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アニマルレスキュー  作者: コトリコトリ
8/229

008 ミルクドーム見学(前)



『チュン、チュン あさだよー』

『カナ、カナ、パンちょーだい!』


 うん? ……もう朝か―。

「あー良く寝たー」


『カナ、カナ、おなかすいた、パンちょーだい!』

 リトくん、いたんだっけ……。


 リトくんが窓の外でかなえを呼んでいる。

 

かなえは窓を開けると、

「リトくん、おはよう。パンあげるね」

 昨夜、オアシスカフェでもらっておいたパンを取り出すと、窓枠のところに置いた。


『やったー、パン、パン、パンパン!』

 あっという間に食べ終わり、お水も小さい容器に入れて置くと、

『おみず、おみず』

 おいしそうに喉を鳴らして飲み込んだ。


「リトくん、私は朝飯食べて来るね」

『うん、ぼくねてる』

 そう言うと、リトくんは目の前の木の枝に飛び移った。

 

 朝もお腹いっぱいになったら寝るのね……。


 かなえは、ボリュームのある朝ご飯を済ますと部屋に戻って来た。

 今日の洋服は、ペパーミントグリーンのワンピース。かなえの瞳と同系色でマッチしている。

 

 自分の姿に見慣れたからか、最初の頃の驚きは薄れて来た。


 準備が終わると窓際に行き、

「リトくん、もう出かけるよー」と声をかけると、

 木の枝で羽を膨らませ、まん丸くなって寝ていたリトくんが、眠そうな顔をして窓枠にとまった。


「リトくん、眠そうだけど大丈夫?」

『うん、でかけるわかった』

「じゃー、私は外に出て行くから、飛んで来てね」

『うん、いいよ』

 

 かなえはロビーに降りると、カウンターの椅子にルルちゃんが座っていた。


「行ってきます!」とかなえが言うと、

「行ってらっしゃい、かなえさん」と見送ってくれる。


 今日もカワイイなぁー、白いワンピースにピンクのエプロン。笑顔がお人形さんみたいだ。


 外に出ると、リトくんが飛んで来てかなえの肩にとまる。

 人のいないのを確認すると……スクーターを出して「ジャンプ」でグリーンパークに一瞬で到着する。


「リトくん、着いたね。昨日はありがと。きょうはゆっくり休んでね」

『うん、ぼくねる』

 リトくんはすぐ上の木の枝に飛んで行った。


 さて、次はハローギルドね。

 スクーターで……「ジャンプ」

 だんだん慣れてきて楽に移動できるようになって来た。


 


 ハローギルドに入って行くと、今日は昨日より空いているみたいだ。長椅子には2人腰かけていて、カウンターは一人しか待っていない。

 かなえがカウンターに並ぶと、すぐに順番が来た。

 受付は昨日と同じ、黒髪の人だ。


「おはようございます。昨日の小鳥の捜索を完了したので、手続きをお願いします」

 サインをもらった用紙とIDカードを渡すと、


「えっ? よく探せたねー。本当に動物関連は得意なんだね。それならあの牧場の方もやってみる? よければ見学だけでも」

 

 どうしよー。牧場も面白そうだけど……様子だけ見てこようかな。


「はい、それじゃー、見学します」

「それは良かった。これが地図とハローギルドからの推薦状、それから昨日の報酬はIDカードに付けていいのかな?」

「はい、お願いします」

「報酬は1000ドームだよ」

 IDカードを返されると、 

「それでは、行ってきます」

 

 ハローギルドを出て農場見学に行くことになった。

 

 住所を確認したら……「ミルクドーム、スミス夫妻」としか、書いていない。ちょっとこれじゃーたどり着けないんじゃ?

