067 子猫の丘
『カナ、カナ、おきて―、パンですよー』
「……うーん」
『カナ、カナ、パンちょーだい!』
「あー、リトくん……おはよう」
かなえは深く眠っていたようで、まだボーっとしている。
ゆっくり起き上がると居間まで歩いて行く。
「はい、リトくん、どのパンにする?」
「ぼくねー、クルミパンがイイ!」
うーん、どれだろう……これかな?
「リトくん、これでいい?」
『うん、いいよー』
かなえは、茶色いナッツの様なものが、少し見えているパンをちぎってあげる。
『おいしいパン、おいしいなー!』
フフッ、リトくんおしりを振って踊ってる。
かなえはゆっくり朝食を取り、朝の支度を終えるとランチをリリララ姉妹に届けに行く。
扉を叩こうとしたが……。
そうだ、今日はゆっくり寝ていてもらうためにも、扉の外に掛けておくんだった。
かなえはギリギリで思い出したので、リリララ姉妹のランチは扉の外に掛けておき、部屋に戻って来る。
まずは、いつもの仕事を終わらせよう。
「シロン、リトくん達はどうしてる?」
すると「パサッ」と音がして、窓の隙間からリトくんとピーちゃんが入って来る。
『あー、カナカナ、いたー!』とピーちゃん。
どうやら急いで飛んで来た様だ。
「ピーちゃん! おはよー。今日は一緒に行くの?」
『うん、あたし山に行きたいの』とピーちゃん。
『そうだよー! 山に行こ―』とリトくん。
「そう、わかった。それじゃー、行くよー」
かなえはリトくん達を連れて、牧場までジャンプする。
「おはようございまーす!」
『おお、今日はみんな一緒だな』と、ジジさん。
『まぁ、おはよう。リトとピーちゃんも元気そうね』と、ババさん。
リトくん達はかなえの肩からジジさんの背中に飛び移る。
「それでは皆さん。行きますよー」
かなえはみんなを連れて、砂浜に移動する。
一瞬で周りの景色が、牧場から湖が広がる砂浜に変わる。
「今日も楽しんでくださいねー」
リトくん達はサーッと、飛び立って行く。
ジジさん達は、砂浜から真っ直ぐ空中を渡って、牧草地の方へ歩いて行く。
『この階段、近道が出来て便利ねー』とババさん。
『ああ、傾斜も変えられるからいいな』と、ジジさん。
湖の上を歩いて行くのが楽しそうだ
次は……、
「シロン、みんなの様子を教えて?」
「ルークスとモモちゃんは、空中を飛んで走っていますし、キングスとクイーンは牧草地にいます。そして、マリーは子猫に添い寝をしています」
そうか、いつもと一緒ね。
それなら、まず牧場に行こう。
かなえはジャンプで牧場の牛舎に移動する。
牛舎の中に入ると、ミルクタンクのある部屋から順番に、奥の鏡や餌が置いてある部屋までウオッシュを掛けて行く。
そして、外からも軽くウオッシュを掛ける。
スクーターに乗るとインビジブルにしてメラニーさん達の家と奥の倉庫や、ジョンさんの家具の作業場にも外から軽くウオッシュを掛けておく。
そのまま牧場へ移動しながら、辺りにウオッシュを掛ける。
一通り周り、何も問題が無さそうなので、自分の部屋に移動し動物ギルドへ降りて行く。
さぁー、始めるぞー!
