079 新しい家族
「はーい、着いたよー」
かなえは子猫達の小屋の前に着くと、ケージを開ける。
『ワーッ、ひろーい!』『やまあったー』『ヤッター』と、子猫達は新しい場所に興味深々のようで、元気に走り始める。柵があるのでここならマリーも安心だ。
「きゃー! タイガー!」と、隣から声が聞こえる。
リリララ姉妹も、もう来ているんだな。
他の子猫達も、タイガのいる方へ走って行く。
「ああ! マーブル、レオーン!」と、ララちゃんの声が聞こえる。
かなえもゆっくり歩いて行くと、
マリーはいつの間にか、庭の長椅子に坐っているお爺さんに頭を撫でてもらっている。
もうすぐお昼なので、かなえは庭のテーブルに先ほど買って来た料理を並べて行く。
「シロン、お爺さんにはまだお粥の方がいいのかな?」
「はい、昨日より大分快復して来ていますが、今日はまだ消化の良い物がいいでしょう」
そうか。お爺さん、大分元気そうに見えるけど、まだ無理は禁物だな。
かなえはお爺さんにはラウンドカフェのお粥とシュウマイ、杏仁豆腐を。
かなえ達も餡かけ焼きそば、プロの実餃子にシュウマイ、青菜のガーリック炒め、春巻き、大根餅、杏仁豆腐そして、飲み物はみんな一緒にプーアールティーにする。
「お昼の準備が出来ましたよー」
かなえは庭で遊んでいるリリララ姉妹と長椅子に座っているお爺さんに知らせる。
「やったー」と、走って来るララちゃんと、後に着いて来るリリちゃん。
みんな席に着いたので、
「いただきまーす」と、食べ始める。
子猫達も、知らない匂いに興味津々で、椅子をよじ登って来ようとするので、
「あなた達のご飯は、小屋にあるから食べて来てね」と、言い聞かす。
すると、マリーが、
『いらっしゃい、こっちよ』と、子猫達に声を掛けて小屋の方へ掛けて行く。
『まってー』『ぼくも行くー』『おなかすいたー』と、マリーの後に着いて行く子猫達。
マリーが母親の様に、子猫達を言い聞かせて連れて行く姿に、リリララ姉妹とお爺さんは関心したように、目で追っている。
午前中のみんなの様子を聞いたりしながら、デザートまで食べ終わると、かなえが普段どんな生活をしているか話すことにした。
「朝はミルクドームの牧場で掃除をしたり、牛の世話をしているの。その後は日によって違うけど、買い出しに行ったり、ここの動物達の世話ね」
まだ色々あるが、簡単に話しておく。
「そうだったんですか。かなえさん、そんなに沢山働いていたんですね」と、リリちゃんが驚いている。
そこまで大変じゃないけど、ウオッシュの機能の事はもう少し日を置いて話そう……。
「そんな事より、あなた達二人は何か学んでみたい事は無いの? 動物が好きって言ってたけど、他にも興味がある事があれば、勉強してね。将来きっと役に立つから」
「私、お料理が習いたいです。立派なキッチンがあるのに温めるぐらいしかできなくて……庭に沢山野菜が植わっているのに、どうしていいかわからないんです」
そうか……お料理か。かなえも簡単なものは作れるが人に教えるほどではない。せっかくなら基礎からちゃんと習った方がいいだろう。
「そう、それなら、お料理の学校に行けばいいね。私、ちょっと調べてみるから」
リリちゃんは嬉しそうにしている。
「ララねぇーお絵かき習いたいな。リアちゃんもお絵かき習っているんだってー」と、ララちゃん。
そうか。リアちゃんも習っているなら同じところに行かせるのもいいな。
「わかった。それならララちゃんはお絵描きね」
リアちゃんのお婆ちゃんに聞いて見よう。
お爺さんには、
「あのー、お爺さんの住んで居た家は、まだそのままで手続きをしていません。あのまま残しますか? もしここで瀬戸物を作るなら、あの家のお店で売ることも出来ますね」