  

「シロン、ミルクドームってどこにあるの?」

「はい」

 すると、地図が現れてミルクドームの場所が表示される。

 

「えー、凄いなー!」

 ドームシティーの周りを、8個のドームが囲んでいて、その外側には一回り大きなドーム……そしてその周りにもと、大小合わせると50はありそうな……ドームが何重にもなって広がっていた。

 

 ドームはそれぞれ用途別になっていてミルクドーム以外にも、食品、農業、服飾、工業、アート、木工、商業、医療、教育や、スポーツ、中にはバケーションドームなどもある。

 

 面白そう、どれも見学してみたいな。こんなに沢山のドームがあったんだ……。


 かなえは、ドームシティーに辿り着いた時、ジャンプで直接南門まで来たのでドームシティーの周辺の様子には、気が付かなかった。

 

 ミルクドームはドームシティーの北門から出て二つ目のドームだ。

 

 普通に馬車で行ったら2時間はかかりそうだ。

 よし、ジャンプで行こう!

 

 かなえはジャンプで、ミルクドームの南門の横に移動した。


 


「のどかなところだなー」  

 ここがミルクドームの入口でいいんだよね?


 しばらく歩いて行くと、木に鉄の装飾がされた門があり、両脇の石の柱にはドーム型のライトが付いている。

「守衛さんもいないみたいだなー」

 

 腰の高さぐらいの木の柵で囲われているが、この柵じゃぁ、どこからでも入れそうだ。

 門には、木で出来た楕円形の、手作りっぽい表札がついていた。


「ミルクドーム 南門」

 やっぱりここがミルクドームかー……。

 間違いないようなので、ドアを開けて足を進めて中に入って行く。


「どなたかいませんかー?」

 知らない家の庭に入ってしまったような気分だ。 

 それにしても、人の気配が無いなぁー……そうだ!


「シロン、この周辺の人間と、動物の反応はある?」

「はい」

 目の前にミルクドームの地図が表示され……いくつか赤い点と青い点が動いている。

「人は青ね?」

 

 ……人を表示する青い点は数が少なく動きが一定だ。赤はおそらく動物だろう。

 ここから一番近い人は、まっすぐ行った、建物の中にいるようだ。 

 かなえは前に見える、大きな倉庫のような建物を目指した。

 

  建物の側まで行くと、突然入口の引き戸が開いて、30代半ばの白い長めのエプロンをした女性が出てきたので、かなえは話しかけた。


 「あのー、すみません。スミスさんの牧場に行きたいんですけど」

 「え、牧場? あなた南門から来たのね?」

 「はい。門の所に誰も居なかったので、入って来たんですけど……」

 「ここからだと、結構あるのよね。北門からだと近かったんだけど……あっ、ちょっと待ってて」

 

 女性はもう一度、建物の中に入って行き、20代前半の青年を連れて戻って来た。こげ茶の髪に黒い瞳。背が高くておとなしそうな人。作業用なのかグレーのシャツとズボンをはいている。

 

 彫は深いけど東洋人の血が入ってそうだ。

 

「ケンがちょうど、牧場まで行くから乗っけて行ってもらえばいいわ」

「えっ、いいんですか?」

「ああ」

 わぁー、気が乗らなそう……でも助かるかも


「すみませんが、よろしくお願いします」

「よかったわね、それじゃぁー!」

 女性はどこかへ足早に去って行った。

「……」

 青年と二人っきりになり、何かしゃべることを探していると……、


「こっち」

 青年が背中を見せて歩いて行くので付いて行き、案内されたのは荷馬車の前。青年はひらりと御者台に乗り込むと、

「乗って」

 青年は後ろを振り向く。


 ……てことは、荷台に乗れってことよね?

 

 かなえは後ろに回り込むと、荷台によじ登る。大きな入れ物がいくつも並んでいるので、結構狭い。なんとか座る場所を確保すると、足を外に投げ出して座った。    


 青年にミルクドームについて聞きたかったが、青年は前かなえは後ろを向いて座っているし、あまり歓迎されていないようなので、おとなしくしていた。

 

 かなえの乗った馬車は、いくつか倉庫のような建物を通り過ぎ、しばらくすると田園風景が広がり……野菜が良く育っているのが見えた。

 

 あっ、田んぼ……だよね?!

