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アニマルレスキュー  作者: コトリコトリ
5/229

005 ハローギルド 



 外は穏やかな日差しにそよ風が心地よい。町中なのに高原にいるような透き通った空気だ。

 これもドームの空気清浄の効果なのかな……。


 かなえはオアシスインを出ると、馬車通りに向かった。

昨日馬車から降りた地点に行ってみたが、停留所のようなサインは無い。

丁度、かなえの横を通り過ぎようとした中年の女性に声をかける。

「すみません、馬車乗り場はどこですか?」

 

 買い物の帰りなのか、その女性は食材が入ったかごを抱えている。

「乗り合い馬車なら手を挙げれば停まりますよ。」

 

 ……そうなんだ、どこからでも乗れるのね。

「わかりました。ありがとうございます」


 馬車通りなだけあって結構交通量は多い。屋台を引いている人や荷馬車も通る。

 暫らく待っていると、見覚えのある馬車が近づいて来た。

 あっ、あの馬車! 昨日の馬車だ。かなえは手を挙げて、


「乗せてくださーい!」

 馬車はかなえの前でゆっくりと停まった。


「おはようございます」

「昨日の嬢ちゃんかい、どこまで行くんだい?」

 やっぱり昨日と同じ、ガラガラ声の髭もじゃの御者さんだ……。


「あのハローギルドに行きたいんですけど」

「そうかい、乗りな」

 ぶっきらぼうだけど悪い人じゃなさそう。オアシスインを紹介してくれたのもあの人だったし、後でお礼言わないと……。


 馬車の中にはおじいさんが一人乗っていた。軽く会釈して席に着く。 

 この通りはお店が多いなぁー。

 馬車から通りを眺めていると、道の歩道沿いにお店がいろいろ並んでいて、見ているだけでも楽しい。

 食品を売ってる店、衣類、雑貨店など、外まで商品が並んでいる。

 あとでゆっくり歩いてみようかな……。


 暫らくして、馬車が停車した。

「嬢ちゃん、着いたよ!」

「はい、降りまーす」

「料金は?」

「200ドームだ」

 昨日より近かったから少し安いのかな……。あれ? 昨日は先払いしたような。

 IDカードで支払う。


「ハローギルドは、この道をまっすぐ行き、8番通りを左に曲がるとあるよ」

「わかりました、ありがとうございます」

 馬車を動かそうとした御者に、

「あのっ、昨日オアシスインに泊まりました」

「そうかい、いいとこだろ。飯もうまいしな」

「はい、助かりました」

 御者はうなずくと、馬を操り馬車を走らせて行った。

 

 8番通りか……じゃー、今通って来た道にも数字が付いているのかな?

 小さい声で「シロン、地図見せて」と頼むと、

 すぐに地図が現れ、現在地と8番通りのハローギルドが表示される。もちろん周りの人には見えない。

 

 ……ふーん、なるほどー。

 かなえが通って来た馬車通りは10番通りだった。

 一番外側の塀に面した道が11番通りで、大きな丸い円を描いている。

 ここが10番通りか……。じゃあこの10番通りも円になっていて……あの馬車に乗っていたらグルッと回って一周出来るってことね。

 

 ドームの中心に行くにつれて10、9、8、と数字が減って行き、円も小さくなり、一番中心に近い道は1番通りになっている。

 

 縦の道は……北門から中央に向かっていて……北通り。そして南門から中央に向かって、南通り。 

 横の道は……東門から中央に向かって東通り。そして、西門から中央に向かって西通り。

 その他に、北東通り、南東通り、南西通り、北西通りがあり、馬車の通らない路地もある。

 

 オアシスインのある宿泊通りも、小さい通りなんだな……。

 メインの通りは方角が、そのまま道の名前になっているので仕組みがわかると、覚えやすいかも…。

 

 円の一番中央の建物は、オクタゴン(八角形)で……お城? それか市役所みたいなとこかな……。

 ここは北門の側だからハローギルドに行くは、この縦の道、北通りを通って8番通りまで行き、左に曲がればいいのね……。

 

 向こう側に渡りたいんだけど、横断歩道みたいなものは無いな……。

 この10番通りは馬車の通りが多いので、横切るのは危険だ。


 辺りを見渡していると角に人の出入りが多い店があった。

 何を売っているんだろう……近づくと看板に「アクロス」と書かれていて。

 ……アクロスって、もしかして? 