かなえはまず、家具を移動し、壁側に食べ物を置くテーブルを並べて設置する。
飲み物を作る切り株のカウンターと、その隣にも飲み物を乗せるテーブルを並べる。
そして常温の飲み物を、どんどん並べて行く。
食べ物を乗せて温めておく台や、冷やしておける台も設置しておく。
取り皿、フォーク、ナイフにスプーンも何ヶ所かに置き、ふきんを掛けておく。
夕方届けてくれる予定のお菓子な店の大皿のデザートや、スープ屋のスープも置ける場所を開けておく。
受付の為のリリララ姉妹のテーブルと椅子も、入口の所へ設置する。
奥の部屋にもテーブルと椅子を置き、年配の人もゆっくりできるように準備する。
後は、みんなが来る前に食事を並べて置けばいいな。
部屋全体と外にもウオッシュを掛けて、アニマルドームに移動する。
今のうちに掃除しておこう。
かなえは順番にクイーンの小屋からウオッシュを掛けて行く。
マリーの小屋は子猫達だけ奥で眠っている様だ。
マリーには今日は子猫達を連れて行かないって言ったけど覚えているかな……?
ここに子猫達をずっといさせるのも何だか可哀想だな。
そうだ! 丘をもっと大きくしよう。
かなえは地図を出して、子猫達の庭を表示させると、今ある丘を片付けて庭の周りの柵も広げる。
どれくらいがいいかな……。
とりあえず高さは4メートル位にして、頂上は子猫達が3匹ゆったり寝られるくらいの広さにする。底は、もう少し広げて……。
直径は3メートル位でいいな。
素材は土で芝生を敷いて登れるようにする。
グルグルと外をて登って行ける道も付けて……。
中はアニマルドームの山のように空洞にする。
さすがに温泉はいらないだろうけど……。
子猫達が登れる高さに台を幾つも作って、階段の様に上まで登って行けるようにする。
台は大きめにしたので、どの台でも昼寝が出来るだろう。
外側へも行けるように、穴を幾つも開けると、丘の中が明るくなる。
マリーも中に入れるように、下の穴は大きくして、みんなで寝られるように大き目のクッションも置いておく。
こんな感じかな。
庭の中心に大きな丘が出来た。
かなえは庭全体にウオッシュを掛け、子猫達が寝ている小屋の中もきれいにする。
餌と水も交換して作業を終える。
子猫達、大きくなったなぁー。
初めてあった時はまだ、片手に乗るくらいだったのに、今は3倍ぐらいの大きさになった。あの頃は弱っていて心配だったけど、今は元気過ぎるくらい元気だ。
ここまで成長出来たのは、マリーとリリララ姉妹が居てくれたからだな。
眠っている子猫達を眺めていると、体の模様がハッキリして来た事に気づく。
タイガは丸い模様で、レオンはシマ模様で目つきが鋭くて、マーブルもシマ模様だけどシマが太いんだよね。
暫らく観察していると、かなえの気配を察知したのか、
『パチッ』と、マーブルが目を開ける。
『あー、カナカナ』
マーブルがクッションから降りて、かなえによじ登って来る。
「おはよう、マーブル。今、新しい丘を作ったから見てみる?」
『……えー? あたらしいの?』
マーブルの大きな瞳がかなえを見る。
あら? いつの間にか目の色がミドリっぽくなって来たのね。
かなえの目の色に似ている。
「じゃー行ってみようか」
かなえは庭に出て、マーブルを地面に降ろして丘を見せると、
『ワーッ! おおきいやまー!』とマーブルが近づいて行く。
そして、一歩足を踏み入れたり匂いを嗅いで様子を見ている。
マーブルの声が聞こえたのか、小屋からタイガとレオンも起きて出て来ると、丘を見つけて駆け寄って来る。
『わー、大きい!』『すごーい!』
タイガとレオンも丘に辿り着くと、匂いを嗅いだりしている。
マーブルは慣れて来たのか、丘に登り始める。
『うぁー、たかーい!』
マーブルは少しづつ登って行けるのが面白い様だ。
『ぼくもー』
