015 ギルド定例会議
「カン、カン」「カン、カン」
うん? 何の音? かなえは昼寝をしていたソファーから起き上がった。
「シロン、音がしたよね?」
「動物ギルドの扉のノッカーの音です」
「え? 誰か来たのね!」
かなえは慌てて階段を駆け下りると、扉を開けた。
すると外には純朴そうな20才前後の青年。家の前には小さな荷馬車が停まっている。
「こんちはー、看板屋です。取り付けに来ました」
「もう出来たんですか? 早いですね!」
昨日注文したばかりなのに……。
「おやっさん、創作意欲が刺激されたみたいで、今朝には出来上がってましたよ」
そう言って出来上がった、看板をかなえに見せた。
「うわぁー! 素敵!」
鳥が葉っぱをくわえて、飛んでいる姿が印象的だ。かなえが見惚れていると、
「じゃー取り付けますんで……」と馬車から踏み台と道具箱を持ってくると、手際よく看板を設置した。
側で見たときは大きく感じたが、下から見上げる看板は、丁度良い大きさで、ステンドグラス越しに空が輝いている。これなら初めて来る人にも見つけやすいだろう……。
「ありがとうございます。とても気に入ったとお伝えください」
看板屋の青年が帰った後も、しばらく動物ギルドの看板を眺めていた。
かなえは扉を開け中に入ろうとすると、荷馬車が近づいて来てかなえの家の前で停まった。
ミルクコーヒー色の学生服のような服を着た御者だ。
「カナエリュウゼンさんですか? 郵便です」
やっぱり郵便のシステムはあったんだな……何処からかな? もうカードも届いたりして……。
「はい、ありがとうございます」
カードにしては軽いなーと思いながら封筒の裏側を見てみると「ギルド委員会」と書いてある。かなえは2階の自分の部屋に戻ると、ソファーに座って封筒を開けた。
中には1枚の用紙が入っていて……「ギルド委員会からのお知らせ」と書いてあり、なんでも本日18時からギルドの定例会議とお食事会がオクタゴンであるそうで、かなえにも来て欲しいとのこと。
えーそんなー、急だよ。私まだ動物ギルドを初めてもいないのに……。
「シロン、どうしよー」
「はい、ギルド委員会の会議は、メンバーになったばかりのかなえには、この町のギルドの活動を知ることが出来、また他のメンバーとの横の繋がりを持つ絶好のチャンスです。是非参加してください」
あー面倒くさいなぁー。
「洋服だって何を着て行けばいいかわからないし、何を話せばいいのかな?」
「洋服はフォルダのギルド委員会用衣装のリストがあるのでそこから選んでください。それから話す内容ですがこれまでの経緯と、今の段階でどこまで準備が進んでいるかもまとめておくと良いと思います」
あーあー。もう16時だから18時からだともうあんまり時間が無いよ。
リトくん探してパンをあげて来よう。
「シロン、リトくんどこにいるかわかる?」
シロンは一度会った人や動物は離れていても特定出来るそうだ。
「はい、今はオクタゴンの周りの貯水池の木にとまっています」
「ありがと」
かなえはその場でスクーターを取り出すとジャンプをし、貯水池の前に着いた。
辺りの木の枝を見ながら「リトくん、いる?」と、声をかけると、リトくんが、一番上の枝からパタパタっと舞い降りてきてかなえの肩にとまった。
『カナ、カナ、なに? パン?』
「そうよ。リトくん今日は、わたしお出掛けなの……」
そうだ、新居の場所も教えておいた方がいいかも。
「私の新しい家見に来る? パンあげるよ」
『うん、いく。パンたべる』
かなえはリトくんと一緒にジャンプで自分の部屋に戻って来た。
「リトくん、ここが私の新しいお家だよ」
窓を開けて……「ほら、家の前は公園でしょ。リトくんのいつもいる木のとこまですぐだよ」
『うん、わかった。ぼくの木すぐだよ、パンちょーだい』
「はい、はい、どうぞ」
お昼にイタ飯屋で一緒にテイクアウトしたパンをちぎってあげる。
『パンパン、ちがうパンおいしいなー』
リトくんが嬉しそうに食べている。いつも同じパンより変化があった方がいいのかも。
食べ終わって窓際で毛繕いを始めたリトくんに、
「リトくん、今日はどこで寝るの?」
『ぼくここねる』
もう既に眠そうだ。そうよねー。まあいいか。
「じゃー窓ちょっと開けておくからね」
かなえは一旦シャワー浴びることにする。
ここで浴びるの初めてだなー。
この家のシャワーもオアシスインと同じで天井からの大きなタイプだ。水圧はどうだろー?