 

 お店の中に入って行く人に付いて行き、傾斜の緩やかな階段を降りると、地下道になっていて、道を横断することができた。

 

 入口がお店のようになっているんだ……景観を壊さなくていいかも。交通量の多い交差点の角はアクロスになっているようだ。階段の横にはスロープが付いているので、ちょっとした荷物なら運べそう……。

 これなら横断歩道は無くても大丈夫そうだ。


 8番通りに着き、左に曲がる。

 この辺りは商店街というよりオフィス街って感じかな……きちっとした身なりの人が多い。

 暫らく歩いていると、


 ――ディンドーン、ディンドーン、ディンドーン――


 鐘の音がどこからか響いてくる。

 わーっ、きれいな音……ドームの中で音が反響しているのかな?

 ……ちょっと赤ちゃんをあやす、ガラガラの音に似てるかも。

 

 音がする方角を探してキョロキョロしていると、向かいから歩いてくる、中年の男性が「あの音は9時の鐘の音だよ」と言いながら通り過ぎて行った。

 

 そうなんだ、時を鐘の音で知らせるなんて情緒があるな。

「シロン、教えて?」

「はい、あの鐘は、中央にあるオクタゴンの、ベルハウスに設置されています。毎日朝の6時と9時、昼の12時、午後の15時と18時、夜の21時の3時間おきに、6回鳴らされます。また、朝6時と夜21時の鐘は、日中より音を小さく鳴らしています」

 

 そーか、今朝6時の鐘はまだ寝てたから、気が付かなかったな……。


 しばらくするとハローギルドと書かれた看板をみつけた。

 丸い形の鉄のフレームの中に、ハンマーや、ペン、ナイフの絵が描かれ、フレームの部分にハローギルドと書かれ、鉄で出来た木の葉やフルーツで装飾された緻密な造りだ。

 

 重そうな木の両扉の右側が開いていたので、入って行くと……向かって左側に背もたれの無い長椅子が並んでいて、7、8人坐っている。

 正面の大きな木のカウンターには受付の人が2人。

 結構人が並んでいるな……。

 かなえは列には並ばず、掲示板の前に行き、張り紙の中から自分に出来そうな仕事がないか見てみる事にした。

 

 ……仕事の内容は、

 大まかに――物を作る職人、物を売る商人、その他ってところかな?

 

 鍛冶師、錬金術師、大工、パン焼き職人、仕立屋、吟遊詩人、御者、庭師、農作業……。

 オクタゴン内の募集も結構あるなぁー。

 職員、教師、清掃員、管理人、医師……。


 短期の仕事は……、

 カフェの給仕、子供の世話、家具の移動、宿の雑用、

 他には……、

 牧場の従業員もある!

 うーん面白そうだけどなあー、動物にかかわれるし……。


 隅の方に目を通していると、

「鳥の捜索『私のピーちゃんを探してください』リア」と書かれた張り紙を見つける。

 あっ、とり? 逃げちゃったのかな? そっかー……。


「よしっ、これにしよう!」

 かなえは「鳥の捜索」の張り紙をはがすと受付の列に並んだ。


「次の人、どうぞー」

 かなえの番が来た。

 係りの人は30前のお兄さん。髪は黒い短髪で瞳の色はグレー。彫も浅めなので日本人っぽく見える。


「あのー、これでお願いします」

 かなえは張り紙を見せると、

「あーこれね、鳥は見つけるの大変だと思うけど大丈夫?」

「はい、動物関連は得意なので、大丈夫だと思います」……たぶん。

「そう、じゃあがんばってね」

 

 IDカードを渡して手続きを済ませ、依頼主の連絡先を受け取る

「終わったら、ここに依頼主のサインを貰ってきてください。他には何かありますか?」

「それと、あの牧場の張り紙の事なんですけど……」

「牧場に興味あるの? 結構重労働だと思うよ。老夫婦が引退したいそうでね……牛を放牧しているんだ」 


 どうしよう……今は決められないな。

「そうですか、もう少し考えてみます」


 

 かなえはハローギルドを出ると、初仕事に向かうことにした。

 行き先は……依頼者の自宅かな? 

「10NE6番パーク通り」

 どこだろ……? 住所だけじゃわからないな。


「シロン、地図をお願い」

 目の前に地図が現れ、現在地と依頼者の場所までが表示された。

「そうか、それならこの8番通りを行くより、北通りを上がって6番パーク通りで馬車に乗った方が近いわね」

「ありがとう、シロン」


 北通りを歩いて行くと、6番パーク通りの方角に、鬱蒼と樹が茂っている場所が見えてきた。

 えっ、こんな町中に森? ……早足で近づいて行くと6番パーク通りと5番パーク通りの間が公園になっているようだ。木が歩道まで覆いかぶさる様に生えて居る。

 

