031 キングスの顔合わせ
「かなえ、かなえ、起きてください。子猫が起きましたよ」
「ハーイ」
だんだん体が慣れて来たのか、夜中に子猫達の世話で起きるのが辛く無くなって来た。
かなえはスッと起き上がると、いつものように保育器の前で固まっているリトくんとマリーに、
「おはよう。みんな早起きだね」と、いいながら保育器を持って居間に運んで行く。
『ねこおきた、おきたよ』 と、リトくんが嬉しそうにしている。リトくんは夜は早く寝てしまうので、子猫に会えるのは朝のこの時間ぐらいだ。
『あたしはマリーよ。マリー』と、マリーも子猫に自分の名前を憶えてもらおうとしている。
かなえも順番にミルクをやりながら自分の名前を子猫達に教える。
『カナ?』
そうよ。それに「マリーと、リト君よ」
子猫達はリトくんとマリーの事をジーッと見て観察している。毎日教えていれば、その内に覚えるだろう。だんだんと顔つきもハッキリして来たみたいだ。
「シロン、子猫達を保育器から出して育てるのはいつ頃がいいかな?」
「まだ目が開いたばかりですし、あと10日は様子を見た方が良いと思います」
「そうね。わかったわ」
かなえはリトくんにパンを選ぶ。今日はブルーベリナッツパンだ。すると、
『パン、パン、おいしい、しらない、パン』
と嬉しそうにしている。
あれ? でも……。
「リトくん、ちょっと太った?」
『ぼくふとったの?』
なんだか丸くなってきたような気がする。
「リトくんアニマルドームで木の実を沢山食べてるのに、家でもパンを食べてるでしょ? それだと太るかもね。ちょっと食べるのを減らそうか?」
『ぼくきのみも、パンもたべたい』
「そうね、じゃー少し減らそう。さもないと体が重くて飛べなくなっちゃうよ」
『うーん。わかた。すこしへらす』
本当はパンをやめればいいんだけど、それも可哀想だしね。暫らく様子を見よう。
環境が変わると体にも影響が出やすい。
動物達の体調の変化も気を付けないと……。
かなえも朝食を済ませ、朝の支度を終えると、二人分のランチを持って子猫達を預けに地下のリリララ姉妹のところへ運んで行く。
「それじゃーお願いねー」
かなえは部屋に戻りリトくんとマリーを側に寄せると、ジャンプで農場のジジの所までやって来る。
「ジジさん、おはようございます」
かなえはいつもの塩飴をあげてみんなに尋ねる。
「もう、今からアニマルドームにジャンプしていいのかな?」
『いいよ』『ああ頼む』『それがいいわ』
みんなが同じ意見のようなので、シロンにキングスの居場所を確認し、一気にジャンプで移動する。
『おお!』と、目の前に驚いた顔のキングス。
「おはよう。キングス。ごめんね驚かしちゃったかな?」
ちょっと側にジャンプしすぎたようだ。
『そうだな、年寄りを驚かせないでくれよ』
「ごめんなさい。気をつけるわ。キングス、ここに居るのが、牛のジジ、マリーには昨日会ったのかしら、それから小鳥のリトくんです。宜しくね」
『みな、よろしくたのむ』とキングス。
『わしと歳は近そうだな。よろしく』とジジさん。
『きんぐすおおきいねー』とリトくん。
『あたしは昨日挨拶したのよ』とマリー。
「キングス、昨夜は一人だったけど良く寝られた?」
『そうだな、ここは静かだから、もう少し誰かいた方が良いかもな』
そうよね。何も気配が無くてシーンとしているのも慣れないと落ち着かないかも……。
「少しづつ動物達も集まって来ると思うから待っていてね。それじゃー私は行くけど、皆はここでいいのかな? それとも砂浜まで移動したい?」
『ここでいいぞ』『自分で移動するからいいわ』『ぼく飛ぶからいいよ』と、皆ここでいいらしい。
「それじゃーまたね」
かなえはジャンプで牧場の牛舎にやって来ると、ウオッシュで掃除を始める。すると奥の方に何か気配がある。かなえはゆっくり近づいて行くと、以前産後の肥立ちが悪くてお腹に薬を塗ってあげた牝牛と、まだ小さい子牛がいた。
