059 ババさんとクイーン
『カナ、カナ、あさだよー、おはよー』
「えっ?」
リトくん、まともな挨拶してる……?
「あー、良く寝たー」
昨夜1日眠かったような気がするけど、お風呂が良かったのか、寝起きはスッキリだ。
「おはよー、リトくん!」
かなえは元気にベットから出ると、居間まで歩いてくる。
かなえを追って来たリトくんは、イスの背にとまって、
「ごほうびパンちょーだい」と、おねだりする。
かなえはリトくんのパンを取り出す。もう大分中心に大きな穴が開いて来て、一番端に到達しそうだ。
「リトくん、どれがいい?」
『うーん、ぼく、赤い実パンのとなりがイイ』
あ、これね。かなえはパンをちぎって渡す。
『パンパンパン、ナッツパン』
へー、中に丸ごとクルミ1個分が入っている。
フフッ、リトくん、先にクルミばっかり食べてるよ。
かなえは、グッスリ寝たので気分が良い。
朝はブルーベリーパンケーキのホイップクリーム乗せ、野菜がゴロゴロ入ったポトフとチーズたっぷりのサラダ、それに飲み物はピンクベリーソーダにした。
「あー美味しかった!」
でも苦しい!……これじゃーモモちゃんの事、言えないな。
かなえはゆっくりと朝の支度を終えると、リリララ姉妹にランチを届けに行く。
「はい、どーぞ」
「ありがとうございます!」
ララちゃんはいつも元気だな。
部屋に戻って来ると、
「シロン、リトくん達はまだリアちゃんのところかな?」
「はい、かごの上にピーちゃんと並んでとまっています」
そう。それならもう出かけよう。
かなえはジャンプで農場のジジさんの所へ行くと……、
「は? えーと……」
『おお、来たか。今日はわしの昔からの友人も一緒じゃ。宜しくな』
「はい、宜しくお願いします」
何と、ジジさんはもう、お相手を連れて来たよ。ジジさんより一回り小さくて、体の色もこげ茶のジジさんよりも薄い茶色の、優しそうな表情の年配の雌牛だ。
『今日は、よろしくね。うちのジジが最近コソコソしているから私も連れて行ってもらう事にしたの。私の事はババでいいわよ』
「え? ババですか?」
『ええ、ジジって年寄りの雄で、ババは年寄りの雌なんでしょ? なら私はババでいいわ』
「はぁー、わかりました」
『あなたの事は他の牛に聞いたわ。いろいろ私達牛に良くしてくれてありがとう』
「はい、いえ……どういたしまして」
『ほら、しゃべっていたら、いつまでたっても着かないぞ』とジジさん。
『あら、そうね。ごめんなさい』と、ババさん。
かなえはジジさんにいつもの飴を渡し、ババさん用の飴もシロンに出してもらう。注意書きには「神経痛と免疫強化塩飴、老齢の雌牛用」と、表示されている。
かなえはその飴を、ババさんの口に入れてあげると、
『あらー、まーおいしいわ。これが噂の飴ね! 塩味が体にしみるわー』と喜んでいる。
「それでは出発しまーす」
かなえはジジさん、ババさんを連れて砂浜にジャンプする。
『えー!? ここ何処―?』
ババさんは先ほどまでの、おっとりとしたしゃべり方とは一変して、物凄く驚いたようだ。
「ここはアニマルドームと言う所です。ババさんがいた牧場からは4時間近く離れているんですよ」
『えー! もー! どういう事? ジジったら何も教えてくれないんですもの』
え? ジジさんはここに来るのに、詳しいことは何も話していなかったのかな?
