013 看板屋
この辺りでランチのおいしいところはどこだろう?
「シロン、教えてくれる?」
「はい、ここから近いところは、この先を行って二つ目の路地を入った『まかない亭』です」
なるほど、地図を見ると結構近いところで、青い点が集中しているところがある。
ここが「まかない亭」か……。
かなえはここに行ってみることにした。
9番通りの大通りから細い路地を10番通りの方角へ入って行くと、小さい食品関係の店が並んでいる。お菓子屋、粉屋、穀物屋、金物屋など……。庶民的なお店が多く、お客さんは近所の人なのか、流行っているお店が多い。
どのお店も入ってみたいけど……とりあえず先にランチに行こう。こんな狭い路地もあったんだな。
かなえはほとんど馬車か、ジャンプでの移動だったので、馬車の通らない、商店街のような道は初めてだ。
「あっ、ここだ」
しばらく歩いて行くとまかない亭を見つけた。
お店は狭く、カウンターが10席と5テーブル。どの席もいっぱいで、外に5人も並んで待っているお客さんがいる。かなえも後ろに並ぶと、お店から良い匂いがして来てどんな料理なのか気になって来る。お客さんはほとんど男の人で、体格のいい職人さんのような人が多い。
やっとかなえの番が来て空いているカウンターに座る。隣の人の食べている物を見ると……中華かな? すごく量が多い。それに食べるのが早い! 注文は直接カウンターの中で料理をしている大柄なシェフに頼むようだ。でもメニューは無いようだ。
かなえは見よう見まねで「すみません、まかない一人前の半分の量で出来ますか?」と聞いてみる。
「いいよ。まかない子供用一つ!」
大柄なシェフがお店に響きわたる大声で言った。
ちょっと恥ずかしー。
一瞬、お店のお客さんからの視線を感じた。
運ばれて来たかなえの料理は、他の人より一回り小さい皿に盛られている。
なんだろー。ご飯の上にカレーとエビチリのようなものが乗っていて、具も野菜や豆にお肉かな。味は……、
「おいしー!」
大きなスプーンで一口食べると、濃厚なシチューの味が口の中に広がる。もう一つは甘酸っぱい酢豚の味。この一皿で二種類の味が楽しめる。これなら、体力勝負の職人さん達に人気があるのもうなづける。
メニューはこれ一種類みたいだ。料金は800ドームのところを半額の400ドームにしてもらえた。
あーおいしかった……また来よう。
お店の外には新しいお客さんが数人並んでいた。
まかない亭でランチを食べたかなえは、看板屋に向かう。
途中、服の仕立屋や、靴屋、帽子屋を抜け、カーテン、シーツの仕立屋があったので、何枚かシーツを購入した。
その後鍛冶屋、鉛職人の店を通り過ぎ、看板屋を見つけた。1軒目の店は、凝り過ぎたデザインの看板が多かったので入らず、しばらく歩いてかなえの目を引いた店に入って行った。
「こんにちは」
店の中には、シンプルで目を引くデザインの看板が並ぶ。家の中の装飾品としても使えそうだ。白い髪のガッシリとした体形の50代の職人さん。作業中の椅子から立ち上がって側までやって来た。
「いらっしゃい、何か気に入ったものはあったかい?」
「はい、どれも素敵で迷ってしまいます」
「お嬢さんはどんな看板が欲しいんだい?」
「あのー、動物ギルドをすることになったので、その看板を探しています」
「へー、若いのに偉いねー……どんなデザインがいいのかね?」
「白いステンドグラスで、フレームが黒。シルエットが小鳥の飛んでいるところで……口ばしに葉っぱをくわえているのはどうかと思うんですが」
「もうしっかりイメージは出来ているんだね。それに文字を入れると……」
職人のおじさんは、側にあった紙にサラサラっとかなえの希望を描いて行く。
出来上がった絵は、かなえの頭の中で想像してたものよりスッキリして、格好良かった。
「はい、そのデザインでお願いします」
かなえは支払いを済ませ、出来上がったら取り付けに来てもらうことになった。
「では、よろしくお願いします」
看板の店を出ると、他には何か買い忘れていないか考える。
自分の部屋用の物は後で買い足していけばいいけど……動物ギルド用で何か忘れている物が無かったかな? ……うーん。
歩いていると香ばしいパンの香りがして来る。
「ちょうどいい。リトくんにパンを買っておこう!」
お店に入ると焼きたての雑穀パンがあったので五つ買った。支払いを済ませ出ようと思ったら、名刺大の大きさの紙に、パン屋さんの名前と住所の書いてあるカードが数枚置いてあるのをみつけた。
