071 放牧地
『カナ、カナ、パンですよー、おきて―』
「うーん……」
『カナ、カナ、パンちょーだい、おはよー』
「フフッ……リトくんは、いつも元気ねー」
かなえは布団の中から声を掛ける。
『うん、ぼくげんきだよー』
「そうね、私も、そろそろ起きるかー」
かなえはゆっくり起き上がると、居間まで歩いて来る。
リトくんは飛んで来て、イスの背にとまる。
かなえはリトくんのご褒美パンを取り出すと、
「はい、リトくん好きなの選んで?」
『うん、ぼく、きいろいツブツブパンがイイ』
「ハイハイ、これね」
リトくんが選んだのは、コーンが生地に練り込まれている黄色いパンだ。
それにしても、リトくんって色の識別がちゃんと出来るんだな。どの色も正確に判断出来ているみたい。もしかしたら人よりも色々見えていたりして……。
かなえはリリララ姉妹の朝食を準備すると、ジャンプし扉のノブに掛けると、また自分の部屋に戻って来る。
「さあー、私も食べよーっと」
「かなえ、公園のパーティー会場の事ですが……」と、シロン。
「あっ、そうだ!」
かなえは昨夜眠くなり、パティさん達をそのままにして、家に戻って来てしまったのだ。
急いで着替えると、向かいの公園へジャンプする。
「あれっ……?」
昨日のパーティーの行われた場所へ来てみると、パティさん達はもちろん、イスやテーブル、食べ物や飲み物カウンターなど、全く形跡の無い、普段通りの公園の姿だった。
「木の配置も、元に戻ってる……」
「シロン、どういう事?」
「はい、昨夜はかなえが眠ってからしばらくして、皆さんもお帰りになりました。そしてその後、女神さまが元の状態に戻したようです」
そうなんだ……。
「昨日のパーティーで使われた家具や、料理はかなえのポーチに入っています」
「料理も?」
「はい、料理と飲み物はまた元の状態になり収納してありますので、次の機会に利用出来ます」
「うーん、女神さま、気前がいいというかなんというか」
……でもいつか必要になるかもしれないから、とっておこう。
それじゃー、動物ギルドはどうなったんだろう?
かなえはジャンプで移動すると、
「ここもかー……あっ! あれも飾ってある」
動物ギルドも昨日、パーティー用に家具を移動していたのが元の位置に戻り、昨日パーティーで飾った装飾植木も壁に飾られている。
女神様、全部後片付けをしてくれたんだな。今度会ったらお礼を言わないと。
かなえはお腹が空いて来たので部屋に戻る。
朝食に選んだのはリリララ姉妹と同じ、
パンケーキのアーモンドココナッツソースと、人参のポタージュスープ、トマトがたっぷり乗ったグリーンサラダと、ブルーベリーヨーグルトにライムアイスティーだ。
昨日はエネルギーを消耗したし、今日は日曜日なのでゆっくり食べることにした。
それにしても……昨日のパーティーは急に場所が変更になったり、パティさんの友人が5人では無く結局15人位来たり、女神さまが演奏したり、いろいろあったなぁー。
でも、最終的にはみんな楽しんで帰ってくれたみたいで良かった。
「あーっ、おいしかった! ごちそうさまでした」
かなえは席を立つと、出掛ける支度をする。
「シロン、リトくん達はどうしてる?」
「今は、リアちゃんと一緒に居ます」
そうか、それならもう行こう。
かなえはジャンプで、牧場に移動するとジジさんババさんが待っていた。
「おはようございます。お待たせしました」
『いいのよ。かなえさん。いつもご苦労様ね』と、ババさん。
『今日は、おちびさん達は居ないんだな」と、ジジさん。
「はい、まだピーちゃんの家に居るみたいなので先に来ました。それでは、出発しまーす」
かなえは、ジジさんババさんを連れて、アニマルドームの砂浜に移動する。
「それでは今日も1日ゆっくりしてくださいね」
『ありがとう』とババさん。
『ああ、そうするよ』とジジさん。
2頭は、エスカ機能を使って湖の上を軽快に移動して行く。
「シロン、みんなの様子を教えて」
「はい、キングスはクイーンと一緒に山の頂上へ向かっていて、マリーと子猫達は小屋で眠っています。ルークスとモモちゃんは水路を泳いでいます」
フフッ、ルークス達、泳いでるんだ。最近、階段機能ばかり使っているみたいだったけど……。
かなえはジャンプで牧場の牛舎へ移動する。
「さーっ、きれいにするぞー!」
