくれた生ハムの端で出汁が出た菜物のスープ、乳脂と粉を練って鉄鍋に貼り付けて焼いたパン、少しの乳で戻した干果物の夕餉を二人で摂った。

食事中の祖父はより無口になるので、料理の味に満足しているのかを見分けるのも難しい。

アミーは祖父を伺いつつ、おずおずと声を掛けた。


「じい様、美味しいかしら? 私にはよく出来ているかと思うのだけど…」

「………」

「ラルフは肉の加工が上手よね。狩人として腕を上げたのではないかしら」

「儂のことは、師と呼べ。 …いや、お前がラルフの妻になると言うなら、じいで良いの」


アミーは言葉を失った。確かに祖父に教えを受けている時は師と呼んできた。それはアミーの物心付く頃からの決まりごとだった。

しかしアミーは祖父の実の孫娘でもある。祖父はアミーを孫として接してもくれた。食事中にこう言われたのはこれが初めてだ。


アミーは食事の手を止める。

ラルフは村の狩人として頭角を現し始めた青年で、幼い頃から優しい彼にアミーは自然に恋をした。そして彼も。


だが同時にアミーは幼少期から祖父に師事してた。祖父の、亡き父母の跡を継ぐのだと誇りを持って励んできた。十余年の歳月を費やしたそれは今から実を結ぼうとしている。

じきに一人立ちの試練を迎えるだろうことはアミー自身にも分かっていた。


「私は…」

「アミー、フレドとキャスもそうだったろうが…儂が望むことは多くない」

「………」

「お前には望むように生きて欲しい。笑っての」


アミーはすぐに応える事が出来なかった。


…改行後の1マス開けるのがうまくいきません。お見苦しくてすみません。

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