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アニマルレスキュー  作者: コトリコトリ
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002 ニュードームシティー



『チュン、チュン、イイてんきー』


 木の葉が風に揺れている。小鳥のさえずる声が……ちょっと変わっているような。

 かなえは草の上に横になっていた。池のほとりの草花が目に入って来て……。


「えーと、私はどうしたんだっけ?」と、かなえは考えるが思い出せない。

 

 何だか大事なことを忘れているような気がして手元を見ると、ホッソリとした白い左の手首にシルバーのブレスレットがはまっている。


「このブレスレットって!?」


 事故に遭って、女神さまに会って、ブレスレットとポーチをもらって……。


 かなえは見覚えのあるポーチを肩から下げていた。ライトグリーンに白い鳥のワンポイント。ちょっと32才のかなえには可愛らしすぎる気がするが……かなえは全て思い出した。


 

 ――女神さまに言われた事……確か動物を助けてと言われたはずだ。


 死んだら天国に行って、のんびり出来ると思っていたかなえ。


 なんでこんなところに来たんだろう……?


 犬を助けて事故で死んだのは、ほんの2、3時間前のような気がする。


 かなえは頭の中が混乱して来る。


 いきなり、知らない場所に放り出されて、呆然としてしまった。



 しばらくボーっとしていたかなえだが……。

「このままではダメね!」とまずは、水、食料、寝るところをなんとかする事にする。


「どこか、人が住んでいるところがあるのかな?」と、周りを見渡してもまるで人の気配がない。


 山、川、池、草原、空……。

 まるで旅行会社の、パンフレットに載っているような景色が続いている。

 

 確か、女神さま、ブレスレットに情報が入ってるって言っていたような……。

 スマホみたいな機能かな……?

 

 かなえは必死で思い出そうとするが、特に細かい説明は無かった気がする。


 ブレスレットに触れてみる……何の変化も無い。

 ブレスレットに向かって「スイッチ、オン!」と、話してみるが何も起こらない。

 

 ブレスレットに付いている小さな半透明な石を触りながら……「これかなー?」と、言ってみるとその瞬間、目の前に画面が現れ、白い小鳥が表示された。


「何か、質問はありますか?」

「えっ、何……!?」いきなり声がして驚いてしまうかなえ。


「はい、そのブレスレットの石に触れながら質問をすると、ウィンドウが開きます」 

「あなたは……鳥?」

 立体的で動きも本物の鳥のようだ。


「私は、このブレスレットに組み込まれたプログラムです。初期設定は鳥ですが他の動物に変えることも可能です。それでは、質問にお答えいたします」


「トリさん、名前はあるの?」と、かなえは質問する。

「いいえ、あなたのお好きなようにお呼びください」

「そう。白い鳥……白、シロンはどうかな?」


 鳥は嬉しそうにパタパタと羽を動かしている。

「はい、では私の事は、シロンとお呼びください。次回からは私の名を呼べば質問に答えます」


「良かった。それなら私はかなえって呼んでね」と会話が出来て嬉しくなるかなえ。

「はい、かなえ様」


「違う、違う。かなえって呼び捨てにして!」

「わかりました。かなえと呼ばせて頂きます」

「なんか硬いなぁー。もう少し砕けたしゃべり方は出来ないの?」

「申し訳ありません。このプログラムでは許可されていません」

「ふーん。そうなんだ。まーいいか……」


 このシロンと会話が出来た事で、かなえの心が落ち着いて行く。


「それじゃーシロン、この近辺の地図を見せてくれる?」

「はい」


 すると、一瞬のうちに目の前に地図が現れる。

 中心がかなえの現在地のようだ。そばに池があり途中から川につながっているのがわかる。周りは森のようだ。


「この近くに人が住んでいる、町みたいなところはあるのかしら?」と、聞くと、

 パッと画面が広域表示に切り替わり、左上の方に都市のようなところが現れ「ニュードームシティー」と表示されている。


「えっ?」

 もっと良く見たかったのでかなえはとっさに、地図上の都市の上を手で広げるように動かすと、その部分が拡大され……3Dの映像で町が現れた。


「すごーい。町の様子が良くわかる!」と、かなえは思わず声を上げる。



 ――――目の前には昔映画で見たような、中世の街並みのような景色が広がっている。

 石畳の道を走る馬車、楽しそうに話しながら歩いているカラフルなワンピースを着た女性達、カフェに入って行くカップル……。


「この映像って現在の様子なの?」

「はい、今現在のニュードームシティーの様子が映し出されています」


「随分、道が広くて整備されてるのね」

「はい、女神様が、効率の良い街並みを作りました。上下水道、ゴミ処理の設備も整っています」


 平面表示に地図を戻すと、町の形が丸くなっているようだ。

 真ん中の八角形の建物を中心に、放射状に道が広がっていて一番外側は大きな円で壁に囲まれ、東西南北の四ヶ所から出入り出来るようになっているようだ。


 大きな円の中に道が規則的に張り巡らされていて、地図というより模様のようだ。


「へぇー、きれい!」と、かなえはきれいな街並みに声を上げる。

 

