012 リサイクル倉庫
『カナ、カナ、あさだよー』
『カナ、カナ、おなかすいた』
「うーん……もう朝か。おはようリトくん」
リトくんは、昨日注意されたせいか、かなえの枕元ではなく椅子の背にとまっている。
早速、昨夜オアシスカフェでもらったパンをあげる。
朝食を食べに降りて行くとルルちゃんがカウンターに座っていた。
「おはよう、今日もいいお天気ね」
「おはようございます」
毎日いいお天気だけどね……。
ルルちゃんは今日はレモンイエローのワンピースに白いフリルのエプロン。
何を着ても似合うなー。
カフェに入ると空いているカウンター席に座る。するとカーラさんがすぐにピンクベリージュースを運んで来る。
……今朝も繁盛してるなぁー。
かなえのように毎日来ている常連さんも結構いる。細身の女性が大盛りの一人前を食べている。かなえはまだ半分のサイズにしてもらっているが、初めの頃より、無理なく食べられるようになって来た。
そのうちあの大盛り一人前も食べられるようになるかもしれない。
かなえのモーニングセットが運ばれて来る。今日はサンドウィッチに野菜サラダ。コーンスープ、コーヒー、フルーツがたっぷり乗ったヨーグルト。
……わぁー、今朝もおいしそう。量もちょうどいいし。
自分の新居が決まったのは嬉しいが、ここの食事が食べられなくなるのは悲しい。たまには食べに来たい。
かなえは食べ終わると、部屋に戻って来た。
リトくんはお腹がいっぱいになり、椅子の背もたれで眠っている。
今日は、不動産ギルドのお姉さんが勧めてくれた、リサイクル倉庫に行ってみよう。
洋服は……スカイブルーのワンピース。襟や袖口がベルベットのような光沢のある生地で、いつもより大人っぽく見える。
リトくんを公園に連れて行き、リサイクル倉庫の側までジャンプする。
やって来たのは、20SW9番通りのリサイクル倉庫。
ドームシティの南西の方角にある9番通り。この辺りに来るのは初めてだ。
目の前に現れた茶色の倉庫は、周りのレンガの建物と同系色なので違和感が無い。両扉が正面にあり、次々とお客さんが入って行く。横の大きな入口は搬入口なのか荷馬車が家具や雑貨を運び込んでいる。
入ってすぐの壁に案内図が貼ってあり、何売り場がどこにあるかが、わかるようになっている。
広いなぁー。体育館ぐらいの広さはあるかも……。
倉庫がそのまま売り場にもなっているようだ。所狭しとリサイクルの商品が並んでいる。
かなえはまず家具売り場に直行する。家具は大きいからか、一番奥の広い場所で売られている。
動物ギルド用には長椅子、カウンター、テーブルと椅子。2階の自宅用にはベット、サイドテーブル、ソファー、テーブル、イス、食器棚、机、飾り棚……。最低限これぐらいは欲しい。
ベットの売り場に来ると、木のヘッドボードにライオンが彫られているどっしりとしたベットがあった。
「大きいー!」
かなえだったら5人でも余裕で寝られそうだ……ちょっと大きすぎる。
隣のベッドは華奢な造りで……うーん違うなー。
どの家具も中古品にしては、きれいに手入れがされているが、なかなか「コレッ!」っていうのが無い。
……値段ももう少し安くなればなぁー。
一通り見て回ったが、かなえが気に入った家具は見つからなかった。
……しょうがない。雑貨売り場を回ったら、家具職人のお店へ行こう。
雑貨売り場へ向かう途中、搬入口から家具を乗せた荷馬車が入ってくるのが見えた。届いた家具は修理されきれいにしてから、売り場に並ぶようだ。
「あーっ、あの家具可愛い!」
……かなえは、運ばれて来る荷馬車に乗った家具に目を奪われた。木の家具だが形がどれも丸みがあり、かなえ好みの家具だ。
おとぎ話の七人の小人の家にありそうな感じで。ベットや引き出し、テーブル、イス、一通りあるようだ。かなえは荷馬車に近寄って行くと、馬車の誘導をしていたお店の人に話しかけた。
「すみません、この家具を一式売ってくれませんか?」
「えっ、この家具かい? これは今、運び込んだところだし……、それにだいぶ汚れているんだよ」
「汚れているのはかまいません。お金はちゃんとお支払いしますので……お願いします」
「……いいよ。わかったよ。随分とこの家具を気に入ったんだね」
「はい、形がとても気に入りました」
「そうかい、この家具は腕の良い職人が作った物だよ。今はあまり造っていないようだが……」
やっぱり、いいものだったんだ……。
「そうなんですか。あのー全部でおいくらになりますか?」
「そうだなぁー、じゃーこのままなら10万ドームでいいよ」
かなえには大きな金額だが、他の売られている家具と比べても高くは無いんだろう。買わないと後悔しそうだ。
「はい、買います」
その後、購入したいくつかの雑貨と一緒に家具の配送の手続きをして、リサイクル倉庫を後にした。
よかったー、自分の部屋用の家具は気に入ったものが、購入出来た!