「ジャワー!」
物凄い量のお湯が出て来る。良かった、水圧も十分。かなえは毎日オアシスインの強いシャワーを浴びて、気に入ってしまった。もう普通の水圧では物足りないだろう。
髪を乾かし、洋服を選ぶ……青色で襟と袖口が白のワンピースに白い編み上げブーツ。一見硬そうな印象だが、生地が柔らかいので動くたびに揺れて、華やかさもある。今日の会議と食事会にも問題無さそうだ。
準備を終えると17時半。
「そう言えば、シロン、動物ギルドで使った家具とか雑貨を購入したお金は戻ってくるの?」
「はい、ギルド科に必要な書類に領収書を添えて提出してください」
そうなんだ、まだ時間があるから先に行ってみよう。
かなえはスクーターを取り出し、ギルド科に近い第2エントランスの横にジャンプした。
かなえは守衛さんにIDカードを見せ、受け付けのお姉さんに行き先を告げると、ギルド科のある商業棟に入って行く。
へー、第2エントランスからだとギルド科はすぐだな。
ギルド科に入って行くと、もうすぐ閉まるのかほとんど人がいない。開いているカウンターの窓口も2か所だけだ。
その1つの窓口に行き……「すみません、立て替えたギルドの家具や雑貨の精算をしたいのですが」
「はい、それではこちらの用紙に記入して領収書を添えて提出してください」
かなえは、家具や雑貨、看板に名刺のカードを記入すると領収書を添えて提出した。お金の返金は2日後からになるそうだ。
「それと、今日の18時からのギルド会議はどこでやるんですか?」
「ギルド会議室です。この棟の5階にあります」
「わかりました。ありがとうございます」
かなえはギルド科を出ると階段を上り5階へやって来た。
へー、3階のギルド室に行った時は少しキチッとした固い印象だったけど、5階は随分と高級感があるなぁー。
廊下は大理石のような石で、周りの壁や天井も装飾されシャンデリアが 輝いている。
中に入って行く人の後に付いて行くと、中は講堂になっていて、前のステージでミニコンサートや劇が出来そう。
200人は十分座れるな。半分近く席が埋まっている。
入口で「ギルド定例会議」と書かれたプリントをもらい、なるべく目立たなそうな席を探していると……、
「ちょっと、かなえ、あなた来たの?! えらいわ。こっちいらっしゃいよー!」
と、この講堂に響き渡るような声がする。
わー、あの声は不動産ギルドの人だ。
座っているが、いつにも増して派手な赤い服を着ているのがわかる。まるでフラメンコダンサーみたいだ。
せっかく目立たないようにと思っていたのに……渋々と不動産ギルドの人に近づくと、
「こんにちは、いらしてたんですね」
「丁度良かったわ。あなたの話をしていたのよ、ここに坐って」
「……はい」
よく見ると不動産ギルドの人の隣にはハローギルドの黒髪の人もいた。
「あ、こんにちは。いつもありがとうございます」
「やーねー、そんな堅苦しいのは抜きよ」
「あのーまだお二人のお名前をお聞きしていなくて……」
「あら―、そうだったかしら? わたしはパトリシアよパティって呼んで。こっちはカイよ。」
「そうですか。パティさん、カイさんよろしくお願いします」
「あなた、若いのに硬いわねー」
話していると、ステージから声がする。
「それでは、ギルド定例会議を始めます!」
あの人、室長! リアちゃんのおじいさんだ。偉い人だったんだな。
ステージの椅子に何人か座っていて、リアちゃんのおじいさんはその中の一人だ。そのままおじいさんが話し続けている。
内容は先月の議題や今月の話し合うテーマについて。時おり、ステージの他の人も話している。なんとなく聞いていると……、
「それでは今月新しくギルドメンバーになった、動物ギルドのカナエリュウゼンさん、一言お願いします」と言い、おじいさんが「ニヤッ」と笑ってかなえを見ている。
えーっ、ちょっと待ってよ! いきなり私ですか!