タイガもマーブルの後を登り、レオンも少し遅れてグルグルと、道なりに登って行く。
仮に落ちても階段落下機能を付けたから大丈夫だろう。
マーブルはどんどん登って行き一番上まで辿り着く。
『やったー。上まで来たー』
すぐにタイガも頂上まで登って行き、少し遅れてレオンも辿り着いた。
その後も新しい丘に興味深々なようで、上から景色を眺めたり、近いところにある木の枝に触ろうとしたり、忙しそうだ。
少し道を降りて穴の中に入って行くタイガ。
『わー、おもしろーい』
タイガは丘の中を上から覗いて居る。
中に入って行くと、台に飛び移ったり、穴から外を覗いたりし始める。
他の2匹の猫達も丘の中に入って行くと、タイガの後を追いかける。
中からは、『エイッ』『やったー!』『キャッキャッ』と楽しそうな声が聞こえて来る。
暫らく様子を見ていたが大丈夫そうなので、かなえは砂浜へ戻って来た。
椅子に坐ると、パーティーの段取りを書いた紙を出し、午後からやることを確認して行く。
「何か忘れていることは無いかな……」
一つ一つ見て行くが、問題無さそうだ。少し眠くなって来たので、
「シロン、30分後に起こしてくれる?」
「はい、分かりました」
シロンに頼むと、かなえは砂浜に横になった。
「かなえ、起きて下さい。30分経ちましたよ」
「……うーん、はい、わかった」
はぁー、30分眠っただけで頭はスッキリだ。
……これでパーティーも乗り切れそう。
かなえは勢いよく起き上がると、
「みんなの様子を教えてくれる?」
「キングスはクイーンと、空中階段を使って山の頂上に着きました。マリーも、もう頂上にいますね。ジジとババも同じように空中階段を広場で休みながら登っているようです。ルークス達は空中で飛んだり跳ねたりしています」
フフッ、ルークス達はそのままででいいだろう。
みんな頂上に向かっているんだ……。
空中階段が役に立っているみたいで良かった。
かなえは頂上に移動すると、キングスとクイーンが休憩し、マリーが水を飲んでいるのを見つける。
「みんな、凄いねー。頂上まで来れたんだー!」
『ああ、階段で来ると大分楽だからな』と、キングス。
『ここは素敵ねー。気に入ったわ』と、クイーン。
『かなえ、ここにも温泉を作ってくれない?』と、マリー。
温泉は考えては居たけど、まさかみんな頂上に来れるとは思わなかった。
よし、今から作ろう。
……まだ時間はあるから大丈夫だろう。
かなえは地図に山を表示させると、頂上から少し登った空中に湯船をぐるりと、幾つも設置して行く。
強、中、弱の泡風呂、ミルク風呂、レモン風呂、水風呂、熱い風呂、神経痛に効く電気風呂等かなえの思いつくお風呂を設置し、トンネルシャワーを2か所、水飲み場を4か所造る。
またみんなの希望を聞いて増やせばいいな。
そのお風呂の外側に大きく休憩場を造り、休めるようにする。
かなえは頂上から、上を見上げると出来上がった幾つもの湯船が浮かんでいるのが見える。
うーん……。これだと景観を損なうな。
遠くから見ても頂上の上に湯船が幾つも浮いているのはあまり恰好良くない。
そうだ、下からはわからない様に透過させよう。かなえは少しづつ薄くして行き、全て消してしまう。
……でもこれだとわかりにくいかな。
「シロン、温泉を透過させたあと、何か目印になるようなものはあるの?」
「はい、幾つかありますが、この場合湯船は薄く雲がかかっているようにすればいいでしょう」
なるほど、雲だったら山の上にあっても恰好が付くし目印にもなるな。
かなえは、フォルダのオプションから雲を選び湯船の底に設置し、違和感なく雲が浮かんで見えるよう調節する。
キングス達は上を見上げながら興味深そうに変化していく景色を眺めている。
「お待たせ―。とりあえず、造ってみたから感想を聞かせてくれる?」