 畑の隣には田んぼが続いている。

 

 かなえはパンも好きだが、お米が大好物なので、この世界にもお米がある事が純粋に嬉しい。

 ここのドームの温度や湿度も管理されているんだろう……。

 田んぼの青々とした稲がサーと風に揺れている。

 

 一定の速度で進む馬車はほとんど揺れず、青年も身動きせずに御者台にすわっている。

 ……この馬車もあのドームシティー乗合馬車みたいに重力制御されてそうだ。

 馬はまだ細身で若そうだが、元気そうに馬車を引いて走っている。

 

 まっすぐ直線の道を行くと、放牧地のようで何頭か牛の姿も見つけた。

「そろそろ牧場かな?」

 小さく牛小屋のような建物が見えて来た。


 小屋の横に馬車を止めると、青年がぶっきらぼうに……、

「着いたよ」


「はい、ありがとうございます。助かりました。あのー、スミスさんはこの辺りに、いらっしゃるんですか?」

「ああ」

 と、いいながら、小屋の隣にある、木の家のほうを見た。

 あの建物はスミスさんのご自宅かな?

 かなえはもう一度、青年にお礼を言うと、スミスさんがいるという建物に向かった。



 大きな木の扉に付いている、金属の牛の輪のドアノッカーを「カンカン」と鳴らすと、

「はーい」

 女性の声がして、扉が開いた。


 年配の女性。60代かな? 恰幅がよくて元気そうだ。

「あら? あなたは?」

「あのー、私はハローギルドから来ました、カナエ リュウゼンです」

「まぁ、お待ちしてました。どうぞ入って」

 かなえは居間の広い空間に案内される。

 

 正面の暖炉がまず最初に目に入った。床は木のフローリングでよく磨かれている。中央には低いテーブル、その周りには大きなクリーム色の椅子、色とりどりのクッションが部屋を明るくしている。

 木で出来た牛の彫刻が飾ってあり、居心地の良い空間になっている。


「よく来てくれたわね。わたしはメラニーよ。メラニースミス。遠かったでしょ? 迷わないで来れた?」

「はい、あのーちょっと迷ってしまって、ケンさんに送ってもらいました」


「あら、ケンに? じゃーあなたは南門から来たのね。ここからだと北門が近いのよ。ハローギルドに伝えたつもりだったのだけど……ごめんなさいね」


「いえ、送ってもらえましたし、景色も楽しめました」

「まぁ、そう? それなら良かったけど……」

 

 ハローギルドからの紹介状をメラニーさんに渡すと、

「はい、ありがと。でも連絡はもらってたのよ。あなた動物には慣れているそうね?」

「はい……まぁーそうですね。でももう連絡を?」


「さっきハローギルドから、あなたが牧場に見学に来るって連絡があったわよ?」

 えっ、この世界って手紙以外に連絡手段があったの?


「でもどうやって、連絡があったんですか?」

「ちょっと待ってて……」

 

 メラニーさんは奥からガラスの箱を持って来て見せてくれた。

 蓋を開けると白透明のコブシ大の水晶が入っていて、


「きれいな水晶ですね」


「そうでしょ? 『マーブルトーク』て言うの。これで連絡を取れるのよ。話す相手を呼び出すと、相手が出て話をすることができるの。それぞれのドームに一つづつとオクタゴンなどの主要機関にもあるのよ」

 

 電話と似た機能かー。でも、まだ一般には普及していないのね……きっと高価なものなんだろうなぁ。


「そうなんですか……貴重なものを見せてもらいありがとうございます」

「それじゃー早速牧場の方へ行きましょうか?」

「はい、お願いします」


 メラニーさんに案内され、かなえは牧場へ向かった。

 


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