「かなえ、あまりやり過ぎないよう程々にしてください」
「あっ! そうだった」
あまり力を入れてウオッシュを掛けると、新品の様になってしまう。
かなえは慎重に力を加減しながら、ウオッシュを掛けて行く。
「ここは、こんな感じでいいな」
牛舎の掃除が終わると、スクーターで最近日課の牧場を周り始める。
牛達の様子を見ながら、気になる所にウオッシュを掛けて行く。
「終わったー!」
かなえはジャンプでアニマルドームの砂浜に戻って来る。
「今日はゆっくりしよーっと。シロン、今日中にやった方がいいことはあったかな?」
「そうですね。今日でクイーンが来て6日立ちます。クイーンにこの先どうするかを聞き、明日にはアンディーに報告したほうが良いでしょう」
そうね。クイーンはどうするかな。最近いつもキングスと一緒にいるみたいだけど……。
「シロン、クイーンは雲の上の温泉に居るの?」
「はい。キングス、ジジ、ババとも一緒に居ます」
そう、なら丁度いいわね。
かなえはジャンプで雲の温泉に向かう。
「皆さん、温泉の具合はいかがですか?」
『あー、カナカナ。いいわよ。とても気持ちが良いわ』とクイーン。
『そうだな、いい気分だ』と、キングスは特に嬉しそうだ。
ジジさん、ババさんも満足そうに頷いている。
「クイーン、あなたが此処に来て6日立つんだけどどうする? このままここで暮らす? それとも戻りたい?」
『ここで暮らしたいわ。向こうには仲間もいるけど、ここもみんなが居るし。何よりこの温泉が最高だもの。離れたく無いわ』
「そう、わかった。それじゃーアンディーに伝えて来るね」
『ええ……私も連れて行ってくれる? やっぱり仲間に挨拶しようかと思うの』
「いいよ、クイーンの元気な姿を見ればアンディーも安心すると思うし、これから行く?」
『ええ、お願いしようかしら』と、クイーン。
『あー、そうだな。わしも挨拶したほうがいいだろうな』と、今まで静かに話を聞いていたキングス。
「えっ? キングスも一緒に行くってこと?」
『ああ、最後はちゃんと話せなかったからな……』
「うん。キングスが良ければ一緒に行こう。アンディーも心配していたから喜ぶと思うよ」
キングス、放牧地にまた行こうと思えるくらい回復したんだな。でも気を付けておこう……。
キングスとクイーンが湯船から上がって来たので、ウオッシュを掛け乾かすと、一緒に放牧地へジャンプして行く。
かなえは放牧地の柵の扉を開けて、
「それじゃーアンディーと話して来るから、みんなの所に行っていいよ」と言うと、
キングスとクイーンは早足で向かっていく。
「待ってください。今のうちに鞍を着けておかないと、後々面倒ですよ」と、シロン。
「あー、そうだった」
アンディーに「どうやって連れて来たの?」とか言われてしまいそう。
「キングス、クイーン待ってー!」
かなえは後を追いかけて行く。
もう仲間の馬達に囲まれている、キングスとクイーンの所まで行くと、鞍のセットを2つポーチから取り出す。
「ちょっとみなさん! お話し中すみませーん。キングスとクイーン、これを着けないとまずいの。お願い着けさせて」
『あら、そうだったわね。じゃーわたしから着けて』
クイーンが側に来てくれたので、踏み台を出して着け方を教えてもらいながら鞍を装着する。
「こんな感じでいい?」
『まあまあね。いいわ』と、クイーン。
かなえは次にキングスの鞍もなんとか着け終わると、
『鞍を着けるのは久しぶりだなー。何だか窮屈だ」とキングス。
毎日美味しい草を食べて温泉に入っていたか少し太ったのかな……。
でも今は健康そうだから問題無いだろう。
キングスは楽しそうに仲間と話している。
「それじゃー、行って来るからー」
かなえは乗馬教室の建物の前まで行くと扉を鳴らす。
「はーい」
出て来たのは前にも見かけた女の人だ。
「すみません、アンディーさんは居ますか?」
「いいえ。今日は休みなんですよ」
「えーっ!?」
そうか、休みの時もあるよねー。
かなえがガッカリしていると、
「アンディーの家は近いですから、行ってみたらどうでしょう?」
その人が言うには、アンディーの家は歩いて5分ぐらいの所にあるそうだ。
かなえは家の場所を聞くと、アンディーの家に向かった。
教えてもらった住所は「10W11番通り」
家の前まで来ると……あれ? ここってシモンズさんの家?
