029 アニマルドームの砂浜
「かなえ、かなえ、子猫が起きましたよ」
「はい、起きまーす」
かなえは眠い目をこすってベットから起き上がる。
マリーとリトくんは保育器の前で、起き出した子猫達を見つめている。
「みんな、おはよー居間にいくよー」
かなえは保育器を持って居間に来るとその後を追って来るマリーとリトくん。
リトくんにパンをあげると、子猫達の世話を始める。
「あれ? この子……」
子猫の中でちょっと大柄な子の目が開いている。少しづつ開く気配はあったがしっかり開いたのを見たのは初めてだ。子猫の瞳が綺麗なブルーに光っている。
子猫はカナを見つけると『ママ?』と聞いてくる。かなえは、
「私はカナエよ。よろしくね」
子猫は『カナ?』と聞いてくるので「そうよ」とかなえは答える。次にマリーにも近づいてもらうと、「この子はマリーよ」と教えると、『マリ』リトくんも紹介すると、『リト』と理解してくれたようだ。
凄い! 大きな進歩だ。目が見えるようになると、世界が広がるんだな。
かなえがその子猫にミルクを飲ませると、かなえの顔をじっと見ている。
他の2匹は起き始めたが、やはりもうすぐ目が開きそうだ。
3匹の子猫の世話を終えると、かなえは朝食を食べはじめる。
マリーとリトくんは子猫に自分の名前を憶えさそうと必死だ。
「はい、あなた達、子猫達の睡眠の邪魔をしたらだめだよ」
するとリトくんとマリーはおとなしくなる。
支度をしようと立ち上がるとパタパタっと窓の外で音がして目を向けると、ピーちゃんが部屋の中に入って来た。
『ピーちゃん!』
リトくんは嬉しそうに羽をパタパタ動かし始める。
「ピーちゃんどうしたの?」と、かなえが尋ねると、
『リアいいよいったよ。あたしそといくの』
「そう。よかった。これからはいつもピーちゃんは飛んで来れるね」
『うん』ピーちゃんが、とっても嬉しそう。
そうだ、マリーとは初対面だったな。
「ピーちゃん、この犬はマリーっていうの。とても優しいのよ。仲良くしてね」
『マリー?』ピーちゃん、ちょっと怖そうだな。
『こわくないよ、マリおもしろいよ』とリトくん。
面白いって……どこが?
「マリー、ピーちゃんはリトくんの友達なの。すぐ近くに住んでいるのよ」
『あらそう。白くてカワイイ鳥ね、よろしく、ピーちゃん』
『よろしく、マリ』
まぁ、少しづつ慣れるだろう。
ピーちゃんは保育器も『なに?』って顔をして見ている。そうか、子猫達も初対面か。
「ピーちゃん、ここに寝ているのは猫の赤ちゃんよ。よろしくね」
『ねこ?』
ピーちゃんは保育器に近づくと中の子猫達を興味深そうに覗いている。
「可愛いでしょ? よろしくね」
『うん』
かなえは子猫達を地下のリリララ姉妹のところへ連れて行くと、一匹目が見えるようになった事を伝えておく。二人とも喜んでくれた。
部屋を出るとでリアちゃんの家前にジャンプする。
出て来たリアちゃんにピーちゃんが無事来たこと話すと、心配していたようでかなえの話を聞いてホッとしている。夕方に連れて帰ると伝え、部屋に戻って来る。
「はい、みんなお待たせ!」
かなえは準備を済ますと全員でジャンプで牧場に飛んでくる。
「ジジさんおはようございます」
『おお、今日はピーちゃんも一緒だな』
『うん』
「それじゃーあとでねー」
かなえはジジさんに塩飴をあげると、一人で牛舎にやって来る。順番に軽くウオッシュをかけて行き、昨日ジジさんが興味を持った大きな鏡を牛舎の壁に設置しておいた。
これじゃージョンさんもビックリしそうだな……。
かなえはメモに「牛が鏡に興味を持ったので、しばらく置かせてください」と書いて鏡の上の壁に貼り付けておいた。
牛舎の掃除が終わると、かなえはみんなのところに戻って来る。
「えっ? みんなどうしたの?」
どこも行かずに全員揃っている。まるでかなえを待っていたみたいに。
「これからアニマルドームに行くけど、みんなも行く?」
『ぼくドームいく!』とリトくん。
『わしも、あそこの草が食べたいのう』とジジさん。
『もちろん私はあの実を食べに行くわ!』とマリーも気に入ったらしい。
「ピーちゃんも一緒にドームに行きましょうね」とかなえが言うと、