そうだ! 名刺があったら便利かも。この世界でも名刺が作れたんだな……お店の人に聞いてみよう。
「すみません。この可愛いカードはどこで作ったんですか?」
「そのカードですか? それは印刷職人のところで作ってもらいました」
「あのー、そのお店教えてもらえますか?」
「いいですよ、お待ちくださいね」
そのパン屋の店員は、笑顔で印刷職人の連絡先を教えてくれた。
「ありがとうございます」
「こちらこそ、またどうぞー」
よかった。動物ギルドをどう宣伝したら良いか、考えていたけれど……名前と住所が印刷されたカードがあれば、宣伝しやすい。
しばらく歩いて行くと、印刷職人の店は、製本屋の隣にあった。
「すみません」
中に入って声をかけるが、誰も出てこない。奥で印刷の音なのか、機械の動く音がする。どうしようか迷っていると、外から誰か人が入って来た。
「いらっしゃいませ、何かご注文ですか?」
外から来た女性はお店の人だったようだ。
「あの、この先のパン屋さんで教えてもらったんですけれど……カードを作って欲しいんですが」
「そうですか、わかりました。ココに文章、それから入れたいイラストがあれば書いてください」
「はい」
「動物ギルド」「アニマルレスキュー」「動物のことなら何でもご相談ください」
文章を書くと、さっき看板屋さんの鳥の絵を思い出しながら描きワンポイントにした。それから紙質やサイズを選び枚数を決め、料金を支払い注文を終えた。出来上がりは郵送してくれるそうだ。
……家の前にポストなんてあったかな?
かなえは店を出た後、シロンに時間を聞く。
「14時50分です」
「シロン、他に動物ギルドの為に準備することはある?」
「動物ギルドの為ではありませんが、そろそろリサイクル倉庫からかなえの家具が届きますので、新居に向かった方がいいでしょう」
「えっ、それって今日だった? シロン、早く教えてよー!」
家具が手に入ることで舞い上がってしまい、日時を確認するのを忘れていた。
「ジャンプがあれば間に合いますが」
「そうね、でも……これからは30分前には教えてくれる?」
「はい、わかりました」
かなえはジャンプで家に着くと、まだ家具は届いていないようだった。
あー良かった、間に合ったみたい。
かなえは2階の自分の部屋に行き、窓から外を眺めながら荷物が運ばれて来るのを待っていた。
しばらくすると、大きな馬車が近づいてくるのが見える。
「あっ、あの馬車ね!」
急いで1階に降りると動物ギルドの扉を開け、馬車が来るのを待った。
かなえの待ち望んでいた馬車が到着すると、御者台からは、先ほどのお店の人ともう一人、体格のいい男の人が降りて来た。
「やぁー、運んで来たよ」
「ありがとうございます。すみませんがこの中に運んでもらえますか?」
「ああ、わかった」
男の人二人は、慣れた手つきで家具や雑貨を運び込んでいく。
「全部この部屋でいいのかい?」
「はい、この部屋に運んでください」
全て運び終わり、用紙に完了のサインをすると、空になった荷馬車が戻って行った。
1階の動物ギルドの部屋にいっぱいになった家具。汚れもひどく破損した所が目立つ。
かなえはすべての家具と、雑貨を思い浮かべて力いっぱいウォッシュした。
すると、あっという間に新品の家具と雑貨に変わる。
「凄い! これって、ジョーさんの所にあった新しい家具と同じぐらいキレイ!」
かなえは全ての家具と雑貨を一旦、ポーチの中に入れ2階に行く。そして、ポーチから一つづつ取り出し並べ始めた。
何もなかった部屋に家具を全て配置すると、この場所にピッタリの温かい空間になった。
やっぱり、ジョーさんの家具は、いいなー。
形は丸みがあって可愛らしい家具だが、イスは実際坐ってみると、絶妙なカーブで座り心地がいい。ソファーもそのまま吸い込まれそうだ。奥の部屋に置いたベットも、部屋の大きさに丁度良く寝心地が良かった。
ホントに腕の良い職人さんなんだなぁー……。
まだ足りない物はあるけど、少しづつ揃えて行くのも楽しそうだ。
毎日この部屋に帰って来れるなんて嬉しいな。
しばらくソファーに座って部屋の中を見ていたが、もう16時過ぎだ。リトくんがお腹を空かしているころだろう。
ベットも届き今日からでも住めるが、あと数日オアシスインで過ごす事にした。
かなえは一旦、グリーンパークのリトくんを訪ねたがいないようなので、他の小鳥たちにパンをあげて、オアシスインに戻って来た。
中に入ろうとすると、木の枝にとまっていたリトくんが舞い降りて来てかなえの肩にとまった。
