075 マリーのお爺さん
『カナカナ、パンですよー、起きて―』
「うーん……」
『あさですよー、パンちょうだい!』
「リトくん……なんだか久しぶりね」
『おきて―』
「わかった、わかった」
かなえはゆっくり起き上がると、居間まで歩いて来る。
寝不足の割には頭がスッキリしているのは、昨夜の温泉効果かも……。
かなえはリトくんのご褒美パンを取り出すと、
「はい、どうぞ。どれにする?」
『ぼくねー、みどりの実のパンがイイ!』と、リトくん。
この緑色の実は、グリーンピースかな。
「はいどうぞ」
かなえがちぎってあげると、
『おいしいなー。みどりパン』と喜んで食べているリトくん。
さぁー、何を食べようかなーとリストを見ると、リリララ姉妹の事を思い出す。
昨夜は休みだからいいけど、今朝の朝食は届けて居なかった!
かなえは急いで今日の朝食とランチを選ぶと、袋に詰めジャンプでリリララ姉妹の扉を鳴らす。
「ハーイ」と出て来たのは眠そうな顔のララちゃん。
「おはよー。はい、食事よ。今日の朝とお昼の分ね」
かなえは食事を渡すと部屋に戻って来る。
さぁー食べよう。
かなえはが選んだのは、ミネストローネに雑穀パンとミックスフルーツのヨーグルト掛け、それにチーズスフレと、ブルーベリーソーダだ。
「美味しいものを食べている時が、一番幸せー」
かなえは自然と笑顔になる。
「ご馳走さまでした」
かなえは出掛ける準備をすると、
「シロン、リトくん達はどんな様子かな?」
「今、オクタゴンの公園の方角へ飛んで行きました」
そう……。それならもう行こう。
かなえはジャンプで牧場へ移動する。
「おはようございます。今朝の調子はどうですか?」
『かなえさん、いつもありがとうね。調子はとってもいいわ』と、ババさん。
『わしも、良く寝たから、いい気分だ』と、ジジさん。
「それでは、出発しましょー」
一緒にアニマルドームの砂浜へ移動して行く。
「ハーイ、お待たせしましたー。今日も楽しんで下さいね」
『今日も、お世話になりますね』と、ババさん。
『ああ、そうさせてもらうよ』と、ジジさん。
2頭は仲良く、エスカ機能の階段で山の方角へ向かっていく。
「シロン、みんなの様子を教えて」
「はい、キングスとクイーンは牧草地にいて、マーリーは子猫達を丘で遊ばせています。ルークスとモモちゃんは、600メートル上空の地点で遊んでいるようです」
「600メートル!?」
昨日より高くなっているよ……。
「シロン、大丈夫そう?」
「はい、モモちゃんは1万メートルでも全く問題ありませんでしたし、ルークスもおそらく5000メートルまでなら、害はないでしょう」
ふーん、そうなんだ。平気そうだけど。
上空ばかりじゃなくて、他にも興味を持ってくれないかな……。
かなえは、マリー達の所へ歩いて行く。
「マリー、調子はどうかな?」
『あら、かなえ。あたしも子猫達も問題無いわよ』
ホントだ。バタバタと丘や外を足り回っている子猫達。
「あの、丘も気に入ってくれているみたいね」
『そうなのよ。最近は小屋よりあの丘の中で寝たがるのよー』
「そうなんだ……どこか変更して欲しいところはある?」
『今は、思い付かないわ。子猫達も満足していると思うわよ』
かなえはマリーに、昨日のドームシティーの温泉の事を話す。
動物用と人間用を造り、馬達が気持ち良さそうに寝てしまった事も。
「マリーも今度一緒に行ってみる?」
『そうねー、でもしばらくは混雑するんじゃないかしら。それに……大型の動物と小型の動物は分けないと危ないんじゃない?』
そうか、馬達の希望があって温泉を造ったけど、小型や中型の動物とは体のサイズも違うし分けた方がいいな……。
『それなら……私のお爺さんを連れて行ってくれないかしら?』
「マリーのお爺さん? ……ああ、マリーを連れて来たあのお爺さんね」
『そうよ、最近どうしているか気になって』
そうか、マリーは一緒に暮らしていたんだから、気になって当然だろう。
「そうね。それならマリーも一緒にお爺さんを訪ねてみない? その時に温泉の事も話せばいいし」
『ええ、会いたいわ。あたしも連れて行って?』
かなえは先に牧場の掃除をしに行くので「また戻って来る」と、マリーに伝えてジャンプで移動して行く。
牛舎を掃除しながら、かなえも気になって来たので、
「シロン、マリーのお爺さんは今、どうしているか教えてくれる?」
「はい、今は家で寝ています。おそらく訪ねても会えるかどうか」
「体の具合はどんな感じなの?」
「体力、気力が極端に落ちています。このまま衰弱して行くと、1、2か月で光に帰るでしょう」
それは大変だ。マリーの為にも何とかしよう!