『いこ、ピーちゃんおいしいみあるよ』と、リトくん。
『あたし、ドームいきたい』とピーちゃん。
やっぱりみんな、アニマルドームに行くのを待っていたみたいだ。明日からは、すぐアニマルドームに連れて行った方が良いのかな……。
全員でジャンプで移動して行く。
アニマルドームに着くと、マリーは駆け出し、ジジさんもおいしい草を目指して歩き出す。リトくんもピーちゃんを連れて飛び立って行った。
「シロン、だんだんジャンプで移動する動物が増えて来たけど、人数制限はあるの?」
「かなえが連れて行く人や動物、物を正確に把握していればいくらでも移動は可能です。また、もっと大人数を移動させたい場合は、小型のドームごと移動させることも出来ます」
えー凄いけど、それって責任重大かも。
「また、子猫に使ったケージの様に、ポーチに一時的に保管して移動することも可能です」
そうか、それなら気分的には楽かな。まぁそこまで必要になることは無いと思うけど……。
「きょうは何処から手を付ければいいかな?」
「そうですね。動物たちの為に雨露をしのげるような屋根のある建物が幾つかあると良いでしょう」
「そうね、わかったわ」
かなえは家の前のベンチに座り、地図を開けて、フォルダの動物用建物をクリックすると、大中小の小屋が表示された。
まだどんな動物達がアニマルドームに住むのかわからないので、少なめに設置して行く。リトくんやピーちゃんが喜びそうな小鳥の家も島の木の上に取り付け、マリーやジジさんの小屋も並べて島の中に作っておく。
後は必要な時にその都度設置して行こう。
「建物はこのぐらいでいいと思うんだけど?」
「そうですね。これから先、人間もこのドームに入れるようにするなら、その為の設備も必要になります。土地だけでも確保しておくと良いかもしれません」
「ここに入る人って例えばどんな人?」
「ここを管理してくれる人が必要になれば、その人達の為の住居や控室が必要になります。そうなると馬車を停める場所も必要になるでしょう。また、ここを見学する人の為に、サファリの様な設備があれば便利でしょう」
「なるほど。わかったわ」
かなえは住居や馬車、倉庫等を建てられる土地を南門の側に確保し、動物達が入らないように柵で囲っておいた。
ちょっと煮詰まって来たので、かなえはスクーターを取り出すと高度を上げドームの中を飛び始めた。
いたいた、マリーが木の間を走り回っている。あの辺に、マリーの好きな実が生っているのかな。
「シロン、マリーが好きな実の名前は何だっけ?」
「プロテインの実なので、略してプロの実と呼ばれています。食感がお肉の様で人間の料理にもよく使われています。かなえがたまに食べているハンバーガーもプロの実ですよ」
「えーそんなんだ。知らなかった」
かなえはそのまま飛び続ける。辺りは所々森の様に木が茂っていたり、果汁園のようにフルーツが実り、草原のように草が生えお花畑が広がっている。
その間を川も流れ動物達にとって過ごしやすいい環境が広がっている。
かなえもこの辺りでキャンプでもしたくなってくる。暫らく飛んでいると、ジジさんを見つけた。草を食んでいるようだ。かなえは高度を下げて行き、ジジさんの隣にスクーターを停める。
「ジジさん、どうですか、楽しんでますか?」
『ああ、昨日まで何もなかったのに、今はおいしい草がどこにでも生えているんだ。川の水もうまいし、言う事無いね』
「そうですか。良かったです。でも何か、気が付いたところや、希望があれば教えてください」
『そうだな。それならあそこの湖に入れるようにしてもらえないかい? あんたが農場の池に付けたみたいに水の中まで歩けたら楽しそうだ』
「そうですか。わかりました。早速やってみます」
かなえは、ジジさんの希望を叶える為に移動し、スクーターを湖畔に停めた。
「シロン、湖にスロープを付ける事は出来るの?」
「はい、出来ますがここの場合は、砂浜を設置するのが良いと思います」
なるほど。それなら動物達も自分の足が付くところまで入って。水遊びが出来るわね。
「わかった、やってみる」
かなえはフォルダの湖のオプションから砂浜を選び、何か所か設置する。
「うわー、キレイ!」