「……どうだろうな。私はあの家にはもう思い入れが無いんだ。マリーと過ごした家だが、今はこうして側にマリーが居てくれる……瀬戸物を造る場所もある。それに、こんな立派な家があるんだ。かなえさん、悪いがあの家は引き払ってもらえないか?」
「わかりました。もう掃除も済んでいますので、書類にサインをするだけです」
かなえは作っておいた書類を出すと、お爺さんにサインをしてもらう。オクタゴンと、不動産ギルド宛てだ。そうして、家の鍵も預かっておく。
「それから、必要な物があればドームシティーで買って来ますが何かありませんか?」
「いや、今のところは何も無いな……」
「わかりました。もう少し元気になられたら、ドームシティーの好きな場所にお連れしますので、今は身体を快復させる事に専念してくださいね」
「ああ、何から何まで済まないねー」
「いいえ、遠慮しないでください」
「じゃーあなた達はこれからどうする? もし行きたいところがあれば連れて行くし、後で迎えにも行けるけど?」
「……」
リリララ姉妹は特に思いつかないようだ。
「それなら、ドームシティーに出来た、温泉に行ってみる? お風呂が沢山あって面白そうよ?」
「温泉ですか?」と、リリちゃんは良くわからないみたい。
そうだ、そうしよう。後でいろいろ感想が聞けそうだ。
「楽しいと思うよ。何かお店も入っているみたいだし……」
「ララ行きたい!」と、ララちゃんはお店に反応した。
「お爺さんも、元気になったらお連れしますね」とかなえは伝える。
「あのー、何を持って行けばいいですか?」と、リリちゃん。
「そうね、下着とタオルぐらいかな?」
「はいわかりました。じゃー支度をして来ます」
そう言うと、リリララ姉妹は一旦自分たちの家に戻って行った。
かなえはランチの終わったテーブルを片付けると、
「それじゃー行って来ますね。庭に生っているフルーツも美味しいですから食べてみて下さいね」
かなえはお爺さんにそう言うと、リリララ姉妹の家の前まで歩いて行く。
すると、ララちゃんと、動物ギルドの手提げ袋を提げたリリちゃんが部屋から出て来る。
「お待たせしましたー」と、リリちゃん。
「ましたー」と、ララちゃんもお姉ちゃんのまねをする。
「はぁーい、それでは……あっそうだ。ララちゃん、ここの新しいお家や動物達、私の事は内緒にしてくれる?」
「ないしょ?」と、ララちゃんが不思議そうにしている。
そうだよねー。ララりゃんにはピンと来ないかー。
「かなえさん、ララには私が言っておきます」と、リリちゃんが言ってくれる。
「そう、ありがとう。でも何か問題が起こったら言ってね」
まぁー、何とかなるだろう……。
かなえはリリララ姉妹を連れてジャンプで、西門の温泉にインビジブルで移動する。人が居ないところでビジブルになると、
「ここが温泉だよー。ゆっくり楽しんで来てね。売店もあるみたいだし、休憩するところもあるよ。また夕方に迎えに来るねー」
リリララ姉妹が嬉しそうに、靴を脱いで下駄箱にしまう所まで見届けると、かなえはオクタゴンのギルド科のある、第2エントランスに移動する。
「シロン、引っ越し届はギルド科で出せるの?」
「はい、郵送も出来ましたが、ギルド科の窓口でも受け付けています。それから、今日で動物ギルドと、ミルクドームで働き始めて30日になりますので給料がIDカードに振り込まれます。明細を頼めば、出してもらえます」
そうか、今日で動物ギルドと牧場に通い出して30日か……なんだかあっという間だったな。
「シロン、リリララ姉妹にも支払われるの?」
「はい、既定の時間の分はギルド科から支払われますが、それ以外はかなえのIDカードから支払いをしてください」