かなえは、牛舎の掃除と牧場の見回りを済ませると、マリーの所へ戻って来る。子猫達はもう眠そうにしながらマリーの体によじ登ったり、寄っかかったりしている。
かなえは小さな声で、
「マリー、子猫達が寝たら、お爺さんの所へ行こう?」
『うん、あたしはいつでも行けるわ』と、マリー。
ウトウトし始めた子猫達は、少し経つと眠りに就いた。
マリーが子猫達を起こさない様に、そっと抜け出して来る。
「マリー、じゃー行くよ」
かなえは場所を知らないが、シロンが訪ねて来たお爺さんを認識していたので、探し出せる様だ。
移動した所は……、
あらっ? この辺はリサイクル倉庫に近そうだな。
『ここよ』と、マリーが止まったのは、閉まっている何かの店舗の前だ。
すぐ横が住宅用の玄関なのだろう。かなえは扉を鳴らしてみる……。
「返事が無いなぁー」
マリーも心配そうにしている。
「シロン、お爺さんの様子はどう?」
「はい、ベットで横になっていて、意識はありますが起き上がる気配はありません」
やはり出て来れないか……。
「マリー、お爺さんはベットに横になっているみたいだから、中に入って見よう」
『ええ、そうね。そうして!』
かなえ達は家の玄関の内側にジャンプで移動すると、マリーは奥の部屋に向かって走って行く。
『お爺さん、どうしたの?』マリーは心配そうに話しかけると、
「おお、マリーじゃないか! また会えるとは思わなかった!」
『お爺さん、そんなに痩せて……』と、マリーの呟く声がする。
かなえもマリーの後を追い部屋の中に入って行く。
「いきなりすみません。動物ギルドから来ました、かなえです。マリーが家の中に入りたがって動かないので無理やり入って来ました」
「ああー、あなたは! ……いいんですよ。最後にマリーに会わせてくれてありがとう。私はもう思い残すことはありません」
「シロンお願い」
ポーチを開けると、小さな容器に薄い黄色の液体が入っていた。注意書きには、極度の疲労、栄養失調に効くシロップ、老人用と表示されている。
かなえはお爺さんの頭を少し持ち上げると、ゆっくりシロップを飲ませて行く。
「この薬は、よく効きますから安心してくださいね」
『お爺さん、元気になって』と、マリーも横で心配している。
暫らくすると、お爺さんの顔色が少し良くなって来る。
「具合はどうですか?」とかなえが聞くと、
「あー、最近の中では一番楽です。体の怠さが無くなって軽くなりました」と、お爺さん。
でもまだ起き上がる元気はない様だ。
「シロン、どうしたら良いの?」
「はい、一時的に体の調子は良くなっていますが、ちゃんと治すには滋養のあるものを食べ、ゆっくりと休養する必要があります。そして何より大切なのが、生きたいと言う気持ちです」
そうか……お爺さんが生きたいと思えるようになる、マリーと一緒に暮らすのが一番なんだろうけど……。
「シロン、お爺さんにアニマルドームで暮らして貰うのはどうかな?」
「はい、手続きがいくつかありますが、暮らすのは問題ありません。ただ、今のアニマルドームの状態は、お爺さんには刺激が強いかもしれませんが……」
あー、空中階段とか、元気過ぎるルークス達とかか……少しづつ慣れてもらうしかないな。
何とかなるだろう……たぶん。
「シロン、お爺さんにアニマルドームで暮らして貰うための、段取りを教えてくれる?」
「はい、まず近くのギルドに引っ越し届を出します。ですがかなえの場合は、動物ギルドで問題ありません。体調が悪いので一緒に暮らして、面倒見る事にすればいいでしょう」