『カナ、カナ、おそい、おなかすいた!』
「はい、はい、わかった。すぐにあげるから窓のところで待ってて」
『うん、わかた』
リトくんはパッと飛び立つと、もう2階の部屋の窓枠にとまって首を傾げながらかなえを見ている。
リトくん、いつから待っていたんだろう? 今日はいつもよりお腹がすいているみたいだ……。
部屋に戻ると窓を開け、素早くパンを出してリトくんにあげた。
『パンおいしー』
今日買った雑穀パンは、リトくんのお気に召したようだ。
今日は沢山いい買い物が出来たなぁー。なんとなくユックリお風呂に浸かりたい気分だ。
「シロン、もしかしてお風呂用の泡のソープある?」
「はい、レモン、ラベンダー、ピーチとミントの香りがあります」
「あるんだー! それじゃー今日はレモンにする」
ポーチを開けると「バブルバス、レモン」と書かれた液体ソープが入っていた。
まずはソープをバスタブに入れ、勢いよくお湯を流すと……泡がモクモクと出来てきて、あっという間にお湯がたまった。服を脱いで泡の中に入るとレモンの良い香りに包まれる。
体を洗って顔だけ出して湯船に浮かんでいると眠くなって来て……。
「かなえ、かなえ起きてください」シロンの声がする。
もうオアシスカフェが締まる30分前だ。
あっ、わたし眠っちゃったみたい……。
お湯を流して勢いよくシャワーを浴びると一気に頭がスッキリした。
部屋に戻るともうリトくんは眠っている。
かなえは静かに支度をすると1階のオアシスカフェに向かう。
中に入るといつもより時間が遅いせいか、テーブルは半分ぐらい埋まっている。お店の中を見渡していると、テラスのテーブルに一人の男の人が座っていた。
あっ、あの人髭もじゃの御者さんだ……。
かなえはそのテーブルに近づくと、
「こんばんは、おひとりですか?」と話しかける。
「あー、あんたはあの時の嬢ちゃん。まだここに泊まっていたのかい?」
「はい、あと2,3日ですけど……いいところを紹介してもらいました。ここにはよくいらっしゃるんですか?」
しばらく話していると……。カーラさんがやって来て、
「立ち話してないで、坐りなよ。夜のお勧めセットでいいね」
「あっ、お願いします」
注文をして、御者さんのテーブルに座らせてもらった。
この御者さんはシモンズさんと言うそうだ。ここには週一ぐらいで来て、テラスに座りエールを飲むのが、お気に入りなのだとか。
かなえもこれから動物ギルドをする事や、今日行ったまかない亭の話をした。
するとシモンズさんに「へー、それは凄いな。動物ギルドをやるんだ。馬の事も詳しいのか?」と言われる。
詳しく話を聞くと、最近シモンズさんの馬が元気が無いそうで心配しているそうだ。それでかなえはシモンズさんの馬を明日、見に行くことを約束した。
そばにカーラさんもいたので、動物ギルドを始める事、家も決まった事を話した。
「そうかい、仕事が決まって良かったじゃないか。他の人にも動物ギルドを宣伝してあげるよ」と元気な声で言われる。
食事も終わりシモンズさんと、カーラさんに挨拶をすると、かなえは自分の部屋に戻って行く。
あー、夕食もおいしかった。
やはり一人で食べるより誰かと話しながら食べたほうが楽しい。
かなえは、寝る準備を整えベットに入ると、灯りを消した。
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<かなえのIDカード>
表示
名前 カナエ リュウゼン
年齢 16才
職業 動物ギルド長
特技 動物の世話、歌声
ポイント10000
お財布 10000
パワー 5
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非表示
名前 竜禅かなえ
年齢 16才(32才)
職業 アニマルレスキュー、女神様の子分
特技 人間、動物とのコミュニケーション、癒しの声
持ち物 ブレスレット、ポーチ
ポイント プラス 2万(ジョーさんの手の処置、女神様からの報酬)
マイナス 11万(リサイクル倉庫、かなえの部屋の家具、雑貨)
400(まかない亭、ランチ)
500(雑穀パン、リトくん用)
残り 99万0400
パワー 498
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動物ギルド用
マイナス 15万(ジョーさんの家具)
5千(動物ギルドのカード)
3万(看板)