「この町は大きなドームの中にあります。一見、昔の地球の街並みのように見えるかもしれませんが、ドームには先端技術が至る所に施されています。例えば、空気清浄化機能。体に害になるホコリや菌を除去し空気を正常に保ちます。また、定期的にミストを散布したり、夜中に小雨を降らしています。気温も一定ですし。ドームの外の気象に影響されないので理想的な気候を維持できます」


「凄い! それって楽園みたいじゃない?」と思わず声を上げるかなえ。


「町の名前はニュードームシティーですがドームは不可視化されているので、人々はドームの存在を知りません。」


「……そうなんだ、ドームがどんな形か見てみたかったな」

「それでは地図の右下のドームボタンを押してみてください」

  

 一瞬で地図上にお椀をかぶせたような、薄い半透明の膜で覆われたドームシティーが表示された。

 わっ! きれーい。本当はこのドームで覆われているんだ……。


「このドームの中の人々は、元の世界で悪天候や戦争、疫病などの被害を受け命の危険にさらされたところを、女神様に助けられ、この星に転移して来ました。未開の土地から移ってきた人達や、科学的に進歩した人々、文明のレベルも多種多様です。」


「私みたいに過去の記憶はあるの?」と、かなえは気になって質問する。


「いいえ、ありません。過去の記憶があると、大きな変化に混乱してしまうでしょう。ただ、中には夢の中のように記憶が残っている者もいるようで、現在の生活に役立てているようです」

 

 過去の記憶があると、今のかなえの様に混乱して大変だろう。


「それでは、ニュードームシティーへ行きましょうか」

「ここからドームシティーまではどれくらい離れているの?」

 

 かなえは長いから、ドームシティーで通す事にする。

 目の前の地図が切り替わり、現在地からドームシティーまでの最短距離と道順が表示される。


「えっ? 200キロって、随分離れているのね!」

 歩いたら何日かかるんだろう……とかなえは心配になる。


「心配入りません。交通手段はあります」

 

 するとまた画面が切り替わり「かなえポーチリスト」と、書かれたフォルダの中の小型乗り物のフォルダを開けると、自転車、スケートボード、スクーターと色々な物が表示される。



「ちょっと、何これ?」と、再び質問すると、

「こちらは、かなえのポーチの中に入っている小型乗り物のリストです」と、冷静に答えるシロン。


「入っているって、オモチャじゃないんだから入るわけないでしょ!」と、かなえは混乱して声が大きくなる。


「いえ、このポーチは異次元と繋がっていますので収納は可能です」


「えーっ!? 何てこと! この小さいポーチにそんなに乗り物が入ってるなんて……とても信じられないよ」と、わけがわからなくなって来るかなえ。


「では試してみましょう。ポーチを開けて選んだ乗り物の名前を言ってください」

「わかった、やってみる」


 かなえはポーチを開け……、

「スクーター、出できて!」と声を上げると

 目の前に鳥がワンポイントで付いている白いスクーターが現れた。


「わあっ! 本当に出て来た!……でもこれスクーター?」と、かなえは疑問に思う。


 タイヤもエンジンも燃料タンクも無く、まるでシンプルな椅子にハンドルが付いているだけのようだ。


「はい、そうです。このスクーターは見かけはシンプルですが最新の機能が付けてあります。ですから安心して腰をかけてみてください」


 かなえは慎重にスクーターに腰をかけてみた。

 するとハンドルの上に小さな画面が立ち上がり、地図が表示される。


「へーっ、スクーターにナビが付いてるんだ、便利だなー」かなえは、乗り物が好きなのでスクーターの機能をもっと知りたくなる。


 無意識にグリップを握りアクセルを回してみると、スーっと動き出した。

 スクーターの小さな画面の速度メーターが10、20、30とスピードを上げて行く。

 地面から少し浮いているのか、何の振動もないし、エンジン音もしない。


「慣れて来たようなので、池の周りを回ってみましょう」

「はい!」


 かなえはこの不思議なスクーターを運転する事に集中する。

 そして、ハンドルをきり、池の周りを走り出した。


「わーっ! きれいな池だな。透明で底まで見えるよ……」

「次は右側の赤いフライボタンを押してみてください」


 かなえはシロンに言われた通りボタンを押した瞬間、フワッと浮き上がりどんどん地面から離れていく。


「アーッ飛んでるー! ヒャー、気持ちいいー!」かなえは自分で空を飛ぶ初めての感覚に興奮して来る。


 さっきまでいた池の辺りは手のひらサイズに見える。



 ……しばらく空の飛行を楽しんでいると、


「そろそろドームシティーへ向かいましょう、まずナビに行き先を表示して、横のサブミットボタンを押してください」と、シロンに言われかなえは我に返る。


「そうだった……こんな遊んでいる場合じゃなかったんだ」


 かなえは言われたとおり、ナビをセットしてボタンを押した途端、サァーっと周りの景色が動き、下方にドームシティーが現れた。


 

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