『おお、いいぞ』とキングス。
『あー楽しみ』と、クイーン。
『シャワーもあるの?』とマリー。
「うん、ちゃんと造ったよ。何処か治して欲しいところがあれば教えてね」
みんなは慣れた足取りで、各々の空中階段を上って行く。
山の頂上からは5メートル程上に温泉を造ったけどどうだろう。
「シロン、ジジさん達はどの辺まで来たかな?」
「今、8合目の広場で休憩しています」
そうか……それだと上の温泉まで毎日移動するのは大変かな。
「シロン、ジジさん達がもう少し楽に登って来れる方法は無いかな?」
「はい、階段では無く、エスカレーターの機能もあります」
そうか、それがいいかな。でもそれだと楽すぎるような……。
ジジさん達にも適度な運動はして欲しい。
「シロン、例えばジジさん達に登るための補助的な物はある?」
「それでしたら、エスカレーターの速度をゆっくりにすればいいでしょう」
うーん、どうかな。やってみて様子を見ようかな。
かなえはジャンプで8合目の広場に移動する。
「大丈夫ですか? ここまで登って来れるなんて凄いですね」
『ああ、かなえさんか。この空中階段のおかげだな。もう少し休憩すればまた登れるよ』
ババさんは、もっと疲れているみたいだ。
かなえはシロンに飴を出してもらうとジジさんとババさんにあげる。
『おお、体が楽に立って来たぞ』とジジさん。
『ええ、本当に。体が軽くなったわ』とババさん。
かなえはジジさんとババさんにエスカレーターの速度弱機能を付けると、
「今度は、階段では無くもう少し便利な機能を付けました。でもそれに頼らずちゃんと自分でも歩いて下さいね」
『おお、そうかそれは済まないな』とジジさんは一歩上がるとゆっくり上へ上昇して行く。
『これは凄い! 勝手に登って行くぞ』
速度はゆっくり歩く位だが立っているだけで進むので、ジジさんは嬉しそうだ。
『ジジ、待ってちょうだい』と、ババさんもジジさんに続いて、移動して行く。
『あら、まー凄いわ。これなら疲れないわね!』と、ババさんも興奮気味だ。
「それは階段では無くエスカと言う機能です。乗っているだけでなく、自分でも歩いた方が早く着きますし運動になりますよ」
『おお、そうだな』と、ジジさんは足を踏み出しスイスイと登って行く。
『ジジ待ってー』とババさんも軽快に登って行く。
あの速度ならマリー達とも引けを取らないだろう。
かなえはスクーターを出すと後を追い、頂上に着くまで様子を見守る。
『おお? もうみんな居ないのか?』
ジジさんは頂上に辿り着いたのに、誰も居ないので不思議そうだ。
『あら、おかしいわね。どこか他に行ったのかしら?』と、ババさん。
かなえはジジさんババさんに、温泉を頭上に作った事と、キングス達みんなはもうそこにいる事を話し、上まで誘導する。
『何も見えないがのー』
『そうねー』と2頭は不思議そうにエスカに乗ってかなえの後に着いて来ると、雲の上に温泉が幾つもあり、キングス達が泡風呂でくつろいでいるのを見つける。
『なんだ、ここは!』
『あらまー!』
ジジさんもババさんは、固まっているので、
「山の上に温泉を造ってみました。どんな感じか感想を聞かせてくださね」
「ここの温泉はどう?」
かなえはキングス達の所へ行き話しかける。
『はは! 良いに決まっているじゃないか。この雲の上で景色を眺めながら温泉に入れるなんて驚きっぱなしだ』とキングス。
『そうよ。なんだか夢でも見ているみたい』とクイーン。
かなえはトンネルシャワーに居るマリーにも聞くと、
『そうね、ここのシャワーも気持ちいいわ』とマリー。
ジジさんとババさんも温泉に入り気持ち良さそうにしている。
「それでは夕方に迎えに来ますね。楽しんで下さい」
かなえは砂浜に移動し、ランチを出して食べると自分の部屋へ戻って行く。




