043 アニマルドームの洞窟(前)
『カナ、カナ、パンちょーだい、おはよー』
「うーん……あれ? リトくん、昨日はピーちゃんのところに泊まったでしょ?」
『うん、ぼくパンたべたい。おいしいの』
もしかしてパンが食べたくて早朝に帰って来たのかな。
『カナ、カナ、パンまだ?』
「えっ? はいはい、今あげるよー」
かなえはベットから起き上がると、居間にノロノロと歩いて行く。
「はい、どーぞ」
選んだのは、リンゴンベリー入りの雑穀パンだ。
『おいしいパン、あかいみパン』
リトくん、このパンも好きなのね。
かなえは支度を終えると、温めて食べやすいランチを地下に運んで行く。
「おはよー。はいこれランチね。でも出掛けて外で食べて来るなら、夜に温めて食べてね」
「ありがとうございます」リリちゃんと、ララちゃんはこれから洋服を買いに行くのが嬉しそうだ。
かなえは2階に上がって来ると……椅子のところにリトくんとピーちゃんが並んでとまっているのを見つける。
「ピーちゃんおはよう、今日もアニマルドームに行く?」
『うん、やまいきたいの』とピーちゃん。
『うん、やまいこー』とリトくん。
このドームシティーは平地だからアニマルドームの山が珍しいのだろう。
「そう。わかった。じゃー行くよー」
かなえはリトくんとピーちゃんを連れて、牧場の丘にジャンプして行く。
「おはようございます、ジジさん。調子はどうですか?」
『おはよう。今日はみんな一緒だな』
「はい、山を気に入ってくれたみたいで、今日も行くそうです」
『そうか、飛べたら簡単に頂上に行けるから、楽しいだろうな』
かなえはジジさんに飴をあげると、一気に砂浜にジャンプで移動する。
リトくんとピーちゃんはあっという間に山の方角へ仲良く飛んで行く。ジジさんはゆっくり歩いて橋を渡って行った。
かなえは子猫達の所へ歩いて行くと、丁度起きて庭を歩き回っていた。その姿を庭の隅で見守って居るマリー。
「おはよう、マリー。みんな元気そうね」
『ええ、歩き方がしっかりして来たでしょ?』
うーん、そうかな。毎日見ているのであまり変化が分からない。
かなえは小屋の中に入りウオッシュをかけ、離乳食を準備しておく。
「マリー、毎日子猫達を午後から連れて行こうか迷っているんだけど、どうしたらいいと思う?」
『そうね……寂しいけど、自分だけの時間も欲しくなる時もあるから。お願いできるる?』
「うん、じゃーしばらくは午後から連れて行くね。変更したい時はいつでも言ってよ」
『ええ。わかったわ』
……マリーにも息抜きが必要よね。
かなえはジャンプで牧場に来ると、牛舎の中と外回りにも掛けて行く。あまりやり過ぎると新築の様になってしまうので手加減しながら……。
スクーターを出してインビジブルになり、上空から牧場にもウオッシュをかけて行く。
宙を浮いてスクーターに乗っているかなえを、スミス夫妻が見たら腰を抜かしてしまうだろう……。
牧場一面に生えている草をおいしそうに食べている牛達が見える。
「シロン、牛達の様子はどうかしら?」
「皆体調は良いようです。池や川の水をきれいにし、牧草を増やしたので栄養も足りているようです」
「そう。良かった」
一旦、自分の部屋にジャンプで戻って来る。
「シロン、リリララ姉妹は無事ハッピーキッズに行けたかしら?」
「はい、丁度今、お店の中に入ったところです」
そう。良かった。
「シロン、私が忘れていることはある?」
「急ぎではありませんが、リッカ―ショップのショーンさんに、パーティーの給仕仕事の、支払う金額も決めておいた方が良いでしょう」
「そうね。これから行ってみるわ」
かなえは、リッカ―ショップの側にジャンプして、歩いて行きお店の扉を開ける。
「こんにちは」
ショーンさんが、奥から出て来て、
「いらっしゃいませ。えーと、かなえさんだよね?」
「そうです。昨日は飲み物を配達してもらい、ありがとうございます。手伝いの人も決まったと聞いたので……」
「ああ、そうだよ。僕の友人2人に頼んだけど良かったかな?」
