098 バニーちゃん
「かなえ、起きる時間ですよ」
「うーん」
「かなえ、遅れますよ」
「うん……あれっ、シロン?」
かなえはシロンに起こされて目を覚ます。
「シロン、リトくんんは?」
「隣の部屋にいるようです」
そうか! 昨日、ウサギを連れて帰ったんだっけ。
かなえはベットから出て、隣の部屋に行くと仰向けになって眠っているバニーちゃんと、窓枠にとまってバニーちゃんを見ているリトくんが居た。
「フフッ、リトくん、おはよー。また、観察しるの?」
『うん、この大きいのなーに?』と、リトくん。
「この生き物はね、ウサギって言うのよ。耳が長いでしょ?」
『うーん、うさぎ、もっと小さくてカワイイよ?』
「えっ、リトくんウサギの事知っているんだ。このウサギは大型の種類なの。ちょっと運動不足だけど、本当は可愛いのよ」
バニーちゃんが眠っている姿は……クッションの上にデロンと広がっているので、長い耳が見えないと何の動物かわからない。
「それより、リトくん、パン食べるでしょ?」
『うん、ごほうびパンちょーだい』
リトくんはかなえの後を追って、居間に飛んで来る。
「はい、どれがいい?」
かなえがパンを取り出してリトくんに聞くと、
『ぼく、ピンクのパンがイイ!』と、リトくん。
かなえは昨日リトくんにあげて一つ分開いている穴の隣のピンクのパンをちぎってあげる。
『おいしいな。あまいパン』
今日のパンはピンクベリーが練り込まれて、全体がピンク色のパンだ。
食べ終わり、リトくんがピーちゃんの家に飛んで行くのを見送ると、かなえも出掛ける支度をする。
バニーちゃんの様子を見に行くと、まだ熟睡しているようで起きそうに無い。昨夜はまだ残っていた餌がキレイに無くなっているので、夜中にでも起きて食べたのだろう。
かなえは眠っているバニーちゃんをケージに入れて、牧場へ移動して行く。
「おはようございます」
ジジさんと、ババさんが並んで丘の上に佇んでいた。
『ああ、おはよう。おや、そこに何か生き物がいるのかい?』と、かなえの持っているケージに気が付いたジジさん。
かなえはケージを開けて、眠っているバニーちゃんを見せると、
「はい、暫らく預かる事になった、ウサギのバニーちゃんです」
『まぁ、ウサギにしては大きいわね』と、ババさん。
「はい、大型のウサギなので大人になると、マリー位のサイズになるそうです」
かなえは、ジャンプでアニマルドームの砂浜へ移動すると、
「行ってらっしゃーい!」と、最近動きが機敏になって来たジジさん、ババさんに声を掛ける。
よーし、次は朝ご飯ね。
かなえは、ジミーさんの家に移動して行く。
「おはようございます」
ジミーさんは庭の外のベンチに座っていて、リリララ姉妹は子猫達の所にいる様だ。
かなえはケージを置いて隣まで行くと、
「あなた達、朝食の時間よー!」と、声を掛ける。
「ハーイ」と、駆け寄って来たリリララ姉妹と坐っているジミーさんに、ケージを開けて見せると、
「今日からしばらく預かる事になったウサギのバニーちゃんよ。よろしくね」と、グーグ―と、眠っているバニーちゃんを紹介する。
「えー! こんなに大きいウサギ、初めて見ました」と、リリちゃん。
ジミーさんも驚いた顔をしている。
「これ、ウサギなの?」と、ララちゃん。
「そうよ。ちょっと運動不足みたいだから、ここで暫く暮らして運動してもらうのよ」
話ながら朝食を並べ始めると、
「かなえさん、私とララは昨夜の食事がまだ半分残っているので、それを食べます」と、コンテナから出して来るリリちゃん。
なので、リリララ姉妹には昨日のまかない亭の残りと、グリーンサラダ、グラノラブルーベリーヨーグルトと、マンゴオレンジジュースに、アイスピーチティー。
