030 憔悴したキングス
かなえも青年の向かいの席に座る。
「すみません。まだあなたの名前をお聞きしていませんでした」
「はい、ぼくは……私はアンディーといいます。あなたはかなえさんですね」
えっ? あ、そうか。動物ギルドのカードを渡したんだっけ。
「はい、そうです。では、アンディーさん今日はどうしましたか?」
「あのー実はキングスが、元気が無くてですね……昨日から何も食べないんです。あなたには以前、うちのクイーンもお世話になって元気になりましたし、何とかしてくれるのではと思いやって来ました」
「どうしたんでしょうね……」
「原因はわかっているんです。昨日の朝、キングスと昔一緒に働いていた御者が訪ねて来たんですが……もういい歳でやっと歩いて来た感じだったんです。その人が急に、キングスの目の前で光に帰って行ったんです!」
そうか、なるほど……。キングスは目の前で大切な友人が光に帰って行くのを見たんだ。それはショックだよね。
「そうですか。それはキングスも辛かったでしょうね」
「はい、私も遠目ですが、その人が光に帰って行くのを見て……いきなりで驚きました。その後、近くのギルドに行って届を出したりとバタバタしていたので、キングスの事まで気が回らなくて。キングスが元気が無いと気づいたのは今朝でした」
もし誰かが光に帰って行くのを見かけたら、そこに残されているIDカードを持って、最寄りのギルドに行き届けを出し、オクタゴンに報告する義務がある。
この動物ギルドにもいつでも対応できるように、リリララ姉妹にも伝えてあるが、慣れないとこのアンディーさんの様に慌てるだろう。
人が光に帰ったあとは何もかも消えて無くなるが、IDカードだけは残るそうだ。
女神様が考えたことだろうけど……その方が光に帰ったかどうか、後から確認しやすいんだろう。
「そうですが、それでは様子を見に行きます。私はもう少ししたら出ますから、1時間後位に伺います」
「わかりました。よろしくお願いします」
アンディーは、慣れた仕草で馬に飛び乗り帰って行った。
かなえは、緊張しながら話を聞いていたリリララ姉妹に「そう言う事だから、私は出掛けてくるわ。後はお願いね」と頼み一旦2階に上って行く。
1時間後だから今からジャンプすると早すぎる。かなえは行こうと思っていた食事の買い出しを先に済ませる事にした。
今日行くのは、総菜屋、イタ飯屋、スープ屋。先に3店舗の注文と支払いを順番に終えて、もう一度最初の店に行き出来上がったテイクアウトの包みを受け取り、次に2番目の店と、時間差で取りに行き、最短で買い物を終わらせた。
よし、思ったより早く終わったな。
かなえは少し早いが、乗馬教室にジャンプでやって来ると、扉のノッカーを鳴らす。
―― カン、カン ――
すぐに扉が開き、アンディーが中から出て来る。
「かなえさん! わざわざすみません。キングスのところへお連れします」
かなえはアンディーの後に付いて、厩の中に入って行くとキングスがうつ伏せになって寝ているのが見えた。
「それでは、後は私が引き受けますので、アンディーさんは戻っていてください」
「でも……」
「大丈夫です。任せてください」と、かなえが言うと、アンディーは戻って行った。
かなえはキングスに近寄って行く。
「キングス、話は聞いたわ。悲しいことがあったのね。何か私にできる事は無い?」
キングスは一瞬目を開けるがすぐ目を閉じてしまう。
想像以上に力を落としているようだ。
……どうしたらいいだろう。
「シロンお願い」
かなえはポーチを開けると中から包みに入った大きな飴が一つ出て来た。注意書きには「大きな精神的ショックを緩和する塩飴」と、表示されている。
よっぽど、御者さんが目の前で光に帰って行ったのがショックだったんだな。
かなえはキングスの口元に飴を近づけるが、寝ているのか目を瞑ったままだ。
「キングスお願い。この飴を食べて」
かなえはキングスの頭を撫で始める。
「お願い。この飴おいしいよ」
しばらくすると、キングスは薄目を開けて、
『ああ、あんたか……』
と声を発したので、もう一度かなえは飴を口元に持って行き、
「キングス、お願いこの飴を舐めてみて。とっても美味しいのよ」
と、言うと、キングスがちょっと口を開けたので、かなえは飴を押し込んだ。
『……おいしいな。この飴。悲しくても美味しいものは、美味しいんだな』
キングスは口の中で飴を転がしている。
「何があったか聞いたわ。大変だったわね。暫らくゆっくり休めばいいわ」
『あいつはもうヨボヨボで最後の挨拶に来たんだよ。でもまさか目の前で……』
「そうね、急に消えたら驚くわよね。歩くのがやっとでも最後にキングスに会いたかったのね」
『そうかもな』
飴の効果か……キングス少し調子が戻ったみたいだ。
「キングス、私思い付いたんだけど、私のドームに来ない? 丁度アニマルドームを作ったところなの。広くて美味しいものも沢山あるわよ。気分転換になるし。私アンディーに頼んでみるわ」
『そうだな、ここから離れるのもいいかもしれない……』