「はい、助かります」
かなえはショーンさんと、パーティーの打ち合わせをし、必要な物を教えてもらう。人件費は商人ギルドに頼んだ時と同じ金額で良いそうなので、先払いしておく。パーティーの当日だと忘れてしまいそうだ。
「それでは宜しくお願いします」
話が終わったのでお店を後にする。
久しぶりにジャングルフードの料理を食べたくなって来たので、テイクアウトを買いに行く事にする。リリララ姉妹も喜んでくれるので丁度いい。ジャンプでお店の横に着くと、扉を開けて中に入って行く。
お店の中は今日もムワッとした湿度で、南国に来たみたいだ。お店のお姉さんの髪にはピンク色の大きな花が飾られている。前と同じようにテイクアウトカウンターに移動し、お兄さんにメニューを見せてもらう。
あら? この前はこれは無かったような……。
「すみません、このキッズセットには何が入っているんですか?」
かなえは南国の雰囲気がいっぱいのお兄さんに質問すると、
「それはねー、子供用だから量は少ないけど品数を増やしてデザートも付いているんだ」
へー、そうなんだ。それならリリララ姉妹にピッタリかも。
かなえはキッズセットを8人前に、今日のお勧めランチを2つ注文する。
「はい、お待たせしましたー」
出来上がった食事はどれもバナナの皮で包まれていてカレーやココナッツやスパイスのいい匂いがする。
かなえは一つづつカバンに積めて行き、ポーチのフォルダに移動させる。
これでいいな。かなえはジャンプで家に戻って来る。
「シロン、キングスとルークスはどうしてる?」
「ルークスは山の頂上で湧き水を飲んでいます。キングスは山の2合目の広場で休んでいます」
そうか。キングス無理していないといいけど。
「シロン、山のどの位置にいるか動物達にわかるような方法はある?」
「はい、動物用の標識があります」
「えっ? でも動物達には読めないでしょ?」
「山の絵に現在地が分かるように表示されています」
そうか。字が読めなくても絵で示せばいいんだ。
「シロン、どんなものか一つ見せてくれる?」
「はい、どうぞ」
すると木で出来た標識が出て来た。山の絵が描いてあり、下の方に穴が開いている。
うーん、わかり易いけど、動物達には1度説明したほうがいいな。特に、マリーやキングスにとっては現在地が分かれば便利だろう。ルークスは一気に走り抜けるので興味が無いだろうけど。
かなえは標識を持って、山の一番下の広場の前にジャンプする。そして標識を道の見やすいところに埋め込む。その作業を頂上の標識まで続けて行く。
頂上の標識は山の絵に一番上に穴が開き、頂上の位置を示していて「頂上」と文字が入っている。
これで皆の役に立ってくれるといいな。
全ての標識の設置が終わったので、砂浜に戻って来る。
椅子に坐り、頭の中を整理する。何か他にやるべきことがある気がするんだけど……。
「シロン、何か他にやっておく事は無い?」
「そうですね。動物ギルドの右隣のスーザンにパーティーの招待状を渡す事でしょうか。左隣りにはまだクッキーも渡せていません」
そうだった。左隣りの人には、まだ1度も会ったことが無い。越して来てから直ぐは、何度か行ってみたがいつも不在だった。ポストはあるだろうから、招待状だけでも出しておこうかな。当日は騒がしくなるだろうから、一言書いておこう。
かなえは招待状を取り出すと、両隣の人用に書き込んでいく。
書き終わったので、1度部屋にジャンプすると右隣の家の前に行き扉のノッカーを鳴らす。
「ハーイ」
あっ、この人スーザンさんだ。
「こんにちは、隣のかなえです。今度動物ギルドで人を呼んでパーティーを開くことにしたので、よかったらご家族でいらしてください」
「あらー、そうなの? いいわねー。息子と一緒に行こうかしら。楽しそうね」
「はい、是非来てください! お待ちしています」
良かった。スーザンさん達も来てくれそうだな。
次は、いつも不在の左隣の家。ゴミも落ちてはいないし手入れはされているようだ。
「カン、カン」
「……」
やはり不在のかな?