「あの二人はいくら給料が支払われるの?」
「一日3時間の計算でしたらまだ新米ですし、休みを引けば10万ドーム位でしょう」
そうか、でもあの子達には、子猫の世話で毎日1時間近く残業させてしまったようなものだな。少なくても3万ドームは払わないといけないな。
「ただ、かなえの場合は食事も準備しているので、残業代は支払う必要はありません」
えっ、そうなんだ……。
「じゃー、私の給料はいくらもらえるの?」
「かなえの場合はおよそ、牧場の従業員の見習いとして15万ドーム。動物ギルド長として20万ドーム。アニマルドームの管理人として30万ドームは支払われる筈です」
「へー、凄い! 一気に高給取りになったみたい」
まーここまで出来るのは、女神さまから貰ったこのブレスレットの機能と、シロンが居てくれるからこそだからな……。
沢山もらった分は皆の為に使おう。
かなえはリリララ姉妹に3万づつの残業手当を付ける事にする。
「かなえ、リリララ姉妹を正式に雇うことにしたのなら、家具購入建て替えの8万ドームが戻って来るので、一緒に手続きを済ませると良いでしょう」
そういえば、そんなことがあったな……。
かなえはギルド科で、一つづつ、手続きを済ませて行く。
まず、お爺さんの引っ越し手当を提出し、かなえの給料明細をもらう。
ホントだ……かなえの給料はシロンの言った通りで、牧場の15万と動物ギルドの20万で35万が振り込まれている。
結局、リリララ姉妹にかなえの給料から3万づつ支払う事にしたので、二人の給料は13万ドーム、かなえは29万ドームになった。
それと、家具の立て替えた8万ドームも返金してもらう。
手続きが終わったので、久しぶりにギルド室長の所へも顔を出すことにする。
ギルド科を出たかなえは、ジャンプで3階まで移動するとギルド室まで歩いて行く。
「すみません、室長にお会いしたいんですが……お忙しければ出直しますけど」と、受け付けの人に言うと、
「あなたは動物ギルドの方ですね。少々お待ちください」と、係りの人が奥に入って行き、戻って来ると、
「どうぞ、お入り下さい」と、案内される。
かなえは、扉を開けて中に入って行くと、室長が書類の山に囲まれながらペンを走らせている。
「こんにちは、お忙しいところすみません」と、かなえが室長に挨拶すると、
「やぁー、かなえさん。よく来たね。どうぞ坐ってください」と、嬉しそうに席を勧められる。
「はい、ではすぐ帰りますから……」
「遠慮しなくていいんだよ。この前は良いパーティーだったね。うちのリアも喜んでいたよ」
「そうですか、それは良かったです。それで、今日はギルド科に用事があったので、ここへも寄ってみました」
「そうかい。かなえさんならいつでも歓迎だよ」
室長は、今日も疲れた感じだな。
「シロンお願い」
「はい、どうぞ」と、シロンに出してもらったのは、黄色い小さな飴で、注意書きには「神経痛、疲れ目に効く飴、シニア用」と、表示されている。
「室長、ちょっとお疲れの様に見えますので、この飴をどうぞ。楽になると思います」
「おー、これは助かるよ。ありがとう」と室長はすぐに口の中に入れて舐め始める。
「うーん、何だか目がスーとして来て、体が楽になって来た気がするな」と、室長は嬉しそうにしている。
暫らく雑談をしていたが、そろそろだと思い、最後にリアちゃんの絵画教室の事を聞くと、
「リアはこのオクタゴンの絵画教室に通っているんだ。興味があればいつでも見学できるから行ってみればいい」と教えてもらう。
料理教室や他にも色々種類があるようなので、今度リリララ姉妹を連れて来ようと、かなえは思った。
次は―、パティさんの所ね。
かなえは不動産ギルドへジャンプして行く。




