019 オアシスイン最終日(後)
牛舎に戻って来ると、他に気になる所が無いか点検する。ジョンさんが丁寧に修繕している所を見ると、この牛舎を大切にしているのが伝わって来る。
しばらくすると、扉を開けてメラニーさんが牛舎の中に入って来た。
「かなえ! すごいわ! 綺麗に掃除してくれたのね。大変だったでしょ?」
すぐに、終わったんだけど……言えないな。
「はい、こんな感じで良かったですか? 他に気になる点があれば教えてください」
「いいえ、十分よ。それにあの薬、ジョンに効いたわ! 腰に塗ってしばらく経ったら、痛みが消えたのよ。楽になったのか今はぐっすり眠ってるわ」
「そうですか。それは良かったです!」
「もうここはいいから……ちょっと遅くなったけどお昼にしましょう」
かなえはメラニーさんと家に戻って来る。テーブルに案内されて席に着くと、メラニーさんがトレーに乗せた食事を運んで来た。
「丁度良かったわ。今朝焼いておいたのよ。さあ、召し上がって」
トレーの大きなお皿にはおいしそうなキッシュが載っている。ケーキのように切り分けて食べるようで、切り口が層になって具がきれいに並んでいる。
それに山盛りのグリーンサラダと、一口サイズのマフィンがたっぷり籠に入っている。
おいしそー!
「いただきます」
かなえはメラニーさんと向かい合っておいしくランチを頂く。前回来た時にも、出してもらった乳酸菌タップリのヨーグルトソーダが冷えていておいしい。
「あのー先ほど牛舎で作業をしていて思ったんですが、私なるべく来れる時は多くここに来ようと思います。なので派遣の申請は待ってもらえますか? どうしても出来ない時だけ誰かに手伝ってもらえれば出来ると思ったんです」
「でも大変よ? 一度なら出来てもこれから毎日づっとやり続けるのは想像以上に大変なの」
「はい。でも私にやらせてもらえませんか? 例えばこれから一月、ちゃんとやれるか見てもらうというのは、どうでしょう? その間ジョンさんも休んでもらえますし」
「……そうね。そこまで言うなら、やってみる?」
「はい! お願いします」
一月やってみて出来ない部分を誰かに補ってもらおう……。
「じゃー離れを使ってね。一人なら十分な広さよ。掃除もしてあるし……食事は私達と一緒でいいでしょ?」
「あのー私、この一月は基本通いにします。動物ギルドを始めるので準備もありますし、時間もはっきりしないので、食事は自分で用意します。」
「通いってあなた、往復4時間はかかるじゃない!」
「いえ、知り合いに高速馬車を持っている人がいて、それで移動するので時間は大分短縮されます」
「まぁ! 高速馬車なんてあるの? 知らなかったわ」
……いいえ本当はありません。ごめんなさい。
「はい、ともかくやらせてください。お願いします」
「わかったわ。でも手助けが必要な時は言ってね」
「はい、ありがとうございます」
「また明日来ます」と言うとお暇する。
かなえは一旦、ジャンプで新居に戻り今日買ったものを出してみた。
ルルちゃんと、カーラさんへのプレゼントはポーチのフォルダに戻し、籠2つは、キッチンの棚の上に置き、花瓶は棚の中にしまった。
この小鳥の鐘はどこに飾ろうかな……?
自分の部屋にはしっくり来ないので、1階の動物ギルドに降りて来た。
うーんここかな?
移動しながら壁にあてて見てみる。迷って最終的に決めたのは、切り株のカウンターの右上の壁だ。外から扉を開けて入って来ると、カウンターと小鳥の鐘が一番に目に入る。
いい組み合わせ。ここに決めよう。
そのまま動物ギルドで雑用をしていると、
――カン、カン――
扉のドアノッカーが鳴る。
あら、誰かな? 今日は人が来る予定は無かったけど。
扉を開けると5、6才の女の子2人が目の前に立っていた。
「あら? あなた達はどこの子?」
ライトブラウンの肩までの髪を2つに結んだ、濃紺の瞳の可愛い女の子に、少し背の低い、ライトブラウンの髪をポニーテールにした茶色い瞳の女の子。お揃いのピンクに赤い刺繍の入ったワンピースを着ている。
……姉妹かな?