仕方が無いので、招待状をポストに入れておく。
どんな人が住んでいるんだろう。
あっ! スーザンさんに聞いてみればよかった。
動物ギルドに戻り、子猫を連れて来る前の準備をしておく。柵を広げトイレを隅に置いておく。ウオッシュをかけて……後は来てからでいいな。
次はルークスの小屋だ。ジャンプで小屋の前に来ると、どこかで走り回っているのか不在だった。かなえは小屋の中に入りウオッシュをかけ、大きな哺乳瓶を出し古いのと交換しておく。今日もミルクを飲み切ったようで哺乳瓶は空っぽになっていた。
「シロン、ルークスのミルクはもっと大きいのがあるの?」
「はい、あります。それでは明日からもう一回り大きいのにしましょう」
切りが良いので砂浜にジャンプしてお昼にする。ランチは先ほど買ったジャングルフードのキッズセットにする。リリララ姉妹にあげる前にどんなものか知りたい。
テーブルに、普通のランチより一回り小さいバナナの葉で包まれたランチを広げる。
「うゎー、キレイ」
小さな葉に小分けになって色々な種類の料理が乗せられている。この前食べたカレーもあるし、炒め物や、揚げ春巻き、プロの実ボール、ピラフに、小さいナン、サラダにココナッツミルク風味のタピオカ。
一口サイズで色とりどり。子供はもちろん、かなえにも嬉しいセットだった。
量的にもかなえにピッタリだ。これならリリララ姉妹も喜んでくれるだろう。
食べ終わると、砂浜の先に広がる湖を眺めたり、山の方を見て景色を楽しむ。
「シロン、ジジさんにも何か楽しんでもらえるものは無いかな?」
あの山を登るのはジジさんにはきつい。いつも牧草を食べたり昼寝するぐらいでは物足りなくなるだろう。
「それでしたらあの山に洞窟を造り中に入れるようにしたらどうでしょう?」
えっ! そんなことも出来るんだ。山を上に登って行かなくていいし、それは良いかも。
「シロン、子猫達を預けたらまた戻って来るから後で詳しく教えて?」
「はい、分かりました」
少し早いが、かなえは子猫達の小屋にジャンプして来る。
「あー、みんな元気に遊んでるねー」
子猫達は丁度庭に出て歩き回っている。もう小さな丘には楽々登れるようになっている。
へー、結構アクティブだな。これだと庭の柵を飛び越える日もそんなに遠くないかも。
『ね、みんな元気でしょ? 昨日出来なかった事が今日出来たりして、毎日成長してるわよ』
マリーは子猫達の小さな変化も、わかっているんだろうな。
かなえに気が付いた子猫が近づいてくる。あなたは目つきが鋭いから……、
「レオンね。レオン、こんにちは」
『カナカナあそぼ―』
「えっ? 私の名前覚えてくれたんだ。嬉しいな」
かなえは側にあったボールを転がすと、レオンが一目散に追いかけて行く。
何でも興味がある年頃ね。
やっぱり、一番食欲があるタイガが大きいな。何の変哲もない石ころをめがけてジャンプしている。マーブルは転がったボールをレオンと一緒に追いかけている。
一通り遊ぶと、マーブルがウトウトし始めその場で「コテン」と寝てしまう。タイガもマーブルの所まで行くと体をピッタリくっ付けて眠り始める。
暫らくボールを追いかけていたレオンも、眠っている2匹の所まで来ると上に重なるように寝始める。
「マリー、そろそろ子猫達を連れて行くわね」
『ええ、お願い』
かなえは子猫達をケージに入れ、ポーチにしまうと、部屋にジャンプする。
ケージを取り出し、動物ギルドに降りて行く。クッションの所まで来ると、子猫達を静かに乗せて行く。熟睡しているのか、どの猫も全く起きない。
子猫達のミルクを準備していると、下からリリララ姉妹が上がって来る。
「かなえさん、ドレスを買って来ました」「来ました」
リリララ姉妹は、嬉しいのか頬が薄っすら赤くなっている。持って来てくれたようなのでドレスを見せてもらう。
「これにしました。見てください」
リリちゃんのは薄紫のドレスで、スカートの部分が何層にもなっていて動くたびにフワフワしてバレリーナみたいになりそう。
ララちゃんのは薄いピンクで、デザインはリリちゃんと同じでフワフワしている。共布のリボンは髪に巻いても、ウエストで結んでも良いそうだ。
デザインが上品で、リリララ姉妹にとっても似合いそうだ。
「素敵なドレスね。二人にピッタリだと思うわ。二人も気に入ったのかな?」
「はい、こんなきれいなドレス。ありがとうございます」とリリちゃん。
「このドレス、可愛いからすきー」とララちゃん。
「見せてくれてありがとう」
かなえは後を二人に頼み、自分の部屋からアニマルドームの砂浜へジャンプして行く。