湖の砂浜の砂は白く、水が透き通っていてまるで南国の海の様だ。かなえは島の家から一番近いところにも砂浜を設置し、その周りにヤシの木も何本か植えた。
「ヤッター! 本当に南の島みたい!」
真っ白い砂浜から広がる透き通った湖。なんて贅沢なんだろう。
ここに皆を連れて来れたら、喜んでもらえるだろうに……。いつかそんな日が来ればいいな。
今は、動物達の為にがんばろう。
かなえは砂浜を作った事を、ジジさんとマリーに伝えに行くと『なに?』っていう顔をしている。なので、ジャンプで出来上がったばかりの、家から近い島の砂浜に連れて来た。
ジジさんは『おおつ!』と声をあげて驚いて、マリーは『水、水』と言いながら浅瀬をバシャバシャ走り回り始めた。
それを見て、ジジさんも恐る恐る、膝まで水の中に入って行く。すると何か変化を感じ取ったのか、リトくんとピーちゃんも飛んで来て、砂浜の様子を見ている。
湖も水を循環させているので、わずかだが波が出来る。リトくんとピーちゃんも砂浜に舞降りると、波打ち際で羽を広げて水浴びを始めた。
『みずいっぱい、みずいっぱい』とリトくんは羽をパタパタさせて水しぶきを上げ、ピーちゃんもそれを見て『きゃっきゃ』と喜んでいる。
かなえは砂浜に屋外用のテーブルと椅子を設置して、坐ってみんなの様子をボーっと眺める。
砂浜を作って良かった。これからは水浴びがみんなの日課になるかもな……。
「かなえ、そろそろお昼の時間です」
「え! もう?」
波打ち際でのんびりしていると、時間が経つのがあっという間だな。
かなえは砂浜のテーブルにランチを適当に選んで取り出すと、食べ始める。
「あーおいしー」
イタ飯屋のピザにサラダ。スープ屋のほうれん草のポタージュ。それにピンクベリーソーダ。
外の広い空間で食べると、何でこんなに美味しいんだろう。
かなえが食べ終わる頃には、みんなもはしゃぎ疲れたのか眠そうにしている。
「みんなー! 私はそろそろ行くけど、みんなは夕方までここでいいのかな?」
『わしはずっとここに居たいくらいだな』とジジさん。
『あたしだって、もうずっとここに住みたいわ』とマリー。
『ぼくここすきだよ』とリトくん。
『あたし、リアのとこかえる』とピーちゃん。
「わかった。じゃーいつものように夕方に迎えに来るね」
かなえはそう言うと、動物ギルドの2階に戻って来る。
まるで南国のバケーションから帰って来たようで、気分も軽い。かなえは動物ギルドに降りて行き、部屋と自分にウオッシュをかける。
壁に取り付けてある小鳥の鐘が鳴り始めると、リリララ姉妹も階段を上って動物ギルドに入って来る。
「かなえさん、子猫がみんな目を開けました!」「あけました!」と、リリララ姉妹が興奮して部屋に入って来る。
そうなんだ、あとの2匹も目が開いたんんだ。
今は3匹ともグッスリ眠っている。
「良かったね。どうだった?」
「とっても可愛いブルーの瞳です。わたしの顔をじっと見てました」とリリちゃん。
「ララの顔も見てたよ」とララちゃん。
二人とも子猫達を、良く面倒見てくれている。
かなえは子猫達が餌を自分で食べられるようになったら、アニマルドームに移そうと思っていたが、リリララ姉妹がガッカリするだろう。
でもこの猫は身体能力が高いので広いところで運動させてやりたい。
リトくん達みたいに、昼間はアニマルドームで夜はここに戻って来れればいいか……。
そろそろ名前も付けてあげたいしな。そうね。そうしよう。
「それじゃー子猫達の名前を二人で考えてくれる? 覚えやすくて呼びやすい名前が良いな」
「えっ、いいんですか?」とリリちゃん。
「はーい!」とララちゃん。
「うん、お願いね?」
と、かなえは頼んでおく。よっぽど変な名前じゃ無ければ採用しよう。
かなえは2階に戻ろうとしたら、
「カン、カン」と突然扉を鳴らす音がした。
誰だろう?
リリララ姉妹がパタパタと早足で近づくと、扉を開けた。外に居たのは……、
「あっ、あなたは乗馬教室の方ですね。どうぞ、お入り下さい」
扉の前に、乗馬教室の青年が困ったような顔をして、立っていた。茶色い馬が一頭、歩道の木に繋がれて居たので青年が乗って来たのだろう。
青年を動物ギルドの窓際の席に案内した。