「「こんにちは、私たちをここで働かせてください!」」
「えっ? 働くって、あなた達を?」
「もう働けます」「そうです。働けます」
女の子の一人が鞄からギルド科からの封筒を出してかなえに渡した。その中には1枚の手紙が入っていて。
この子たちは私の希望に合うので、雇ってくれと、記されていた。
えっ、でもいくら何でも若過ぎなんじゃ……。
「とりあえず中に入って」
「「わーカワイイ!」」
女の子たちは、動物ギルドのカウンターや他の丸みのある家具を見回して、目をキラキラさせている。
ジョーさんの家具は子供にも人気があるんだな……。
長椅子に座ってもらい、奥の簡易キッチンでアイスティーを2つ作ると、女の子たちに勧めた。
「じゃーあなた達の事、教えてくれる?」
「はい、私はリリ7才、妹はララ5才です」
リリちゃんが言うには……2年間救済ドームで暮らし、一般常識を学び職業訓練をしていたそう。2人とも動物が好きで、動物にかかわる仕事を希望している。
そんな時にギルド科から連絡が入り、ここへ行くように言われ、今朝出発し馬車で5時間かけて辿りついたそうだ。
……救済ドームかー。5時間もかけて来てくれたら、簡単には追い返せないな。
「泊まる所は?」
1週間は1番通りにある救済ドームセンターで泊まれるそうだ。
かなえは動物ギルドでの仕事内容を説明すると、二人は出来るというので、一月試しに働いてもらう事にした。ひと通り話終え、明日午後から来てもらう事にし、二人は帰って行った。
あの二人、1週間後からは住むところが必要なのか。それなら動物ギルドの下が空いてるから……ベッドを買いに行こう。あの二人はどうなるかわからないけど、いずれ家具が必要になる可能性もあるし揃えておいた方がいいな。
かなえはジャンプして、リサイクル倉庫の家具売り場にやって来た。
すると目に付いたのは、2段ベッド。1段づつ取り外しての使用も出来るタイプのようだ。
これに決め、チェストにテーブルと椅子、二人用のソファも選んだ。ジョーさんの家具には負けるが、シンプルで使い勝手が良さそうだ。二人も気に入ってくれるだろう。
それに食器や鍋も幾つか選び、支払いを済まし配達の予約をして家に戻って来た。
はぁー、今日は良く動いたなぁー。
「シロン、今何時?」
「15時50分です」
そうかー。オアシスイン、最後の夜だし向こうでゆっくりしようかな。
「リトくんはどこにいるの?」
「こちらに向かっているようです」
すると「パサ、パサッ」っと音がして窓際にとまったリトくんが、窓の隙間から家の中に入って来る。
「カナ、カナ、パンちょーだい、おはよー」
「リトくん、おはようの挨拶は朝だけだよ。今の時間は『こんにちは』ね。わかった?」
『うんわかた、こんいちは』
「おしい! 『こんにちは』だよ」
『こんにちは』
「そう、良く出来ました」
かなえはポーチから、パンを取り出しリトくんにあげる。今日のパンはクルミとレーズンの入った雑穀パンを選んだ。
『おいしいパン、いろいろパン』
リトくん今日もご機嫌だ。やっぱり変化があった方が良いらしい。食べ終わったリトくんは、いつもの毛繕いを始める。
「リトくん今日はどこで寝る? 私はオアシスインで寝るよ」
『ぼくねるここ』
「そう、わかった。おやすみ」
リトくん、日中は飛び回っているのか、夕方にパンをあげるともう眠くなっちゃうみたい。チョッと、寂しいけど……。
かなえは出掛ける用意を済ますとオアシスインにジャンプした。
部屋に戻るとゆっくりお風呂に入る。今日はピーチのバブルバス。お風呂の中がフルーティーな香りでいっぱいになる。
この間の様に寝ないように気を付けないと……。
そういえばカーラさんの旦那さんには会わなかったなぁー。
厨房で腕を振るっているらしく、外に出て来る機会は少ないそうだ。
そうだ! 旦那さんと、シモンズさんの飴も用意してカーラさんに渡してもらおう。
シロンに二人の体調を診てもらい、それぞれピッタリの飴を用意してもらう。
風呂から上がり水色のワンピースに着替え、ポーチの中を見てみると、飴の袋が二つ入っていた。
「シロン、どっちがどっち?」
「その白い方は、シモンズさん。黄色い方はカーラさんの旦那さん用です」
白い方の飴の袋には、疲労回復それから肝臓にも効く飴だそう。
シモンズさん、お酒の飲み過ぎかも……。
黄色い方は疲労回復効果だけで、他は問題ないみたいだ。
注意書きがあるので大丈夫だろう……かなえは飴をポーチにしまい、ルルちゃんんの洋服の包みだけ手に持ち下に降りて行った。
丁度カウンターのところにルルちゃんは座っていた。かなえは近寄ると、
「ルルちゃん、今日、最後の夜だから、ルルちゃんにプレゼントを持って来たの。どうぞ」
「えっ! ありがとう」
ルルちゃんは一瞬驚いたけど、子供らしく嬉しそうに笑ってくれた。
「それ、洋服なの。ルルちゃんが気に入ってくれるといいんだけど……。後で見てね」