次は動物ギルド用の家具ね……。
不動産ギルドのお姉さんによると、リサイクル倉庫から歩ける距離に職人街があり、家具職人の店も並んでいるそうだ。
9番通りを歩いて行くと道の両側に職人の店が並んでいる。
この辺りは雑貨かな……ハサミ職人、ロープ職人、ろうそく職人、ランプ職人、ガラス職人等の職人の店が並んでいる。その次は、大工、荷馬車職人、樽職人。そして家具職人の店を見つけた。
かなえは最初に見つけた店に入ってみる。
入ってすぐの窓際に高そうな家具が何点か飾ってある。木に繊細な装飾をされたテーブルや椅子。
美術館に展示されていてもおかしくない感じだ。お店の人も、キチッとした感じで。
うーん、ちょっとピンと来ない。かなえのタイプではなかった。
何軒か見た後に、シンプルな家具を扱ったお店をみつけた。まだニスも塗っていない白木の家具だ。かなえはお店に入って行く。
……うーん、悪くは無いんだけど、チョッと物足りない感じがする。
奥をみると何か作業をしている30代の職人さんがいたので、かなえは声をかけた。
「すみません、家具を注文したら好きな形に作ってもらえるんですか?」
「ええ、そうですよ。どんな形が希望ですか?」
「あのー、こんな家具なんです」
かなえは、紙とペンを借りると、リサイクル倉庫で購入したばかりの家具を思い出しながら描いて、その職人に見せた。
「えっ、これってジョーさんの家具?」
ジョーさんて誰?
「実は今日、リサイクル倉庫でこんな感じの家具を見つけて購入したんです。形が気に入ったので、似たような家具を作ってもらえたらと思って……」
職人さんはしばらく考え込んでいたが……。
「この形の家具を作れるのは、ジョーさんしかいないと思う。だから一度ジョーさんの所へ行ってみたらどうだろう。もし断られたら、私が引き受けよう。同じものは難しいが……」
「あの、そのジョーさんていう方は断る可能性があるんですか?」
「ここしばらく家具を作っていないようなんだ」
「そうですか……でもとりあえずお願いはしてみたいです」
あの可愛い家具を作る職人さんは、どんな人なんだろう……。
かなえは連絡先を教えてもらうと、お店を出た。
ジョーさんの店は「15S9番通り」で、しばらく歩いた職人街のはずれにあった。
ここだかなー?
住所は合っているが、お店が営業している気配がない。扉が開いたので入って行くと、展示している家具は無く、奥に木のクズが散らばっている。
かなえは大きな声で「すみませーん」と呼んでみるが何の気配も無い。
もう一度大きな声で「すみません! ジョーさんいますかー」
すると奥の方から「帰れー!」とガラガラで起きたばかりのような声がしてきた。
「あのー、家具を作って欲しいんです。お願いします!」
「もう家具は作ってない! だから帰れ!」
そう言いながらヨロヨロと出てきたのは、髪がボサボサ、服はよれよれ、無精ひげがビッシリ生えた年齢不詳の男性。プーンと嫌な臭いも漂ってくる。
えーっ、何この汚くて臭いオジサン! こんな人があの可愛いい素敵な家具を作るなんて信じられない!
「あのー何があったんですか? 家具を作っていないのはどうしてですか?」
「うるさい、だまれ! お前みたいな小娘になにがわかる。おれはもう指が動かないんだ!」
かなえが本当に小娘だったら、こんな汚いオジサンの前から一目散に逃げていたことだろう。
でも本当は32才だし……指が動かないって?