「こんにちは。牝牛さんと子牛さん。ここに居るなんて珍しいですね」
『ああ、あんたかい。ちょっとこの姿を映す板の事を聞いてね、この子と来てみたんだよ』
「それは鏡っていうんですよ。人間が自分の姿を映すときに使うんです。便利でしょ?」
『そうかい。かがみって言うんだ。自分の顔なんて水に映ったの位しか見ていないからね。面白いもんだね』
「そうですか、楽しんでもらえたら嬉しいです。他の牛さんにも教えてあげてくださいね」
『ああそうするよ』
「ところで、最近は体調はどうですか?」
『あたしは調子がいいよ。気になるのはこの子の成長がちょっと遅いことね』
「シロンお願い」
かなえがポーチを開けると中から小さい白い飴と大きな黄色い飴が出て来る。
白い飴には「子牛の成長促進飴 ミルク味」と、書いてある。それを取り出すと、牝牛に説明し、子牛の口に入れてあげる。
すると、
『ママ、おいしいミルクのあじだよ』と子牛が喜んでいる。
黄色い飴には「牝牛の健康塩飴」と書いてある。なので、牝牛の口の中に飴を入れてあげると、
『うぁー美味しいね。こんなおいしいもの舐めたこと無いよ』と、嬉しそうだ。
「この時間だったらたいてい私はここに居るので、飴が欲しくなったら来てくださいね」
『そうかい。この子も喜んでいるし、また来るよ』
牝牛親子は、牛舎を出て牧場の方へゆっくりと歩いて行った。
この鏡、喜んでもらえて良かった。飴もあげる事が出来たし。軽い症状の内に飴をあげて対処できるなら、それに越したことはないな。
かなえは牛舎の掃除を終わらせると、一旦動物ギルドの2階に戻って来る。
暫らくアニマルドームの準備をしていたが、動物ギルドの方もちゃんと見ておかないと。
「シロン、何かやるべき事はあるかな?」
「はい、そろそろ手提げ袋が出来上がった頃ですので、受け取りに行った方が良いでしょう」
そうだ! お願いしておいて取りに行かないなんて最低。
「シロン、ありがとう。今から行くわ!」
かなえはジャンプで印刷職人の店にやって来る。
「こんにちは」
「あら、いらっしゃいませ。かなえさん。待っていたのよ」
印刷職人さんが棚から包みを持って来てかなえに渡す。
「これで手提げ袋の印刷全部よ」
かなえは出来上がった手提げ袋の包みを開けて確認する。
「はい、確かに。綺麗に印刷してもらいありがとうございます」
「やっぱり自分の店の名が入ると、印刷するのも力が入るものね。また何かあったら言ってね」
「はい。それなら……」
かなえはいつか頼もうと思っていた物を注文することにした。
注文用紙を受け取ると、見本を書き込んでいく。
はがき大のサイズに、動物ギルドパーティーのお知らせと書き、日時、ところ、名前、服装自由と、記入した。
それに紙を選ぶと、印刷職人さんに見栄えが良くなるように周りに装飾を入れてもらい、パーティーの招待状のサンプルが出来上がった。
かなえは動物ギルドの準備が出来たら知人を呼んでパーティーを開こうと思っていたのだ。具体的な日時や名前は決まっていないので空欄にしてもらい、後で書き込めるようにした。少ない数では悪いので50枚注文しておく。
「それでは宜しくお願いします。急ぎではありません。また4、5日したら来ます
ね」
今回も後払いでは悪いので、料金の支払いを済ませかなえはお店を後にした。
招待状のカードを頼むと、もう早くパーティーをしたくなってくる。
今回のパーティーを思いついたのは、かなえがこのドームシティーで出会ってお世話になった人達へのお礼と、動物ギルドの宣伝も兼ねて何かパーッとやりたいと思ったからだ。
かなえは大通りをゆっくり歩きながらパーティーの事を考え始めた。
日にちは……2、3週間後ぐらいにして、食べ物は軽くつまめるもので、飲み物はセルフサービスでいいよね。テーブルを端に寄せて……と考えていると、
「おい、そんなところでボーっとして歩いていると危ないぞ」