ジミーさんとかなえは、その他にプロの実ハムと根野菜のソテーに、コーンブレッド、ジミーさんはアイスティーの代わりにコーヒーにした。
かなえはみんなに、バニーちゃんを預かる事になった経緯を話す。
スープ屋に行って、ダンさんに頼まれ夕方からバニーちゃんを見に言った事。
ジョーイと言う元気な男の子がいて、バニーちゃんを可愛がっている事も。
「そうですか、毎日会っていると動物の変化に気づきにくいんでしょうね」と、リリちゃん。
そうだろうな。特にバニーちゃんは耳が聞こえづらいから、運動するのが億劫になって、心配した飼い主がつい、多めに餌を上げてしまって……。
昨夜はバニーちゃんに「覚悟してね」なんて、言ってしまったけど、あまり厳しくし過ぎるのは良く無いかもな。
かなえは食べ終わると、バニーちゃんの入ったケージを持って子猫の庭の隣に向かう。
地図を出すと、子猫の小屋の隣にバニーちゃんの小屋を設置し、子猫の庭の柵を取り外してバニーちゃんの家と庭の周りまで一緒に囲う。
バニーちゃんの好きな牧草を、庭に何ヶ所かに分けて植えて行く。
バニーちゃんが牧草を食べる為に庭を歩かせる作戦だ。なので、子猫の庭やお爺さんの庭の端の方にも、植える。
お爺さんの庭の野菜の畑には低い柵を設置する。
せっかく大きくなるのを楽しみにしているのに、全部バニーちゃんに食べられたら大変だ。
フルーツの木は届かないので大丈夫だろう。
後は、小屋の中に水と、野菜を少なめに置いておく。
かなえは、バニーちゃんを出来たばかりの小屋のクッションの上に寝かせる。
これで取りあえずは良さそうだ。
かなえは牧場へジャンプして行く。
牛舎の中に入ると、いつもの様にキレイにウオッシュを掛けて行く。
次に、牧場を掃除しながら……メラニーさんの所へ顔を出そうと思う。
一通りキレイになると、家へ向かう。
お土産はどうしよう……。
かなえは昨日モモちゃん達と採ったヤシの実と、保存しているアニマルドームのフルーツを持って、家の扉を鳴らす。
「カンカン」
「はぁーい」と、メラニーさんの声だ。
「あら! かなえじゃない」
「あのー、今日はフルーツの差し入れです。どうぞ」
「まぁー、いつもありがとう。どーぞ入って」
かなえは居間へ通され、大きなソファーに坐る。
「ごめんなさい。今日はパイは無いのよー」と、メラニーさんはいつものヨーグルトソーダを出してくれる。
最近は品評会の為に毎日のようにパイを焼いていただろうから……。
しばらくは、パイは焼きたくないだろうな。
「いいんですよ。いつもご馳走になってますから。それより……」
かなえは気になっていた、今回の品評会でもらった、ドームシティーの温泉でお菓子を売れる権利の事を聞くと、
「その事なら、たぶん無理だと思うの。遠すぎるもの。それにここから引っ越してドームシティーで暮らすのは、ちょっとね。私達2人だけの生活は寂しい時もあるけど、今はこうしてかなえやララちゃんも来てくれるでしょ?」
メラニーさんもジョンさんも、このミルクドームの牧場での生活を気に入っているからな……。
かなえはどうしようかと、悩んでいた。
ここにジャンプミラーを取り付けたらドームシティーの温泉とここを繋いで、距離の問題は無くなる。
女神さまに聞いたら、リリララ姉妹やジミーさんの時と同じように「好きにしていいわよ」と、言うだろうけど。
問題はそれがメラニーさんとジョンさんにとって幸せかどうかだな。
「ジョンさんは、何て言っているんですか?」
「ジョンは家具造りにはまっているから……『ドームシティーに引っ越して家具職人のジョーさんに弟子入りしようか』なんて、冗談を言っていたわ」
この二人は、一時はこの牧場も手放して引退しようとまで考えていたのに、前向きになれたんだな……。
二人の力になりたいという気持ちが、かなえの奥底から湧き上がって来る。
よし! 決めた!