「カンカン」
かなえは扉を鳴らすと……何も返事が無い。
「シロン、ここにアンディーは居るの?」
「いいえ、アンディーは隣のシモンズさんの所で寝ているようです」
「はぁー!? どうゆう事?」
「シモンズさんの家はここと似ていますが、隣です」
そうか、でもまさかお隣さんだったなんて。それも家が隣なのに帰らないで泊ったんだー。
どうしようかな……かなえは悩んでいると、隣の扉からアレックスが出て来た。
「あーっ! かなえさん、そこで何をしているんですか?」
「アレックスじゃない! 丁度良かった。今、アンディーに用事があって来たんだけど……」
「アンディーさんなら、うちに居ますよ。まだ寝てますけど」
やっぱり、シロンの言う通りだ。
「そうなんだ。それにしてもアンディーが家に泊る程、仲が良いとは知らなかったよ」
「いいえ、僕は挨拶するぐらいで、シモンズさんとは知り合いみたいでした。だけど……パーティーからの帰り道で、シモンズさんがアンディ―さんを誘って、居間で遅くまで飲んでいたみたいです」
そうか。シモンズさんはルルちゃんが居たから早めに帰ったけど、あれからまた飲んだんだ。
どうしよう……キングス達を連れて来たから会って欲しいな。
「それなら、アンディーに伝言をお願いできる? 今日、馬を連れて来たから13時に放牧場で待っているって」
「はい、いいですよ」
いくらなんでもお昼には起きるだろう……。
アレックスがパンを買いに行くというので、家の前で別れた。
かなえは放牧地に戻ると、キングス達はまだ他の馬達に囲まれて、話をしている所だった。
「キングス、クイーン。ちょっと来てくれる?」
すると、2頭の馬はかなえの居る柵の所まで近づいて来る。
『どうしたんだ?』と、キングス。
かなえはキングスとクイーンに、アンディーと待ち合わせしたことを話すと、
『そうか、それならわしらはここで待っているよ』と、キングス。
『そうね、ちょうどいいわ。久しぶりで色々話があるのよ』と、クイーン。
「じゃー、後でね」
かなえは話が済んだので、アニマルドームの砂浜に戻って来る。
まずやるべきことは……小屋の掃除ね。
かなえはクイーンの小屋へ行くとウオッシュを掛け、順番に子猫達の小屋まで掃除をする。
もうマリーは出掛けた後で、子猫達が新しい丘の中のクッションの上で眠っていた。
フフッ、可愛いなぁー。子猫達が重なり合うように眠っている姿に癒される。
かなえは砂浜に戻ると早めにランチを済ませる。
昨日の疲れが残っていたのか眠くて仕方が無い。
「シロン、12時50分に起こして―」
「はい、分かりました」
かなえは砂浜に横になると、眠りに着いた。