『ハハッ! わしは、おまえの驚いた顔が見たかったんだ。いつもすましておるからの』
『もー! 酷いわー!』
あーあー。ババさん涙目になっている。面倒くさいので……、
「ジジさん、意地悪しないで、ババさんを案内してあげて下さいね」
かなえはそう言うと、ジャンプで牧場の牛舎へジャンプして来る。
ジジさんって、子供みたいなところもあるんだな……。
かなえはジジさんと、ババさんの様子を思い出しながらウオッシュで牛舎の中をきれいにして行く。
これでよしっと。
一通り、牛舎と牧場全体の掃除を終わらせると、
「シロン、みんなはどうしてる?」
マリーは子猫達が眠ったので、島から橋を渡っている所です。キングスは牧草を食べていますし、ルークスとモモは川を水路に向かって泳いでいます。ジジとババは砂浜から橋を渡り始めたところです。リトとピーちゃんはセンターパークの公園に居ます。
ハハッ、ジジさん達、やっと歩き出したんだ……。
かなえはジャンプでキングスの所へ移動する。
「キングス、おはよう。今日の調子はどう?」
『おお、かなえか。まあまあだな』
「そう、良かった。それで昨日のクイーンの事だけど……」
『ああ、クイーンか。ここを気に入ったようだな』
あれ? キングス、昨日の初めの頃の様子と違うな。
「クイーンに、ここに住みたいって言われたけど、キングスはどう思う?」
『いいんじゃないか? わしはどっちでもいいが。ルークス達は喜ぶだろう』
キングスは、クイーンが自分に気があると思っていたけど、違ったようで自信を失っているのかな……?
でも、かなえがどうこう出来るわけじゃない。
もうクイーンにここを見せちゃったから、住めなくなったらガッカリするだろうな。
やっぱりアンディーに頼んでみよう。何か問題が起きたらその時考えればいいし……。
「わかった。それならアンディーに頼んで見ることにするね。それから……」
『おお!』とキングスがかなえの後ろの方を見て声をあげた。
かなえも振り返ると、ジジさんがババさんを連れて牧草地にやって来た。
『ジジはもう連れて来たのか! 隅に置けないなー』とキングス。
ジジさんと、ババさんがキングスとかなえの所へ近づいてくる。
「ババさん、ここには牧草が沢山ありますから食べてくださいね」
『ええ、ありがとう。さっきは年甲斐もなく、取り乱してしまってごめんなさいね』
「いいえ、初めて来たときは誰でも驚くんですよ」
『そうだな。わしはキングスと呼んでくれ。ここは良いところだぞ。ジジに案内して貰うといい』
『まぁ、キングス、宜しく。私はババと呼んでくださいな』
『行くぞ』と、ジジさんが素っ気なくババさんに言うと、ジジさんの後に着いて行くババさん。
へー、ジジさんって亭主関白なんだなー。
かなえは、普段と様子が違う、強い口調のジジさんが意外だった。
キングスは去って行く、ジジさんババさんを見つめている。
「じゃー、キングス、私は行くね」
かなえはジャンプでドームシティーの放牧地に移動してクイーンを見つけると、近づいて行く。
「クイーン!」
クイーンは他の馬達と話している所だった。
かなえを見てクイーンは小走りで近寄って来た。
『あら! もう迎えに来てくれたの?』
「いいえ、違うの。これからアンディーの所に行くところなの。クイーンを見つけたから声を掛けちゃったのよ。話し中だった?」
『いいえ、大丈夫よ。大したことを話していないから』
「そう。アンディーと話してから、知らせに来るね」
『ええ、お願いね』
クイーンは、小走りで仲間達の所へ戻って行く。
かなえは乗馬教室の建物の前まで来ると、
「カンカン」と、ドアノッカーを鳴らす。
「ハーイ」と声がしてアンディーが出て来た。
「こんにちは、アンディー。元気?」
「ええ、ぼくは元気です。ええと、カナエさん」
「ちょっと、お話があるんだけど……」
「あ、はい、どうぞ入って下さい」