「あのー、私に考えがあるんですが……ちょっと結論を出すのは待ってもらえませんか?」
「えっ! いい考え?」
「あのー、近いうちにお時間はありますか?」
「時間ならいくらでもあるけど……何かあるの?」
「あのー、お二人を私が働いているドームへご招待したいんですが……」
「まぁー! 素敵。行ってみたいわ。ジョンも私もいつでもいいわよ」
かなえの思い付きだが、メラニーさん達を明後日、アニマルドームに招待する事になった。
アニマルドームに来てもらい、ドームシティーとメラニーさんの家の移動は問題無い事を話すつもりだ。
実際、ジャンプで牧場からアニマルドームまで移動してもらえば話も早いだろう。
「それでは明後日の11時頃、お迎えに来ますね」
かなえはそう言うと、メラニーさんの家を出てアニマルドームの砂浜へ移動する。
順番に小屋の掃除を済ませ、山の温泉、頂上、雲の上の温泉もきれいにすると、シャワードームへ向かう。
わぁー、今日もみんな跳んでるなぁー。
ジジさん達は体が慣れて来たのか、重力も軽くしているので楽に飛んでいられるようだ。
あまり日常との差があり過ぎるのも良く無いので、重力を増やしてもっと体を鍛えてもらおう。
かなえはみんなに気が付かれない程度に、全部のドームの重力を増やす。
最終的に、普段の状態でも同じ位の動きが出来たら凄いな。
モモちゃん達の所は普段よりちょっと重くなってしまったが、あの子達なら問題無いだろう。
シャワードームはキレイになったので、バニーちゃんの様子を見に行く。
小屋の前に移動し、中を覗いてみるがバニーちゃんは居なかった。
「あれ……シロン、バニーちゃんはどこにいるの?」
「隣で子猫達と遊んでいます」
「えー!? もう一緒に遊んでいるんだ!」
かなえは隣の庭へ行くと……、
『きゃー! やめてよー!』と、子猫達にじゃれられて困っているバニーちゃんが居た。
「みんな、仲良く遊んでいるー?」と、かなえが近寄って行くと、
『あー、カナカナ』
『バニちゃん、フワフワだよー!』
『バニちゃん、柔らかいね』と、子猫達はバニーちゃんに夢中だ。
『ちょっと、カナカナ、助けてよー! この子達しつこいのよー』
バニーちゃんは逃げようとするが、身軽な子猫達にとってはバニーちゃんが這いずっているようにしか見えないのだろう。
「あなた達、あまりしつこくしたらダメよ。バニーちゃんは女の子なんだから優しくしてね」
『バニちゃん、あそぼ―よー』
『バニちゃん、走ろ―』
『バニちゃん、ドームいこ―』
なぜだかわからないがバニーちゃんは子猫達に気に入られたようだ。
今のバニーちゃんにとって、子猫達のドームはどうかな……?
トランポリンの方ならいけるかな?
「バニーちゃん、あそこにある丸いドームに入ってみない? トランポリンで中が弾むようになっているからおもしろいのよ」
『わかった、ちょっとだけ遊んだら、私お昼寝するからねー』と、バニーちゃんは以外にも、トランポリンドームで子猫達と遊ぶことにした様だ。
『ヤッター! 行こ―』と、子猫達はバニーちゃんを押すように急かしてトランポリンドームに向かう。
「バニーちゃん、無理しないでね。気分が悪くなったらすぐ出てくればいいから」
かなえは念の為、トランポリンドームも重力を軽くしてバニーちゃんの体に負担が掛からない様に調整する。
『ここから入るんだよー』と、子猫達に連れられてトランポリンドームにバニーちゃんは入って行く。