「指、どうしたんですか? 何か出来るかもしれません。教えてください」
「しつこい奴だなぁー。おれの手はなぁー、もう家具が作れねぇーんだ」
「私に見せてください、医療には少し詳しいんです」
汚いジョーさんに近寄るのは辛い。かなえはこっそり「ウォッシュ」をかけた。
ジョーさんはさっきまで、一月はお風呂に入っていないような雰囲気だったが、一瞬で3日ぐらいお風呂を入っていない状態まで改善した。
これなら我慢できる。臭いも治まったし。
本人は何も気が付いていないみたいだけど……。
ジョーさんは頭もスッキリしたのか少し冷静になり、かなえに渋々手を広げて見せた。
ジョーさんの手は大きく開いているつもりの様だが、右手の人差し指と中指が曲がったままで、伸ばせないようだ。
「ほら、おれの指はこれだ。これ以上伸ばせねえし力もはいらねぇ。こんなんじゃ家具なんか作れるわけないだろう……」
先ほどの怒鳴っていたジョーさんの勢いは無くなり、語尾が聞こえなくなる。
「わたし、いい薬があったような気がします」
かなえはシロンにジョーさんの薬をお願いし、ポーチを開けると……、
あったー! いつもの軟膏。注意書きには「手や指の神経痛、鋭い痛みに。一日2回患部にすり込む」と、表示してあった。
かなえは軟膏を取り出し、ジョーさんの手と自分の手に軽くウォッシュをかけ、軟膏を丁寧に手にぬっていく。
そして「ゆっくり指を伸ばして見てください」と言う。
「えっ、はぁ?!」
ジョーさんは、軟膏をぬり込んだ手をそっと広げると……今までとは違ってすべての指を伸ばすことが出来た。
「凄い! 指が伸ばせる! 痛みも無い! おれの手、治ったのか? また家具を作れるのか?」
「良かったですね。でもおそらくジョーさんの手は、家具造りで酷使したのが原因だと思います。今までと同じペースで作るのはお勧めしません」
「ああ、わかったよ。これからは様子を見ながら作るようにするよ。ありがとー!」
ジョーさんは涙ぐんで、喜んでいる。
残りの軟膏を渡し、帰ろうとすると……。
「ちょっと待ってくれ、あんた家具が欲しいんだろ?」
「はい、でも手の事を思うとしばらく休んだ方がいいと思うのですが」
「大丈夫だ。ちょっと付いて来い」
かなえはジョーさんの後に付いて、奥へ入って行った。
奥は広い作業場になっているようで、家具の材料や道具が並んでいる。壁際には、出来上がった家具がいくつも積み重なっていた。
「うぁー凄ーい!」
かなえが今日、買ったのに似た可愛いデザインの、様々な種類の家具が並んでいた。よく見るとちょっとづつカーブが付いていたり丸い穴が開いていたりで、個性的だ。見ているだけで楽しくなってしまう。
「あんた、おれの家具を気に入ってくれたんだな」
「はい、そうです。今日リサイクル倉庫で見つけて購入したんですけれど、もっと欲しくなって……偶然入った白木の家具職人のお店で、ここの住所を教えてもらったんです」
「白木の職人? へーあいつか」
「はい、もしジョーさんに断られたら、家具を作ってくれるって言ってました」
「ハハッ、そうかー。でも心配しなくていいぞ。ここから必要な物を持って行ってくれ。足りない分は作ってやる」
「えっ、ありがとうございます! でもギルドから予算が出るのでお支払いはちゃんとしますよ」
「ギルドって何のことだ?」
かなえは動物ギルドを始める事、ギルド用に家具が欲しい事を説明すると……今、出来上がっている家具からを幾つか選び、必要なカウンターを一つ注文することになった。そして出来上がったら、全ての家具を一緒に届けてもらえるそうだ。
料金の支払いの話になると、ジョーさんが「いらない」と言いもめたが、全部で15万ドームにしてもらった。この金額でも半額だそうだ。なのでお礼にもう一つ軟膏も渡しておく。
「じゃーこれで失礼します」
「ああ、カウンターが出来たら連絡するから。ありがとよ」
……ジョーさんの表情が初めの頃と比べると別人のように明るい。
あー良かった。動物ギルドにもあの家具が置けるなんて嬉しいな!
ジョーさんが無理をしていないか、また様子を見に来よう。
かなえはお店から出て歩いていると……。
――ディンドーン、ディンドーン、ディンドーン――
12時の鐘が鳴りはじめる。
さー、ランチにしよう。