「はい!」
かなえは隣のオアシスカフェに入って行く。これから混み始める時間帯だ。もう6割、テーブルは埋まっている。別のテーブルにいたカーラさんが「カウンターどうぞ」と目線で言ってくる。席に座るとお店の中を見回す。
もうここに朝晩食べに来ることは無いんだなー……。
「何、感傷に浸っているのさ。近いんだからいつでも来れるだろ?」
カーラさんが、ピンクベリージュースをかなえの前に置きながら、話しかけて来る。
「はぁーそうですけど……なんだか寂しいです」
「いつでも食べに来ればいいだろ? 何にする? お勧めでいいのかい?」
「はい、いつものお勧めが食べたいです」
かなえは待っている間、テラスから見える外の景色をぼんやりと眺めていた。
「はい、お待たせ」
カーラさんが運んで来てくれたのは、大きなステーキと器の上をパイ生地でおおている物。それから野菜サラダのフルーツ乗せだ。
お肉? でもこの世界には無いはずじゃ……。かなえは恐る恐る、ナイフを入れ口に運ぶと、香ばしくて甘辛い歯ごたえがある、何だろ……あっ、キノコだ。大きなキノコのステーキのようだ。
「おいしー!」
もう一つのパイが覆っている方はチーズのタップリ入ったオニオングラタンスープだった。こちらも玉ねぎの甘みがチーズとからみ、パイのサクサクした感じと混ざり合ってとてもおいしい。
付け合わせの豆や、フルーツサラダを食べ終わるともうお腹いっぱいだ。
最後まで半分の量しか食べられなかったな……。
その後カーラさんが、コーヒーとチョコレートムースを持って来てくれる。
お腹いっぱいなのに甘いものは別腹なのはかなえも一緒だ……難なくチョコレートムースを平らげる。
かなえは食べ終わり、お店の中を見ると忙しさのピークは終わり、カーラさんも一息ついているようだ。かなえはカーラさんを呼ぶと、
「なんだい?」
「あのーこれ、カーラさんと旦那さんに。それからシモンズさんにも渡してもらえますか? 薬の成分が入った飴です。体の調子が良くない時に舐めてください。注意書きがありますから読んでくださいね」
「へー凄いねー。こんな飴があるんだ。ありがと。後で舐めてみるよ」
「成分が違うので自分用のを舐めてくださいね」
「ああ、わかったよ。ありがとう」
カーラさんは嬉しそうに笑うと仕事に戻って行った。
かなえは部屋に戻ろうと席を立つと、お店に入って来るシモンズさんと一緒になった。
丁度いい。かなえはシモンズさんの後を付いて行き、向かいに座らせてもらった。カーラさんに預けたシモンズさんの飴を持って来てもらうと、シモンズさんに渡して説明した。
するとその場で袋から飴を取り出したシモンズさんは自分の口の中に放り込んだ。どうやら体が疲れていたようだ。1日御者台に坐って馬車に乗っていれば体も疲れるだろう。
暫らくすると……、
「ほーっ、何だか体が楽になって来たようだ」とシモンズさん。
「飴が効いたかな? でも1日1個までですよ」
「ああ、わかった。さっきまで腰の辺りが怠かったんだが……軽くなったようだ」
「それは、良かったです。あのーこれから動物ギルドを始めるので、これはそのカードです。何かあったら連絡をくださいね」
「他の人にも宣伝してください」と、カードを余分に渡して頼んでおいた。シモンズさんがおいしそうにエールを飲み始めたので、かなえは挨拶をして席を立った。最後にカーラさんに挨拶し、動物ギルドのカードも渡しておく。
部屋へ戻って来ると、部屋の木の香りを思いっきり吸い込んで深呼吸する。
……9日間かー。いろんな事があったなぁー。
また明日からも頑張ろう! とかなえは思った。
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<かなえのIDカード>
表示
名前 カナエ リュウゼン
年齢 16才
職業 動物ギルド長
特技 動物の世話、歌声
ポイント 10000
お財布 10000
パワー 5
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非表示
名前 竜禅かなえ
年齢 16才(32才)
職業 アニマルレスキュー、女神様の子分
特技 人間、動物とのコミュニケーション、癒しの声
持ち物 ブレスレット、ポーチ
ポイント
プラス 3000 パワーキャンディー(カーラさん、カーラさん旦那さん、シモンズさん……女神様からのご褒美)
マイナス 5000 ルルちゃんの洋服
10000(籠×2、小鳥の鐘、花瓶)
2000(スミス夫妻へのお土産)
残り 96万2400
パワー 498
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動物ギルド用
立て替え 80000(地下の家具、二人を雇えばギルド科からの補助金で賄われる)