「ちょっと待ってて」
かなえは早足にでアンディーのいる乗馬教室の建物の前まで行くと、扉を開けて中に入って行く。
「アンディー!」
声を上げると奥からアンディーが出て来た。
「かなえさん、どうですか? キングスの様子は?」
「あのー、しばらく私がキングスの面倒を見てもいいかしら? ここを離れた方が気分転換になると思うのよ」
「……そうですか。ここに居ると昨日の事を思い出してしまうかもしれませんね。わかりました。かなえさん。キングスをお願いします」
二人で話し合った結果、これからかなえが牧場へキングスを連れて行き、暫らく様子を見る事になった。本当はアニマルドームに連れて行くが、牧場に居る事にした方が話が簡単だ。
キングスは個人の持ち物ではないしもう引退しているので、居場所の届けを出せばどこででも暮らせるそうだ。
良かった。これでキングスをアニマルドームに連れて行ける。
かなえはキングスのところに戻り、決まった事を話した。
『そうか、すまないな』
キングスはよろよろと立ち上がると厩を出て、かなえと一緒に歩き始めた。少し離れたところに、クイーンが居たのでかなえが事情を話に行く。
『そう、キングスが離れるのは悲しいけどその方がいいわね。皆にも話しておくわ』
クイーンは餌を替えて栄養が行き届いているのか、元気そうだ。
かなえはそのままジャンプでキングスと移動しようとしたが……。
アンディーもキングスと別れの挨拶がしたいだろうし、このままジャンプで消えてしまうのはまずいか……。
かなえはキングスと一緒に、乗馬教室の建物まで来ると扉を鳴らす。
出て来たアンディーにこのまま牧場に向かうと伝えると、アンディーが、
「かなえさん、ちょっと待ってください。そのままキングスと一緒に歩いて行く気ですか!」と慌てる。
そうだった。ジャンプするつもりだったから気にしていなかったけど、普通は馬用の馬具が必要だったな。どうしよう……。
「すみませんが、必要最低限の馬具だけ装着してもらえますか?」
「もちろんです。始めからそのつもりでした」
アンディーはもうキングスの馬具を準備していたようで、すぐに付けてくれた。
かなえはアンディーが踏み台を持って来てくれるすきに、ジャンプでキングスの上に乗ってしまう。アンディーが戻って来ると、
「かなえさん、あなた良く一人で乗れましたね!」と、驚いている。
いえいえ、本当はジャンプでズルしたんです。
アンディーが驚いている間に、
「それじゃアンディーさん、もう行きますね」と言い、乗馬教室を後にした。
まだ乗馬は2回目なので、足がすくむ。
……この高さには慣れないな。
『それでどこまでいけばいいんだ?』とキングスが聞くので、
かなえは必死にキングスに掴まりながら、
「ジャンプで行くから、その木の陰で止まってくれる?」と言うと、
キングスは『ジャンプ?』と首を傾げながら木の陰で止まり、
「そう。これからジャンプするから周りの景色が変わるけど、驚かないでね」
といいながら、一気にアニマルドームの島の砂浜にジャンプして行く。
『は? ここは何処だ?』
キングスは相当驚いたようで、辺りを見回している。
「ここはアニマルドームの中心の島にある砂浜よ。ドームシティーからは5時間以上離れているのよ」
かなえはジャンプでキングスから降りると、キングスに付けていた馬具を丁寧に取り外し、ポーチの中に移動させておく。
「はい、これであなたはもうどこへ行ってもいいわよ。美味しい草や実が生っているから食べてね。お水は沢山あるし」
『なんだかよくわからないが、ここはドームシティーとは全く違う場所だというのはわかったよ』
「他に私の友達の、牛や犬に小鳥達がどこかに居るから仲良くしてね」
『そうか、じゃあ行ってくるよ』
キングスはトコッ、トコッと、速歩で橋を渡って行った。
放牧地にいる時より大分表情が明るくなっていた。
このアニマルドームで何日か過ごせば良い気分転換になるだろう。
キングスは夜もここで過ごすことになるからな……。
「シロン、キングスがここで快適に過ごす為に何か出来る事はあるかな?」
「そうですね、もう少し馬用の牧草を植えたらどうでしょう。あとは馬小屋を作って寝床にクッションを効かせると良いでしょう」
かなえは砂浜の椅子に坐ると地図を出して、馬用の牧草を追加し、馬小屋を設置すると、寝床にたっぷりわらを敷いておいた。ついでにジジ用にもわらを、マリー用には大きめのクッションを置いた。
ついでにかなえが夕方でも景色が楽しめるように、外灯を家の周辺や島の周り、橋と道の両側に追加しておく。
「シロン今何時?」
「15時50分です」
もうすぐ夕方になるんだ。食事の買い物を先にしておいて良かった。
すると橋の上をジジさんが島に渡って来るのが見えた。そしてその後ろを追うように走って来るマリー。揃ってかなえの居る砂浜に戻って来た。
「どうだった? 今日も楽しかったかな」
『今日は良く歩いたよ。何処の草が美味しいか気になってな』とジジさん。