声がしてかなえは顔を上げると、あの生意気なシンだった。今日はクリーム色のひだが入ったシャツにぴったりしたキャメル色の細身のパンツ。それに同系色のブーツを履いている。ラフな格好が、やけに似合っている。
「あっ、なんであんたがこんな所に居るのよ!」
「久しぶりに会って、そのセリフは無いだろう。おれ達は同業者じゃないか」
「私だって好き好んでこんな態度なわけないでしょ。今までのあなたの態度が私をイラつかせているんじゃない!」
「はは、そうだったかな? まぁ、いいや。ホントは女神ちゃんから伝言があったんだけどな……」
「は? 伝言って何よ。 大事な事は早くいいなさい!」
「ちぇっ、うるさいな。わかったよ。確か……『ドームに何か送るから宜しく』だったような?」
「えっ? 送るって何を?」
「うーん。忘れた。おれもう行かなきゃ。じゃーな」
「ちょっと……」
シンは言いたい事を言うとパッとその場でジャンプして消えてしまった。
「もー! 何よいったい。伝言はちゃんと伝えなきゃ意味ないじゃない。ホント使えない」
かなえはせっかくいい気分でパーティーの計画を立てていたのに、シンの登場で丸つぶれだ。
でもドームに何か送るって何だろう? アニマルドームの事よね……。
「シロン、アニマルドームに何か送られた形跡はある?」
「いいえ、特にありません」
そうよねー。まぁー今考えても仕方が無いな。しばらく様子を見よう。
「シロン今何時?」
「11時半です」
もうお昼前か。じゃー何か食べようかな。
「シロンどこか変わっていて人気のあるレストランはあるかな?」
「それなら近くにあるジャングルフードですね」
何それ?面白そう!
かなえはジャンプでお店の側まで行き歩いて行く。
……この辺は鉄板カフェもあったな。結構変わった店が多いのかな?
大きなバナナの木がお店の前に植えてあり、重そうにバナナが生っている。
お店の中も南国の木が生えていて気温も湿度も高めだ。奥に入って行くと案内のお姉さんが、フラダンスをしそうな格好で出迎えてくれた。
「あのーここはテイクアウトもできますか?」
「はい、テイクアウトでしたら、あちらのカウンターで注文できますよ」
かなえは案内されたカウンターに行きメニューを見せてもらう。
メインや付け合わせに、ライスにヌードルなど色々自分の好きな組み合わせにして、バナナの葉で包んでくれるようだ。
ふふっ、変わってるな。
カウンターの人も南国の火を噴く芸をやりそうな、日に焼けたお兄さんだ。
かなえはお兄さんのお勧めでトロピカルランチを選び、リリララ姉妹の分も合わせて3人分注文した。
暫らくすると、バナナの皮で包まれたな大きいアツアツのランチが出来上がった。
かなえは支払いを済ますと、ずっしりと重い3人分のランチをカバンからポーチのフォルダに積め、お店を出る。
建物の陰に行くとジャンプで砂浜に移動する。
「はー。ここは別世界ね」
ドームシティーの雑踏から急に目の前に白い砂浜に湖が広がっているところに来ると、あまりの変化にドキドキする。
かなえはジャングルフードで買ったランチとバナナココナッツジュースを出すと、バナナの皮を開いて食べ始める。
面白いなー。具がたっぷり入ったカレーに、ほのかにココナッツの香りもする。ご飯の粒は細長くてサラサラしたオレンジ色でカレーとピッタリ合う。辛さに、ココナッツが深みを出している。
たまに感じる甘酸っぱさは何かフルーツも入っているんだろう。マイルドな辛さなので、これならリリララ姉妹も喜んでくれるだろう。
「おいしー」
この食事は砂浜で湖を見ながら食べるのにピッタリだ。おいしかったのでかなえは1人前全部平らげてしまう。
「わーお腹いっぱい。も―動けないー!」
かなえは砂浜に仰向けになって寝転がる。
「シロンもし私が寝ちゃったら12時45分に起こしてね」
「はい、わかりました」
かなえはちょっと行儀が悪いが食べてすぐ横になった。