かなえは仕方なく立ち上がると、周りの人とステージに向かって話し始める。
隣のパティさんは嬉しそうに見守っている。
「あのー、初めまして。カナエリュウゼンです。今は動物ギルドの準備をしています。えーと、今日看板を付けました。家具はもうすぐ出来上がります。動物のことなら何でもご相談ください。よろしくお願いします」
かなえは大人数の前で喋ることに慣れていないので、舞い上がってしまい、言いたい事の半分も言えなかった。
力尽きて椅子に坐るかなえの隣でパティさんがニッコり笑って頷いている。
その後かなえは、うまく喋れなかった自分を責めている間に、会議が終了した。
周りがザワザワして移動し始める。
「私達も行きましょう」
パティさんとカイさんに促され、かなえは後に付いて行く。
そして廊下に出た途端、すぐ隣の部屋に入って行く。この部屋はさっきの講堂よりは少し狭いが、雰囲気はダンスパーティーの会場みたいだ。
壁際にはご馳走が並び、隣にはバーテンダーの人が飲み物を作っている。まず3人で飲み物をもらいに行き、2人はワイン。かなえはいつものピンクベリージュースにした。
その後はパティさんやカイさんに何人か紹介してもらい、タイミングを見て2人から離れた。
あー疲れた。もう帰りたいなー。でもお腹も空いた。
かなえは、ご馳走の置いてあるテーブルに近づくと、自分の皿を取りどんどん盛り始めた。すると横から誰か話しかけて来た。
「随分、お腹が空いているみたいだねー」
えっ? かなえは声をした方を見ると……。
「あーっ、あの時の意地悪な少年!」
ブラウンヘアーにゴールドの瞳、女神さまの事を女神ちゃんといい、ちょっとカッコいいからって、鼻にかけてる嫌な奴!
服装は、白い襟無しのシャツの上に金糸の刺繍が入っている、ベルベットのような光沢のある茶色いジャケット。それに黒いパンツに黒いブーツが……決まっている。
「意地悪な少年とは心外だなー。ぼくはあの時、君にスクーターの使い方を教えてあげたけど、一瞬で消え去ったものね。驚いたよ」
「それは……お世話になりました」
「随分、棒読みだね」
「ちょっと、あんたと話していると気分悪い! 何で普通に話せないかなー」
すると一人お婆さんが近寄って来た。見ためはまるで毒リンゴを作っていそうな感じだ。
でもこの人、講堂のステージの上に坐っていたような。
「いい加減にしなさい。2人とも!」
あれ?
このお婆さんが近づいて来たら周りの景色がぼやけて来た。それと同時にお婆さんの容姿が崩れて行き……女神さまが現れた。
「えーっ! 女神さま、どうしてここにいるんですか!?」
かなえが、おもわず辺りを見回すと……。
「安心して。今私達3人は周りから見えていないし、聞こえていないから……あなたは不思議な事を言うわね。この世界は私が造ったんだもの。私が居たっておかしくないでしょう? たまにこうして様子を見に来るのよ。いろいろ起こって楽しいし」
楽しいってそんな……。
「あーっ! 女神さま、急に私を穴に落として酷いです!」
「フフッ、スリルがあって良かったでしょ。それに、あなたの希望通り可愛くなったじゃない?」
「……そうだけど」
「それにしても、シン、あなた随分とかなえに突っかかるわね? どうしたの? 2人にはもう少し仲良くして、協力してもらいたいんだけど」
「ぼくは別に普通に接しているよ。こいつが僕をイライラさせるから!」
「でもあなた、かなえはまだこの世界に来て1週間よ。知らない事があって当然でしょう? あなた、ここへ来たばかりの時、どうだったか忘れたの?」
「あーっ! それは内緒でお願いします」と慌てる少年。
いったい何が起こったんだろう……?