『それより大きな馬にあったわよ。挨拶されたけど驚いちゃったわ』とマリー。
「そうなの。ちょっと事情があって、ここのドームに来てもらったの。キングスって言うのよ。仲良くしてね」
『わしは走って行く馬を見かけたが、離れていたからな』とジジさん。
すると、湖の方から小鳥が2羽飛んで来てジジさんの背中にとまった。
「リトくん、ピーちゃん。お帰り。ピーちゃんここは楽しかった?」
『あたしここすき。おいしい実べたよ』とピーちゃん。
『ぼくもたべたよ。おいしい実』とリトくん。
「リトくんと、ピーちゃんは大きな馬を見かけたかな? 今日からこのアニマルドームで暮らすのよ。よろしくね」
『ぼくうまみたよ大きかった』とリトくん。
『あたしみたようま、はしってた』とピーちゃん。
「そう、じゃーみんな、キングスの事は見かけたのね。明日にでも紹介するね。帰る前にちょっと行ってくるから、みんなここで待ってて」
かなえはシロンに居場所を確認するとジャンプでキングスのところにやって来た。
キングスはお腹が空いたのか牧草を食んでいる所だった。
「キングス、どう?ここは、気に入ってくれたかな?」
『おお、かなえさんかい。ああ。ここは広いし美味しい草は生えているし、気に入ったよ』
「そう、良かった。私は他の動物達を連れて帰るけど、キングスはどうする?」
『そうかい。わしはここでゆっくり休むよ。小屋もあるようだしな』
「わかったわ。私は明日またここに来るから、その時に他の動物達も紹介するわね。何か必要な物は無い?」
『ふむ……何も無いな』
「そう。わかったわ。それじゃー私は行くわね。また明日」
かなえはジャンプで砂浜に戻って来る。
「みんな、お待たせ」
かなえはみんなで一緒に移動し、最初にジジさんを牧場に送り、次に動物ギルドの2階に戻って来る。
「ピーちゃんは家まで送ろうか? でもそれより……リトくん、ピーちゃんをお家まで送ってあげて。ちゃんとピーちゃんがお家の中に入るまで確認してね」
『うん、わかた。ピーちゃんいこー』
『うん』
リトくんが窓から外に飛び立つとピーちゃんも後に続いた。そしてその数分後にはリトくんが戻って来た。
「リトくん、ありがとね。ピーちゃんお家に帰れたかな?」
『うん、ピーちゃん、リアのかたとまったよ』
そうか、それなら安心ね。
「そう。ご苦労様」
かなえはリトくんにパンを少しあげると、すぐに平らげ毛繕いを始める。今日はピーちゃんと沢山遊んだからか、眠そうだ。
かなえはリリララ姉妹の夕食を準備すると動物ギルドに降りて行く。
「おまたせー、変わったことは無かったかな?」
二人は子猫達が3匹皆、目を開けたのが嬉しいようで様子を話してくれた。それと、子猫達の名前はまだ決まらないそうなので、ゆっくり決めていいと言っておいた。キングスの事を聞かれたので症状を説明し、牧場に連れて行ったと伝えておく。
かなえが子猫達の入った保育器を持って2階に上がって来ると、マリーが待ち構えたように、子猫の側に近寄って来た。
『あら、まだ寝ているのね。あたしの事覚えてもらおうと思ったのに』
「起きたら教えてあげるわ。マリーは何か食べたい?」
『いらないわ。今日も沢山、新鮮な実を食べたから、お腹はいっぱいよ。あたしは棒を齧るわ』
そういうとマリーは自分の部屋に入って行く。
かなえは夕食を食べゆっくりお風呂に入り、子猫の世話をしてマリーのところに行くと、もうぐっすり眠っていた。
マリーも沢山走って疲れたんだろうな。
かなえも寝る支度をしベットに入ると、眠りに就いた。
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<かなえのIDカード>
表示
名前 カナエ リュウゼン
年齢 16才
職業 動物ギルド長、ミルク牧場従業員
特技 動物の世話、歌声
持ち物 乗馬体験チケット3回分
ポイント 10000
お財布 10000
パワー 5
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非表示
名前 竜禅かなえ
年齢 16才(32才)
職業 アニマルレスキュー、女神様の子分、アニマルドーム管理人
特技 人間、動物とのコミュニケーション、癒しの声
持ち物 ブレスレット、ポーチ
ポイント
プラス 1000 ジジの目に効く塩飴
20000 キングス救出
マイナス 9000 食料の買い出し
残り 2百4万2500
パワー 498
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動物ギルド用
手提げ袋関係 3万 手提げ袋(100枚 仕立屋)
5千 デザイン画(看板屋)
2万 印刷職人
カード追加分 1万 印刷職人
合計 マイナス 6万5千
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立て替え 8万(地下の家具、リリララ姉妹を雇えばギルド科からの補助金で賄われるので保留)