 へーきれいな緑だなー……。

 植物もドームの空気が合っているのか、青々としている。

 6番パーク通りを左に曲がり、馬車に乗ろうと歩道で待つことにした。


 しばらく正面の緑を眺めていると、馬車の走る音が近づいて来た。

 あっあの馬車! 髭もじゃの御者さんの馬車と同じタイプだ……かなえは手を挙げると、

「乗りまーす」と声を上げる。


 この御者さんは40才前後か。細身でベージュのシャツに茶色のベストを着て、重そうな黒いブーツを履いている。


 御者に行き先を告げ、支払いを済ませる。

 乗車料金は200ドーム……さっきと同じ金額だ。やはり距離によって金額が変わるようだ。

 馬車に乗り、開いている窓際に坐った。

 

 先客は若いお母さんと赤ちゃん。スヤスヤとお母さんに抱っこされて眠っている。

 

 可愛いなぁー。この世界に来て、赤ちゃん初めて見たかも。ほっぺがまん丸でまつ毛長い……。

 

 視線を窓の外に向けると、2階建てのレンガ造りの建物が続いている。良く見ると、建物の作りは同じでも、玄関横に植木を置いたり、窓際に花を飾ってそれぞれ違いがある。

 

 この通りに住むと向かいは公園かー……いいな。


 馬車がユックリと停車して。

「娘さん、着いたよ」

 早かったな……これくらいなら歩けたかも。

 

 馬車から降りて正面の建物を見ると、扉の横に10NEと書いてある。

 ここだ! 御者さん、家の前で下してくれたんだ。

 木に鉄枠の付いている扉。上部がアーチになっている。

 

 ブザーって無いか。……呼び出すには、もしかしてこれ?

 ライオンの様な動物が丸い円の形を咥えて、扉に付いている。

 この丸いところを浮かして扉に打ち付けるのよね?


「カンカン」

 結構大きな音だ。

 スタスタ、スタスタ……歩く音が扉の中から聞こえてきて、

 扉が「ギ―」っと小さく開くと……、

「はい」と声がする。


「ハローギルドから、鳥の捜索の件で来ました」

「そうですか、どうぞ」

 するとドアが大きく開いて、中から小柄な白髪を小さくまとめた、お婆さんが出てきた。


「あなたが鳥を見つけてくれるの?」

「はい、私は動物の世話の仕事をしていたので、お手伝いできると思いまして」

「そうなの、ちょっとここで待っていてくれる?」

 お婆さんは、私を居間のソファーに案内すると、部屋から出て行った。


 明るいお部屋だなー。

 天井まで届きそうな大きな窓から光が差し込んで暖かい。暖炉の上には小さな鳥の置物がいくつか飾られていて……壁にはカラフルで大きなキルトが掛かっている。

 あの木の揺り椅子、お昼寝するのに丁度良さそう……。

 

 足音がした方を見ると、お婆さんがコーヒーカップを持って戻って来た。後ろには小さな女の子。プラチナブロンドの髪に紫色の瞳。目がクリっとして印象的だ。薄紫のチュニックが似合っている。


「こんにちは」

 かなえが声をかけると、女の子も小さな声で

「こんにちは」

 と、返してくれる。


 可愛い……オアシスインのルルちゃんより小さいかな?

 ソファーに座るとお婆さんが、飲み物の入ったカップを出してくれる。


「あのー鳥が居なくなったんですか?」

 女の子が大きくうなづき、お婆さんが、

「そうなんです。この子の、リアの、飼っている鳥が二日前に飛んで行ってしまい、それから戻って来ていません。近くは探してみたんですが、わからなくて……。昨日ハローギルドに届けを出したんです」


「何かその鳥の特徴を教えてください。それと好きな物、食べ物とか、オモチャとか。それからその鳥の羽があればお借りできますか?」

  

 ……だいだい必要な話を聞いたので、お暇する。最後にリアちゃんから目に涙を溜めて「お願い、ピーちゃんを探して」って頼まれて……。

  

 お姉さん、リアちゃんの為に全力でがんばるよ。

 なんか、やる気が出て来た!

 


――――――――――――――――――――


<かなえのIDカード>

 表示

 名前  カナエ リュウゼン

 年齢  16才

 職業 未定

 特技  動物の世話、歌声  

 ポイント 10000

 お財布 10000

 パワー 5 

 ―――――――

 非表示

 名前  竜禅かなえ

 年齢  16才(32才)

 職業  アニマルレスキュー、女神様の子分

 特技  人間、動物とのコミュニケーション、癒しの声

 持ち物 ブレスレット、ポーチ

 ポイント プラス  無し 

      マイナス 馬車 200x2

      残り   969800

 パワー  499


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