かなえはカウンターの前にある椅子に案内され、アンディーも向かいに座る。
「それで話と言うのは……」
かなえはアンディーに、キングスが元気になって来たので、雌馬と一緒に暮らさせてあげたい。出来れば仲が良かったクイーンが良いと話すと……。
「うーん、そうですか」と、アンディーは暫らく考え込む。
「何か問題があるの?」とかなえが質問すると、
「クイーンは他の馬達にも人気があるので、居なくなるとガッカリして元気がなくなる馬が居たら困るなと……」
そうか。クイーンは人気があるんだな。何かいい方法は無いかな……。
「例えば、クイーンをキングスがいる牧場で1週間一緒に居させてもらって、ここの馬達の様子を見てみるのはどうかな? もし何も問題無ければ一緒に居させてあげたいんだけど」
「わかりました。それならいいですよ! キングスの事は気になっていたんです。クイーンとキングスが幸せならそれが一番ですしね」
アンディーは本当に馬達の事を心配しているんだな。
「私も、馬達が不幸になるようなことはしたくないから、様子を見てもしダメなら連れて帰って来るから」
かなえはアンディーと相談し、キングスを連れ出すのに借りた鞍を返しがてら、今日の午後にクイーンを迎えに来ることに決めた。
「それから、パーティーだけど来れそう?」
「あー、今度の土曜日でしたね。行けますけど、ぼくパーティーなんて行った事が無いんですよ」
「緊張しなくても、大丈夫よ。おいしい食事とお酒も用意してるわよ。だれか一緒に連れてくればいいじゃない?」
「まぁーそうですね」
「呼んだ人達は、皆いい人達ばかりよ。ここの教室に来た、リリちゃんララちゃんもいるし」
「あー、あの子たちは、乗馬の才能がありますよ! またレッスンに来てくださいと伝えて下さい」
「えー、そうなの? うん。わかった。それじゃーまた後でね」
かなえは乗馬教室から出て来る。
アンディーって、20代前半だろうに、16才のかなえに対しても敬語で話して来る。
誰に対しても低姿勢なのかな?
それとも、かなえの中身が32才なのを本能的に感じ取っているとか……。
単に、人見知りなのかもしれないな。
かなえはクイーンの所へ戻って行き、
「クイーン!」ともう一度声をかける。
するとまた、仲間と一緒にいたクイーンがかなえの所へ小走りでやって来る。
「クイーン、話は終わったよ。今日、後で迎えに来るね」
『えー! そうなの! うれしい!』
「クイーン、でもまず1週間様子を見てからよ。クイーンって他の動物達に人気があるんですってね。クイーンが居なくなったら、他の馬達は悲しがるって聞いたけど」
『え? そんな事無いわよ。私達は仲間だけど、特に特別な感情は無いわ。みんな引退した馬達だからのんびりしたものよ』
「そう、ならいいんだけど」
うーん、本当の所どうなんだろう……。
まぁ、他の馬達にも今度話を聞いて見よう。
かなえはジャンプで島の砂浜に戻って来る。
まだお昼まで時間があるので、小屋へ掃除に行く事にする。
まずは、モモちゃんの小屋。
あら? いつもモモちゃんは居ないけど、ちゃんと寝てるのかな……。
「シロン、モモちゃんは今どうしてる?」
「ルークスと、一緒に山へ行く途中です」
ホント、元気よね。
「モモちゃんとルークスは、体の調子はどう?」
「モモちゃんは、良く食べているので栄養は足りているようです。健康ですし、パワーはほとんど減っていませんね。ルークスは健康ですし、パワーもモモちゃん程ではありませんが、十分あります」
そうか。凄いんだなー。全く問題無さそうね。
そろそろ、お昼にしよう。
かなえは砂浜に戻って来るとランチを出して食べ始める。
選んだのは、野菜やチーズ、プロの実パテ、アボカドが入ったサンドウィッチに、ミネストローネスープ。そして、バナナパイナップルジュースにした。
あーおいしー! 幸せだなー。
ランチを食べ終わると、ゆっくり子猫達の所へ向かう。