「そうね。じゃー今度、シンがかなえに突っかかるようだったら、あなたの事かなえにばらすわよ!」
「えーっ! そんなー」
「嫌だったら、仲良く助け合ってくれたらいいのよ。簡単でしょ?」
「……」
「それから、かなえ。あなたまだ1週間だけど頑張っているわね。その調子でね。お礼に、ブレスレットに機能を追加しておいたわ。後で確認して」
機能の追加? 何だろう……。
「それから、大事な事を言い忘れていたわ……この世界では、人間も他の生き物も死んだ瞬間、光になって消えるの。いずれ元の世界に戻って生まれ変わるんだけど……」
「えっ、でもここの世界の人はそのことを知っているんですか?」
「ええ。皆、生まれ変わることは知らないけど、消えて無くなることを光に帰ると言っているわ」
「じゃあ……他の生き物も光に帰るなら、肉食の人はいないんですか?」
「あなた、今頃何言っているの? 今までレストランのメニューにお肉も魚も無かったでしょ?」
うーん。そうだったかな? お肉みたいなもの食べたような気がするけど……あまり気にしてなかったな。
「栄養は偏らないようなお肉に変わる食品が作られてるから大丈夫よ」
そうなんだ……良く出来てるなー。
「とにかく私が言いたいのは、かなえは怪我や病気の生き物に接する機会が増えてくると思うけど、すべてを助けることは出来ないの。だから目の前で光になって消えて行く生き物たちを見る機会も出てくると思うのよ。そのことをちゃんと頭に入れておきなさい。わかった?」
「……はい、わかりました」
「せっかく他の世界から動物達も助けて連れて来たのに、人間達に殺されて食べられる姿は見たくなかったのよ……じゃー私はもう行くわ。シンと仲良くね!」
そういうと、一瞬で周りのパーティーで盛り上がっている風景が戻って来て、私とシンがその場に残された。
「あなたシンって言うのね。シンは普段どこにいるの?」
「えっ、ぼくは他のドームにいるんだよ」
「あなたと連絡取るにはどうしたらいいの?」
「……」
「そう、わかった。女神さまが言った事を守れないのね? 私もう行くわ」
かなえはこれ以上シンの側には居たくないので、後ろを向くとパティさんとカイさんを探しに行った。
すると、ひと際盛り上がっている一角があって……もしやと思って近づいて行くと、やはりパティさんだった。カイさんや他の人達と楽しそうに話している。
かなえはもう帰りたいので、一言挨拶と思ったが……もう眠くなって来た。
部屋を出て4階まで降りて誰も居ないのを確認すると、ジャンプして自分の新居に戻って来た。
この家に帰ってくると、ホッとするー。
リトくんは静かに椅子の背もたれのところで眠っている。
私ももう寝よう。
軽くシャワーを浴びて着替えると、奥の部屋の自分のベットに横になり目を閉じた。
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<かなえのIDカード>
表示
名前 カナエ リュウゼン
年齢 16才
職業 動物ギルド長
特技 動物の世話、歌声
ポイント 10000
お財布 10000
パワー 5
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非表示
名前 竜禅かなえ
年齢 16才(32才)
職業 アニマルレスキュー、女神様の子分
特技 人間、動物とのコミュニケーション、癒しの声
持ち物 ブレスレット、ポーチ
ポイント
プラス 2000(シモンズさんの馬の歯の治療、女神様からの報酬)
マイナス 0(ウエストゲートカフェ。ハーブティーシモンズさんのおごり)
1000(乗馬体験 1時間)
1000(イタ飯屋 ランチセットとフランスパン)
残り 99万0400
パワー 495
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動物ギルド用
マイナス
15万(ジョーさんの家具)
3万(看板)
5千 カード