そうか、とりあえず動物ギルドに、引っ越するという事にしておけばいいのね。
アニマルドームの存在が公になっていない以上、それが手っ取り早いだろう。
「後は家具を移動して、家を空にしたら不動産ギルドに届けを出せば完了です」
そうか、順番としては引っ越し届を動物ギルドからオクタゴンに出して、アニマルドームにお爺さんの家を設置し、荷物を移動させて、お爺さんを連れて来る。
そして、家を空っぽにしてから最後に不動産ギルドに届ければいいのね……。
お爺さんは、安心したのか眠り始めた。その横でマリーが座ってお爺さんを見守って居る。
「マリー、決めたよ。お爺さんの家をアニマルドームに造るから、マリーと子猫達が一緒に暮らせばいいよ」
『えーっ! かなえ、いいの?』
マリーはお爺さんと暮らせると思っていなかったのか、驚いている。
「いいよ。お爺さんをこのままにはしておけないし、お爺さんにはマリーが必要なのよ。それならアニマルドームで暮らすのが一番でしょ?」
『ええそうね、嬉しいわ。ありがとう、かなえ!』マリーは本当に嬉しそうだ。
そうと決まれば……かなえはまず、お爺さんの年季の入った部屋を、何度もウオッシュを掛けてきれいにする。お爺さんのベットや寝具に、お爺さん自身にも何度もウオッシュを掛けると、顔周りがスッキリして来る。
部屋の窓も開けて新鮮な空気を入れる。気になる所に全てウオッシュを掛けると、見違えるようになった。ソファーやカーペットのシミもすべて取れている。
店舗があった部屋に入って行くと、壊れた瀬戸物や土の塊、ヘラや木の棒のようなものなどの道具が置いてある。
……店舗兼作業場だったのかな?
「あっ!」
お爺さんは瀬戸物職人だったんだな。幾つが出来上がっている物を見てみると、お皿に小さな犬が付いて居たり、犬の足跡の模様が付いていたりと、可愛らしいデザインの瀬戸物が置いてある。
厚手の陶器で頑丈そうだが素朴な感じで、使い心地が良さそうだ。きっと良い職人さんだったんだろうな。
かなえはここの店舗にもウオッシュを掛けてきれいにして行くと、いつでもお店を始められそうな位に綺麗になった。
これで準備は出来たな……。
かなえは全ての部屋の掃除を終えたので、手続きを済ませてアニマルドームに家を造れば、今日中に移動出来る。
「マリー、私はこれから色々準備して来るから、マリーもアニマルドームに戻る?
『私は、ここにお爺さんと居るわ』
マリーは本当にお爺さんんが心配なのね。
「そう、わかった」
かなえはマリーの為に、お爺さんの横にクッションを置き、お水と餌も置くと、
「じゃー、後で迎えに来るから」と、一旦アニマルドームに戻る。
砂浜に戻って来たかなえは、
まず最初にやるべきことをやってと……。
皆の小屋にウオッシュを掛けてキレイにし、山の温泉も下からウオッシュを掛けて行く。
その後、一番上の雲の温泉に行くと、キングス達やジジさん達にマリーの飼い主だった、お爺さんが引っ越して来ることを伝える。
体調が良くないからしばらくは看病が必要な事、家にマリーや子猫と達も住むことも伝えると、
『そうか、それは心配だな。わしはここに住むのは良いと思うぞ』と、キングスがすぐに賛成してくれた。きっとキングスと仲の良かった、光に帰った御者の事を思い出したのだろう。
他の動物達も、問題無さそうだ。
「さぁーっ! お爺さんとマリー達の家を造るぞー」
「かなえ、そろそろお昼ですので、家を設置するのは午後からにした方がいいでしょう」と、シロン。
「あっ、そうね……」
かなえは一旦、砂浜に戻りランチを済まし、子猫達を迎えに行く事にする。




